日本における視覚障害者の数は全国で31.2万人である(厚生労働省2016年の推計)が、潜在的な人数はそれを遥かに超えており、その90%以上が中途視覚障害者である。視覚障害者が情報を取り入れるための重要な手段として点字があるが、中途視覚障害者が点字を独習するための教材は非常に少ないのが現状である。今回の研究ではデザインを通じてこの問題を解決するためのアイテムとして、中途視覚障害者の点字の独習を補助するための辞書を作ることを考えた。プロセスとしては、調査、設計、実験、再設計の方法によって、製品を検討及び改善した(図2、図4、図5)。辞書を設計する過程で、視覚障害者が触知しやすい図形の一般的特徴について実験を通して考察した。成果をまとめると次のようになる。
デザイン面の成果
本研究では中途視覚障害者の点字独習を支援するための「点字-墨字」および「墨字−点字」辞書を作った(図6、図7)。このような特殊な用途の辞書には前例がなく、主に触知しやすさの観点から客観的な知見を実験によって集めることで、目的にかなったデザインを実現することができた。具体的には以下の項目がデザイン面での成果といえる。
・墨字は立体コピーで線状の隆起で表現する。
・点字の並べ順は、点の数に基づき定め、同一点数の文字は、点の位置を基準に並べる(図3)。
・目的のページを見つけやすくするために、ページタブをつける。
理論面の成果
辞書をデザインする過程での墨字のスペックの検討を通して、中途視覚障害者にとって触知しやすい文字の形の特徴も考えた。本研究の実験によって、交点より頂点のある文字の方が触知しやすいということがわかった(図1)。それに加え交頂点がない文字も触知しやすいことがわかった。
交点で交わる線を延長すれば、交点の存在が認識しやすくなって、触読しやすくなる。また、交点のない文字は画間の空間を少し広げれば、触読しやすくなる。
この結論は今後視覚障害者のための図形設計に応用できると考える。
図1. 交頂点
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図2. 「点字-墨字辞書」試作
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図3. 「点字-墨字辞書」の点字を並べる順番
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図4. 文字改善の実験結果
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図5. 改善文字の例(グレー部が改善した部分)
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図6. 点字-墨字辞書
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図7. 墨字-点字辞書 |
実世界をベースとしたWebサイトの提案 ―書籍の購入を事例として―
1. 研究の背景と目的
実世界における行為は、知識やその知識を活用する能力、つまりユーザーの経験が影響している。オンラインショッピングなどのWebサイトにおいても、実世界の経験をベースに行動していると考えられる。そのため本研究は、Webサイト上でユーザーの経験を自然なかたちで活かすことのできるデザインを実装するため、実世界をベースとしたWebサイトの指針を決定することが目的である。
2. 研究の方法
本研究は、以下のステップで行った。
I. 実世界とWebサイトにおける行為を比較
II.比較実験を踏まえた行為の振り返り
III、比較実験と行為の振り返りから抽出した要素をもとに、デザインしたモデルの検証
3. 比較実験
実世界の書店におけるユーザーの行為とその書店のWebサイトにおけるユーザーの行為の比較実験を行った。(図1)
3.1 結果
実世界とWebサイトにおける共通する部分として、本を選ぶ際に内容や価格などを確認する。異なる部分として、本の探索の仕方や購入する際の手続きによる躊躇などがあった。
3.2 比較実験を踏まえた行為の振り返り
実:実世界の書店、W:Webサイトの書店
3.2.1 探索の特性
実:検索を行う際、経験や知識の影響が大きい
店員に聞くことも可能だが、聞く内容が暖昧なほど聞きづらい。自分で本を探す場合、本がどのジャンルに属し、どの棚にあるのかなどの情報処理が行われる。この情報処理は個人差が出やすく、個人の経験や知識が影響してくる。W:検索を行う際、経験や知識の影響が小さいいくつかのキーワードをあげ、関連しそうなジャンルに辿り着く。Webサイトでは、ジャンルが思い浮かばす、キーワードの段階でも検索でき、検索機能を使い探索することができる。
そのためWeb書店のアマゾンでは、キーワードや著者などを入力する「サーチ検索」ジャンルから探す「ブラウズ」がある。ブラウズ機能は関連性のあるジャンルでも分類している。
しかし、トップページ上の発見や出会いに繋がる情報を一覧することができない(→提案1)
3.2.2 選択の特性
実:本を手に取り吟味する
本を主観的(興味や好みなど)に判断している
W:本を手に取って見ることが出来ない
Webサイトでは、実物を手にとって見ることができない。そのため、ユーザーに選択の手助けとなる情報が必要となる。
そのためWeb書店のアマゾンでは、内容、目次、表紙の画像などの情報を提示しているが、レイアウトなどの好みが影響してくる情報の提示はされていない。(→提案2)
実:本のポイントを覚え比較する
店内で比較(他ジャンル)と同じ棚で比較
(同ジャンル)があり、他ジャンルの比較は記憶に頼るしかなく、同ジャンルの比較は何回も見直すことで選択の決定を行っている。
W:「覚える」「メモする」「プリントする」
「別ウィンドウで表示」「一覧表」で比較する「プリント」「別ウィンドウ」は情報が詳細なため比較がしやすい。「一覧表」で他ジャンル同士の本を一覧表に入れておく場合は、思い出すためのきっかけになればよいため、最低限の情報でよい。しかし、同ジャンルで比較する場合は、きっかけではなく判断材料となる情報の比較が必要となる。(→提案3)
3.2.3 移動の特性
実:動線を描きながら活動する(図2)
我々は動線の中で常に情報取得し、瞬時に有効な情報に処理している。その結果、レジに辿り着くまでに他の本に興味を持ち、買う本が増えたり、買う本が変わるということが起こる。
W:点と点を飛び回るように行き来する
Web書店ではトップページから会計のページまで点と点の遷移となる。我々はその点と点のみの情報取得になり、実世界のような遷移間の情報取得は存在しない。
そのためWeb書店のアマゾンでは、商品を選び、購入手続きのページまで「おすすめ商品.この本を買った人がその他に買った本」などの情報提示を行っている。
3.2.4 購入の特性
実:次の状態や結果の予想ができる
日常的に経験しているため、手順を踏んでいる感覚はない。
W:次の状態や結果がわからない
Web上では物理的なものを扱えないため、すべてが情報のやり取りのみで行われる。そのため、手続きを踏ませるような表現になっているが、その手続きの点と点の遷移間に情報が無いため、ユーザーが次の行為に移れないという問題が起こってくる。
そのためWeb書店のアマゾンでは、次の状態や結果を伝えるガイドを提示している。
4.検証実験
比較実験から、アマゾンに不足していると思われる要素のデザイン提案を行い、検証した。
4.1 結果
提案1「トップページの案内図」(図3)、提案2「見開きページの画像」(図4)、提案3「購入検討リスト」(図5)のうち提案2.3の二つは有効性を得ることができた。
提案1:注目されなかった
→実験後に提案1の説明をしたが、被験者からは有効性を検証できるような解答はなかった。
提案2:購入する本を選ぶ要素となっていた
真っ先に「見開きページの画像」を見る被験者や最後に確認として見る被験者がいた。
提案3:始めは使われなかったが、説明後は比較に役立っていた
被験者1人目は、購入検討リストを使う前と後では選んだ本に変化があった。
→はじめは値段で判断してしていたが、内容を見比べられることで、今「興味あること」に当てはめながら判断することができたためだと考えられる。
被験者2人目は、購入検討リストを使うことでより確信を持ち同じ本を選んでいた。
→ランキングや評価を比較できることで、本の差がより明確になったためだと考えられる。
5.結論
我々は実世界において、さまざまな情報を無意識のうちに取得している。その「無意識の情報取得」をすることに対してWebサイト上で適切にデザインされていないことが、現在のWebサイト上で起こっている問題(欲しいものが探せない、実際に買うまでには至らないなど)の原因になっていると考える。
我々が意識的に取得している情報だけをデザインするのではなく、「無意識に行う情報取得」を補うともに、情報を有効に利用できるようなデザインをしなくてはならないと考える。
1.研究の背景と目的
ここ十数年の間に、日本各地の雑木林が次々に削られ、姿を消している。私の実家付近にある雑木林も徐々に小さくなり、幼い頃の遊び場として思い出深い環境はもうそこにはない。
本研究は、『雑木林と人との新たな関係』を提案するための基礎研究である。まず、これまでの雑木林の役割と思われる内容をまとめ、今回は、その役割の中から一点にしぼって、既存の研究資料から集められたデータと照らし合わせ、定量的な観点から吟味する。そこでこれからの雑木林の存在意義を述べることができれば、それが雑木林を守る活動の武器になりうると私は考える。それに加えて、足りないデータが何かを明らかにする。
2 研究の方法
文献調査。多くの単行本,パンフレット,ウェブサイトのような二次資料とそれらの基になった論文を参考にまとめる。
3. これまでの雑木林の役割と思われる内容
3.1 暮らしのための生産の場
なぜ雑木林は姿を消しているのか。なぜ昔は雑木林がたくさんあったのか。その理由として、かつての雑木林は暮らしのための生産の場として使われていたが、今はそうではなくなったということが考えられる。
戦前、人々は雑木林に生える樹木などを上手に活用し、生活をより良いものにしていた。幹や枝崎・炭・柴として燃料に、或は蔓と一緒に柴垣・建材・生活道具・農具の材料にした。
毎年秋に出る大量の落ち葉は腐葉土・堆肥など有機肥料として、下草は牛,馬などの飼料としてそれぞれ活用されていたし、きのこ、山野草、兎、猪などの小動物、イワナなどの川魚は大切な食料であった。このように生産とうまく結びついていた雑木林では、間伐・枝打ちが頻繁に行われ、明るく安全な美しい雑木林が出来上がった。林内に日がよく当たるため、生物多様性は今よりも格段に豊かだったはずである。
