実世界をベースとしたWebサイトの提案 ―書籍の購入を事例として―

1. 研究の背景と目的

実世界における行為は、知識やその知識を活用する能力、つまりユーザーの経験が影響している。オンラインショッピングなどのWebサイトにおいても、実世界の経験をベースに行動していると考えられる。そのため本研究は、Webサイト上でユーザーの経験を自然なかたちで活かすことのできるデザインを実装するため、実世界をベースとしたWebサイトの指針を決定することが目的である。

2. 研究の方法

本研究は、以下のステップで行った。
I. 実世界とWebサイトにおける行為を比較
II.比較実験を踏まえた行為の振り返り
III、比較実験と行為の振り返りから抽出した要素をもとに、デザインしたモデルの検証

3. 比較実験

実世界の書店におけるユーザーの行為とその書店のWebサイトにおけるユーザーの行為の比較実験を行った。(図1)

3.1 結果

実世界とWebサイトにおける共通する部分として、本を選ぶ際に内容や価格などを確認する。異なる部分として、本の探索の仕方や購入する際の手続きによる躊躇などがあった。

3.2 比較実験を踏まえた行為の振り返り

実:実世界の書店、W:Webサイトの書店

3.2.1 探索の特性

実:検索を行う際、経験や知識の影響が大きい
店員に聞くことも可能だが、聞く内容が暖昧なほど聞きづらい。自分で本を探す場合、本がどのジャンルに属し、どの棚にあるのかなどの情報処理が行われる。この情報処理は個人差が出やすく、個人の経験や知識が影響してくる。W:検索を行う際、経験や知識の影響が小さいいくつかのキーワードをあげ、関連しそうなジャンルに辿り着く。Webサイトでは、ジャンルが思い浮かばす、キーワードの段階でも検索でき、検索機能を使い探索することができる。
そのためWeb書店のアマゾンでは、キーワードや著者などを入力する「サーチ検索」ジャンルから探す「ブラウズ」がある。ブラウズ機能は関連性のあるジャンルでも分類している。
しかし、トップページ上の発見や出会いに繋がる情報を一覧することができない(→提案1)

3.2.2 選択の特性

実:本を手に取り吟味する
本を主観的(興味や好みなど)に判断している

W:本を手に取って見ることが出来ない
Webサイトでは、実物を手にとって見ることができない。そのため、ユーザーに選択の手助けとなる情報が必要となる。
そのためWeb書店のアマゾンでは、内容、目次、表紙の画像などの情報を提示しているが、レイアウトなどの好みが影響してくる情報の提示はされていない。(→提案2)

実:本のポイントを覚え比較する
店内で比較(他ジャンル)と同じ棚で比較
(同ジャンル)があり、他ジャンルの比較は記憶に頼るしかなく、同ジャンルの比較は何回も見直すことで選択の決定を行っている。

W:「覚える」「メモする」「プリントする」
「別ウィンドウで表示」「一覧表」で比較する「プリント」「別ウィンドウ」は情報が詳細なため比較がしやすい。「一覧表」で他ジャンル同士の本を一覧表に入れておく場合は、思い出すためのきっかけになればよいため、最低限の情報でよい。しかし、同ジャンルで比較する場合は、きっかけではなく判断材料となる情報の比較が必要となる。(→提案3)

3.2.3 移動の特性

実:動線を描きながら活動する(図2)
我々は動線の中で常に情報取得し、瞬時に有効な情報に処理している。その結果、レジに辿り着くまでに他の本に興味を持ち、買う本が増えたり、買う本が変わるということが起こる。

W:点と点を飛び回るように行き来する
Web書店ではトップページから会計のページまで点と点の遷移となる。我々はその点と点のみの情報取得になり、実世界のような遷移間の情報取得は存在しない。
そのためWeb書店のアマゾンでは、商品を選び、購入手続きのページまで「おすすめ商品.この本を買った人がその他に買った本」などの情報提示を行っている。

3.2.4 購入の特性

実:次の状態や結果の予想ができる
日常的に経験しているため、手順を踏んでいる感覚はない。

W:次の状態や結果がわからない
Web上では物理的なものを扱えないため、すべてが情報のやり取りのみで行われる。そのため、手続きを踏ませるような表現になっているが、その手続きの点と点の遷移間に情報が無いため、ユーザーが次の行為に移れないという問題が起こってくる。
そのためWeb書店のアマゾンでは、次の状態や結果を伝えるガイドを提示している。

