近年、都市部の利便性の強化、防災・環境性能の向上などを目的とした都市再開発による街並みの変化が急速に⾒られるようになっている。宮城県仙台市では、高層オフィス・マンションの建設、大規模な道路整備などが実施され、地域特有景観が徐々に失われつつあることが危惧されている。2019年に「せんだい都心再構築プロジェクト」が始動したことをうけ、現在の街路景観の把握、今後の景観形成について検討が必要であると考えた。
そこで本研究では、都市が形成・展開される際に基準となる街路の形成時期に着目し、仙台市中心部の街路景観の特徴について明らかにすることを目的とする。
研究方法は、以下の様に進める。
①仙台市中心部の街路の形成時期と市街地の形成過程について文献調査を行なう。
②街路景観の分布については、既往研究を参考に、街区の平面形態について2種類、続いて建築物の用途・高さについて4種類に分類し、計8種類の街区タイプを設定し、実地踏査を行なう。
③視覚的構成要素の分析については、調査対象地域内で画像を撮影し、画像編集によって街路景観について視覚的側面から分析・考察する。
結果は以下である。
①不整形の街区は、⾼低差のある地形、鉄道路線の敷設、学校と公園の⽴地が不整形街区の分布に寄与している。
②街路の形成時期ごとに、街路景観の視覚的構成要素の割合において特徴がみられた。戦後から1950年代の街路では植栽の構成割合が高く、装飾の少ない簡素なものからガラス面など外観が多様な街路景観を形成していた。一方、1950年代の街路では、植栽の構成割合が低く、色彩や形態が類似した建築物が立地し、単調であった。1980年代以降の街路では、主に中高層建築物が立地するが、幅員が広いため空の構成割合が確保されていた。
③仙台駅西側では主に中高層化した景観構成がみられる。仙台駅東側では西側より多様な景観構成がみられ、駅周辺だが空地が存在し、中高層建築物と共存するタイプなど西側には分布していない景観構成タイプが分布していた。これは再開発や区画整理の影響が街路景観にあらわれていると考えられる。
④街路景観が形成されるにあたり影響する要素として、仙台市は都市計画道路かそれ以外かと、地形による影響が顕著にあらわれている。
これらの結果を踏まえ、仙台市では、仙台市では街路と街区が各々に形成・発展したことから、街路が一体的に整備され都市化が進んだ地域や、市民活動や条例により景観が維持されている地域など、様々な背景で存在している。そのため、今後はより地域の実態を考慮した景観形成が必要である。
主な参考文献
1)安藤直見,八木幸二,田口陽子:街区の立体構成による空間領域と量塊的イメージの形成 −都市中心部の街区構成に関する研究−,日本建築学会計画系論文集,第502号,pp.171-178,1997.12
2)仙台の歴史編集委員会:仙台の歴史,1989年
3)せんだい都心再構築プロジェクト,仙台市公式ホームページ,
2021年3月5日閲覧, https://www.city.sendai.jp/machizukuri-kakuka/toshinsaikoutiku/saikoutikupj.html
1.はじめに
1-1.背景
我が国では、戦後の公民館設置以降、近年では地域の公共施設として必要不可欠な存在となっており、災害時は避難所として利用された事例もある1)。さらには、社会教育施設という側面から、災害後の地域防災活動への寄与も見られる。一方で、東日本大震災では大規模かつ広範囲に被害が及び、公共性が高い施設では、指定避難所の指定有無に関わらず発災直後から多くの避難者が発生した。そのような、いわゆる指定外避難所では、物資の確保や避難所内自治、運営主体など独自の取り組みや工夫によって運営された2)。仙台市の公民館である市民センターも例外ではなく、指定外避難所123か所のうち、33か所が市民センターであった。
1-2.既往研究
指定外避難所に関する研究は、坂田ら3)の阪神淡路大震災時の避難傾向に関する研究や、荒木らによる釜石市及び東松島市における指定外避難所の発生傾向に関する研究4)など、指定外避難所の開設に関するものが多い。一方で、市民センターなどの公共施設における避難者発生傾向については明らかにされているものの、避難所運営や災害を受けての公共施設における事業及び地域の変化については明らかにされていない。本研究に先立って実施した研究5)では、指定外避難所の実態把握を目的に約1,300名の避難者が発生した仙台市宮城野区高砂市民センターを対象として調査を実施した。結果として、発災期は施設管理者や地域の町内会長を主体とし、地域企業の支援を受けて組織的運営を行い、段階的に避難者へ運営を委譲していくことで、4月には避難者主体の運営に移行、さらには行政が運営に参加したことにより、長期にわたる運営を行った実態を明らかにした。これらは、市民センターが行う社会教育活動として市民センターと地域住民、地域企業の横断的なつながりを育んでいたことが、結果として避難所の自主運営につながったと考えられ、「地域による避難所の自主運営」の可能性が示唆された。その後、高砂市民センターは2014年に指定避難所に指定され、防災教育事業や、小中学校と連携した避難訓練など、市民センターが行う社会教育事業も変化し、地域防災を担う拠点となった。これは指定外避難所の中でも、地域の社会教育を担う市民センター特有の動きであると言える。
1-3.目的
高砂市民センターの事例では、市民センターの担う地域に対する学習や交流の場の創出といった平時の社会教育事業が、災害時の避難所運営に活かされ、その後の地域防災活動を支える拠点に変化したことが明らかになった。一方で、地域のつながりが希薄とされている都市中心部や津波被害のない内陸部の市民センターにおける避難所の実態や、震災を経ての市民センター及び地域の変化は依然不明である。震災から12年が経過し、地域住民の構成や防災に対する取り組みも変化している現在において、大規模災害を経験した仙台市市民センターの震災時の活動実態を改めて整理し、その後の地域防災活動の変化を捉えることは、災害の絶えない我が国において、今後の大規模災害に向け、市民センターの役割を考える一助となりうると考えられる。そこで本研究では、仙台市市民センターの震災時の実態を把握し、その後の事業及び地域の防災体制の変化と現状を明らかにすることで、今後の大規模災害に対して市民センターが果たす役割について考察することを目的とする。
2.調査方法
研究方法について以下に示す(表1)。第2章では、文献調査(調査①)で仙台市市民センターの概要と、震災前後の仙台市地域防災計画においての位置づけについて整理する。第3章では提供資料を用いて市民センターの震災時の活動実態を把握する(調査②)。第4章では、第3章の結果から、複数の市民センターを選定し、震災を経ての事業及び地域の変化をヒアリング調査(調査③)で明らかにする。最後に第5章では、本研究の結論とし、大規模災害に向けて市民センターが果たす役割と今後に向けての課題について述べる。
3.用語の定義
本研究では以下のように用語を定義した(図1)。
・震災時:発災直後から避難所運営~閉所まで
・震災後:各避難所の閉所後
・~館:各市民センター
・避難所運営:物資食料の確保配給を行い
・施設での宿泊を伴った避難を指す
・避難所開設:避難者収容後、避難所運営を開始したことを指す
・受け入れ,収容:避難者を一時的に施設内に収容することを指す
4.震災時の市民センターの活動実態
本研究では、震災時の仙台市市民センターの活動実態の把握を行うにあたり、市民センターの指定管理団体より提供を受けた「東日本大震災後の地域の活動記録」注1)から全市民センターの実態把握を行う。当資料は、地域住民の震災当時の活動実態と、地域が抱えた課題の把握を目的として、市拠点館、区拠点館、地区館全ての市民センター59館の震災当時の状況を自由記述で回答を求め、2011年12月にまとめたものである。
4-1.市民センター全体の状況
市民センターへの避難者の有無注2)と避難所開設数注3)について集計した結果(表2)、避難者は40館で確認され、32館で避難所を開設した。
市民センターにおける避難所運営の主体注4)について集計した結果(表3)、4つの主体構成による避難所運営が見られ、避難所の運営は施設職員を中心に行われた。
市民センター避難所に対する地域団体や企業などの民間からの支援について、支援の有無と支援主体、内容について集計した(表4)。結果、避難所開設した市民センター32館のうち、23館で何らかの支援を受け運営された。支援主体と内容は、11の支援主体と4種の支援内容が見られた。
4-2.市民センターの立地分類
市民センターの立地特性の実態を把握するために、資料より把握した市民センターの避難所開設状況を立地ごとに分類する(図1)。
①津波浸水(地域):津波浸水被害を受けた地域を管轄する市民センターとし、宮城野区、若林区の一部が該当した。
②津波浸水隣接(地域):津波浸水を受けた地域に隣接する地域を管轄する市民センターとし、宮城野区、若林区、太白区の一部が該当した。
③各区内陸(地域):津波浸水地域、津波浸水隣接地域以外の各区内の地域とした。細分類として仙台市内中心部は「中心部」とし、主に宅地が立地する地域は「郊外部」とした。
4-3.避難所開設までの流れ
市民センターの避難所開設の要因を把握することを目的に、開設に係る経緯を地域の避難状況と併せてフローチャートでまとめた。結果、計10パターンに分類され(図3)、避難所開設は避難者が直接市民センターに避難したのち、施設職員が判断したか、外部からの開設指示・要請を受けて開設されたパターンに大別された。外部からの開設指示・要請の有無で各事例の分析を行った。
①市民センター職員が開設判断
発災後、施設職員単独で避難所の開設判断を行った12館が該当した(表5)。
この分類では、多数の避難者の発生や津波襲来の情報など各館の地域状況により開設判断が行われ、津波浸水地域及びその隣接地域の市民センター3館がこの分類に該当した。館長が開設判断を下した4館では、津波襲来の情報(図3)や要配慮者の保護といった緊急的に開設を判断せざるを得ない状況からの開設判断が行われた。また、避難者に対し指定避難所を案内している6館が見られ、発災直後の開設は想定されてなかったと考えられる。多数の避難者の発生に加え、悪天候、ライフラインの途絶、指定避難所への避難を不安とする避難者の存在など各館で判断を迫られた状況が推測できる。
②外部からの指示・要請を受け開設
指定避難所や地域団体など外部から、市民センターへ指示、要請があり、開設を行った9館が該当し、全て内陸地域に立地する市民センターであった(表6)。
近隣の指定避難所の定員超過を受け行政からの指示で開設された青葉区G館(内陸中心部)(図4)他2館や、指定避難所が被災したことで学校職員から要請を受け開設している泉区I館(内陸郊外部)に対し、地域団体より要請を受け開設している青葉区H館(内陸郊外部)、泉区M館(内陸郊外部)が見られた。青葉区H館(内陸郊外部)は指定避難所内の要配慮者の収容を要請されており、指定避難所の被災を受けマンション自治会の指示で住民が避難し開設している太白区J館(内陸郊外部)も見られた。この分類からは、市民センターが指定避難所の定員超過や被災から機能不全に陥った際の代替避難施設として、行政及び地域団体から認識されていたことが考えられる。また、福祉避難所と類似した要配慮者の2次避難場所としての機能も求められた事例も見られた。
③一時避難先として収容
前述した2分類とは異なり、避難者が少数か指定避難所に移動することを前提とした一時的な避難者の収容を行っている5館が該当した(表7)。
避難者が少数であるか、悪天候から避難者を一時的に収容したのち、避難者が数時間で帰宅あるいは指定避難所へ移動している太白区H館(内陸郊外部)他2館が見られた。一方、指定避難所へ移動を前提に収容を行うも、避難者の増加や夜間にかけての指定避難所の定員超過から開設を余儀なくされた青葉区B館(内陸郊外部)(図5)、宮城野区I館(津波浸水地域)も見られた。以上から、一時的な収容のみを行った市民センターでは、太白区H館のように時間経過により避難者が減少した事例や、青葉区B館のように避難者収容ののち、指定避難所が定員超過したことで避難所となった事例など、地域状況により収容後の対応が分かれることが明らかになった。
以上から市民センターの避難所開設の要因として以下のことが考えられる。
(1)指定避難所の機能不全
指定避難所の定員超過や被災、未開設を原因として避難所開設を行った市民センターが6館と最も多く見られた。うち4館が行政からの指示や学校職員から要請を受け開設しており、地域内で指定避難所以外に避難者が収容可能な公共施設として選定されていることが考えられる。また、指定避難所への移動を前提に一時収容後、指定避難所が定員超過したことで避難所対応を余儀なくされた事例や、指定避難所の被災を受け、自治会員が避難者に対し移動を促した事例からも、指示、要請の有無に関わらず指定避難所の機能不全が開設原因となった市民センターも見られた。