3.2 戦後の工業化による雑木林の減少
ところが、戦後の高度経済成長期に工業化が進み、薪・炭などの燃料は安くて便利な化石燃料(石油・ガスなど)や電気に取って代わられた。また、プラスチックの登場で多くの生活道具は工業製品として大量生産されていった。
3.3 雑木林の役割を見直すきっかけと思われる動き
そんな中、国有林は林野庁の独立採算制、民
有林,共用林は現金収入の大半を占めた薪炭が衰退したことによって、収入源としてもっと期待の持てるスギ・ヒノキの人工林へと転換されていった。しかし、外国からの安価な輸入材におされ、国産材の売れ行きはあまりよくない。収入のなくなった人工林の中には間伐・枝打ちをする費用がなく放置されるものも多く、日当たりの悪い林内には下草がほとんど生えなくなった。その結果、風倒木の増加、沢水の減少、川下の洪水増加などの問題が多発するようになったが、これらの問題が明るみに出てからは森林の環境面の役割が次々に明らかになった。『森は海の恋人』という有名なキャッチフレーズは森林から出る水が海産物収穫量を増やすということをうたっている。『山は緑のダム』という言葉には、保水力のある山はダムの代わりになってくれることが表されている。しかもダムのようなメンテナンスが必要ないため、その分の公共事業費を山の管理に投資できるという点で都合が良い。その他にも、植物の光合成(cO室の吸収)によって地球温暖化を,蒸発散作用によってヒートアイランド現象を、また、自然災害(土砂災害,火災,水害,風害,雪害,騒音など)も軽減防止するという。もっとも、これらの役割は我々人間が重要視しなかっただけで昔からあったものである。
これらの環境面の役割が明らかになると同時に、最近、ようやく雑木林の役割を見直すきっかけと言えそうな動きが見られはじめてきた。より質の高いものを求めた、本学科第三生産技術研究室やHOCCOなどによる高付加価値を持ったクラフトの技術。茶室や数寄屋にも高級な建材として雑木が使われている。
4. 雑木林の役割を裏付けるデータ
前述のように、雑木林にはさまざまな役割があるが、今回はその中から「水の循環から見た雑木林の役割」について、定量的なデータと照らし合わせて説明したい。
4.1 水の循環から見た雑木林の役割について
・浸透能と保水力:
定義の違いを明確にする必要がある。一般に言われている「広葉樹のほうが保水力がある」について、それがわかる定量的なデータは残念ながら見つからなかった。(図1.2)
また、保水力のある森林は降水をゆっくり均一に流すことによって洪水・渇水を防いでいるが、雑木林のデータはなく、針葉樹と広葉樹の混交林の場合、林齢が大きくなるほど年最小日流出量は増加する。(図3)
・森林が水質に与える影響:
森林に降った雨は植物体から養分が溶出する時,植物に養分を吸収される時,土壌の負に帯電した粒子にイオン交換される時に水質を変化させる b)。この負に帯電した粒子は腐植内に多いため b)、落葉の量が多い雑木林は水質を変化させる力も大きいと思われる。また、物質のほとんどは土壌と植物体内に貯蓄され、栄養分の少ない状態で川に流出することになるが、その物質量は有機物の分解速度が速いところほど多くなるという b)。つまり針葉樹林は広葉樹林に比べ、流出する物質量は少なくなると考えられる。
5. これからの雑木林の存在意義
以上の吟味から今後の雑木林の存在意義は
1 豊かな種が生み出す再生産可能な資源としての役割
2 居心地の良い自然空間としての役割
3 複合的な学習が可能な場としての役割
4 水,空気,熱,音,光などを制御する役割
が考えられ、これらを二重、三重に活かすことが雑木林を保全することにつながると思われる
参考・引用文献
a) (社 日本林業技術協会『森と水のサイエンス』1997.6.3 東京書籍
b) 只木良也・吉良竜夫『ヒトと森林』2000.3.10 共立出版
c) 只木良也『森と人間の文化史』1997.8.30 日本放送出版協会ほか
1.背景と目的
産業革命以降、技術進歩による大量生産大量消費社会が到来した。そあ結果、安全性・利便性を兼ね備えた豊かな暮しになったが、一方で自然環境は悪化し、各国で環境保護の政策が求められるようになった。ビオトープ(Biotop)は生物多様性の保護のためにドイツから始まった理念である。「bio:生物 topos:場所」を語源とする造語であり”生物の生息生育する場所”,という意味である。現在のドイツでは”自然環境保護の観点から保護しなければいけない地域”,と位置付けられ、環境保護対策の手段とされている。日本でも最近になり注目され、すでにいくつかの事例もある。しかし、日本のビオトープはドイツのビオトープと比較すると箱庭的で規模の小さなものであるという印象を受ける。従って本研究の目的を以下にする。1:ドイツと日本のビオトープの違い 2:ドイツ並みのピオトープが日本にあるかないかを明らかにしつつさらに 3:今後の日本のビオトープのあり方について提言したい。
2.方法と内容
2.1.文献調査によりドイツと日本のビオトープの違いと問題点を以下の点から明らかにする
・違いの生じたきっかけ、ドイツのピオトープの指標
・ドイツと日本の事例収集
・収集した事例におけるピオトープの指標の比較によるドイツ並みの日本のビオトープについての検討
2.2.ドイツでは農村整備事業に自然環境保護を取り入れることが法的に求められる。そこで実地調査による農山村地域における一農家の環境の実態を以下の点から明らかにする
・自然環境の現況調査、歴史的経緯とその背景
・維持管理について(実測、資料文献、聞き取り調査を含む)
2.3.以上の点から日本の今後のビオトープのあり方に
ついて提言する
3.ビオトープの発展経緯(図1)
ビオトープの始まりは1976年のドイツ「連邦自然保護法」である。その後、日本に伝わったのは1980年代中頃で河川工学者が中心となって研究していた近自然河川工法と一緒にピオトープが広まっていったと思われる。1980年代はドイツでもビオトープは研究段階であった。1992年の「地球環境サミット」により、生物多様性の問題が行政が取り組むべき問題として世界的に取り上げられるようになり、急速にその必要性が問われるようになった。日本でもビオトープなるものが近自然河川工法を用いた効果の見やすい形で各地につくられるようになった。他方、ドイツをはじめヨーロッパでは1992年「ヨーロッパエコロジカルネットワーク」が計画され、ドイツでは農村整備事業に自然環境保護を取り入れることが法的にも求められるようになった。日本では近自然工法を中心に、ドイツではネットワークの計画を中心にして広まっていったことが日本とドイツのビオトープの違いを生んだ要因と思われる。
4.ビオトープの指標
ドイツと日本のピオトープを具体的に比較するため、ドイツを基本としたピオトープの指標表(表1)を作った。事例においてピオトープの形態、ネットワークの形成、ピオトープの目標・目的を調査し、まとめるが特にビオトープの目標・目的が比較対象となる。ビオトープの目標については表1の青線囲い、横軸のビオトープの保護・保全・復元…、ビオトープの目的は縦軸の種の多様性、地下水と表面水の保護等の項目が入る。横軸に多く印がつけば広範囲のビオトープを対象にしていることがわかる。縦軸に多く印がつけば目的が充実したピオトープと評価できる。日本ではまだ、整備体制が整っていないこともあるのでドイツのような規模の大きなものを計画することは難しい。よって、ここでは、縦軸の充実度がドイツ並みのビオトープの目安とする。次にこの表をもとに事例について検討してみたい。
5.事例調査
日本でピオトープとして捉えられている屋上ビオトープ・企業地内ピオトープ・学校ビオトープ・公園ビオトープ・河川ビオトープ・里山ピオトープ・自然再生事業、それぞれ1~2例の事例調査を行い、ピオトープ指標表で評価した。(例:表2,3,4)
屋上ビオトープ・企業地内ピオトープ・学校ビオトープ等は規模が小さく、ネットワーク化はほとんど考えられていない。環境学習や自然に親しむ場としての意識のほうが強いようである。河川ビオトープ・里山ビオトープについてはネットワーク化も考慮されている。里山ピオトープについては指標表のピオトープの目的が充実していた。釧路湿原自然再生事業については国が関わっている事業であるということから、一番規模が大きく目的も充実していた。ドイツ並みのビオトープに一番近いものであるといえる。事例のビオトープの指標を比較した結果、日本のピオトープの問題点はビオトープは創るものであるという意識が強く、自然保護・保全、ネットワーク化の意識が薄いことではないかと思われる。日本の事例の特徴として以下のものが挙げられる。表1の下から二つの表を参照願いたい。
・ピオトープネットワークの形成は地点地域範囲が多い(▲)
・自然環境の代償、復元の目標が多い(■)
・地下水と表面水の保護は意識されているが土壌肥沃性の維持に関しては少ない(●)
・伝統的技術で利活用するという項目が少ない(○)
・ピオトープの目的が自然に親しむ場、環境学習の場としての意識が強い(◎)
6.農山村地域における一農家についての実地調査結果
実地調査を行い、目的の「2:ドイツ並みの日本のピオトープについて」「3:日本のビオトープの今後のあり方」について考察する。
6.1.調査地紹介
調査地は宮城県山元町坂元地区の農家「佐藤家」である。山元町は宮城県南部に位置する平地農村で、1998年の山元町総合計画との絡みで平成11年度から農林水産省の田園空間博物館事業(以下:田空)に取り組んでいる。山元町の田空は『地域住民が主体的に地域資源を発掘し、活用する活動を展開する』(引用:集落づくり博覧会要旨集)というもので自然環境もこの地域資源に入っていることから自然環境保護の新たな展開とも言える。佐藤家は田空の一つ「田んぽの楽校」の会場ともなっていたことから調査地に決定した。
6.2.佐藤家の環境の現況
佐藤家の環境は代々受け継がれてきた田んぽと畑、字日向の全域を占める里山が含まれている。
現在の環境について、植物や水系についてそのありかと配置を調査し、自然資源配置図。断面図としてまとめたものが図3である。植物種は山菜や.果樹を中心に確認できたもので約27種ある。宅地裏の井戸水は元禄時代からある、貴重な水源である(写真1)。また、動物調査は山元町田空事業の「溜池の楽校」に参加し、田の虫調査を夏と秋の2度行った。図2に示すように田んぽの中での益虫・害虫・ただの虫のバランスのとれた関係を見ることができる。聞き取り調査でもタガメやホトケドウジョウなどの絶滅危倶種(環境省分類)も生息していることが確認できた。