4.検証実験

比較実験から、アマゾンに不足していると思われる要素のデザイン提案を行い、検証した。

4.1 結果

提案1「トップページの案内図」(図3)、提案2「見開きページの画像」(図4)、提案3「購入検討リスト」(図5)のうち提案2.3の二つは有効性を得ることができた。

提案1:注目されなかった
→実験後に提案1の説明をしたが、被験者からは有効性を検証できるような解答はなかった。

提案2:購入する本を選ぶ要素となっていた
真っ先に「見開きページの画像」を見る被験者や最後に確認として見る被験者がいた。

提案3:始めは使われなかったが、説明後は比較に役立っていた
被験者1人目は、購入検討リストを使う前と後では選んだ本に変化があった。
→はじめは値段で判断してしていたが、内容を見比べられることで、今「興味あること」に当てはめながら判断することができたためだと考えられる。
被験者2人目は、購入検討リストを使うことでより確信を持ち同じ本を選んでいた。
→ランキングや評価を比較できることで、本の差がより明確になったためだと考えられる。

5.結論

我々は実世界において、さまざまな情報を無意識のうちに取得している。その「無意識の情報取得」をすることに対してWebサイト上で適切にデザインされていないことが、現在のWebサイト上で起こっている問題(欲しいものが探せない、実際に買うまでには至らないなど)の原因になっていると考える。
我々が意識的に取得している情報だけをデザインするのではなく、「無意識に行う情報取得」を補うともに、情報を有効に利用できるようなデザインをしなくてはならないと考える。

活動のパターン解析からデザインパターンを生み出す方法の研究―町内会、家族というコミュニティ一の活動を対象として―

1. 背景と目的

高齢化の進む今日において、孤独で社会とのつながりの弱い高齢者も多くなってきている。セキュリティーの問題などから近所同士のコミュニケーションの希薄化が進み、住民それぞれが孤立しているのが大きな問題となっている。したがって.他人とのコミュニケーションを円滑にできるようにするための取り組みが必要だと考えられる。
本研究で対象とする”コミュニティーの活動”は曖昧で捉えることが難しい。したがって、適切な道具をデザインするためにコミュニティーの活動を的確に捉え、ユ一ザーの要求を抽出し、デザインヘ反映させられるような新しいデザインプロセスの開発が必要である。
本研究では、実際のコミュニティーの活動を捉え、ユーザーの要求を道具(活動を支援する)のデザインへ反映できるデザインプロセスの開発、また、共有、蓄積でき、他の開発でも効率的で質の高い開発が行えるデザインパターンづくりを目的とする。

2. 研究方法

2.1. Co-Design

Co-Designとはユーザー(地域)と共にデザイン活動を行うことで、ユーザーの能力(経験)や真の要求を知り、それを基にモノをつくる、というデザイン手法である。

2.2. 活動のパターンをベースとしたデザインプロセスの開発

ビジネスの場面で行われている作業や仕事から開発要求を抽出し、実際のデザインへ反映させる、という開発プロセスがソフトウェア工学の分野では一般的に知られている。
ソフトウェア工学の分野では一般的に知られている手法を参考にデザインプロセスの開発を行った。

2.3. 記述方法の開発

コミュニティーの活動を捉え、ユーザーの真の要求を抽出するために活動の記述方法を調査し、活動の記述方法を開発する。

2.4. 活動の調査、分析

仙台市青葉区滝道町内会を対象に、町内会というコミュニティーの活動と家族というコミュニティーの活動を調査・分析した。

2.5. 活動のパターンをベースとしたデザイン手法の有効性の確認

活動のパターンをベースとしたデザインプロセスの有効性を確認するために検証を行い、活動のパターンをベースとしたデザインプロセスの有効性を確認する。

2.6. 異なる活動の比較

異なる活動でも共通する活動が存在することを確認するため、家族というコミュニティーでの活動の分析から得られた活動のパターンと、町内会というコミュニティーの活動分析から得られた活動パターンの比較を行う。