(2)指定避難所への不安
一部の地域住民が指定避難所への避難を拒み市民センターへの避難を強く要請した結果、開設を判断した市民センターが3館見られた。何れも、市民センターの居住性の高さや、指定避難所の立地が関係しているものと考えられる。
(3)要配慮者の保護
高齢者や乳幼児連れ親子などの要配慮者の収容を理由として開設した市民センターが4館見られた。何れも指定避難所への移動が困難であるとの判断理由であり人道的な観点から、指定避難所の立地や余震が続く中での要配慮者の保護を目的として収容したものと考えられる。
(4)悪天候による避難者収容
発災後、避難者に対し指定避難所を案内も、その後の悪天候により収容を判断した市民センターが4館見られた。要配慮者の保護を目的とした事例と同様に人道的観点から判断を下したものと考えられる。
(5)立地特性による避難者収容
市民センターの立地分類ごとにみると、津波浸水地域では何れも避難者が発生しているが、開設パターンは各館で異なった。津波浸水隣接地域では、開設されたのは1館のみであった。内陸地域では各区により様相が異なり、青葉区では仙台市中心部を中心として、避難所開設した市民センターが分布しており、泉区では仙台市営地下鉄南北線駅やJR線を有する地区内の市民センターで避難所開設していることから、鉄道駅周辺では帰宅困難者による避難が行われたものと考えられる。一方、その他の郊外部の市民センターでは、泉区I館のように、施設周辺の宅地やマンションからの避難が行われた傾向がある。
4-4.避難所運営の実態
避難所運営に関する記載を抜粋し、避難所運営主体ごとに分析した。結果を以下に示す。
①市民センターは収容避難所として指定されていたが、避難所としての位置づけが不明確であり、物資や食料が不足した状況で避難所運営を余儀なくされた。また、区災害対策本部や地域団体から情報がもたらされる指定避難所とは異なり、情報の入手も困難な状況であった。
②施設職員のみ及び行政職員が運営に参加した市民センターは物資や食料の不足、情報確保が特に困難な状況であり、地域団体と連携した避難所運営を強く求めていたことが伺えた。
③地域団体が運営に参加した市民センターでは、地域団体の参加により円滑な運営を行えた事例も見られたが、運営に参加した地域団体の属性や時期により、物資食料、情報の入手が解決されていたとは言えない事例や、行政職員が派遣されないことでの指定避難所との支援の格差を訴える市民センターも見られた。
④市民センターで避難所運営を行う地域団体と避難者が、支援を求める在宅避難者に対し難色を示した事例も見られ、単に地域団体による運営への参加が避難所運営に良い影響を与えたとは必ずしも言えない状況であったことが考えられる。
4-5.震災時の市民センターの活動実態のまとめ
震災時における市民センターの活動実態を把握し、避難所開設の要因と避難所運営の実態について明らかにした。結果は以下の通りである。
①市民センターの避難所開設は、収容避難所で想定された指定避難所からの2次的な避難は行われず、計10の開設パターンが見られた。開設理由やフェーズは各市民センターで異なり、外部からの避難所開設指示・要請の有無で大別された。
②避難所開設要因として、外部からの指示要請の有無に関わらず指定避難所の機能不全や避難生活への不安が挙げられ、行政、住民ともに指定避難所の代替避難施設として認識されていたことが考えられる。また、避難者が発生した市民センターでは、指定避難所への移動や余震が続く中での安全確保が困難な要配慮の保護、発災当日の悪天候などの人道的観点からの避難所開設を行っており要因のひとつであると考えられる。
③立地特性では、内陸部の仙台市中心部やその周辺部、鉄道駅周辺では帰宅困難者が市民センターに避難しており、中心部に近い郊外部の市民センターでは地域住民が避難後に帰宅困難者が避難している。また、中心部から遠く団地を有する郊外部では施設周辺の宅地やマンションからの避難が行われた。
④運営実態としては、市民センターの災害時の位置づけが不明確であり、物資や食料、情報が不足した状況で避難所運営を余儀なくされた。特に施設職員のみで運営を行った市民センターは顕著であり、地域団体と連携した避難所運営を強く求めていた。一方で、地域団体が運営に参加した市民センターでも、地域団体の属性や参加時期の遅れにより、物資食料、情報の入手に苦慮していた事例や、地域団体が支援を求める在宅避難者に対し難色を示した事例からも、単に地域団体による運営への参加が避難所運営に良い影響を与えていたとは必ずしも言えない状況であったことが考えられる。
5.震災後の地域防災体制の変化
震災後の地域の変化と、市民センターの関与の有無を把握するためヒアリング調査を行った。
5-1.ヒアリング調査概要
ヒアリング調査対象は、市民センターの立地分類と避難所開設パターンが異なる5つの市民センターの管轄中学校区を選定した(表8)。また、調査対象者は震災後から現在に至るまでの地域の変化を把握するために、対象とする市民センター管轄地区の連合町内会関係者とした。質問項目は、「対象者の基礎情報」「震災時の状況」「震災後の地域の変化」「地区の現状」の4項目から、震災後の地域の防災体制の変化と、それに伴う市民センターの関わりの有無を尋ねた。
5-2.ヒアリング調査結果
ヒアリング調査の結果を以下に示す(表9)。
①地域の防災体制の変化としては、ヒアリング調査対象全5地区において、震災時の経験から単位町内会ごとに避難先の指定や避難所の開設、運営体制の明確化が共通して見られた。
②地域防災体制の検討には、各地域で市民センターの関わり方に差が見られた。
③市民センターが地域防災体制の検討に関わっている地区のうち、太白区F地区(内陸郊外部)、青葉区G地区(内陸中心部)では、震災前より市民センターを地域組織内の構成員の一部であり、震災後の地域防災体制の検討においても共同で検討、策定を行っているとした。太白区E地区(津波浸水隣接地域)では震災後、太白区E館職員からの提案で連合町内会と学校職員、太白区E館の3者で地域防災体制を検討する総会を実施したほか、E館自体も事務局として運営の一端を担っていることから、3地区での市民センターの関わり方に違いが見られた。
④市民センターの関わりがなかった地区のうち、太白区J地区(内陸郊外部)では市民センターの関与はみられず、補助避難所の開設方法や運営体制について連合会は想定していないとした。また、若林区B地区(津波浸水地域)においても、高齢者の収容施設として連合町内会との協議のもと決定したとの回答があったものの、実際の開設手順は不明であるとした。若林区B地区では、連合町内会と市民センターの間で施設利用や連携、交流が見られるものの、太白区J地区では地域団体の施設利用のみで、ほか4地区のような共同事業や連携は見られなかった。
以上から、地域防災体制の検討において太白区J地区及び若林区B地区で市民センターとの関わりは希薄であった。理由として、両地域の市民センターの避難所運営に町内会が参加していなかったことで実態や課題が把握されず、主な避難先であった小中学校との協議に終始したことが考えられる。若林区B地区では、津波による大規模な避難が行われ、指定避難所の運営に連合町内会及び地域団体が追われていた中で、市民センターは比較的少数の避難者数で施設職員が対応した。太白区J地区では、市民センターへの避難者が町内会に加入していないマンション自治会であり、各町内会は指定避難所の被災にも集会所の使用で対応したため、市民センターの状況が連合会に認知されていなかった。このように連合町内会が市民センターの避難所運営に参加し震災後に市民センターの避難所としての位置づけを明確化した3地区とは異なり、太白区J地区及び若林区B地区では連合町内会が指定避難所での対応に専念したことから、市民センターの避難所開設の必要性が認識されなかったことが考えられる。
6.まとめと考察
6-1.市民センターが果たした役割と課題
①果たした役割について
(1)市民センターは、避難所指定の有無に関わらず地域住民や行政や学校職員から、避難所または指定避難所の代替施設として認識され、役割を果たした。特に内陸部の仙台市内中心部やその周辺郊外部、鉄道駅では帰宅困難者、宅地では施設周辺の住民やマンション住民が避難する傾向にあった。
(2)指定避難所への避難が困難な要配慮者の収容を行った事例や、和室や複数のトイレを備え、各室が区切られている施設特性から、地域団体の判断により指定避難所内の要配慮者及びインフルエンザ罹患者の収容を要請した事例も見られ、要配慮者の保護や、要配慮者及び隔離が必要な避難者の2次避難先としての役割を担った。
(3)指定避難所の被災を受け、町内会は集会所を代替避難施設として使用したが、指定避難所に代わる避難施設を持たないマンション自治会の避難先としても使用された。
以上のような役割を担えた背景として、市民センターには体育館など避難者収容を行える程度の建物規模があったことや、施設職員が常駐しており開錠や施設使用の要請が直接行えたこと、なにより避難所収容を公共施設の行政サービスとして行わなければいけないという施設職員及び避難者の意識があったものと考えられる。
②課題
(1)避難所開設した市民センターの多くは、物資食料の不足した状況で運営を余儀なくされ、避難所運営は困難を極めたことで多くの市民センターでは地域団体の避難所運営への参加を求めた。
(2)実際に地域団体が運営に参加することで、運営が円滑化した市民センターも見られたが、地域団体の属性や参加時期により、物資食料、情報の入手が解決されていたとは言えない事例や、指定避難所との支援の格差を訴える事例、避難所内の連帯感から、支援を求める在宅避難者に対し運営参加者が難色を示した事例も見られ、即席の避難所運営組織には良い影響ばかりではないことも明らかになった。
(3)施設職員は避難所開設に伴い、宿泊勤務を余儀なくされるなど、精神身体面の負担の大きさも課題であった。
6-2.震災後の地域変化と課題
①震災後の地域変化
(1)地域の変化として、市民センターが避難所開設した5地区で、震災時の経験から単位町内会ごとに避難先の指定や避難所の開設、運営体制の明確化など防災体制の構築が共通に見られた。
(2)地域の防災体制の検討では、震災時の市民センターの避難所運営に対して連合町内会の参加の有無により5地区で差が見られた。
(3)地域団体が運営に参加した地区では、震災前より地域団体の一員として種々の地域活動に関与していた太白区F地区、青葉区G地区と、施設職員の提案により地域防災体制の検討を行う団体を設立し、事務局として市民センターが運営の一端を担っている太白区E地区では、「補助避難所」となった市民センターの避難所の開設運営が明確に定められている。
(4)施設職員のみで避難所運営を行った地区のうち、若林区B地区は地域団体の行事や祭りなどで密接な関係にあるが、市民センターの避難所開設は、高齢者の収容施設として連合町内会との協議は行っているものの、実際の開設手順は不明であるとした。同じく太白区J地区では、防災体制の構築にあたり市民センターの関与はみられず、補助避難所の開設方法や運営体制についても連合会は把握していない状況であった。
②課題
(1)震災後の地域における防災体制の検討は主に連合町内会が主体となるため、連合町内会が課題意識を持っていない場合は、避難所である施設の要望は反映されにくい。
(2)町内会に加入せず集会所を持たないマンション住民などの避難先としても市民センターは活用の可能性があるが、連合町内会が必要ないと判断した場合は、避難所開設の検討もなされない可能性がある。
以上から、現状の仙台市地域防災計画では、補助避難所の運営及び開設は、地域団体と施設管理者の協議のもと地域版避難所運営マニュアルを作成した上で行うとされている。一方で、町内会の加入率の減少や、新型コロナウイルス感染症の影響で活動が制限され、避難所運営体制の再検討も求められる現在においては、町内会未加入者の避難や、新型コロナウイルス感染症に対応した避難所開設が検討されない可能性もあることから、仙台市地域防災計画の町内会重視の考え方について、再検討も必要であると考えられる。
6-3.今後の避難所活用の展望
①市民センターは想定できない大規模災害に向けて、2次避難のみならず避難者発生時の収容方法や運営体制を従前に明確化する。
②避難所運営は施設職員だけでなく町内会など災害時にある程度機能する地域団体との協力体制を検討する。
③避難所開設の基準は、地域内の町内会以外の集合住宅や帰宅困難者の発生など地域特性を踏まえたうえで、町内会との協議だけでなく学校職員や、商店、企業などの地域の関係者との協議を行ったうえで施設職員を中心に策定する。特に内陸部では、震災時の実態より避難者の発生や属性傾向が明確であるため、震災時の対応を踏まえ再度地域防災体制の検討を行うべきであると考える。