6.3.歴史的経緯とその背景
佐藤家の環境は時代とともにそのつど変化してきた。佐藤家のここでの定住は元禄時代といわれている。明治以前から昭和初めまでは桑畑と田んぽが中心であった(図4)。大正に入り、潅概用水を確保するために溜池を築造。昭和30年代は繭価の低下により、桑畑から里芋畑に転作する。昭和34年には労働時間軽減のために畑の一部は梅。ミョウガにし、残りは広葉樹・果樹を植える(図5)。この時、この場所は将来的には庭にしようと考えていた。昭和43年には生産性向上のために田んぽと用水路の区画整備として土地改良区事業が行われる。昭和初めまでに見られた等高線に沿った様々な形態の田んぽは直線を主体とした形状になった。それに伴い佐藤家では野菜栽培を止め、稲作専門になる(図6)。その後、世代交代などにより山菜畑を広げ、現在の状態にいたっている(図3)。減反政策のために大正時代に築造された溜め池のほとんどは使用されなくなる。この他に井戸水は古くから現在まで生活用水・田んぽの用水として使用されている。
このように佐藤家の環境は暮しを豊かにする生産向上の努力とともに国の農業政策が大きく関わってきたとみることができよう。
6.4.維持管理について
現在、佐藤家の環境は自然の力を暮しの資源として利用しつつある。そのほとんどは利用状況が変わっただけで昔からある環境を生かしたものにほかならない。普段の維持管理によって現在の状態が保たれているのである。
佐藤家では高齢化・担い手不足により、安定した環境の維持管理が難しくなっている。維持管理がなくなればその環境は崩壊する。その打開策は昨年の山元町田空事業「山の楽校」による山の管理について学び、伝承するという形での地域の人たちの参加にもありそうだ(写真2)。こうした試みと佐藤家の関わりは今後の課題となろう。
6.5.ビオトープ指標表による佐藤家の環境評価
他のビオトープの事例と同様にピオトープ指標表で佐藤家の環境を評価した結果、表5に見るように縦軸のビオトープの目的を充分に満たしているものとなった。ただし、あくまで暮しや生産活動の結果として構成されている環境であるため、横軸のビオトープの目標の欄にはあてはまるものがなかった。日本ではドイツのように人間が手を加えていない自然は少なく、ほとんどが人間が手を加えた二次的自然である。しかし、農山村のような二次的自然では多様な生物種が生息する豊かな生態系が育まれてきた。それがピオトープの指標表では縦軸の項目の充実度で読みとれる。
7.まとめと提案
ピオトープ指標表(表1)でピオトープの目的(青線囲いの縦軸)の充実度を中心に評価した結果、文献による事例調査では里山、農村ピオトープの事例で目的項目を多く満たした。また、ビオトープ指標表による佐藤家の自然環境評価でも目的項目が多く満たされていたことがわかった。この点から“農村の自然環境”がドイツ並みのピオトープのキーワードになると思われる。農村の自然環境は古くから日本の風景としても親しまれている。実地調査でも古くからの自然環境を生かし、保全していくことで豊かな自然環境を形成している事がわかり、ビオトープとしての価値をもっていると思われる。しかし、暮しの中の結果として保全されてきた環境であることからピオトープとして改めると人の手による維持管理作業が大変で維持していくことが難しくなっている。
現在、日本にはエコミュージアムや田空、里地里山保全活動等の地域活動がある。地域振興を目的に地域の持続可能な姿を目指しているものである。ここでは、地域資源として文化や暮し、自然環境の保存活動を行っている。このような活動の中で、地域のビオトープの発掘、そしてそれをピオトープネットワークとして形成していくような展開が今後の日本のピオトープのあり方に加わってくるのではないだろうか。
参考文献
日本生態系協会:ピオトープネットワーク,ぎようせい,1994
日本生態系協会:ピオトープネットワークII,ぎようせい,1995
松山恵一・重松敏則:ピオトープの管理・活用,朝倉書店,2002
山脇正俊:近自然エ学,信山社サイテツク,2000
BioCity nol3,1998
山元町総合計画,山元町企画調整課,1998
平成15年度山元亘理田園空間博物館集落(むら)づくり博覧会要旨集,山元町産業経済課土地改良区係,2004
1. 背景と目的
高齢化の進む今日において、孤独で社会とのつながりの弱い高齢者も多くなってきている。セキュリティーの問題などから近所同士のコミュニケーションの希薄化が進み、住民それぞれが孤立しているのが大きな問題となっている。したがって.他人とのコミュニケーションを円滑にできるようにするための取り組みが必要だと考えられる。
本研究で対象とする”コミュニティーの活動”は曖昧で捉えることが難しい。したがって、適切な道具をデザインするためにコミュニティーの活動を的確に捉え、ユ一ザーの要求を抽出し、デザインヘ反映させられるような新しいデザインプロセスの開発が必要である。
本研究では、実際のコミュニティーの活動を捉え、ユーザーの要求を道具(活動を支援する)のデザインへ反映できるデザインプロセスの開発、また、共有、蓄積でき、他の開発でも効率的で質の高い開発が行えるデザインパターンづくりを目的とする。
2. 研究方法
2.1. Co-Design
Co-Designとはユーザー(地域)と共にデザイン活動を行うことで、ユーザーの能力(経験)や真の要求を知り、それを基にモノをつくる、というデザイン手法である。
2.2. 活動のパターンをベースとしたデザインプロセスの開発
ビジネスの場面で行われている作業や仕事から開発要求を抽出し、実際のデザインへ反映させる、という開発プロセスがソフトウェア工学の分野では一般的に知られている。
ソフトウェア工学の分野では一般的に知られている手法を参考にデザインプロセスの開発を行った。
2.3. 記述方法の開発
コミュニティーの活動を捉え、ユーザーの真の要求を抽出するために活動の記述方法を調査し、活動の記述方法を開発する。
2.4. 活動の調査、分析
仙台市青葉区滝道町内会を対象に、町内会というコミュニティーの活動と家族というコミュニティーの活動を調査・分析した。
2.5. 活動のパターンをベースとしたデザイン手法の有効性の確認
活動のパターンをベースとしたデザインプロセスの有効性を確認するために検証を行い、活動のパターンをベースとしたデザインプロセスの有効性を確認する。
2.6. 異なる活動の比較
異なる活動でも共通する活動が存在することを確認するため、家族というコミュニティーでの活動の分析から得られた活動のパターンと、町内会というコミュニティーの活動分析から得られた活動パターンの比較を行う。
3. 開発したデザイン手法
3.1. Activity pattern-Based Designのプロセス
Activity pattern-Based Design(以下APBD)のデザインプロセスは以下の4段階のプロセスで行う(図3-1)。
①現状の活動を観察記述し把握する(As Is Realityを記述)
・実際に行われている活動を把握するため、APBDの記述方法を用い、活動全体を抜け漏れなく記述する。
②現状の活動のモデル化(活動の抽象化)
・最初に記述した現状の活動をモデル化することで、活動の要素を抽出しやすくする。
・モデリングをすることで、他の開発で利用するときに適用しやすくなる。
・現状の活動をモデル化するときに、”あるべき姿のモデルをデザインする”ことを頭において活動を分祈することが重要である(図3-1「導出」)。
③活動のモデルをあるべき姿のモデルへと変換する
・モデル化した活動のパターンをあるべき姿のモデルヘ変換する。
ここでは2っの重要なポイントがある
1.あるべき姿のモデルは、あるべき姿のもののデザインされる目的を視点にして変換をする。
2.現状の活動で行われている活動の要素をモデルに活かす。
④具体的なデザイン(あるべき姿のモデルからあるべき姿へ具体化する)
ここではあるべき姿のモデルを実際に使われる現場にあわせデザインヘ落とし込む。
以下にポイントをボす。
1.As Is Modelで抽出された重要な活動の要素を実際の活動へ組み込む。
2.実際の現揚で使ってもらうためAs Is Realityで行われている活動に即した道具にする。
3.あるべき姿のモノは蓋然的に存在する要因から導き出される。
3.2. APBDの記述方法
3.2.1. 活動を捉える5つの視点と記述方法
・関係モデル:人と物の関係やその関係の中で生じる気持ちを表す(図3-2)。
・手順モデル:ユーザーが行う活動、行為の手順を表したもの。目的を明記する(図3-3参照)
・文化モデル:活動が行われている環境における人々の価値観、気持ちを表す(図3-4)。
・物理環境モデル:活動する場を表した図。物理的な環境がどのように活動に影響を与えているかを表す(図3-5)。
・人工物モデル:ユーザーが活動を行うために作成、利用するものすべて(図3-6)。
3.2.2. ユーザーの活動を記述するプロセス
活動を分祈し、デザインバ夕一ン化するまでには大きく分けて2つのプロセスがある。
①活動の調査
・活動の参加、調査、取材を行う。
②活動の記述
・活動の参加、調査、取材で得られたことを最初から最後まで手順モデルで記述する。
③手順モデルの整理
・手順モデルを構成しているそれぞれのブロックが独立した目的を持ったものが”行為”として記述されているかをチェックする。
・目的が複数ある場合は独立した目的を持った”行為”のレベルにまで分解する。
・行為よりもより単純な作業レべルで記述されている場合はその前後の行為どちらに含まれるかを見極め、行為を構成する作業として組み込む。
④活動のレベル分け
・行為の中で同じ目的を持った行為同士を下位活動レベルとして括る。その下位活動レべルを基準としてそれをさらに括る活動として上位活動、下位活動を構成するものとして行為というように活動をレべル分けすることができる。
⑤共通する活動の抽出
・下位活動、行為に注目し、共通していると思われる活動と、異なる活動を比較することで共通する活動のパターンを抽出する(図3-7)。
3.2.3. 活動のレべル
活動を捉えやすくするために活動を以下のレべルで分ける。
①上位活動
活動全体を括る上位目的、複数の下位目的に対する複数の下位活動を持ったひとつの活動である。
②下位活動
上位活動より1段階下位のレべルの活動で、明確な活動の目的(下位目的)を持ち、複数の作業から構成される活動である。
③行為(活動の要素)