3. 開発したデザイン手法

3.1. Activity pattern-Based Designのプロセス

Activity pattern-Based Design(以下APBD)のデザインプロセスは以下の4段階のプロセスで行う(図3-1)。
①現状の活動を観察記述し把握する(As Is Realityを記述)
・実際に行われている活動を把握するため、APBDの記述方法を用い、活動全体を抜け漏れなく記述する。
②現状の活動のモデル化(活動の抽象化)
・最初に記述した現状の活動をモデル化することで、活動の要素を抽出しやすくする。
・モデリングをすることで、他の開発で利用するときに適用しやすくなる。
・現状の活動をモデル化するときに、”あるべき姿のモデルをデザインする”ことを頭において活動を分祈することが重要である(図3-1「導出」)。
③活動のモデルをあるべき姿のモデルへと変換する
・モデル化した活動のパターンをあるべき姿のモデルヘ変換する。
ここでは2っの重要なポイントがある
1.あるべき姿のモデルは、あるべき姿のもののデザインされる目的を視点にして変換をする。
2.現状の活動で行われている活動の要素をモデルに活かす。
④具体的なデザイン(あるべき姿のモデルからあるべき姿へ具体化する)
ここではあるべき姿のモデルを実際に使われる現場にあわせデザインヘ落とし込む。
以下にポイントをボす。
1.As Is Modelで抽出された重要な活動の要素を実際の活動へ組み込む。
2.実際の現揚で使ってもらうためAs Is Realityで行われている活動に即した道具にする。
3.あるべき姿のモノは蓋然的に存在する要因から導き出される。

3.2. APBDの記述方法

3.2.1. 活動を捉える5つの視点と記述方法

・関係モデル:人と物の関係やその関係の中で生じる気持ちを表す(図3-2)。

・手順モデル:ユーザーが行う活動、行為の手順を表したもの。目的を明記する(図3-3参照)

・文化モデル:活動が行われている環境における人々の価値観、気持ちを表す(図3-4)。

・物理環境モデル:活動する場を表した図。物理的な環境がどのように活動に影響を与えているかを表す(図3-5)。

・人工物モデル:ユーザーが活動を行うために作成、利用するものすべて(図3-6)。

3.2.2. ユーザーの活動を記述するプロセス

活動を分祈し、デザインバ夕一ン化するまでには大きく分けて2つのプロセスがある。

①活動の調査
・活動の参加、調査、取材を行う。

②活動の記述
・活動の参加、調査、取材で得られたことを最初から最後まで手順モデルで記述する。

③手順モデルの整理
・手順モデルを構成しているそれぞれのブロックが独立した目的を持ったものが”行為”として記述されているかをチェックする。
・目的が複数ある場合は独立した目的を持った”行為”のレベルにまで分解する。
・行為よりもより単純な作業レべルで記述されている場合はその前後の行為どちらに含まれるかを見極め、行為を構成する作業として組み込む。

④活動のレベル分け
・行為の中で同じ目的を持った行為同士を下位活動レベルとして括る。その下位活動レべルを基準としてそれをさらに括る活動として上位活動、下位活動を構成するものとして行為というように活動をレべル分けすることができる。

⑤共通する活動の抽出
・下位活動、行為に注目し、共通していると思われる活動と、異なる活動を比較することで共通する活動のパターンを抽出する(図3-7)。

3.2.3. 活動のレべル

活動を捉えやすくするために活動を以下のレべルで分ける。

①上位活動
活動全体を括る上位目的、複数の下位目的に対する複数の下位活動を持ったひとつの活動である。

②下位活動
上位活動より1段階下位のレべルの活動で、明確な活動の目的(下位目的)を持ち、複数の作業から構成される活動である。

③行為(活動の要素)
独立した目的を持ち、それを遂行するための方法は複数存在する。下位活動を構成する単位で独立した目的を持つ。

④作業
具体的な結果を生み出すための仕事である。

3.2.3.1. 活動のレべルと共通性

上位活動のレべルでは関わっている人が多く、それぞれの目的も様々なため、上位活動の目的も複数存在する。しかし、下位活動、行為のレべルだと活動の目的がある程度はっきりするため、共通する部分が多く存在する。