謝辞
本研究にあたり、資料提供をいただきました仙台市、公益財団法人仙台ひと・まち交流財団をはじめ、ご助力いただいた全ての方々に心から御礼申し上げます。
注
注1) 2011年12月22日に東日本大震災時の仙台市内各地域が抱えていた課題の把握を目的として、各市民センターに対し震災時の市民センター及び周辺地域の状況、今後の取り組みについての回答をまとめた資料である。作成趣旨やまとめ、今後の取り組みについて記された3ページからなる序文と、市民センター57館分の回答資料で構成されている。各市民センターの回答資料は自由記述であり、各館により情報の偏りや未記載の項目があるため、文章中から読み取れる情報のみを用いて分析した。
注2) 「避難してきた」「押し寄せた」「避難所・場所を探す」「避難を求めた」の文章から判断した。
注3) 市民センター施設内に避難者を収容したのち、宿泊を伴った避難が行われた場合は避難所開設とした。「収容」「受け入れ」「避難所開設」の文章から判断した。
注4) 避難所開設有とした市民センターのうち、避難所の運営を行った者の属性について記載する。特に記載のない場合は施設職員が行ったものとした。
参考文献
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2)Araki Y.et al.:Setting up Patterns of Non-Designated Emergency Shelters after The Tsunami Evacuation-A case study in Kamaishi city after The Great East Japan Earthquake and Tsunami,Journal of Architecture and Planning(Transaction of AIJ)No.741,pp.2885-2895,2017.11(in Japanese)
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3) Sakata K, et al.:A Study on the range of shelters in Kobe Earthquake Disaster -A case study of the shelters in Nada ward in Kobe city,Journal of Architecture,Planning and Environmental Engineering (Transactions of AIJ),No.501,pp.131-138,1997.11(in Japanese)
坂田弘一,他3名:阪神・淡路大震災における避難所の圏域構造に関する研究-神戸市灘区の避難所を対象として-,日本建築学会論文集,第501号,1997.7
4) Araki Y.et al. Setting up Patterns of emergency shelters in coastal plains-A case studey in Higashi Matsushima city after The Great East Japan Earthquake and Tsunami, (Transactions of AIJ),No.768,pp.361-370,2020.2
荒木裕子,坪井塑太郎,北後明彦:平野を有する沿岸部での未指定避難所の発生傾向に関する研究-東日本大震災時の東松島を事例として-,日本建築学会計画系論文集,第85巻第768号,2020.2
5)佐藤優太,畠山雄豪:東日本大震災における指定外避難所の発生要因と運営実態-宮城県仙台市高砂市民センターを対象として-,日本建築学会大会学術講演梗概集,2021.9
6) 仙台市教育委員会:令和3年度仙台市市民センター事業概要,2022年9月, https://www.sendai-shimincenter.jp/welcome/summary/hmmr2n000000 0pcr-att/hmmr2n000006xdlb.pdf
7) 仙台市防災会議:仙台市地域防災計画【共通編】,2022年11月, http://www.city.sendai.jp/kekaku/kurashi/anzen/saigaitaisaku/torikumi/kekaku/documents/r4-11_chibou_kyoutuu.pdf
東北地方の住まいにおける室内環境とエネルギー消費の動向調査とその分析1. 研究の背景と目的
気候条件の厳しい東北地方においては、従来より、冬の室内熱環境の改善が指摘されているところである。一方、地球環境問題に対する社会的関心が高まり、住宅においても省エネルギー性の向上が要求されている。すなわち、現代の住まいにとっては快適性と省エネルギーの両立が最大の課題である。そこで、本研究では、東北地方の住まいにおける室内環境とエネルギー消費量の実態と問題点及びその動向を明らかにして、今後の住宅における居住性能の向上に資することを目的とする。
2. 研究の方法
居住性能に関するアンケート調査と室温調査を2002年冬に、秋田県立大学及び東北大学と共同で行なった。表1に、調査対象の都市、住戸数、調査期間などを示す。調査対象は、東北地方12都市と札幌、府中の638戸の戸建住宅である。調査内容は、住宅のシェルター性能、冬の住まい方やエネルギー消費量などで、各都市とも小学校等の生徒を介して調査票を配布し、各住戸に回答を依頼した。室温調査は、アンケート調査とともに液晶温度計を配布し、1日3回、1週間にわたり、居間と寝室の温度を居住者に目視で測定してもらった。同様の調査が東北大学において1982年と1992年にも行なわれており、本研究はそれらの結果と比較し、室温やエネルギー消費量がこの20年間でどのように変わってきたかを把握するとともに、多変量解析法を用いた統計的分析を行ない、熱環境からみた地域特性についても検討する。
3. 住まいに関するアンケート調査の主な結果
図1にアンケート結果の一部を示す。これは都市別に集計してまとめたものである。
(1)床面積
全体の平均値は約130m²である。
これは、20年前より30m²、10年前より10m²増加している。
(2)断熱材
断熱材の使用率は20年前よりは大きいが、10年前と大差なかった。
(3)居間の窓構成
北の地域でガラス二枚が多く、会津を除く宮城県以南はガラス-枚が多くなっている。東北地方で二重ガラスが多く見られるようになったのはこの10年である。この傾向は20年前と同じである。
(4)居間の隙間風
隙間風の感じ方は各都市とも昔よりも少なくなってきており、「全く感じない」と「少し感じるときがある」の回答が多く、全体の50%以上を占めており、この20年間で住宅の気密性能の度合いは高くなってきていると言える。
(5)居間の使用暖房器具
山形以北では、宮古を除き密閉式ストーブの使用が多くなっている。これは、住宅の気密化が進み、室内空気汚染に対する配慮が影響したためと思われる。酒田以南では開放式ストーブが多い。
(6)居間の暖房時間
暖房時間は、札幌、青森、本庄、酒田で長く、福島、いわきで短い。しかし、全体として暖房時間は確実に増加していると思われる。
(7)居間の結露
札幌と青森では半数以上の住戸が結露なしと答えているが、全体的には、これまでの調査結果と同様、「結露あり」と答えている住戸が多い。これは、シェルター性能が向上しているにもかかわらず、相変わらず開放式ストーブが多く使用されていることが原因の一つと考えられる。
4. 室温とエネルギー消費に関する調査結果
図2に、団らん時の居間の室温を、都市別に、10年前、20年前の調査結果と併せて示す。横軸の都市は暖房デグリーデイの大きな順に並べた。いずれもばらつきは大きいが、どの都市を見ても、明らかに10年ごとに室温が上昇していることが判る。全体で見ると、20年前が平均温度で18.4°Cであったのに対して現在は20°Cである。特に、2002年の札幌は最低温度でさえ19.2°Cと高く、ほかの東北地方のどの都市よりもばらつきが少なく、ほとんどの住戸が暖かい温度で団らん時を過ごしていることが推察される。また、団らん時における居間と寝室の温度差について見ると、10年前が7.3°Cであったのに対して、現在では5.4°Cと約2°C小さくなっている。
図3に、起床時における居間の室温を、10年前、20年前の調査結果と併せて示す。これも各住戸のばらつきは大きいが、各都市とも温度は年々上昇していることが判る。全体の平均温度は、20年前が10.5°Cで現在は16.2°Cであるから室温上昇は、20年間で5.7°Cに達している。団らん時と起床時の温度差を見ると、20年前は7.9°Cであったのに対して現在は4.8°Cと、団らん時から起床時にかけての室温低下も緩やかになっていることが確認された。但し、寒い地域ほど暖かく、暖かい地域ほど寒い朝を迎える傾向はますます顕著になっていることが推察された。
図4に、各都市における住戸当たりの一冬の灯油消費量について、10年前、20年前の調査結果と併せて示す。ここで示す灯油消費量にはもちろん暖房用が含まれているため、都市ごとの差異は暖房環境に対する考え方が反映されているものと思われる。例えば、札幌は20年間で2400lから1300lと激減しているが、これは積極的に断熱気密化を行ない、暖房用エネルギー消費量の削減が実現しているからであろう。これに対して北東北の灯油消費量は年ごとに増加している都市が多く、青森、秋田、盛岡では、2002年の札幌と同等、またはそれ以上になっている。これはシェルター性能の向上よりも暖房環境の質を求める方が先んじられていたためと思われる。図5は、年間エネルギー消費量が得られた住戸について、その二次エネルギー消費量を都市別にまとめて示したものである。平均値で見ると、青森、横手で大きく、100GJを超えている。これは、これまでの調査結果からみても大きな値である。一方、南東北では70GJ前後のエネルギー消費量であった。全体的には、各住戸ごとのばらつきが大きく、シェルター性能のほかに、床面積や居住者の生活スタイルが大きく影響していることが推察される。
5. 数量化理論I類を用いた居住性能の分析
アンケート調査と室温調査の結果を基に、数量化I類を用いて冬期の居住性能に影響を及ぼす因子を把握し、その影響度について検討した。目的変数を室温、又は一冬の灯油消費量とし、説明変数を築年数、窓構成、暖房時間など計20因子を選び分析した。図6に灯油消費量に関する結果を示す。計算に用いられたサンプル数は182戸で、平均灯油消費量は1182.0l、標準偏差は1030.1lである。このモデル式の重相関係数は0.68であった。灯油消費量との偏相関係数より、寄与が大きい因子は、団らん時の居間室温、築年数、床面積、窓構成、隙間風の感じ方などで、住宅構造、日照などは寄与が小さかった。また各カテゴリーウェイトについて見ると、室温は高くなるにつれて、床面積は大きくなるにつれてウェイトは大きくなり灯油消費量は増加する。これに対して、築年数は新しくなるほど、隙間風は感じなくなるほどウェイトは小さくなり消費量は少なくなる。また暖房期間は長くなるほど、年間収入は多いほど、ウェイトは大きくなり消費量は多くなる。以上より、灯油消費量を削減するには、まず断熱気密性を向上させなければならないことが裏付けられたが、一方で、居住者の生活スタイルによってもエネルギー消費量は大きく左右されることが示唆された。
6. 数量化理論Ⅲ類を用いた地域特性の分析
熱環境からみた居住性能に関する地域特性を総合的に明らかにするため、数量化Ⅲ類による分析を行なった。分析に用いた因子は、表1に示す18因子である。計算結果から、相関係数の高い順に得られたI軸、II軸に関するカテゴリーの散布図を図7(a)に、住戸の散布図から得られた各都市の範囲を図7(b)に示す。カテゴリーの散布図によると、I軸はシェルター性能と暖房設備を表しており、負の領域に性能の良いカテゴリーがある。II軸は暖房設備以外の暖房形態を表しており、正の領域に暖房時間の長いカテゴリーや室温の高いカテゴリーがある。一方、各住戸の散布図によれば、ばらつきが大きく、東北地方では地域の差が明確ではないが、札幌が他の都市とは著しく異なっていることが明らかで、青森は比較的、札幌に近い分布を示し、府中は札幌とは対照的であることが判る。
結論
東北地方の住まいにおいて、冬の寒さの除去という点では居住性の向上が確実に進み、地域の違いが少なくなってきていることが確認された。しかし、一方で、居住者の生活行動に影響されやすいエネルギー消費を減らすことは難しく、環境負荷の少ない住まい方に関する一層の啓発が社会と居住者に対して必要と思われた。
建物の基礎杭を利用した地中熱源ヒートポンプシステムの性能評価に関する研究1.研究の背景と目的