独立した目的を持ち、それを遂行するための方法は複数存在する。下位活動を構成する単位で独立した目的を持つ。
④作業
具体的な結果を生み出すための仕事である。
3.2.3.1. 活動のレべルと共通性
上位活動のレべルでは関わっている人が多く、それぞれの目的も様々なため、上位活動の目的も複数存在する。しかし、下位活動、行為のレべルだと活動の目的がある程度はっきりするため、共通する部分が多く存在する。
4. 実際の活動分析から得られた活動パターン
4.1. 町内会というコミュニティーの活動分析から得られた活動パターン
町内会というコミュニティーでの活動の調査、分析から、いくつかの活動パターンが抽出された。そのうちのひとつを以下に例示する。
・情報が公開・共有される範囲によって、発信する情報内容が変わる(図4-1)。
そして、″情報に公開範囲を設ける”というデザインパターンへ変換し、デザイン仕様として町内会の活動を支援するwebサイト「たきみち生き活き広場お知らせぺージ」ヘ実装させた。
4.1.1. 検証実験
「たきみち生き活き広場お知らせぺ一ジ」を用いて、普段からお知らせ資料を作成している方3名を対象に検証を行った。
4.1.2. 検証結果と考察
検証実験からAPBDの有効性、機能に関して良い反応が得られた。
a)編集を自分たちで出来ると実感できた。自分でできるので勉強しようという意欲が湧いたようである。
b)公開範囲を2段階に設定したことに対して、好反応が得られた。
c)webサイトでの記事作成の作成方法が、回覧板での資料を作成する行為と適合している
d)webサイトでの記事にも会長や部長の審査が必要なことが好評であった。
4.2. 家族というコミュニティーの活動分析から得られた活動パターン
家族というコミュニティーの活動の調査、分析からいくつかの活動のパターンが抽出された。そのうちのひとつを以下に例示する(図4-2)。
“人がお客さんや友人と話を始めるときにはお互いに関係のある話題。興味のある話題を共有して話をし始める”
以上の活動の要素から”人がお客さんや友人と話を始めるときにはお互いに関係のある話題、興味のある話題を共有して話をし始める”という活動のパターンが抽出された。
4.3. 異なる活動の比較
家族というコミュニティーの活動の中で行われている活動の中から得られた”家族とゲストがコミュニケーションをとる”という活動と、町内会という活動の中から抽出された”「おやじの会ー男の料理教室かつおのさぱき方」での参加者同士がコミュニケーションをとる”という町内会て行われた活動と、家族というコミュニティーの中で行われた活動という異なった2つの比較を行った。
比較から”コミュニケーションを円滑にはかるときにお互いに開係している話題をきっかけにコミュニケーションをはかる”という共通する活動のパターンが抽出された(図4-3)。
5. 考察と結論
5.1. 町内会というコミュニティーに於ける活動の共通性
町内会の活動の調査、分析から11の共通する活動の要素が抽出された。
また、山本、山家の研究を分析したところ、趣味ぺージにおいても同様の活動が見られたことから、家族というコミュニティーにおいても共通する活動があるといえる。
5.2. 家族というコミュニティ一に於ける活動の共通性
家族の活動の分析、調査から3つの共通する活動のパターンが抽出された。
5.3. 異なる活動の共通性
町内会というコミュニティー、家族というコミュニティーの活動という2つの異なった活動においても共通する活動パターンが存在することが分かった。
異なる活動同士でも共通する活動があることが分かった。
5.4. APBDのデザイン手法の有効性
APBDのデザイン手法を用いてデザインをしたwebサイトを使って普段からお知らせ情報を作成している方に使用してもらい検証を行ったところ、モニターからよい反応が得られたことから、APBDのデザイン手法は有効であるといえる。
そして、異なる活動同士でも共通する活動デザインパターンへ変換可能な活動の要素が抽出されたことから、異なる活動に於いてもAPBDのデザイン手法でデザインすることでユーザーに真の要求を反映させたデザイン開発が期待できる。
「風景が美しくなければこれらの世界を相手にした市場では勝ち残れない」この言葉は2009年9月のイタリア視察旅行においてシルク産業を訪れた際の経営者の言葉である。視察に参加した私は、コモの美しい風景を背景にシルク産業が成り立っていることを確認した。ところで、近年、歴史ある建物や町並みを評価し、現代の生活の中で積極的に活用しようという動きが日本においてもできている。私の知る範囲でも、名取市の国字重要文化財指定の民家での農家レストラン、富山県五箇山の伝統的建造物群であり世界遺産にも指定されている合掌造りの農家群は、生活の場として積極的に受け継がれている。上記の2事例は、時間の蓄積のある空間が風景をつくり、産業を支えているといえる。
本論文で取り上げるのは、老朽化を理由に解体される予定だった皇室専用スキーロッジ「六華倶楽部」を移動改築し都市住宅として転用するというものである。この計画は、六華倶楽部の存在を認め、価値を評価した1人の医師の想いから始まっている。本研究は、この計画で実測調査、解体調査を行い、建物を評価し、それをもとに実施設計など一連の作業を通して関わることで進めてきた。本論文では、この過程で歴史のある空間を体験し、計画過程の記録を通して、歴史的建造物の保全、環境への配慮、高齢者社会という視点からまちの風景をよくする-つの方向性を示したい。そして、六華倶楽部を仙台に移転することが、まちの情報の質を上げ、産業の背景をつくる可能性がある試みとして位置付けたい。
六華倶楽部建築概要
建築年代:1924年12月
建築主:宗川旅館初代宗川孝五郎
設計者:福島市の大工
建築地:山形県米沢市大字板谷字五色498
規模:1階 141.118m2
2階 108.248m2
計 249.361m2(1間1818mm)
用途:皇室専用のスキーロッジ
構造:木造2階建1部石造
基礎 凝灰岩/小屋組和小屋
柱 間柱筋違の軸組構造
六華倶楽部の建築の充足条件
移転改築において、建物として残すべき条件を以下に示す。
1)スキッブフロアの空間構成。フロアごとの区切りがなく建物の空間は六華倶楽部の最大の特徴である。
2)暖炉の復元。皇室の建物だったという証として、ラウンジの暖炉に刻まれていた皇紀と西暦の数字も復元する。
3)和洋折衷の建築様式。1階は洋風、2階は和風という和風という空間。特にホール、ラウンジに関して、靴を脱ぐという形式は和式であるのに対し、インテリアは洋風であるところ。
都市住宅としての六華倶楽部
建築主:川島孝一郎
用途:店舗付き住宅→専用住宅
構造:木造2階建
都市住宅への転用事項(2002.2月現在)
1)1RC造壁式→2RC造ラーメン式→3SC造→4木構造
建築主の地下、屋根裏利用の夢から1で試案をつくったが、3階の案では竪穴区間として階段に防火シャッターを設置する規制があり、スキツブフロァが生かせないということから、2,3の段階を検討し、木造2階建という案に決まった。
2)インテリア
1暖房のみ→2+洋風のインテリア→3+和風のインテリア→4忠実に復元
報道により注目されたことに対する建築主の振れ動く気持ちの反映である。
3)エクステリア
外壁下見板は準防火区画の規制により、形状的な復元となる。
4)生活基盤として
2階部分に浴室、トイレを配置。介護部屋として、プランを変更した。また、長く住み続けることを考えエレベーターを設置することに決まった。
総括
以下に示す内容はこの計画により確認できた、魅力あるまちの風景をつくるために必要と思われる視点である。
1)建物の価値を十分評価した上で、それがまちにとって良い存在になりうるかどうかということから解体や保存を判断する視点
2)あらゆる方向から建築物の魅力を引き出す案を出し、可能性を検討する視点
現代の産業・経済社会において、急激な工業化や都市化の進展などにより引き起こされた環境破壊がわれわれの生活に深刻な影響を与え始めている。改めて、われわれは人間と地球環境との関係を問い直さればならない時点にあるといえるだろう。ところで、日本の伝統的左官技法の1つに”たたき”あるいは”三和土”と呼ばれていた技法がある。コンクリート技術が明治時代の末に導入されるまでの土木技術であり、特に明治時代には中部地方を中心に防波堤護岸・堰提などの土木構造物で大きな役割を果たしていた。種土と石灰を主な原材料として配合・固化したもので現在でも生きている遺構があるほど強固な構造物であった。この”たたき”は自然土そのものであるので、その特性は人間と環境に調和したものであり、1 現在の技術の視点から見直してみること、2 暮らしに機能できる製品化の可能性を確かめてみることを、この研究の目的としている。研究の方法は、たたき有用・有効性を確認するため、歴史的遺構の調査を行い、工業化にあたっての方向性を検討する。次に、宮城県内の土の分布調査し、たたきに用いる種土を入手する。その種土を用いて、歴史的事例における配合例を参考に固化材と配合し、ミニブロックを試作する。さまざまな配合で展開・確認されたミニブロックのなかから、たたきの工業化に適当な配合を抽出し、実機で量産試作および機能評価する。ブロック製品への工業化を背景に、その他製品展開の可能性を探る。
研究内容:
1)歴史的遺構の調査
2)宮城県内の種土の分布
3)種土と固化材の配合
4)ブロック製品の工業化プロセス
5)ブロック製品の評価
6)工業化による製品化の可能性
1)歴史的遺構の調査
調査は、特に遺構が多く見られる東海地方で、たたきの応用である”人造石工法”を発明した服部長七による構造物を中心に行った。
2)宮城県内の種土の分布
たたきの種土として、珪酸分に三む”まさ土”と呼ばれる花崗岩風化土、火山灰土壌の表土(腐植土)である黒土、石炭灰火力発電所から産業廃棄物として排出されるフライアッシュ(平均粒径8~55μの石炭灰)を使用した。まさ土は特に伊具郡を中心に仙南地域に広く分布し、黒土は奥羽山麓全体に分布している。本研究では、まさ土を柴田群川崎町、黒土を刈田群蔵王町から採取し、フライアッシュは原町火力発電所から入手した。
3)種土と同化材の配合
たたき土ブロックの配合を検討するためにあたり、ミニブロック板(100x10O×10~20mm)にて試作を行った。固化材は消石灰(工業用特号)ボルトランドセメント・マグネシアセメント(M90+M9C|2)を使用し、ソイルセメント用ポリマー塩化マグネシウム(にがり)、硫酸カリウムアルミニウム(焼き明箸)などを消石灰に対し10~20%添加した。水は配合土が湿潤状態」になる程度。試作方法は 1 計量した種土と固化材と水を配合 2 配合土を木型に入れ2tのブレスを加える 3 即脱型し1日~2日の気乾養生 4 さらに1~2日炉乾燥させる。ミニブロック板での試作を数十点展開したうえで、実機による量産試作の配合を決定した。