4. 実際の活動分析から得られた活動パターン

4.1. 町内会というコミュニティーの活動分析から得られた活動パターン

町内会というコミュニティーでの活動の調査、分析から、いくつかの活動パターンが抽出された。そのうちのひとつを以下に例示する。
・情報が公開・共有される範囲によって、発信する情報内容が変わる(図4-1)。
そして、″情報に公開範囲を設ける”というデザインパターンへ変換し、デザイン仕様として町内会の活動を支援するwebサイト「たきみち生き活き広場お知らせぺージ」ヘ実装させた。

4.1.1. 検証実験

「たきみち生き活き広場お知らせぺ一ジ」を用いて、普段からお知らせ資料を作成している方3名を対象に検証を行った。

4.1.2. 検証結果と考察

検証実験からAPBDの有効性、機能に関して良い反応が得られた。

a)編集を自分たちで出来ると実感できた。自分でできるので勉強しようという意欲が湧いたようである。
b)公開範囲を2段階に設定したことに対して、好反応が得られた。
c)webサイトでの記事作成の作成方法が、回覧板での資料を作成する行為と適合している
d)webサイトでの記事にも会長や部長の審査が必要なことが好評であった。

4.2. 家族というコミュニティーの活動分析から得られた活動パターン

家族というコミュニティーの活動の調査、分析からいくつかの活動のパターンが抽出された。そのうちのひとつを以下に例示する(図4-2)。
“人がお客さんや友人と話を始めるときにはお互いに関係のある話題。興味のある話題を共有して話をし始める”
以上の活動の要素から”人がお客さんや友人と話を始めるときにはお互いに関係のある話題、興味のある話題を共有して話をし始める”という活動のパターンが抽出された。

4.3. 異なる活動の比較

家族というコミュニティーの活動の中で行われている活動の中から得られた”家族とゲストがコミュニケーションをとる”という活動と、町内会という活動の中から抽出された”「おやじの会ー男の料理教室かつおのさぱき方」での参加者同士がコミュニケーションをとる”という町内会て行われた活動と、家族というコミュニティーの中で行われた活動という異なった2つの比較を行った。
比較から”コミュニケーションを円滑にはかるときにお互いに開係している話題をきっかけにコミュニケーションをはかる”という共通する活動のパターンが抽出された(図4-3)。

5. 考察と結論

5.1. 町内会というコミュニティーに於ける活動の共通性

町内会の活動の調査、分析から11の共通する活動の要素が抽出された。
また、山本、山家の研究を分析したところ、趣味ぺージにおいても同様の活動が見られたことから、家族というコミュニティーにおいても共通する活動があるといえる。

5.2. 家族というコミュニティ一に於ける活動の共通性

家族の活動の分析、調査から3つの共通する活動のパターンが抽出された。

5.3. 異なる活動の共通性

町内会というコミュニティー、家族というコミュニティーの活動という2つの異なった活動においても共通する活動パターンが存在することが分かった。
異なる活動同士でも共通する活動があることが分かった。

5.4. APBDのデザイン手法の有効性

APBDのデザイン手法を用いてデザインをしたwebサイトを使って普段からお知らせ情報を作成している方に使用してもらい検証を行ったところ、モニターからよい反応が得られたことから、APBDのデザイン手法は有効であるといえる。
そして、異なる活動同士でも共通する活動デザインパターンへ変換可能な活動の要素が抽出されたことから、異なる活動に於いてもAPBDのデザイン手法でデザインすることでユーザーに真の要求を反映させたデザイン開発が期待できる。

活動のパターンをデザイン開発に活かす方法 ーコミュニティの情報共有活動を対象としてー

1. 背景

「ユーザー中心」、「顧客中心」という言葉を耳にすることが多くなってきている。
日本における工業デザインの分野においては、大量生産・大量消買の時代とは異なリ、近年は、より購入する人・使用する人の立場に立ってモノづくりを行うことが求められてきている。
しかし、いざ市場に出ている製品をみてみると、人々が従来から持っていた欲求や期待の本質を理解するところには多くのコス卜をかけずに、技術先行の新機能や、新しさだけをウリにしたアイデアが先行したデザイン開発が行われてるように感じられる。
このように、人々の活動のあるー部分を対象としたデザイン開発では、それまでに人々が培ってきた経験が活かされず、実際に提供された道具の仕様が、活動に即さないことが多い。