近年、空調用エネルギー消費量を低減する方法の一つとして、ヒートポジプに地中土壌熱源の熱交換システムを利用する研究が各地で行われるようになってきた。このシステムは、冬には外気温が氷点下となる寒冷地でもヒートポンプの利用ができ、夏には地中への放熱によりヒートアイランド現象の緩和効果が期待できるという利点を持つが、一般に地中熱交換器部分のイニシャルコストが高くなるため、未だ実用化の域に達していないのが現状である。一方、現代の建築物は、その基礎に多数の摩擦杭や支持杭などのコンクリート杭を持つものが多い。しかも、それらは中空部分を有している。したがって、この基礎杭の中に熱容量の大きい水を充填して、それを熱交換器として利用することができれば大変都合が良いと思われる。そこで、本研究では、実際の基礎杭と市販の地中熱源ヒートポンプを組み合わせた実験システムを構築し、このシステムの暖房性能に関する実験を行い、その熱的性能をさまざまな角度から検討するとともに、仙台という気象条件においてヒートポンプの熱源としての基礎杭の適用可能性を明らかにすることを目的とする。
2.実験概要
2.1.実験システムの概要
本実験は、東北工業大学ハイテクリサーチセンター内の基礎杭および人工気象室を用いて行う。図1に、実験システムを示す。このシステムは、地中熱源ヒートポンプ(以下、GSHP)をはさんで、熱源側(一次側)である基礎杭と負荷側(二次側)である人工気象室、そしてこれらを結ぶ熱源水と温水の循環系から構成される。基礎杭は、外径400m、内径250nn、長さ10mのPCコンクリート製の支持杭4本である。基礎杭にはすべて不凍液(エチレングリコール40%水溶液)を充填し、その中にそれぞれ同じ不凍液を充填したU字管を施してGSHPに循環するようにした。一方、人工気象室にはファンコイルユニットを設置し、GSHPからの温水が循環するようにした。表1に、本実験で用いたGSHPの仕様を示す。このGSHPは、冷媒に代替フロンであるR32とR125を50%ずつ混ぜ合わせた混合冷媒R410Aを用いており、出力が5.8kW、成績係数が4.3となっている。但し、この能力は一次側と二次側がある決められた状態の時の値であるから、実際のシステムの中で地中熱源ヒートポンプの有用性を言うためには、まず、さまざまな条件が変わったときGSHPの性能がどのように変化するかを把握しなければならない。これを明らかにすることが本実験の目的である。なお、基礎杭が埋設されている地盤は、機械ボーリングにより、地盤表面から砂質粘土(深度0~1.8m)、凝灰岩(1.8~5.5m)、砂岩(5.5~6.7m)、凝灰岩(6.7~7.8m)、シルト岩(7.8~10m)の順に構成されていることを別途確認している。
2.2.実験の種類と条件
実験は、GSHPが100%運転となるように、GSHPの送水温度を46°Cに設定するとともに、擬似負荷となる人工気象室の温度を10~20°Cの範囲で一定温度に設定した。実験の種類と条件を表2に示す。実験のパラメーターは、人工気象室の温度、熱源水流量、基礎杭の数などである。GSHPの運転は10時間の間欠運転とし、それを5日間続けるものとした。測定項目は各部の温度、流量、電力消費量である。これを表3に示す。温度の測定箇所は、基礎杭周囲の地中土壌、杭内部の不凍液、一次側U字管内熱源水の往き還り、二次側温水の往き還り、人工気象室内部などで、合計120点以上に及んでいる。地中土壌温度と杭内水温の測定には0.6m径、その他の温度の測定には0.3m径のCC熱電対を用いた。流量は、4本それぞれの杭のU字管内部を流れる一次側ブライン流量と、それがヘッダーを介して合流し、GSHPに入っていく流量、およびGSHPから人工気象室に向かう二次側温水の流量を、磁気回転式の流量計で測定した。
3.実験結果
3.1.実験の種類と条件
人工気象室の温度を10°Cとした実験1の結果として、図2,3,4に、それぞれ一次側の熱源水温度と二次側の温水温度、基礎杭内水(不凍液)温度と杭周囲土壌温度、杭4本の平均水温、GSHP暖房出力と地中採熱量および電力消費量の時間変動を示す。運転が開始されると、熱源水の温度は16°Cから一気に-5°Cまで降下して杭内に入り、地中で熱交換して-2.1°Cで還ってくる。これらの温度は時間を追って下がり続け、採熱量も減少している。初日の積算採熱量は34.1Whであった。これは杭1本あたり約8.5kWhの採熱に相当する。運転が停止されると熱源水温度は上昇し、14時間後の次の日の運転開始時には概ね元に回復している。杭内水温と土壌温度については、運転が開始されると両者とも熱源水の温度変化に追随し、それぞれ11.1°Cから7°C前後、11.4°Cから8°C前後と深さごとに層状に降下するが、やはり運転が停止すると徐々に上昇し、運転開始前までとはいかないまでも温度はほぼ元に戻っている。この状態は4本の杭とも同様であった。2日目以降になると、下降と上昇を繰り返す各部の温度は日を追って下がり続け、5日目の運転停止直前には、熱源水温度は往きが-8.9°C、還りが-6.5°Cにまで低下している。ただし、往き還りの温度差は初日と比べてそれほど変わらないので、5日目の一日あたりの採熱量は31.7kWhと、能力低下は7%ほどであった。
一方、二次側の温水の方は、運転が開始されると16.3°Cから34.0°Cまで一気に上昇し、人工気象室に排熱して29.3°Cで還ってくる。これらの温度は時間とともに少しずつ下がって、GHSPの暖房出力も減少傾向にある。初日の積算出力は49.8kWhであった。運転が停止されると温水温度は徐々に下降し、翌日の運転開始時には17.6°Cまでに戻っている。2日目以降になると、各部の温度は全体として僅かに下がり続けるが、その程度は小さく、5日目の暖房出力も47.2kVIIIと、初日に比べて5%の低下に留まる結果となった。また、GSHPの電力消費量は、一日あたり16.5kWhとなり、この電力消費量とGSHPの暖房出力および基礎杭の採熱量、三者のエネルギー保存の法則に基づく熱収支関係(暖房出力=電力消費量十地中採熱量)は、ほぼ満足のいく結果となった。このGSHP出力を電力消費量で割った値、すなわち成績係数(coP)は、この場合、約3.0となった。
3.2.すべての実験結果のまとめ
図5は、今回行ったすべての実験の結果を、熱源水温度と杭内水温、温水温度、およびGSIPの電力消費量、地中採熱量、GSHP暖房出力のそれぞれの日積算値の変動としてまとめたものである。温度変動においては、いずれも、実験1の結果と同様の傾向を示していることが判るが、長期間連続して行った実験7にみられるように、5日間の運転に2日程度の休止期間を設ければ、熱源側の方に、運転再開に必要な熱的回復を見込ませることが可能であると推察された。また、人工気象室の温度を10°Cから20°Cに変化させることにより、熱源水の方にはその影響が見られないのに対して、実験1~3にかけて、温水の往き温度は35°Cから45°C前後に高くなっており、明らかに影響が見られた。これは、温水の方はファンコイルユニットの熱交換温度と人工気象室の温度が直接的に関係するのに対して、熱源水の方はGSHPを介して間接的な影響しか与えられないからではないかと思われる。しかし、積算熱量の変化で見てみると、GSHPの暖房出力は、擬似負荷となる人工気象室の温度が変化しても、影響はないのに対して、電力消費量や地中採熱量は、人工気象室の温度が高くなると、電力消費量は大きくなり、地中採熱量は小さくなる傾向が見られる。この傾向は地中採熱量に顕著であった。なお、杭の数を減らした実験8~10において熱源水温度が他に比べて下がっているが、これは、冬の外気温の影響である。
3.3.温度と熱量および電力消費量の関係
すべての実験結果から各部温度の日ごとの運転時間平均値、日積算熱量などを取り出して相互の関係を調べた。図6に、熱源水往き温度と地中採熱量の関係を示す。両者は、人工気象室の温度ごとに大きなグループを形成し、その中で、それぞれ熱源水の流量杭の数実験開始日からの日数をパラメーターとする正の相関を示している。採熱量でみればその低下の程度は、実験の違いにかかわらず5日間で約2kWhであった。また、人工気象室の温度が高い方が採熱量は小さくなっていた。一方、温水往き温度とGSHP暖房出力との関係を示したのが、図7である。図6と同様に、両者ともそれぞれの実験開始日から日を追うごとに小さくなる傾向が見られるが、この場合は、人工気象室の温度が高くなると温水温度は高くなるのに対して暖房出力は変わらない結果となった。
図8は、GS融の暖房出力と電力消費量およびCOPの関係を併せて示したものである。暖房出力の方は、熱源水の流量と杭の本数に、一方、電力消費量の方は、人工気象室の温度に大きく影響を受けていることが見てとれる。両者の値から得られるCOPは、全体で2.4~3.4に分布し、熱源水の流量が大きいほど、また、杭の本数が多いほど大きくなり、人工気象室の温度が高くなるほど小さくなる。
3.4.成績係数(COP)に関する回帰分析
前項の考察により、熱源水の流量や杭の本数は地中土壌からの採熱量に大きく関係し、人工気象室の温度は、GSHPの温水温度に大きく影響することが判った。そこで、COPと採熱量の関係、およびCOPと温水温度の関係を調べるため、回帰分析を行った。それぞれ、図9と図10に、その結果を示す。COPと採熱量には、強い正の相関があり、採熱量はCOPの増加に大きく影響する因子だと判る。回帰式によれば、採熱量が10kWh増加すればCOPは1上昇する。一方、COPと温水温度には、強い負の相関があり、温水温度が高くなるとCOPは低下する。そこで、COPを目的変数、採熱量と温水温度を説明変数とする重回帰分析を行った。図11は、重回帰分析より求められた重回帰式を基に実測値と推定値の関係を示したものである。両者は概ね一致しており、GSHPのCOPは、地中採熱量と温水温度の値によって高い確度で推定可能であることが判った。
4.結論
基礎杭を利用したGSHPシステムについて、その熱的性能を系統的に実験した。その結果、地中採熱量を大きくするとともに温水温度を抑えることにより、そのCOPを空気熱源ヒートポンプよりも大きくする可能性があることが判った。基礎杭による地中採熱についても、仙台の気象条件では、適切な運転パターンにより、地中土壌の熱的回復力を図ることが可能だと思われた。
あとがき
本研究は、東北工業大学第1期ハイテクリサーチセンター第2プロジェクト研究の一部である。お世話になった方々に心から深甚なる謝意を表する次第です。
参考文献
加賀久宣ほか:基礎杭利用地熱空調システムの研究開発、その1、実大実験システムによる性能検証、空気調和・衛生工学会学術講演論文集、2001
濱田靖弘ほか:空調用エネルギーパイルシステムに関する研究、実規模建築物への適用と暖房運転実績の評価、建築学会計画系論文集、No.562,2002
小島原嘉也ほか:人工気象室を用いた基礎杭利用地中熱源ヒートポンプの性能評価に関する研究、空気調和・衛生工学会学術講演論文集、2004
室内熱湿気環境問題には、空間を構成する材料の選択など、デザインに深く関わるものがある。また、近年、省エネルギーという社会的要求により、住宅の断熱気密化が進められるが、その為に室内に熱がこもる他、換気不足を起こしシックハウスになるなど、健康へ影響を与える問題が起きている。そこで本研究では、省エネルギーかつ快適な住宅の室内熱湿気環境について検討していきたい。
研究の方法は住宅における室内熱湿気環境の問題点を抽出するため、実測調査、エネルギー消費量に関するアンケート調査を行い、住宅の断熱構成による室内熱環境と、エネルギー消費の違いを明らかにする。その上で、数値シミュレーションを行い、実測により明らかになった問題点の対策とその効果について検討する。各種住宅を対象とした温熱環境についての調査は、宮城県内に建つ断熱気密住宅10戸、集合住宅8戸を対象として行った。対象住宅の概要を、それぞれ表1、表2に示す。実測は、小型の温湿度ロガーを用いて居間と寝室を対象に行い、実測時期は、断熱気密住宅2001年度、一般住宅は2000年度である。一般住宅とは、特に断熱気密性能にこだわって建設されていない住宅である。1)夏期実測調査、2)冬期実測調査、3)エネルギー消費調査を行う。
数値シミュレーションによる検肘
日本建築学会の標準モデルの1室を対象として、仙台の冬の気象データを用いた数値シミュレーションを行った。エネルギー消費量調査で確認してように、断熱材の厚さの違いや、窓の夜間断熱など、断熱性に関わる寒さ対策が暖房負荷の低減に効果的である。各対策を組み合わせると、より暖房負荷を低減させ、断熱Ocmの半分以下となった。
実測調査から、断熱気密住宅は冬期において室温の変動や、エネルギー消費量も少なく、熱的にすごしやすい環境であることが確認できた。しかし、冬期における極度の乾燥、夏期は夜間室内に熱がこもることが問題である。通風によって夜間冷気を導入することなどの工夫が求められる。また、数値シミュレーションより、断熱性の向上が暖房負荷の低減に役立ち、各種対策を組み合わせることにより、省エネ効果が大きくなることが判った。