4)ブロック製品の工業化プロセス
量産試作では、タッビングブレス成形機を用いてたたき土平板ブロックを試作する。1 ホッパーに種土を入れる。2 計量した種土と消石灰を混合する。3 配合土を型に入れる。4 配合土をタッピングブレスする。5 収納庫へ運び、養生する。材料を型に入れてブレス、搬送するまでには10秒程度で、-時間あたり300~400枚のたたき土平板を成形することが可能である。
5)ブロック製品の評価
多面的な機能を持ったたき土平板ブロックの評価指標も1つとして弾力性試験を行った。試験は、ゴルフボールまたはスチールボール(1インチ)を1mの高さから自然落下させたときの反発高さより、GB反発係数(衝動吸収性)及びSB反発係数(弾性反発性)を求める方法をとった。これは両係数ともに値が小さいほど歩行者の足への負担が少ないことを示す。成形後14日目の評価において、GB値は黒土平板、フライアッシュ平板、まさ土平板と順に高くなることが確認できた。しかし、SB係数にはほとんど差がなかった。さらに、コンクリート平板やインターロッキングブロック、レンガなどの一般的な舗装材と比較しても両係数はたたき土平板ブロックが最も低く、歩行者にやさしい舗装材であることが確認できた。
6)工業化による製品化の可能性
たたき土は、材料配合と圧縮方法により、多様な機能展開による製品群の可能性が期待できる。フィジカルスペックとして、保水吸収性・調湿性.環境性・無白華性・耐候性・すべり抵抗性・緑化促進性・吸音性、1機能として評価した衝撃吸収性・弾性反発性などの機能があり、メンタルスペックとして、素朴な表情柔らかい感触・経年変化などが挙げられる。製品展開例として、床暖ブロック、屋上緑化ブロック、壁面ブロック、たたき土中央分離帯、たたき土の鉢、たたき土つち止め、煉瓦風たたき土ブロックなどの多様な展開が考えられる。
一般的な舗装材に比べて硬化速度が遅く、養生機関を十分に必要とすることが問題として残されている。製造工程に炭酸ガスを吸着させる工程を組み込むなどによる硬化促進の工夫が求められる。また今後、多くの機能のデータ化と使用環境や用途ごとに配合を設定し、さまざまな用途に応じた開発研究を展開していきたい。
1. 背景
「ユーザー中心」、「顧客中心」という言葉を耳にすることが多くなってきている。
日本における工業デザインの分野においては、大量生産・大量消買の時代とは異なリ、近年は、より購入する人・使用する人の立場に立ってモノづくりを行うことが求められてきている。
しかし、いざ市場に出ている製品をみてみると、人々が従来から持っていた欲求や期待の本質を理解するところには多くのコス卜をかけずに、技術先行の新機能や、新しさだけをウリにしたアイデアが先行したデザイン開発が行われてるように感じられる。
このように、人々の活動のあるー部分を対象としたデザイン開発では、それまでに人々が培ってきた経験が活かされず、実際に提供された道具の仕様が、活動に即さないことが多い。
1.1. パターンをべ一スとしたデザイン開発の可能性
認知科学の分野における人や生物の理解や学習に関わる研究、建築の分野において、1970年代にクリストファー・アレグザンダ一によって抽出された建築物の設計に立ち現れる本質的な253のパターンを例にみるように、我々人間の活動には、多くの共通的な知識や感覚があると考えられる。
このように、人々の活動の中で変わることのない共通性(=パターン)に注目し、それをベースとしてデザイン開発を行ことができれば従来よリも、元来人々が持っていた欲求や期待の本質を捉えた質の高いデザインが、効率的に行えるのではないかと期待が持てる。
本研究の先行研究においても、人々の活動の中に存在する共通性(=パターン)に注目し、よリ質の高いデザイン開発を、効率的に行うテザイン手法として、Activity Pattern-Based Design Method(以下APBD Method)を開発し、実績としても、町内会や家族のコミュニティを支援する道具のデザイン開発において、有効牲を確認している。
[APBD Methodの特徴]
i) 対象とする活動を記述し、モデル化することで、活動を客観的に捉えること。
ii) 人々の活動において、変わることない普遍的な部分を共通のパ夕一ンとして蓄積し、デザイン開発に活用すること。
2. 本研究の目的
本研究は、APBD Methodの中でも、人々の活動に即した道具をデザインする上で重要なプロセスと考えられる、①活動のモデル化と、②人々の活動にあらわれる本質的な要素をパターンとして抽出しデザイン開発に適用すること、という2点についてよリ注目し、APBD Methodといラデザイン手法がより有効なものとなるよう可能性を探った。
3. 研究方法
本研究では、APBD Methodの実践も含め、先行研究において取り組まれてきた、2つの活動を支援する道具のデザインプロジェクトを題材として、実際に道具が提供された実活動の現状と、デザインを行うにあたって取り組まれてきた複数年の経緯から、あらためて「活動に即した道具一求められる要件」について分析し、得られた結果から、「活動に即した道具のデザインに必要なデザイン手法」について仮説を立てた。
有効性の検証については、仮説をAPBD Methodのデザインステップに落とし込み、そのデザイン手法を実践することで確認を行った。
4. 仮説の抽出
APBD Methodの開発の基礎となっている先行研究においては、活動に即したデザイン手法を開発するための事例として、仙台市青棄区にある滝道町内会において、実際に行われている情報共有活動をモデル化し、それをベースとして地域における情報共有において必要な要素を、地域コミュニティを支援するウェブサイト「たきみち生き活き広場」のデザインに反映させ、実活動に提供してきた。
しかしながら、継続して使用状況を調査したところ、提供したウェブサイ卜が、必ずしも実活動に即した提案になっていない部分があることに気が付いた。
ー方、同じ学生の課題制作時の参照活動を支援するためにデザインされた作品デー夕べースにも関わらず、創作活動に関わる学生や教員が持っている上位の目標に注目して分析し、それをもとに展開した道具のデザイン仕様が、従来提案されていたものと比較して、より活動に即した仕様に変化した事例に注目した。
具体的には、創作活動の学びにおける学生の「将来、社会で活躍できるデザインの技術を身につけたい」という目標やそれを踏まえての学生の経験値、また、創作の学びにおける牽引者である教員や、先輩学生が残した参照作品の役割を捉え、最終的に創作の学ぴに関わる学生と教員、両者にとっての上位の目標を達成するために必要な、「良い参照情報」という価値を発見し、それを課題作品を閲覧・登録できる作品データべースのデザインに反映させた事例に注目した。
本研究では、上記の結果を踏まえ、次の仮説立て、従来のAPBD Methodに反映させることにした。
【現状活動の把握[As Is Realities]に閲する仮説】
1) 具体的に行われている活動を捉えるには、対象とする活動に関わっている人や組織を洗い出し、活動におけるそもそもの目的(=上位の目標)にまで範囲を遡って記述すること。
2) 捉えるべき内容は、対象とする活動に関わっている人や組織の属性(役割と経験)までを把握すること。
3) 必ずしも必須ではないが、支援の対象とする活動を見定めるため、目的が似た活動で、且つ、具体的に行われている活動が他にあれば捉えること。
【活動のモデル[As Is Models]に関する仮説】
4) 対象とする活動に関わっている人や組織の、上位の目標と属性から、それを達成するために必要な価値をあきらかにし、道具において支援する課題を見定めること。
5. デザイン手法の実践
仮説の有効性を確かめるため、従来からプロジェクトを進めている、仙台市青葉区にある滝道町内会に協カをいただき、地域コミュニティにおける情報共有活動の中でも、「地域の防災活動」に対象を絞り、デザイン手法の実践を行った。
下記に、それぞれのステップで捉えられた結果の一部を紹介する。
【現状活動の把握[As Is Realities]】
具体的に行われている地城の防災訓練に関わる活動を捉えた結果、対象とする地域には、大きく分けて、次の2つの属性を持った人々が存在することが分かった。
[地域の防災活動に関わる人々の属性]
1) 地域の防災活動を担っているリーダー(町内会役員)
2) 災害が起こったときに自助、およぴ共助の知識・関係が必要なメンバー(地域住民)
また、具体的に行われている地域における防災活動から、そもそもの目的(上位の目標)まで遡って記述した結果、1)地域の防災活動を担っているリーダー(町内会役員)にとっては、災害に強い町内会を作ること。2)災害が起こったときに自助、およぴ共助の知識・関係が必要なメンバ一(地域住民)にとっては、i.住みよい環境に暮らすこと、ii)災害が起こっても生き延びること、が活動におけるそもそもの目的(=上位の目標)だと捉えることができた。
【活動のモデル[As Is Models]】
地域の防災活動における町内会役員と地域住民、それぞれの属性と上位の目標から、それを達成するために必要な価値をあきらかにし、最終的に道具で支援する課題をあきらかにした。
災曹時対応の知識は、実際に体験しないと身に付けることは難しい。また、隣近所で助け合える関係を築くには、地域の防災訓練に顔を出し、いざ災害時にどういった協力をすればいいかを把握することは大切なことである。しかし、現状では、地域住民が防災訓練に参加する必然を感じていない。もしくは、参加するモチベーションにつながっていない。町内会役員が苦労をして防災訓練を開催しても、なかなか災害に強い町内会を築くことにつながっていない。原因はいくつか考えられるが、参加の呼びかけと、振り返りについての情報共有の道具として従来から使用しているテキス卜メインの回覧が、両者のコミュニケーションツールとしてうまく働いていない主な原因(道具において支援する課題)であると考えた。
【あるべき姿のモデル[To Be Models]】
活動のモデル[As Is Models]において得られた結果をもとに、活動のあるべき姿を描き、それを支援する道具のデザイン仕様を考えた。
[地域の防災活動におけるあるぺき姿]