1.1. パターンをべ一スとしたデザイン開発の可能性

認知科学の分野における人や生物の理解や学習に関わる研究、建築の分野において、1970年代にクリストファー・アレグザンダ一によって抽出された建築物の設計に立ち現れる本質的な253のパターンを例にみるように、我々人間の活動には、多くの共通的な知識や感覚があると考えられる。
このように、人々の活動の中で変わることのない共通性(=パターン)に注目し、それをベースとしてデザイン開発を行ことができれば従来よリも、元来人々が持っていた欲求や期待の本質を捉えた質の高いデザインが、効率的に行えるのではないかと期待が持てる。
本研究の先行研究においても、人々の活動の中に存在する共通性(=パターン)に注目し、よリ質の高いデザイン開発を、効率的に行うテザイン手法として、Activity Pattern-Based Design Method(以下APBD Method)を開発し、実績としても、町内会や家族のコミュニティを支援する道具のデザイン開発において、有効牲を確認している。

[APBD Methodの特徴]

i) 対象とする活動を記述し、モデル化することで、活動を客観的に捉えること。
ii) 人々の活動において、変わることない普遍的な部分を共通のパ夕一ンとして蓄積し、デザイン開発に活用すること。

2. 本研究の目的

本研究は、APBD Methodの中でも、人々の活動に即した道具をデザインする上で重要なプロセスと考えられる、①活動のモデル化と、②人々の活動にあらわれる本質的な要素をパターンとして抽出しデザイン開発に適用すること、という2点についてよリ注目し、APBD Methodといラデザイン手法がより有効なものとなるよう可能性を探った。

3. 研究方法

本研究では、APBD Methodの実践も含め、先行研究において取り組まれてきた、2つの活動を支援する道具のデザインプロジェクトを題材として、実際に道具が提供された実活動の現状と、デザインを行うにあたって取り組まれてきた複数年の経緯から、あらためて「活動に即した道具一求められる要件」について分析し、得られた結果から、「活動に即した道具のデザインに必要なデザイン手法」について仮説を立てた。
有効性の検証については、仮説をAPBD Methodのデザインステップに落とし込み、そのデザイン手法を実践することで確認を行った。

4. 仮説の抽出

APBD Methodの開発の基礎となっている先行研究においては、活動に即したデザイン手法を開発するための事例として、仙台市青棄区にある滝道町内会において、実際に行われている情報共有活動をモデル化し、それをベースとして地域における情報共有において必要な要素を、地域コミュニティを支援するウェブサイト「たきみち生き活き広場」のデザインに反映させ、実活動に提供してきた。
しかしながら、継続して使用状況を調査したところ、提供したウェブサイ卜が、必ずしも実活動に即した提案になっていない部分があることに気が付いた。
ー方、同じ学生の課題制作時の参照活動を支援するためにデザインされた作品デー夕べースにも関わらず、創作活動に関わる学生や教員が持っている上位の目標に注目して分析し、それをもとに展開した道具のデザイン仕様が、従来提案されていたものと比較して、より活動に即した仕様に変化した事例に注目した。
具体的には、創作活動の学びにおける学生の「将来、社会で活躍できるデザインの技術を身につけたい」という目標やそれを踏まえての学生の経験値、また、創作の学びにおける牽引者である教員や、先輩学生が残した参照作品の役割を捉え、最終的に創作の学ぴに関わる学生と教員、両者にとっての上位の目標を達成するために必要な、「良い参照情報」という価値を発見し、それを課題作品を閲覧・登録できる作品データべースのデザインに反映させた事例に注目した。
本研究では、上記の結果を踏まえ、次の仮説立て、従来のAPBD Methodに反映させることにした。

【現状活動の把握[As Is Realities]に閲する仮説】

1) 具体的に行われている活動を捉えるには、対象とする活動に関わっている人や組織を洗い出し、活動におけるそもそもの目的(=上位の目標)にまで範囲を遡って記述すること。
2) 捉えるべき内容は、対象とする活動に関わっている人や組織の属性(役割と経験)までを把握すること。
3) 必ずしも必須ではないが、支援の対象とする活動を見定めるため、目的が似た活動で、且つ、具体的に行われている活動が他にあれば捉えること。