1. 研究の背景と目的
近年の建物は、高断熱高気密化が進んでおり、自然換気量が減少する傾向にある。現在社会問題となっているシックピルシンドロームは、この建物の気密化が原因の1つと言われており、換気が十分に考慮されずに気密化が進んだ住宅では、室内空気環境が悪化し、居住者の健康被害を引き起こしている。したがって、建物には、換気量を充分に保障する換気システムが必要不可欠となってきているが、「量」だけの確保では、室内の必要な場所へ新鮮な空気が分配されているかどうか、空気が目に見えないために不明であり、換気の「質」の問題が問われている。
本研究は、人工気象室を用いた換気実験とCFDに基づく数値シミュレーションから、換気による室内気流の挙動を系統的に分析し、「質」を考慮した今後の室内換気計画のための基礎資料整備を行なうものである。
2. 人工気象室を用いた換気実験
2.1 人工気象室と換気システムの概要
室内の換気性能評価を難しくしている最も大きな要素は変動する外気温である。そこで、外気温を自由に制御できる人工気象室を用いて換気実験を行った。図1に、人工気象室の平面断面図と換気システムの概略を示す。人工気象室は室内空間を想定した内室とそれを取り囲むように配置された外室A・Bからなリ、外室は-15~40°Cまで自由に温度制御できる。内室には、外室A側に大きなガラス窓が設置されている。換気方式は、内室の空気が天井と床に設置されたいずれか一ヶ所の排気口からフアンによって排出され、それを駆動力として壁上・壁下の給気口のいずれか一方から外室Aの空気が内室に自然供給される第3種換気方式である。内室の温度は常に20°Cに設定した。内室の暖房は、フアンコイルユニット(以下FCU)による温風暖房、電気式暖房パネルによる床暖房の2種類とした。床暖房は、制御系統が内室のインテリアとぺリメータの2系統に別れており、それぞれ独立の制御が可能となっている。
2.2 実験の概要
表1に実験の種類と条件を示す。換気に影響を与えている因子として、1外室条件、2暖房方式、3FCU風量、4給気口の位置、5排気口の位置、6給排気口の形状、7換気量、の7因子を取り上げ、これらの因子の組み合わせで、合計34条件の実験を行い、各因子が室内換気特性に与える影響度を検討した。
実験方法は、SF6をトレーサーガスとしたステップダウン法とした。室内のガス濃度を均一の状態にしてから換気システムを稼動させ、ガス濃度減衰の測定を基に局所空気齢と局所空気交換効率を求める。ガス濃度の測定点は、図1の赤丸に示すように、平面に9点、高さ方向に3点の計27点である。各測定点にはA1~C3まで記号が付いており位置を識別している。図2に濃度測定システムを示す。測定点は自動的に切り替わるようになっており、サンプリング時間は約60秒である。
2.3 実験の結果
実験結果の一例として、実験3の暖房機器にFCUを使用した場合の結果を示す。図3は、そのときの室内各点のガス濃度の減衰の様子を示したものである。空気齢は、減衰曲線の下の斜線部分の面積に相当している。また、各測定点で得られた空気齢を排気口の空気齢で基準化したものが空気交換効率となり、本研究では、この指標を用いて換気性能を評価した。図4に、実験3-4の室内下部で給排気した場合の空気齢、図5に、そのときの空気交換効率を示す。壁下部から給気した場合、給気口近傍のA3から外気導入方向にあるA列~B1の床上10cmの空気齢が110分と早く、床上120cm以上の測定点では、排気口の空気齢よりも空気齢が遅い。この各空気齢を排気口空気齢で基準化したものが空気交換効率となる。空気交換効率でみると、床面付近の効率が他の高さに比べて大きい。特に、外気導入方向にあるA列~B1の効率が約1.1と大きいが、これは、導入外気の密度の影響によるもので、床面を這って移動する外気の動きが見られる。床上120cm以上の測定点になると、排気口の空気交換効率よりも測定点の空気交換効率が小さく、ショートサーキットが発生していると思われ、新鮮空気の呼吸域への到達の遅れが懸念される。空気交換効率に対する暖房風量の影響として、実験1の400m²/h、実験2の100m²/h、実験3の50m3/hの「壁下部給気,床排気」の結果を、平均空気交換効率と暖房風量の関係でまとめたものを図6に示す。暖房風量の増加に伴い床上120cmと220cmの空気交換効率が0.82~0.95まで上昇し、ショートサーキットの影響が緩和されており、部屋全体に新鮮外気を均一に分配するには、換気回数で、8回/h(実験換気量の16倍)以上の暖房風量が必要になると見積もられる。なお、床上10mでの空気交換効率は、風量の増加に伴って大きくなるが、これは、壁下の給気口と暖房用吸込口の間でショートサーキットの割合が高くなり、この間に位置するAl~A3、B3での空気齢が小さくなったためと推定される。次に、実験10の外室温度の違いによる高さごとにまとめた平均空気交換効率を図7に示す。このときの内室の暖房は床暖房である。外気温度が室温よりも低いため床付近の効率が大きくなっているが、各測定高さの結果とも、導入外気温度が高いほうが効率が大きいことが見てとれる。これは、導入された外気が床暖房から熱を受け取り暖められるまでの時間が、外室温度が高いほうが短いためと推察される。外気を導入する際、空気を室内の空気と熱交換してから室内に導入することが望ましいと思われる。
以上全ての実験の結果を床上120cmの空気交換効率と空気齢の関係でまとめてみた。その結果が図8である。多くの実験の結果が空気齢120分、交換効率1.0付近に集まっているが、概ね、両者には空気齢が大きければ、交換効率が小さいといった、負の相関が見られる。全ての結果の中では、実験5-2の夏季冷房空間における壁下給気、床排気の経路の交換効率が約1.1と最も大きくなっている。逆に効率が最も小さいのは、冬季の暖房時で、と同じく低い位置で給排気する場合実験3-4、実験2-4で、効率が0.8~0.9、空気齢145分である。また、夏季冷房空間において室内の高い位置で給排気する実験4-2の場合も空気齢、交換効率ともに結果が悪く、グラフの左上に位置している。すなわち、これら場合、導入外気が室内の短い経路を通って排気口に至るため、呼吸域において新鮮空気の到達が遅れる危険性があるということを示している。全体としては、外室温度と給排気口の位置関係が換気性能に最も大きく影響を与える因子であることが判った。
3. CFDを用いた換気シミュレーション
3.1 シミュレーション概要
換気を行っている空間内のより詳細な空気の挙動を明らかにするためCFD(ComputationalFluidDynamics:数値流体力学)を用いて換気に関するシミュレーションを行った。本研究では、解析に必要な支配方程式を有限要素法で離散化した。離散化された代数方程式を有限要素法解析汎用プログラム「FLOTRAN」を用い、3次元解析を行い、換気計画へのCFD利用の有用性を検討した。解析対象空間は、換気実験で用いた人工気象室の内室で、その実験条件を3次元数値モデルに定義し、それを計算モデルとして解析を行なっている。3次元解析モデルと解析条件を図9に示す。壁下部給気・天井排気の換気経路をとり、床暖房を使用した空間である。これは、実験7-2に相当する換気条件である。
3.2 シミュレーション結果
シミュレーション結果の一例として、換気開始50秒後の床上15cm、120cm、165cmの風速ベクトルを図10に、240秒後の同断面の風速ベクトルを図11にそれぞれ示す。50秒後では、給気口付近の気流速度が遅くなっているが、これは、給気口から流れ込んだ冷たい空気がすぐに落下して、床面を這って流れるからである。床上15cmの断面では、全体的に空気が給気口の方向(A3)から排気口の方向(C1)へ動いているが、気流によって、床暖房から熱を受け上昇気流が生じている箇所が見てとれる。床上120cmの室内の中心高さ付近の気流の様子は、室内の中心部はあまり動きが見られないが、c列側の壁面と外気導入方向の壁面付近の室内周辺部の空気の動きが大きい。床上165cmの、人が立った場合の呼吸域の高さでも床上120cmと同じ傾向を示している。空気は、室内の周辺部で動きが大きく、室内中心部では、動きが小さくなっている。給気口や排気口側の壁面における上昇気流は、この付近での空気が大きく壁にぶつかることと、空気の壁面に沿って流れる特性であるコアンダ効果の影響であると考えられる。換気開始から240秒では、床上15cm、床上120cm、床上165cm各断面の気流は落ち着き、動きが小さくなっている。床上15cmに関しては気流の動きが見られ、その後、気流の変化は少なくなっていき、定常状態になるものと考えられる。
3.3 空気齢の算出の試み
シミュレーションで得られた風速ベクトルの結果から空気齢の算出を試みた。使用した風速ベクトルは、換気開始から370秒経過後の結果で、室内気流が定常に達したと見られる時間である。測定点から質量0の空気分子1個を飛ばし、風速ベクトルデータを基に得られる1つの流線の軌跡を求め、給気口に至るまでの移動時間を時間を逆に解き、この時間を空気齢とした。算出された空気齢は、給気口に近いほど値が小さく、離れるほど値が大きくなり、給気口からの距離に比例する傾向が見られた。濃度分布の計算を必要としないこの方法は特筆されるべきで、今後、その計算方法の確立が待たれるところである。
4. 結論
換気の「質の向上」という視点から、人工気象室を用いた換気実験とCFDを用いた数値シミュレーションの2つの方法により、空気流動特性に着目した換気性能について検討した。換気実験の結果、外気温と給排気口位置の関係が換気性能に最も大きく影響を与える因子あり、場合によっては、新鮮空気の分配の遅れが懸念されることがあるなど、幾つかの重要な知見が得られた。また、換気に関するシミュレーションの結果から、室内空気の挙動を視覚的に捕らえることにより、換気計画へのCFD利用の有用性が確認された。シミュレーション結果は、実験では得ることのできない内容を多く含んでおり、今後の展開が期待されるところである。
参考文献
1)MSandberg,M.Sjoberg:Theuesofmomentsfbrassessingairqualityinventilatedroom,BuildingandEnvironmcnt,18,181-197,1983
2)石川善美,佐野裕志ほか:人工気象室を用いた建物の換気性能評価に関する研究その1~7,日本建築学会大会梗概集,2000.920019200282003,9
3)石川善美,内海康雄ほか:人工気象室を用いた空気齢に基づく建物の換気性能評価に関する研究第1~6報,空気調和・衛生工学会講演論文集,2000,92001.92002.92003.9
1.序論
1.1.背景と目的
昭和3年に仙台に設立された商工省工藝指導所は、幾多の改組を重ねながら、国立では初の工芸指導機関として、数々の研究活動、試作品の開発を行い、我が国の輸出振興および産業発展に寄与してきた。よって仙台は「近代工芸・デザイン研究発祥の地」と言われてきたが、そういった情報に触れる機会が少ないためにその事実を知る市民は少ない。しかし一方では、一部の民間で歴史を顧みる動きや仙台のデザインをアピールする活動も起こり始めている※1。
そこで、本研究では仙台のデザイン史を再確認し、アピールしていく一つの手段として、仙台に残るモノやそのデザイン史を紹介し、市民との間でコミュニケーションを図ることができるようなツールとしてのWebサイトの制作を目的とする。
1.2.本研究の流れ
本研究では、仙台デザイン史やそれにまつわる作品の調査・分析を行うことで仙台デザイン史の意義を確認し、Web博物館の調査から現在のWebサイトの現状や構造、それがもつ意味などを分析する。そして、それらの調査をもとにWeb博物館の提案および制作を行う。
2.Webサイト『仙台デザイン史博物館』の位置付け
仙台を「近代工芸・デザイン研究発祥の地」と位置付けることができるのは工藝指導所の功績によるものである。よって『仙台デザイン史博物館』では工藝指導所に関するものを核とし、さらに伊達藩以来の風土に根付いてきた伝統工芸品、工藝指導所以降の近代デザインを取り上げることとする。
3.仙台のデザイン史に関する調査
工藝指導所に関する事柄を中心に、仙台にまつわる工芸品や近代デザインについて調査を行った。
3.1.工藝指導所関連作品の調査※2
3.1.1.目的
昭和52年以降、当研究室では工藝指導所に関する研究を継続し、工藝指導所の後身である産業技術総合研究所東北センター(産総研東北センター)に残る工藝指導所関連作品の調査やデータベース化を行ってきた。