災害時対応の知識の獲得と、隣り近所で助け合える関係の構築を地域全体で育むこと。
活動のあるべき姿を描き、それを支援する道具のデザイン仕様を考えるにあたって今回の提案では、地域の防災活動の中でも、体験型の活動である「地域の防災訓練」の参加の呼びかけ、振リ返りのコミュニケーションツ一ルとして、従来から利用されている「回覧板」に対象を絞った。
そして、活動のモデル[As Is Models]において抽出した人々の属性(役割と経験)をもとに、①回覧記事作成者である町内会役員に対しては、記事作成におけるひな形として、②活動に参加する対象者である地域住民に向けては、情報共有の媒体として、それぞれ2つの側面からデザイン仕様を考えた。
下記に、デザイン仕様の代表的なものとして、実際に検証モデルとして使用した回覧用お知らせ記事の作成のひな形と、ひな形をベースに内容を記戴した回覧用報告記事を紹介する。
[お知らせ用回覧記事ひな形の主な仕様]
1) あいさつ文は、「時候の挨拶」、「イベントの目的、およぴ体験できること」、「締めくくリの挨拶」という
順で簡素に記すフォームにすること。
2) イベントに一度も参加したことがない地域住民に、安心感と親しみやすさを持ってもらうため、イベン卜の全体像が伝わる情景写真を入れること。
3) イベントを実施する上で、特に知って欲しいこと、伝えたいことを表現する写真を入れること(体験できることの詳細が分かる写真など)。
4) あいさつ文、挿入写真については、あらじめデフォルトで見本となる文章を入れておくこと。
[報告用回覧記事ひな形(詳細版)の主な仕様]
1) イベントを体験していない地域住民にも、イベントで行われた全体像が伝わるように、また、イベン卜参加者に質問ができるように、イベントで行われたことを写真を時系列に表現すること。
2) 次回のイべン卜を企画する町内会役員ヘの参考となるよう、準備ー開催ー反省までを時系列に並べた実施内容の一覧と、開催後の反省欄を設けること。
※報告には、簡易版として、上記のお知らせ用回覧記事ひな形とほぼ同体裁のものを用意した。
また、ひな形のシステムイメージとしては、ウェブアプリケーション上で記事を作成し、記事の閲覧は、従来どおりの紙による回覧と、回覧情報をアーカイブできるコミュニティサイ卜による閲覧というハイプリッド型を想定した。なお、紙による回覧の下端に、同情報をアーカイブできるよう旨を記載している。
6. 検証
検証は、①回覧記事の作成している町内会役員と、②回覧記事の閲覧者である地域住民の2つの対象に分け、実際に、それぞれ提案したひな形を使っての記事作成、およぴ閲覧をしていただいた(分析は、グループインタビューに発言内容と、記事作成時の発話内客をもとに行った)。
【記事作成のひな形としての有効性】
1) 若い地域住民に向けて、災害時の要支援者を搬送する担架、リヤカーへの写真を入れてお知らせをしたいという思いと、ひな形で表現できることが合致していた。
2) あらかじめ、ひな形を用意することによって、より参加の呼ぴかけの中身を吟味する作業や、記事を作成しながら前年度の実施した内容を振り返ることに時間を割けるという効果があった。
【情報共有の媒体としての有効性】
1) 地域住民よリ文章だけの細かい記事より、写真、絵が入っていた方が興味を喚起するのに有効だという反応があった。
2) イベントを企画、運當している町内会役員より、地域住民に実施内容を伝える媒体として、また、町内会役員班長会議にてロ頭で内容を伝えるベースとして、ともに有妨であるという評価をいただいた。また。年に2度発行している町内会会報のアーカイブする原稿としても活用していという意見が出た
なお、今回の検証では、純粋にイベントに参加できなかった地域住民に対する情報共有ツールとしては検証が行えなかった、また、課題として、記事に掲載する写真のプライバシーの保護が上げられた。以上については、今後システムを実装していく上での課題である。
7. 結論
検証結果より、以下にデザイン手法としての有効性と、可能性をまとめた。
活動に適合した道具をデザインするための手法として、デサインプロセス(①現状活動の把握と、②人々が従来から持っていた欲求や期待の本質を読み取る)という2つのステップにおいて、人々の活動におけるそもそもの目的(=上位の目標)にまで範團を広げて活動を捉えることと、活動に関わっているメンバーの属性(役割と経験)から導き出した価値を把握することが、その後のデザイン展開において、従来から提案していた道具と比較して、より対象とする活動に即したものとなることが確認できた。
また、活動に即したより質の高いデザイン開発を効率的に行うという、もう一つのAPBD Methodの特徴についても、従来のAPBD Methodで発見されていた、2.As Is Modelsにおいて、上位の目標がことなる活動でも、その活動を構成する活動において多くのパターンが存在することを発見していたが、今回の取リ入れた手法をべースに、3.To Be Modelsにおいて、人々の活動における本質的な欲求や期待を、それぞれ、①活動のパターン(人間的側面)、②デザインパターン(デザイン仕様的側面)として分けて抽出・蓄積することに、よリ活動に即した道具をデザインする可能性を見いだすことができた。
8. 今後に向けた課題
今回の研究では、現状の活動から人々が持っている欲求や期待の本質を読み取リ、それをデザインに変換するデザイン手法に注力して研究を進めたため、APBD Methodの特徴であるパ夕一ンの導き方として可能性は発見できたものの、実際にパ夕ーンを利用した他の活動へ展開するフェーズにおいて課題が残された。
注および参考文献
1) Johnson-Laird,P.N. : Mental Models, Cambrige University Press, 1983
2) Christopher Alexander : A Pattern Language, Oxford University Press, 1979
3) 湊貴恵: 地域の人々の活動を抽出・記述し、デザインへ変換する試みーWebサイ卜「たきみち生き活き広場」お知らせぺージを対象としてー東北工業大学 2005年度卒業論文
4) 敦賀雄大: 活動のパターン解析からデザインパターンを生み出す方法の研究ー町内会、家族というコミュニティを対象としてー東北工業大学 2006年度修士論文
5) 加藤康朝: デザイン工学科Webデ一タベースのデザイン開発・東北工業大学 2002年度卒業論文
6) 斉藤雅史: 入力する人と閲覧する人の双方に魅力のあるデータベースの開発ー東北工業大学 2006年度卒業論文
7) 田中淳子: 活動の抽出から適切なデザインへ展開する試みーデザイン工学科作品データベースを対象としてー東北工業大学 2007年度卒業論文
8) 後藤芽利香: 登録者の魅力となる作品評価方法の研究ーデザイン工学科作品データベースを対象としてー東北工業大学 2007年度卒業論文
1. 背景と目的
1.1. 背景-コミュニティの支援における課題
デザインの視点からコミュニティの活性化を支援する活動はさまざま行われている。
しかし、そのような活動によってー時的に活性化はされるものの、長期的に見た場合、コミュニティの活力は時間経過とともに徐々に低下してしまい、いずれは支援する以前こ戻ってしまうケースがよくある。
このことから、コミュニティをメンバーにとって価値のあるものにしていくためにはコミュニティを「継続的な活性化」という観点から支援することが必要である。
1.2. 実践コミュニティの育成の可能性
実践コミュニティとは、あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団のことであると、エティエンヌ・ウェンガーらが著書「コミュニティ・オブ・プラクティス」の中で述べている。
実践コミュニティをコミュニティ内で育成することによって、各メンバーの潜在的な興味・関心から活力を引き出し、コミュニティに参加するための原動力にすることができる。また、メンバー同士の持続的な交流を促進することができ、コミュニティの活動を引き起こすことができる。以上のことから、コミュニティの内部で実践コミュニティを育成することによって、コミュニティの継続的な活性化を見込めると考えられる。
1.3. Webアプリケーションによる支援
コミュニティにおいて、メンバー間の交流は活性化の面で重要な意味を持っている。その点でWebアプリケーションのようなツールは、さまざまな情報を柔軟に表現できたり、情報を容易に受信・発進できることからメンバー間の交流に優れた点を数多く持ち合わせているといえ、コミュニティの継続的な活性化を支援する上で適切な手段であると考えた。
1.4. 目的
本研究では、特に実践コミュニティの育成と活用の支援を重要視したWebアプリケーションの開発・検証を通して、Webアプリケーションではコミュニティの継続的な活性化のためにどのような支援が必要か探った。
2. 研究方法
本研究では、以下の手順でコミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件を探った。
①コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件の抽出
②Webアプリケーションのデザインと開発、検証実験
③Webアプリケーションの追加補助機能のデザインと開発、検証実験
3. コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件
3.1. コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件の抽出のために行ったこと
本研究では、まず一般的なコミュニティの構造のモデル化を行った。そこからコミュニティのあるべき姿を抽出し、コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件を抽出した。
3.2. 一般的なコミュニティ構造
「コミュニティ・オブ・プラクティス」の中では、コミュニティへの参加には通常、3つのレべルがあり、参加の度合い(図1)によって4つのグループに分けられると述べられている。以下に、それぞれのグループの特性について「コミュニティ・オブ・プラクティス」で述べられている内容を一部変更しまとめた。
・コア・グループ: コミュニティの活動に積極的に参加する。
・アクティブ・グループ: コミュニティの活動に時折参加する。コア・グループほど規則正しく熱心に参加はしない。