その倉庫内に工藝指導所関連作品が保管されていることが近年新たに分かった。現在工藝指導所に関する作品は仙台には僅かしか残っておらず※3、産総研東北センターの工藝指導所関連作品は「仙台に残る工藝指導所関連作品」として、そして「工藝指導所の当時の様子を知るための歴史的価値を持つ作品」として大変貴重な品々である。
本調査ではそれらの価値の再確認を行うとともに、実際の作品に当たりながら新たに分類を試みることでその傾向を探り、記録保存のために写真撮影・実測を行い、そしてそれらをWebサイト掲載に生かすこととする。
3.1.2.分析
倉庫内の調査の結果、まずそれらの作品が「試作品」と「コレクション」に大別でき、作品に貼られたラベルから昭和22年から41年の作品であることが分かった。そしてそれらが形態上で200種、総数497点あることが分かった。さらに試作品を材質・技法別に分類した結果、漆工品、木工品、金工品、陶磁器、樹脂、ガラス、照明具のような工業製品に分けられ、その中には木工と金工、陶磁器と木工、木工と樹脂といった材質が組み合わされているものもあった。
試作品の中で最も多かったのは漆工品で86種239点、続いて木工品50種101点、金工品19種72点であった。さらに漆工品・木工品を品目別で見ると、菓子盛やサラダボール等の盛器が圧倒的に多いことが分かった。さらにそれらの大半は産業工芸試験所時代の技術である非円形ろくろを使用した作品であった。そして金工品は灰皿や燭台が多かった。
また、調査の際に倉庫内の作品35点の実測を行った。
3.1.3.考察
ラベルの年代からそれらの作品は産業工芸試験所東北支所時代のものだと特定される。そして戦後という時代背景もあり、輸出振興のために試行錯誤をしていたと思しき様々な形状をしたデザインの作品が多く存在していた。これらは現在では奇抜と思われるようなデザインも多く、新しいデザインに挑戦しようとする当時の姿勢は大変興味深いものである。さらに漆工品や木工品の作品が多く、器のような作品がほとんどであったため、当時木材を扱った器ものの生産が主な研究であったことが確認できる。また、コレクションからは国内外のデザイン調査を活発に行っていたことが分かる。
以上より産総研東北センター倉庫内の作品は工藝指導所の歴史の位置付けをする上で大切な資料であり、仙台に残る数少ない工藝指導所関連作品としてこの地に残し、伝えていくべきものであると言える。
4.Web博物館に関する調査
4.1.博物館とWebサイトの関係性に関する調査
4.1.1.目的
博物館におけるWebサイトの役割を知るために、現在ある博物館とWebサイトの関係性について調査し、その状況を把握することによって、Webサイトの意味、構造・仕組み等を抽出し、それを制作に反映させる。今回対象とするのは、東北6県の資料館・展示館を含む博物館633件と東京都の資料館・展示館を含む博物館142件とした。ただし、これらの博物館は各都県の公式観光サイトにおいて紹介されているものとする。
4.1.2.分析(調査実施:平成15年10月)
調査として博物館数とWebサイト数の割合やF1ash・フレームなどの使用状況、テキストやイメージの情報量などについて調査を行った(表1)。
東北6県の博物館633件中Webサイトを持っていたのは129件で約20%、東京都の博物館142件中Webサイトを持っていたのは71軒で約50%であり、東北における博物館のWeb利用はまだまだ少ない。
F1ashの使用率は各都県でおおむね10%弱と少ない。F1ashの使用用途は主にスプラッシュページや展示品の解説などに用いられている。
フレームの使用は各都県でおおむね45%前後と半数近い。主にナビゲーション用にフレームが切られており、常にナビゲーションを表示することができるため、ページ間の移動に便利であるが、ナビゲーション内の整理がされていないページが多く見られた。
サイトの情報量については情報過多・装飾過多のものや画像とテキストだけの簡素なページが多く、デザイン処理が施されていると思われるものは30%程であった。コンテンツとしてはおおむね展示品の紹介がメインである。その他にもムービーやゲーム、クイズなどを使用して演出を行っているサイトもあった。
4.1.3.考察
東北の博物館数とそのWebサイト数および東京の博物館数とそのWebサイト数を比較すると、Web上では東北各地方の歴史に触れる機会がまだまだ少ないことが分かる。よってこのことからも本研究のテーマである「仙台デザイン史の発信・伝達」ということの意義を認めることができるのではないだろうか。
Flashによる演出はユーザーの理解を助けるのに効果的であるが、スプラッシュページの多くはWebサイトの訪問者にとって、必要な情報に到達するために余計なステップを踏まなければならず、単なる自己満足の邪魔なページとなっている場合が多いため、スプラッシュページの使用は極力避けた方がよいと思われる。
フレームはナビゲーションを設置する際に効果的である。しかしナビゲーション内の情報量が多いと複雑になり、その機能がうまく働かなくなってしまうため、ナビゲーション内は簡潔な表現にすべきである。
情報量に関しては各サイトのルールが定まっておらず、適切なデザイン処理がなされているサイトは少ない。よってサイトにはフォーマットのようなしっかりとしたデザインルールを設けるべきである。
総じて今回の調査対象では、博物館におけるWebサイト事情はまだまだ発展途上にあるということが言えるだろう。Webサイトを公開するにあたり、操作性だけでなく博物館としてのアイデンティティを考えることも重要である。あるいは多くの博物館に「友の会」という交流の場があるように、Webならではの掲示板などを用いた交流の場を提供することも必要であろう。
4.2.博物館とWeb博物館との比較※4
4.2.1.目的
Web博物館の意義を確認するために、現実の博物館とWeb博物館を比較することによって、それぞれの特徴を分析し、その理解を深め、Web博物館制作に反映させる。
4.2.2.分析
博物館の魅力は、第一に標本を実際に見ることができるということである。自らの足で自由に行き来できるために、標本を見る自由度が高く、その大きさや材質、立体感、雰囲気を簡単に捉えることができる。
また、多くの博物館では歴史を体験学習を通して学ぶことができるような何らかの仕掛けがあり、楽しんで学ぶことができる工夫が施されている。
さらに、博物館の展示には常設展示のようにその博物館独自のメインとなる研究テーマを展示するもののほかに、一定期間ごとに様々なテーマで企画展・巡回展などを行っている。
一方、Web博物館は自宅や学校など、どこにいてもいつでもその情報を手に入れることができるという「手軽さ」が最大の魅力として挙げられる。
また、BBS、E-mail、blogなど様々な形式で情報のやりとりが手軽にできるため、Web博物館側と閲覧者、あるいは閲覧者同士のコミュニケーションを活発に行うことができる。
さらに、制作者側のメリットとしては実際の土地を必要としないために、土地に関する問題や、設立時やメインテナンス時などにかかるに様々な負担を軽くすることができるということ、そしてリアルタイムに情報を更新することができるということが挙げられる。
4.2.3.考察
博物館のメリットは標本を実際に見たり触れたりすることができるように、過去のものを実体験として学ぶことができるということである。さらに企画展などは観覧者の様々な興味を引きつけることによって、リピーターを増やし、それが博物館と観覧者両者の活気を盛り上げる手段ともなっている。その博物館のメリットにWeb博物館のメリットを加えることでより良いWeb博物館を考えることができるのではないだろうか。
Web博物館では標本は写真やテキストのみでしか見ることができないために、そのスケール感を図り知ることは難しい。それを現実の体験に近づけるためには、つまり標本の閲覧の自由度を高めるためには、標本を様々な角度から見ることができるようにする必要がある。その方法としては多角的な写真や動画を使った方法などが考えられるが、その一つとしてQuickTimeVR(以下QTVR)という方法がある。これはオブジェクトの360度分の画像を用意しQWR上でそれらの画像を繋ぐことによって、QuickTimeビュワー上で左右360度任意に回転可能なオブジェクトを作ることができるものである。それによって標本を自由な角度から閲覧することができ、立体的に標本を理解することができる。
また、Web博物館は閲覧が手軽なだけに、更新頻度を多くしたり、企画展のようなコンテンツの企画を行うなど、訪問者を飽きさせない工夫を施すべきである。そのためには後々のコンテンツ増加を念頭に入れた更新のしやすいサイト設計を考えなければならない。
4.3.まとめ
以上の調査より得られた考察からWeb博物館制作において考慮すべき事柄を次にまとめる。
1)無駄なF1ash使用を避ける
2)ナビゲーション内は簡潔な表現にする
3)全ページにおいてフォーマットを固定する
4)博物館としてのアイデンティティ計画を立てる
5)掲示板などを用いた交流の場を提供する
6)多角的な標本の閲覧を提供する
7)訪問者を飽きさせない更新計画を立てる
8)更新のしやすいサイト設計を考える
5.提案モデルの制作
調査から得られたデータや分析結果をもとに最終的な提案モデルの制作を行う。
5.1.対象
一般的に博物館の客層を見ると小学生から年配者までと幅が広く、県内外から集まってきていることが分かる。よって本Web博物館では仙台の一般市民を中心に、学生や研究者など、県内外の仙台デザイン史に興味のある老若男女を対象に制作を行う。(図1)
5.2.コンセプト
本研究のテーマである「仙台デザイン史を振り返るきっかけを作り、その価値の再認識を促す」ということを第一のコンセプトとし、一般市民に対して「Webサイトを一つのコミュニティとして、デザインに関する情報交換の場を提供する」、そして研究者に対して「仙台の工芸・デザイン史のデータベースとして、教育・研究へ活用させる」という3点を主なコンセプトとした。
グラフィック面では歴史を扱うという点からその伝統的なイメージを保つためにソフトトーン、ダルトーンの茶系を用いて落ち着いた配色を行う。また、仙台デザイン史博物館(SendaiDesignHistoryMuseum)のロゴを使用することで古さの中に新しさを込め、老若男女のためのサイトであることをアピールする。
5.3.コンテンツ(図2.図3)
1)トップ
2)ご案内:仙台デザイン史と本サイトについての説明を庄子晃子教授からお話しいただく。
3)展示室:工藝指導所やブルーノ・タウトについての解説、産総研東北センター倉庫内調査から得られた200種の標本の掲載、仙台の工芸品の掲載など。
4)年表:工芸指導所の歴史、日本のデザイン史と一般事項、世界のデザイン史と一般事項の3つの流れを年表を用いて表す。
5)掲示板:話題や感想のやり取りだけではなく、画像の投稿ができる掲示板を使用する。
6)リンク
7)サイトマツプ
8)お問い合わせ
9)スペシャルコンテンツ
5.4.伝えるための工夫点
1)ナビゲーションの整理と更新のしやすさの考慮(図4)
全ページ幅720ピクセルに統一し、メインナビゲーションを上部に固定するようフォーマットを設定した。
二階層目からは1ページを上下3つのフレームで分け、上部にメインナビゲーション、中部に内容、下部にコピーライト表記と東北工業大学へのリンクという配置にした。中部の内容部分はスクロールが可能で、上部と下部はスクロールを固定し、常にナビゲーションが表示されている状態にすることで操作の利便性を図った。
また内容部分の最上段には階層を追った戻りが可能なパンくず型ナビケーション、展示室では各カテゴリごとへのナビゲーション、ページ移動のためのステップナビゲーション、標本写真を使用したサムネイル型ナビゲーションなど、用途に応じた種々のナビゲーションを使用することで、操作の混乱を少なくするようにしている。
さらにステップ型やサムネイル型のナビゲーションを使用することで、今後コンテンツが増加した場合、複雑なデザイン処理をせずにページやサムネイルの追加・更新をできるようにしており、閲覧者にも制作者側にも負担を軽くするように設計している。
2)標本への様々なアプローチ
展示室において、標本のサムネイルをクリックすることで画面右半分に設けたインラインフレーム中にその標本の写真画像を表示させ、その下部にサイズや技法などの各データを表記するようにしている。また同階層に標本のQTVRを設置し、各角度からの標本の閲覧を可能にしている。そしてその近くには「さらに詳しく」のボタンを配置しており、それをクリックすると新しいウィンドウがポップアップし、さらに大きな画像や詳細画像、各データ、解説を閲覧できるようにしている。
さらに年表中の事項に、関係する標本や出来事がサイト内にある場合、それらを前述のポップアップウィンドウとリンクさせることで、時代背景も含めた関係性を捉えることができるようにしており、このように様々な角度から標本にアプローチすることで、閲覧者の理解を深めやすくしている。
3)一定数の訪問者を保持するためのコンテンツ
訪問者を飽きさせず、その一定数を保持するために通常のコンテンツとは別に、特別なコンテンツとして月刊あるいは季刊ペースで更新される特集ページを制作し、入口をトップページに設置する。これは長期で企画していかなければならないため、本論文では構想の段階ではあるが、現時点での企画としては元工藝指導所員や研究生などへのインタビュー記事や実際に見て歩きができるようなデザインマップなどの掲載を企画している。
またコミュニケーションツールとして画像投稿可能な掲示板を設置し、デザインなどに関する情報交換の場を提供することで、We牌物館内を活樹こさせながら、さらには固定客を獲得することを目的としている。
5.5.アンケートの実施と考察
制作した提案モデルについて19歳~24歳の男女30人と50代女性2人にアンケートを実施した。項目は理解度、見やすさ、操作性、雰囲気の適合性、興味の度合い、利用したいかを五段階評価で聞き、良い点.悪い点、意見・感想を自由記入方式で行った。
その結果、様々な感想が得られたが、各項目において総合的に好反応を得ることができ、指針や工夫点において一応の有効性があったと言えるだろう。しかし見やすさの点においてほとんどの被験者が「文字が小さい」「行間が狭い」ということを指摘した。サイズはCSSで指定しており本文が10pt、脚注が8pt,行間はデフォルトであった。本制作において文字サイズについては重点的ではなかったため、改めて検討し改善すべき課題である。
6.結論
産総研東北センター倉庫内の調査を中心とした工藝指導所をはじめとする仙台におけるデザイン史の調査から、仙台とデザインとの関係は古くから密接に関係しており、デザインをキーワードに仙台を盛り上げていくには十分に大きな基盤があることが分かった。そしてこれを伝え、残していくべきものであると判断した。さらにWeb博物館に関する調査から、一般的に博物館のWeb利用はまだまだ発展途上にあることが確認され、これらのことからWeb上において博物館を提供するためのニーズが存在すると推察される。
以上を踏まえて指針や工夫点を打ち立て、『仙台デザイン史博物館』の制作を行い、Webサイトとして一般に公開を行った。それについてアンケートを行った結果、一応の好反応を得ることができ、それらの指針や工夫点についての有効性が認められた。
謝辞
産業技術総合研究所東北センター所長加藤碩一氏、同産学官連携センターものづくり支援室の森克芳氏、およUWIDECデザインミュージアム研究会の皆様にお世話になりました。心より御礼申し上げますb
※1 H15以降の動きとして、デザインミュージアム研究会(MIDEC有志)の発足やせんだいデザインウオーク、せんだいデザインウイークなどのデザインイベントの実施などが見受けられる(H171現在)
※2 齋藤州一他「工藝指導所関連作品の調査.分析報告」日本基礎造形学会第15回熊本大会概要集2004pl9に掲載
※3 仙台市博物館にはタウト指導の作品(照明具他)と漆の手板、宮城県図書館にはS3の工蕊指導所開所式のパンフレットが残っている。
※4 齋藤州一他「Webサイト『仙台デザイン史博物館』構想の提案」日本デザイン学会第51回研究発表大会概要集2004p32に掲載
1. 研究の背景と目的
近年、地球温暖化やエネルギー資源の枯渇といった様々な地球規模での環境問題が注目視されており、それに対する社会的關心も日々高くなってきている。この問題の大きな原因の一つは、何と言っても我々の日々の生活エネルギー消費量の増大である。特に、住宅、業務ビル、学校などにおける民生用エネルギー消費は増加の一途をたどっており、エネルギー消費全体の1/4以上を占める結果となっていて、その低減や抑制は急務である。ところで、我々の多くは長期にわたり学校という教育施設を使用している。その建物に関わる環境負荷低減への取り組みはとても重要であり、特に、大規模な設備を有する大学の運用時のエネルギー消費は、設計から廃棄にいたる建物のライフステージに占める割合が高いため、それを低減することの意義は大きいと言える。以上から、本研究では、主として東北地方の大学を対象とし、エネルギー消費量の調査を行い、その実態を把握し、問題点を抽出して、その改善の必要性などについて検討することを目的とする。
2. 研究の方法と内容
2.1. 調査研究の概要
東北地方における中規模大学を対象として、アンケート調査を行い、電気、ガス、石油、水の月別消費量の年間変動について調べ、さらに、年間総エネルギー消費量やエネルギー消費原単位などについても実態を明らかにする。また、地域特性をみるために全国の様々な地域の大学についてもアンケートを行い相互に比較する。
2.2. 調査対象とその概要
東北地方における、30の大学にアンケートを郵送した。そのうち20の大学から回答を得た。この調査の回収率は66.6%であった。アンケートの内容は、大学の規模(敷地面積、校舎面積、在籍者数)と、2005年の電気、石油などの各月別消費量および経費、暖冷房の方式、暖冷房の熱源などについてである。
その後、地域特性を知るために、北海道から九州地方の30の大学にも同様の内容のアンケートを行い、12の大学から回答を得た。この調査の回収率は40.0%であった。
表1に、各大学の概要を示す。
3. 調査結果
3.1. 東北地方の大学における月別エネルギー消費
(1)電気消量量
図1は、2005年1月〜12月の東北地方における各大学の電力消費畳を示したものである。I1とFs4が他よりも大きく、500〜700×10^3kWhの範囲で変動している。この二つはコンピュータ学科で構成される大学で、とくに、F4は他大学が小さくなる夏休み時期に大きくなる特徴が見られる。これは、大学施股をー般へ開放しているためである。I1は校舎面積が最大の大学である。次のグルーブはM4、M2、Fs2、Ak2であり、300〜450×10^3kWhで続いている。最小はAo4であった。このAo4は校舎面積が最小の大学である。
(2)石油消費量
図2は、石油消費量の結果を示したものである。石油を使わないM1とFs4を除くいずれの大学も石油を暖房熱源に使っており、冬に大きく夏に小さな結果となっている。また、一部例外はあるものの、概ね岩手、青森、山形の大学が大きく、宮城、福島の大学は小さい傾向にある。これは外気温の影響であろう。I1とY1が他よりも大きく、夏にも相当量消費しているが、これはコジェネレーションシステムによる暖冷房のためと思われる。他の大学で夏に消費があるものは冷温水発生器の運転によるものである。
(3)ガス消費量
図3は、ガス消費量の結果を示したものである。Ak2とFs4が最大で約90,000㎥と他よりも抜きんでて大きいが、これはこの大学が石油を使わずにガスヒートボンプ(GHP)による冷暖房を行っているからで、冬と夏に二つ山を形成している。GHPを使っているY1とM1が次に続いている。
(4)水消費量
図4は、水消費量の結果を示したものである。医・薬学系の大学の消費量は大きい。以下、Ao3、I2と続くが、校舎面積や人員数との関係はあまり見られず、効果的な節水方法の採用に大きく依存していることがうかがえる。
4. 大学におけるエネルギー消量量とその要因
4.1. 年聞総エネルギー消量量の算出
各エネルギー源の消費量をジュールに換算し、年間の総エネルギー消費量を求めた。換算には、電気は1kWhあたり3.6MJ、A重油は1リットルあたり38.9MJ、都市ガスは13Aとして1㎥あたり46.05MJ、LPGは1㎥あたり100MJを用いた。図5は、調査対象全ての大学の年間総エネルギー消費量を示したものである。いずれも電気、石油、ガスの使用割合は大きく異なるが、寒冷地やコジェネレーションを採用している場合は石油の割合が大きく、GHPを採用していない場合にはガスの割合が小さい傾向が見られた。総エネルギー消擬量の大きい大学は、国立の総合大学である。To、Miであり、それぞれ、250TJ、150TJと、東北地方の私立単科大学の3〜8倍であった。
4.2. 延床面積の影響
図6に、総エネルギー消費量と延床面積の関係を示す。両者には、寄与率が0.78と高い正の相関があり、総エネルギー消費量は延床面積に大きく影響を受けることが判る。ただし、詳細に見れは、同じ床面積でも消費量には大な違いのある場合があり、延床面積の他にも、エネルギー消費量に影響を与える囚子が存在すること推察される。
4.3. エネルギー消費量原単位の算出
年間の総エネルギー消費量を延床面積で除した値を、エネルギー消費量原単位という。これをすべての大学について算出し、図7に示す。床面槽1㎡あたりのエネルギー消費量でみると、Y1、To、Fs4が1,100〜1,300MJ/㎡と大きく、その他は、7大学が600から900MJ/㎡、15大学が300〜600MJ/㎡に分布していた。
4.4. エネルギーコストとの関係
図8は、各大学のエネルギーコストを示したものである。
図5と比べ、エネルギー源の分布では。電気の占める割合が大きくなる傾向があった。
4.5. 各種要因の影響
(1)気象条件の影響
図9、図10にそれぞれ1月の平均外気温、8月の平均外気温とエネルギー消費量原単位との関係を示す。両者は、ばらつきが大きく、明確な傾向を抽出するまでには至らないが、1月の外気温と原単位の間には、弱い負の相関が見られる。これは、外気温が低くなれば暖房量が増えることを示唆するものであろう。
(2)在籍者数の影響
図11は、学生と教職員を合わせた在籍者数とエネルギー単位との関係を示す。ぱらつきが太きく無相関の様
相を呈しているが、約70%の大学が、在籍者数に関わらず400から1,000MJ/㎡に分布しており、これは、人数が多い大学ほどー人あたりの消費量が少なくなる傾向を示すものである。
(3)大学の特性の影響
調査対象の大学は、単科大学から総合大学まで、様々な特性を有している。そこで、それを、文系、理工系、医薬系、総合系と分類し、エネルギー消費量原単位との関係をみた。それを図12に示す。概ね、文系よりも理工系、医薬系の方がエネルギー消費量が多いようである。
4.5. 重回帰分析の試み
ここでは、目的変数を年間総エネルギー消費量とし、説明変数に敷地面積、延床面積、在籍者数、1月の平均外気温、8月の平均外気温をとって、重回帰分析を行った。重相関係数は0.893であった。重回帰式における各説明変数の係数を偏回帰係数というが、単位が異なるため比較ができない。そこで、各変数を標準化して、標準偏回帰係数で説明変数の目的変数に対する影響の大きさを調べた。その結果、最も影響度の大きい因子は延床面積で、以下、8月の外気温、1月の外気温と続くことが判った。本分析については、説明変数の取り方など、更なる吟味が必要である。図13に、重回帰分析から得られた重回帰式によるエネルギー消費量の推定値と、実際の値(実績値)との開係を示す。
5. 結論
東北地方の大学におけるエネルギー消費量を調査し、その実態を明らかにするとともに、他地域の大学との比較を行った。大学におけるエネルギー消費量は、大学の規模、特に延床面積に大きく左右されるが、在籍者数の影響は思いのほか少なかった。また、暖冷房のためのエネルギーにより、気象条件との関係の大きさも示唆されたが、原単位で見てみると、地域の違いは少なく、どの大学も気象条件などに影響されにくいコンセント負荷(電力量)がエネルギー消費量に大きく関わっていることが推察された。
あとがき
本調査に当たり、各大学の担当者の方には忙しい中、大変お世話になりました。記して深甚なる謝意を表する次第です。
参考文献
1)内田洋ー、松本真一、長谷川兼ーほか:秋田県立大学におけるエネルギー消費の実態調査、日本建築学会東北支部研究報告会、2004年6月 2)渡辺浩文、三浦秀ー、須藤論:東北地方における学校建築のエネルギー消費に関する実態調査研究、日本建築学会環境系論文集、第597号2005年11月 3)山舘和磨、石川善美:東北地方の大学を対象としたエネルギー消費量に関する調査、日本建築学会大会、2006年9月 4)石井悦子、沖美帆子、森山正和:神戸大学におけるエネルギー消費の実態調査、日本建築学会、2006年9月
仙台市の住宅に設置された地中熱ヒートポンプシステムの性能評価に関する研究1 序論
1.研究の背景と目的
日本のエネルギー消費は、3つに分けることができる。運輸部門、民生部門、産業部門である。特に民生部門は、第一次石油ショックが起さた1973年に比べ2007年度では、2.5倍と最も大きく増加している。民生部門のエネルギー消費を抑えることが急務と考えられる。
民生部門は、家庭部門と業務部門がある。家庭部門の内訳は約7割近くが、冷房、暖房、給湯なのである。ヒートポンプを利用した冷房や暖房にし、給湯にもヒートポンプを利用することで大幅なエネルギーの削減が見込めるのである。中でも地中熱を利用したヒートポンプは、外気温の影響を受けないため、1年中安定して熱源として利用することができるのである。