・周辺グループ: コミュニティの活動にめったに参加しない。傍観者に徹し、コア・グルーブやアクティブ・グループに属するメンバーたちの交流を見守っている。
・アウトサイダー(外部): コミュニティのメンバーではないが、コミュニティに関心を持っている。
3.3. コミュニティのあるべき姿
3.3.1. 活発に行われるメンバ一間の交流
優れたコミュニティは、コミュニティの活動において、参加しているメンバーの多くがその活動に熱意を持ち、積極的に参加している。また、活動の中で問題が発生すると、その問題を解決するためにメンバー同士で協力し合いながら目標の達成を目指している。
3.3.2. コ一ディネ一タ一の存在
優れたコミュニティには、コミュニティの運営や管理を担うメンバ一が存在し、メンバー同士を結びつけたり、コミュニティ活動を適切に支援している。
3.3.3. 参加形態の選択に自由度がある
優れたコミュニティでは、各メンバーが参加形態をコミュニティ活動が進むにつれて流動的に選択できるように、参加レべルの変化を許容している。参加レべルを上げてコア・メンバーに加わることを歓迎し、またコミュニティの中心部から外れるときのベンチを用意して、メンバーそれぞれの参加形態に対する要望に柔軟に対応する(図2)。
3.4.コミュニティをあるべき姿に導く上での障害
3.4.1. 参加形態を流動的に選沢する上での障害-参加レべルを向上させる機会の欠如
コミュニティのメンバーにとって理想的なコミュニティとは、コミュニティへの参加形態を流動的に選択できるように設計されたコミュニティである。そのためには、現在のコミュニティへの参加レベルが低い状態のメンバーが、コア・メンバーのようにコミュニティ活動に積極的に参加するという行為には、さまざまなことが障害として考えられ、コミュニティの活動ヘの参加レべルを高めたいと思うメンバーが、コミュニティの活動ヘより積極的に参加するための機会を得ることは極めて困難になっている。
3.4.2. 暗黙的に行われる非公式なメンバー間の交流
コミュニティ内のメンバー間の交流は、暗黙的に行われている場合が多い。そして、非公式なメンバー間の交流を通じて得られる成果は、コミュニティへの正式なフィードバックはされていない場合がほとんどである。そのような場合、他のメンバ-が非公式なメンバー間の交流を認知することは困難であり、新たに交流に参加することの障害として考え
られる。
3.5. コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件
3.5.1. 情報交流を行うためのツ一ル
メンバーがコミュニティヘの参加レベルを高める上での障害は、メンバー間の交流が暗黙的に行われ、コミュニティを理解する機会を得られないことである。情報交流を行うツ一ルによってメンバー間の交流を認知できるようにすることで、コミュニティへの参加レべルを高める機会を作ることができると考えた。
3.5.2.非対面時の交流を支援するツ一ル
対面で行われる交流は時間的な制約があり、その中でメンバー間の交流を十分に行うことは困難である。一方、非対面で行われる交流は、対面で行われる交流より時間的制約がなく、また自分の好きなタイミングで、非同期的に交流することができる。このことから非対面時の交流の支援は有効的な手段であると考えた。
4. コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションの開発と検証
4.1. はじめに
本研究では以下のような手順でWebアプリケーションのデザインと開発を進めた。
①開発1ーWebアプリケーションの基礎機能のデザイン・開発
②検証1ーWebアプリケーションの有用性の検証
③開発2ー補助機能のデザイン・開発
④検証2ー補助機能の有効性の検証
4.2. 開発1ー非対面的議論支援アプリケーション「Diverge」の開発
4.2.1. 開発の背景と目的
議論を活発に行うことは、そのコミュニティの活動の質を高める上で重要なコミュニティ活動である。しかしそのような議論を対面で行う場合、時間的制約により十分に議論が発展できない問題や、コア・メンバー以外のメンバーが発言しづらい問題など、さまざまな問題を抱えていることが多い。そのような問題がある場合、メールや電話などの非対面的なツールを使って解決しようとするケースがよくあるが、多くの場合、議論の場としては適していないと考えられる。
以上のことから、コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションとして非対面的な議論を支援するアプリケーション「Diverge(ディバージュ)」を開発した。
4.2.2. Divergeの基本機能
Divergeは情報の表現に付箋紙を、また情報を貼り付ける場所にホワイトボードをメタファとした。文字や画像などの情報を自由にドラッグアンドドロップできるようにすることで、空間的に配置できるようにすることができ、情報同士の関係性を柔軟に表現することができる(図3)。
4.3. 検証1ーWebアプリケーションの有用性の検証
4.3.1. 検証の目的
Divergeがコミュニティの継続的な活性化の支援に役立つか、Webアプリケーションの有用性を目的とした検証を行った。検証項目は以下の3点である。
・Divergeを利用して非対面的議論を展開できるか
・非対面時の交流で得られた成果をコミュニティ活動に活かすことができるか
・Divergeの仕様と概念は分かりやすく、使いやすいか
4.3.2. 検証の対象
InfoDWebApplication開発プロジェクトメンバー8名と、Divergeに興味のある学生2名の計10名(うち2名は途中参加)を被験者とし、Divergeを利用してもらった。
4.3.3. 実施内容
ビデオ鑑賞会をというイべントを企画し、鑑賞する作品や開催する会場の選定、その他イべントに関わる事項の決定について、Divergeを利用して議論・意見交換を8日間かけて行った。
4.3.4. 検証方法
・検証終了後のフォーカス・グル一プの実施
・検証終了後のアンケートの実施
・被験者が情報を発信した際の操作記録のデータの集計
・議論の経過の記録
4.3.5. 検証結果
・議論を展開することができた
・議論の内容を実際の活動に活かすことができた
・Divergeの仕様と概念は分かりやすかった
・議論の流れを追うことが困難だった
・一部で他の情報交流の手段が利用された
・メンバーによって情報発信の頻度は異なった
4.4. 考察1ーWebアプリケーションの有用性の検証結果の考察
4.4.1. Divergeを利用した非対面的議論の有効性
Divergeの利用を通して、議論を展開していく中でメンバー間の新たな交流を生み出し、また発展させることができることがわかった。このことから、コミュニティ内で実践コミュニティを育成するために、非対面的な交流の支援を行うことは有効的であると言える。
4.4.2. 非対面的な交流の成果の有効性
Divergeを利用することで、コミュニティ内の多くのメンバーが実践コミュニティを認知できるようになり、その実践コミュニティで行われた活動の成果を実際のコミュニティ活動の中で活用できることがわかった。このことから、コミュニティ活動の中で実践コミュニティを活用するために、実践コミュニティを認知できるようにすることは有効であるといえる。
4.4.3. DivergeのWebアプリケーションとしての使いやすさ
Divergeの使いやすさに関しては、多くの被験者から障害を感じずに使用することができたという意見を聞くことができた。また、空間的な情報の配置によって情報同士の開係性を理解しつつ、さまざまな意見を広げながら議論を進めていくことができていることがわかった。
4.4.4. 新たな課題ー情報交流への参加のしきいの高さ
議論が進んでいくにつれ、議論の流れを把握することが困難になってしまっている点は重大な障害であると考えられる。また、このような問題が、途中参加することとなったメンバーにとっての障害になっていると言える。またこのことが、途中参加を妨げている要因として考えられるのである。
このことから、メンバー同士の情報交流が進んでいくにつれ、他のメンバーが途中から参加する「しきい」が高くなってしまっていると考えられる。
現状のDivergeの主機能であるフセンやテーマフセンを使って途中参加するためには、そのコミュニティ活動の経緯(議論の流れ)を知らなければならない。そのため、参加(発言)に対するエネルギー(コス卜)が高くなってしまっている点が「しきいの高さ」となっていると考えられる。
メンバーがコミュニティヘの参加レべルを高めるためには、メンバー間の交流を行うためのさまざなな手段を用意することで参加に対するしきいの高さを段階化し、コミュニティ活動に徐々に参与できるように支援することが必要であると考えられる(図4)。
以上のことから、コミュニティ活動ヘ参加する支援として、発言などに対するしきいを低減化することができるしくみが必要であり、そのような支援をWebアプリケーションで行える見込みがあると考えられる。
4.5. 開発2ー情報交流への参加のしきいを低減化する補助機能の開発
4.4節で述べた点をもとに、Divergeに追加する機能のデザイン・開発、また4.3節で行われた検証で得られた要求を元に一部デザイン・仕様の変更を行った。以下に、新たに追加した補助機能3点の目的と機能について、それぞれ述べる。
4.5.1. 意思表明の簡易化
(a)目的
議論上で発言を行うことは、適切な意見を考え出さなけれぱならないことから、発言することに対するエネルギー(コスト)がかかる行為であると考えられる。メンバーが議論に気軽に参加できるようにするためには、他者の発言に対する賛同の意思表明などのような、考え出すエネルギーを比較的必要としない情報を、より簡易的に発信できるしくみが必要である。
(b)機能ー「同意機能」
賛同できる発言に対して賛同の意思表明(同意)を行うための機能(図5)。賛同できる意見に対してワンクリックで同意マークを付けることができる。また、別なメンバーが既に同意してあるものには追加で同意することができ、同意した人数は同意のマーク上に表示される。
4.5.2. 活動の経緯の理解の支援
(a)目的
コミュニティの理解度(コミュニティの通例やメンバー間の関係性などの理解度)が未熟なメンバーにとって、コミュニティ活動が進んでいる中で質問をすることはしきいが非常に高い行為であると考えられる。このことから、他のメンバーへの意見や質問などのような情報発信を気軽に行えるようなしくみが必要である。