本研究では、地中熱ヒートポンプ(GSHP)3年間の冬期における熱的性能について、実際の住宅に設置したGSHPの実測と、コンピュータシミュレーションによって検討するものである。
1.2研究の方法
地中熱ヒートポンプが設置されている住宅(木造2階建て、延べ床面積226m²)の3年間のデータから電力消費量、採熱・放熱量、暖冷房量を調べ、電力消費量と暖冷房量から成績係数を求める。その成績係数の変化の要因を明らにする。また、地中熱ヒートポンプシステム性能予測プログラム「GroundClub」を用い効果分析を試みる。
2 地中熱交換機と対象住宅の概要
対象住宅には、ボアホール方式の地中熱交換器を持つ地中熱ヒートポンプ(以下、GSHP)が設置されている。地中熱交換器は、住宅の西側外部に5m間隔で打設した深さ40mのボアホール3本を用いて、その中にそれぞれUチューブを挿入し、ヘッダーを介して熱源水を循環させるものである。図2.1に、地中熱交換機と住宅の概要を示す。住宅の暖房は、GSHPから得られる温水を用いたパネル暖房である。冷房もGSHPから得られる冷水を用いたファンコイルユニットによるが、これは居間のみで、その他の部屋はすべて通常のエアコンを用いて冷房している。
表2.1に、GSHPの仕様を示す。冷媒はR410Aであり、暖冷房時の成績係数はそれぞれ3.7,3.2である。また、1次側の熱源水も2次側の温冷水もブラインを用いており、それぞれ、エチレングリコールとプロピレングリコールの40%水溶液となっている。
3 実測結果
3.1 地中温の3年間の変動とGSHPの運転稼働率
図3.1に、2009年から3年間の日平均外気温とボアホール付近の地中温の測定結果を示す。外気温は、概ね、1~2月にかけて–5~5°Cと低くなり、7~8月にかけて20~30°Cと高くなる正弦曲線を示しており、とくに、2010年の7月下旬から8月は前年より日平均値で約5°C高く、この夏が猛暑だったことがうかがえる。冬期についても2010年の方が若干低くなっている。この外気温変動に対して、深さ2mの地中温はピークが2ヶ月ほど遅れる曲線となる。深さ5mと10mの地中温は13~14°Cと一年中ほぼ一定で、年による違いはほとんどなかった。
図3.2は、3年間にわたるGSHPの1日あたりの運転稼働率を日平均外気温との関係でみたものである。暖房運転時は、とくに外気温が5°C以下であれば稼働率はほぼ80%以上で、100%(終日運転)の日が多くなるが、外気温が10°C以上では80~0%までばらつきが大きくなる。
一方、冷房運転時は、全体として外気温が高くなるほど稼働率は大きくなる傾向を見せるものの、ほとんどが50%以下となっている。これは、外気温が下がる夜間の運転停止を含めて、猛暑であった2010年の日中でも運転の発停が頻繁に起こる日が多かったことを示している。
3.2 冬期6日間の各部温度変動および熱量の変動
図3.3に、2009年1月の6日間の地中温度、1次側循環水(熱源水)の往き還り温度および流量の変動を示す。いずれの値も時間平均値である。熱源水流量は、26.5~270/mihでほぼ一定であり、Uチューブ1本当たり約99/min(流速0.3m/s)のブラインが流れていることになる。また、熱源水温度はほぼ1日周期の上下変動を繰り返しているが、これは外気温の影響が大きいと思わ型る。GSHPの蒸発器からの冷放熱を受けた-4~0°Cの熱源水は地中に入り、それより1~3°C高い温度でGSHPに戻ってくる。このときの地中温度は、地中2mでは11°C、地中10mでは13°Cであった。
図3.4は、2次側循環水(温水)の往き還り温度と流量および外気温の変動を示したものである。温水は、各室内に設置してある10台のパネルに51°Cで供給され、各部屋を暖房して43~46°Cで還ってきている。また、流量の方も10~189/mmと変動している。この流量と還り温度は、外気温が高くなると流量が小さく還り温度も高くなっており、明らかに外気温の影響を受けている。このときの室温および暖房パネル表面温度は、図3.5のとおりである。室温は22~26°Cとやや高めで安定しているが、外気温の影響で室温が高くなると温水流量が制御され、パネル表面温度が42°C前後から22°C前後まで急降下していることが見て取れる。
図3.6は、循環水往き還りの温度差と流量からそれぞれのエネルギー量(1次側は地中採熱量、2次側は暖房量)を計算し、電力消費量(GSHP圧縮機と循環ポンプの合計値)の測定値と併せて示したものである。暖房量は、外気温が低いときに最大で8000W以上と大きくなり、外気温が高くなると3700Wまで小さくなる。また、それに合わせて、地中採熱量と電力消費量も上下に変動している。成績係数は約2.6と見積もれる。
3.2 2年間の長期実測結果
図3.7,図3.8に、それぞれ、1次側、2次側の循環水温度と各室室温、および循環水流量の2年間の変動を示す。いずれも日平均値であり、循環水温度は往き還り温度の平均値である。冬期の1次側熱源水は、2009年は、0°C前後、26l/minで推移しているが、2010年は流量の変動が温度に影響を与えて、温度が0°C前後から8°Cまで変化している。一方、2次側温水は、2009年は、47°C、15l/min前後であるが、2010年は1月からほとんどの日が、50°C以上と高くなり、流量も5~15l/minと変化が大きくなっている。温水温度が高いのは、この住宅が見学客用のモデル住宅だからであろう。室温はいずれの年も23~24°Cで、どの部屋も十分暖かい。
夏は、5月頃から1次側の温度が20~25°Cと高くなり、2次側の温度が10~15°Cと低くなる冷房モードとなる。これが10月頃まで続く。しかし、この期間を通じて2次側の循環水流量の働きは大変小さいものであったことが見て取れる。それにもかかわらず、各室温は22~26°Cと冷房されている温度を示しているが、これは、居間以外の各部屋に設置されている通常のエアコンにより、この住宅の冷房負荷が十分まかなわれていたためであろう。
図3.9は、暖冷房量、地中採放熱量、電力消費量と成績係数の2年間の変動をそれぞれ月積算値および月平均値で示したものである。暖房期間は、いずれの年も、11月頃から4月頃までで、11月と4月は端境期となる。暖房量は、外気温の影響を受けて、1月が最大となる凸型の変化を示しており、地中採熱量と電力消費量もそれに追随している。2009年1月でみれば、暖房量は5220kWh、地中採熱量は3040kWh、電力消費量は2070kWhであり、エネルギー保存則もほぼ成立していることが分かる。暖房期は50/min以下で、このGSHPの冷房としてのシステム成績係数(電力消費量には循環ポンプの分も含んでいる)は、2009年は1月(2.5)から4月(2.9)にかけて上昇している。これは妥当である。しかし、2010年は、逆に12月から4月にかけて下降する傾向を示した。しかも成績係数は2.3以下と小さいものであった。これは、2年目ということで地中土壌の熱的能力の劣化も考えられたが、それよりも2次側温水温度が高いことにその原因があるのではないか。
3.4 暖房期における2次側温水温度および1次側熱源水温度と成績係数の関係
前項の考察から、2年間の暖房期間における日平均値を用いて、温水温度および熱源水温度と成績係数の関係を調べてみた。それを、それぞれ、図3.10,図3.11に示す。いずれもばらつきが大きいが、成績係数は、2次側の温水温度が高くなると小さくなる傾向があると言ってよいであろう。これは、過度の暖房は効率を落とすということを示唆している。1次側の熱源水温度の方は、-2.5~10°Cの範囲に2~3の成績係数が集中しており、両者に顕著な関係を見出すのは困難であった。
4 シミュレーションによるGSHPの効果分析
シミュレーションは、実測では分析できない検討項目を計算によって推定しようとするものである。表4.1に、分析の対象としたGSHPの因子と水準を示す。標準タイプを実測対象条件とし、因子と水準を一つずつ変化させたシミュレーションを行った。
図4.1に、ボアホールの長さを変化させたときの成績係数を示す。ボアホールが長くなるほど、ボアホールと地中土壌との伝熱面積が増え、成績係数は上昇する。しかし、その上昇の程度は、長さが長くなるほど減少し、長さが4倍になっても成績係数の伸びは1.4倍に留まっている。なお、図中のシステム成績係数とは、GSHP本体以外(循環水ポンプなど)に必要となる電力消費量も含めた値である。図4.2は、2次側温水温度を変化させたときの結果である。温水温度が高くなるほど成績係数は小さくなり、過度の暖房は効率を下げるという事が明らかになった。温水による輻射暖房を考える場合は、2次側温度を抑える事が望ましいと言える。
4. 結論
3年間にわたるGSHPのデータの調査をした結果、冬季における成績係数の熱的性能について重要な見解を得ることができた。それは、2次側温水温度と成績係数には密接な関係があるということである。1側熱源水と成績係数にも同様な結果が見られると期待したが、顕著な関係は見出すことはできなかった。
また、日本ではGSHPの需要が少なく未だに高価なシステムである。しかし、コストだけで考えるのではなく環境性や快適性など多角的に見ることが大切だと考える。
あとがき
本実測を行うに当たっては、石川先生や石川研究室の皆さん、スモリエ業(株)、森永エンジニアリング(株)東北営業所、サンポット(株)、東北電力(株)お客様提案部の各位より多大なご支援とご協力を頂いた。ここに記して深甚なる謝意を表する次第です。
参考文献
1)石川善美:仙台市の住宅に設置された地中熱ヒートポンプシステムの性能評価に関する実測、日本建築学会大会、2009年8月
2)石川善美:同その2、日本建築学会大会、2010年9月
3)石川善美:仙台地域における住宅用地中熱ヒートポンプシステムの適用可能性に関する実測、空気調和・衛生工学会大会、2010年9月
4)鎌田祐次、石川善美:仙台市の住宅に設置された地中熱ヒートポンプシステムの性能評価に関する実測その3、日本建築学会大会、2011年8月
5)北海道大学地中熱利用システムエ学講座:地中熱ヒートポンプシステム、オーム社、2007年.
本研究では旧仙台領域における建築生産組織と建築細部意匠について考察を進めてきた。建築生産組織の考察では、民営の建築生産組織に着目した。民営の建築生産組織は、諸職人棟梁によっておおよそ代官所在地ごとに職制を管理されていた。この民営の職人が管理されていた地域を諸職人棟梁支配域という。諸職人棟梁支配域の職人から建築に関わる職人(建築工匠)を抽出し、今回収集できた6つの諸職人棟梁支配域で比較したところ、各支配域によって建築工匠の職種や員数に違いを確認することができた。また、この建築工匠の活動領域は、その支配域内だけでなく、支配域外でも造営や修繕など建築生産活動をしており、造営活動において建築工匠の交流が確認できた。
建築細部意匠においては、造営史料が残されていることが多い社寺建築に着目した。社寺建築における建築工匠の技術を判定する指標として先行研究でも多く用いられている細部意匠(古建築に用いられる装飾的部材)について旧仙台領域内の傾向や統計を求めることで分析を行った。その結果、旧仙台領域内では、蟇股の脚先において脚先凸曲線蟇股のものが一般的に用いられていることが分かった。また、お抱え大工が用いる蟇股の脚先形状を確認したところ、脚先凸曲線蟇股や脚先S字曲線蟇股を用いていた。
これらの分析結果を基に、建築生産組織と建築細部意匠の関係から建築細部意匠を特徴付ける要因の中に地域性や、藩に抱えられている大工と民間の大工の違い、所属地域(諸職人棟梁支配域)による違いなど何らかの関係性がないかを考察した。この考察に伴い、建築工匠の居住区や所属などが判明する宮城陸方・浜方に属する多賀城市域の4棟の社寺建築に着目した。この4棟は仙台城下の大工が手掛けたものが2棟、宮城陸方・浜方の大工が手掛けたものが2棟である。仙台城下の大工が手掛けた蟇股の脚先形状は脚先凸曲線蟇股も用いているが、お抱え大工が江戸初期から中期に用いていた脚先S字曲線蟇股の意匠も江戸中期から後期において用いていた。 宮城陸方・浜方の大工はこの脚先S字曲線蟇股の意匠を用いておらず、脚先凸曲線蟇股のみであった。今回の分析では、脚先S字曲線蟇股の意匠は旧仙台領域内の民営社寺建築ではあまり用いられていない蟇股の脚先形状であった。この結果により、脚先S字曲線蟇股はお抱え大工が用いていた意匠の一つであるが、町方・村方の大工の中でも仙台城下の大工はこの脚先S字曲線蟇股の影響を受けてと考えられる。
つまり、同じ町方・村方の大工の中でも、仙台城下の大工と宮城陸方・浜方の大工では用いる蟇股脚先の意匠に違いがあり、所属地域によって、お抱え大工の意匠への影響の受け方に違いが見られることが、限られた範囲ではあるが確認することができた。