(b)機能ー「質問機能」
議論の途中から参加したメンバーが、活動内容に対する疑問や不明点などの情報を発進することができる機能(図6)。質問を受け答えする情報は全体の空間にはアイコンとして表示されるため、会話の流れを崩さずに質問することができる。
4.5.3. 情報の差別化
(a)目的
議論が進むにつれ情報量が多くなり、議論の流れを追うことが困難になっている。そのため、議論の流れを追いやすくするための支援が必要である。
(b)機能ー「新着情報表示機能」
新しいフセンやテーマフセンがあった場合、その情報に新着のマークが表示される機能(図7)。
4.6. 検証2一追加した補助機能の有用性の検証
4.6.1. 検証の目的
・新たに追加した各機能が、情報交流のしきいを低減化できているか知る
・情報交流のしきいを下げることによって、メンバーのコミュニティの参伽ヘの活力が向上したか明らかにする
4.6.2. 検証の対象
本検証では、東北工業大学クリエイティプデザイン学科エクスペリエンスデザインコ一スの両角研究室の3年生の8名のグル一プを対象とした。対象のメンバーは、八木山動物公園と地域コミュニティをつなぐWebコミュニティサイトのデザイン開発を進めている。
4.6.3. 実施内容
DivergeをWebサイトのデザインや仕様を検討する場として、約ーヶ月間利用してもらった。
4.6.4. 検証方法
・検証終了後のフォーカス・グループの実施
・被験者が情報を発信した際の操作記録のデータの集計
・議論の経過の記録
4.6.5. 検証結果
・一部では情報発信のしきいを下げることができた
・新着情報磯能によって情報を差別化することができた
・結論に至った話題を整理する必要性が生じた
・一部のメンバーがWebアプリケ一ション上でリーダーシップを取ることができた
・特定のメンバーに質問することに気後れがあった
4.7. 考察2ー追加した補助機能の有用性の検証結果の考察
4.7.1. 意思表明の簡易化
同意機能によって、一部ではメンバーが意思表明を気軽に行えるようになった。またこのようにして賛同意見を表明することにより、賛同された側のメンバ一はモチべーションが高まり、コミュニティ活動への活力も高まると予測される。このことから、賛同の意思表明のようなエネルギーを要しない情報発信を機能によって簡易的にすることで、メンバーにとって参加するとへの支援が二つの面(発信、受信)から行えることが分かった。
4.7.2. 活動の経緯の理解の支援
今回追加した質問機能にような一対一の対話型は、質問を行うメンバーにとって、回答してくれるメンバーに対して「エネルギーを使わせてしまっている」という感覚が強いため、コミュニティ活動の理解への適切な支援方法ではないといえる。また、コミュニティ活動への理解を深めるためには、気軽に質問が行えるよう複数人と対話できるような仕様と表現が必要であると考えられる。
4.7.3. 情報の差別化
検証結果から、新着情報表示離能によって、通常の情報と比較的新しい情報との差別化をすることができたことから、現在話し合われている内容へアクセスすることが容易になったと言える。
しかし、最新の情報を閲覧するだけではなく、結論に至った話題と現在進行している話題との差別化をする必要性があることがわかった。
4.7.4. リーダーシップをとるための支援を行える可能性
検証から、実際のコミュニティ活動では発言の頻度が低いメンバーが、Webアプリケーションの利用を通して、リーダーシップをとることができていることを示すことができた。このことから、Webアプリケーションには、リーダーシップのような運営や管理に非常に近い役割に関与する支援を行うことができる可能性があると言える。
5. 結論
5.1. 本研究の成果
本研究の成果をコミュニティの継統的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件としてまとめると以下の通りである。
1) 暗黙的に行われていたメンバー間の交流を可視化し、コミュニティ内のメンバー間の関係性やコミュニティの実態を理解するためのしくみをつくること
2) 情報発信のしきいを低減化できるようなしくみをつくること
以上の2点を注視して支援することよって、各メンバーがコミュニティヘの参加レべルを徐々に高めていくことができるようになり、継続的な活性化の鍵となる運営・管理という役割をコミュニティ全体で協力し合いながら実現することの支援が行えるようになると言える。
5.2. 今後の課題
今後は、コミュニティのメンバーが運営・管理へ参加できるようにWebアプリケーションではどのような支援が行えるかを導き出すこと、また運営・管理の質を維持・向上するためにはどのような点が必要とされ、またそのためにWebアプリケーションではどのような支援が行えるか明らかにすることが課題として拳げられる。
引用・参考文献
1) エティエンヌ・ウェンガーら,『コミュニティ・オブ・プラクティス』)翔泳杜,2002
学習コミュニティにおける支援ツールの利用者に対する能動的行動の有効性の研究−クリエイティブデザイン学科作品データベースを対象として−[概要]
2002 年度から両角研究室により開発された「デザイン工学科作品データベース」は、学生の制作活動を支援することを主な目的として開発された Webサイトである。また、2008 年度の学科名称変更に伴い、2009 年度から「クリエイティブデザイン学科作品データベース(以下作品 DB と記載)」に名称変更をし、リニューアルをした。
しかし、現状の作品 DB は強制されることで少しずつ登録作品が増加しているが、自主的な登録作品はあまり見られない。また同様に、作品 DB の自主的なサイト訪問および閲覧も見られないという問題を抱えている。
本研究の目的は、作品 DB の管理者が利用者に対して作品 DB に関する情報を能動的に伝えることにより、作品 DB の訪問者と作品登録者を増加させること、および作品を参考にするためのより良い環境を作ることである。そのために他コミュニティサイトを参考に以下 3 つの実装、実行を行った。
a)作品 DBリニューアル
b)通知型メール
c)編集型メール
[作品 DBリニューアル:制作]
リニューアルを行う前の作品 DB の主な問題点は以下の通りである。
・メインコンテンツである作品の詳細ページまでの道のりが遠い。(階層構造が深い)
・作品一覧ページで表示される件数が少ない。
・作品を動画形式で登録できない。
・作品の登録を行うフォームの情報が乱雑に配置されている。
・作品の評価を行うには評価専用のページからでしか行えず、通常に作品を閲覧するページからは行えない。
以上の主な問題点を、作品 DB リニューアルにより改善した。
[作品 DBリニューアル:検証]
●検証目的
リニューアルを行った作品 DB は利用者である学生に対して有効的であるか。
●検証方法
作品 DB のリニューアル後、リニューアル完了のお知らせメールを学生の 111 名に送信。その後アクセス解析ツールにより訪問数を測定。
●検証結果
メール送信日の訪問数は増加することはなかったが、訪問数を全体的に見てみると、作品 DBリニューアル後付近から訪問数が増えていることが分かった。このことから、有効的であるとは言えないが、訪問数が増えた一端を担っていると考える。
[通知型メール:制作]
通知型メールとは、学生が作品 DB に登録した作品が、他の学生に評価機能により評価された際に送信されるメールのことである。以前まで作品 DBには評価機能が単体で実装されていたが、通知機能がなかったため、評価に気付き辛いという問題が見られた。通知型メールはその問題を改善することを主な目的として制作を行った。
また、通知型メールは PC およびスマートフォンデバイスで正常に HTML メールを表示できる「レスポンシブ E メールデザイン」で制作した。[図 6]しかし、メールクライアント別に把握し、表示のズレをなくすのは難しいため、メール送信対象は「yahoo メール」と「Gmail」に絞り制作した。
[通知型メール:検証]
●検証目的
通知型メールにより、学生は自身の作品の評価付与に気が付くのか。また、作品登録を行うのか。
●検証方法
通知型メールの開封数から、どれだけの学生が自身の作品の評価に気付いているのか、また、その後の作品登録の状況から有効性を検証。
●検証結果
作品の評価日に、正常に学生にメールが送信され、開封されていることが分かった。これにより、自身の作品の評価付与に関しては即時的に問題なく確認できていると考えられる。また、このメールを受け取ったことによる作品登録は見られなかった。
[編集型メール:制作]
編集型メールとは、作品 DB に登録されている作品をその都度テーマに合わせてピックアップし、紹介文と共に学生に対して送信するメールのことである。基本的に他サービスにおけるメールマガジンと同様なものであり、作品 DB の管理者が作品情報を編集し、手動で学生にメールの送信を行う。編集型メールの目的は、作品 DB をほとんど利用しない学生に対して、利用する機会を提供することである。
また、編集型メールは通知型メールと同様に、PC およびスマートフォンデバイスで HTML メールを正常に表示することができる「レスポンシブ Eメールデザイン」により制作した。[図 7]
[編集型メール:検証]
●検証目的
編集型メールを受け取ることにより、学生は作品DB を利用する機会を得ることができるのか。
●検証方法
編集型メールの送信後、メールの開封数およびサイトの訪問数をアクセス解析ツールにより計測。また、この検証は 4 回に渡って実施した。
●検証結果
1 回目の検証のみ、サイトの訪問数の増加が確認できたが、他 3 回では確認できなかった。このことから、編集型メールは学生に対して作品 DB を利用する機会を提供できるが、継続して行うことでは効果を得られないことが分かった。
[結論]
各検証の結果から、本研究における作品 DB への効果は薄かったように見えるが、訪問数が昨年度の 2 倍以上増加していることが分かった。[図 8]
本研究における各検証の結果を通して得られた成果は以下の 3 点である。
a) 作品 DB における利用者に対する能動的な行動は、作品 DB の訪問数を増加させる上では有効的であると考えられる。
b) 作品 DB の訪問数の増加が、そのまま作品登録件数の増加に繋がる訳ではない。
c) 学習コミュニティの支援サイトにおいて、他コミュニティサイトの取り組みを適用することができ、効果を得ることができる。[図 9]