【活動のモデル[As Is Models]に関する仮説】

4) 対象とする活動に関わっている人や組織の、上位の目標と属性から、それを達成するために必要な価値をあきらかにし、道具において支援する課題を見定めること。

5. デザイン手法の実践

仮説の有効性を確かめるため、従来からプロジェクトを進めている、仙台市青葉区にある滝道町内会に協カをいただき、地域コミュニティにおける情報共有活動の中でも、「地域の防災活動」に対象を絞り、デザイン手法の実践を行った。
下記に、それぞれのステップで捉えられた結果の一部を紹介する。

【現状活動の把握[As Is Realities]】

具体的に行われている地城の防災訓練に関わる活動を捉えた結果、対象とする地域には、大きく分けて、次の2つの属性を持った人々が存在することが分かった。

[地域の防災活動に関わる人々の属性]

1) 地域の防災活動を担っているリーダー(町内会役員)
2) 災害が起こったときに自助、およぴ共助の知識・関係が必要なメンバー(地域住民)

また、具体的に行われている地域における防災活動から、そもそもの目的(上位の目標)まで遡って記述した結果、1)地域の防災活動を担っているリーダー(町内会役員)にとっては、災害に強い町内会を作ること。2)災害が起こったときに自助、およぴ共助の知識・関係が必要なメンバ一(地域住民)にとっては、i.住みよい環境に暮らすこと、ii)災害が起こっても生き延びること、が活動におけるそもそもの目的(=上位の目標)だと捉えることができた。

【活動のモデル[As Is Models]】

地域の防災活動における町内会役員と地域住民、それぞれの属性と上位の目標から、それを達成するために必要な価値をあきらかにし、最終的に道具で支援する課題をあきらかにした。

災曹時対応の知識は、実際に体験しないと身に付けることは難しい。また、隣近所で助け合える関係を築くには、地域の防災訓練に顔を出し、いざ災害時にどういった協力をすればいいかを把握することは大切なことである。しかし、現状では、地域住民が防災訓練に参加する必然を感じていない。もしくは、参加するモチベーションにつながっていない。町内会役員が苦労をして防災訓練を開催しても、なかなか災害に強い町内会を築くことにつながっていない。原因はいくつか考えられるが、参加の呼びかけと、振り返りについての情報共有の道具として従来から使用しているテキス卜メインの回覧が、両者のコミュニケーションツールとしてうまく働いていない主な原因(道具において支援する課題)であると考えた。

【あるべき姿のモデル[To Be Models]】

活動のモデル[As Is Models]において得られた結果をもとに、活動のあるべき姿を描き、それを支援する道具のデザイン仕様を考えた。

[地域の防災活動におけるあるぺき姿]

災害時対応の知識の獲得と、隣り近所で助け合える関係の構築を地域全体で育むこと。

活動のあるべき姿を描き、それを支援する道具のデザイン仕様を考えるにあたって今回の提案では、地域の防災活動の中でも、体験型の活動である「地域の防災訓練」の参加の呼びかけ、振リ返りのコミュニケーションツ一ルとして、従来から利用されている「回覧板」に対象を絞った。

そして、活動のモデル[As Is Models]において抽出した人々の属性(役割と経験)をもとに、①回覧記事作成者である町内会役員に対しては、記事作成におけるひな形として、②活動に参加する対象者である地域住民に向けては、情報共有の媒体として、それぞれ2つの側面からデザイン仕様を考えた。
下記に、デザイン仕様の代表的なものとして、実際に検証モデルとして使用した回覧用お知らせ記事の作成のひな形と、ひな形をベースに内容を記戴した回覧用報告記事を紹介する。

[お知らせ用回覧記事ひな形の主な仕様]

1) あいさつ文は、「時候の挨拶」、「イベントの目的、およぴ体験できること」、「締めくくリの挨拶」という
順で簡素に記すフォームにすること。
2) イベントに一度も参加したことがない地域住民に、安心感と親しみやすさを持ってもらうため、イベン卜の全体像が伝わる情景写真を入れること。
3) イベントを実施する上で、特に知って欲しいこと、伝えたいことを表現する写真を入れること(体験できることの詳細が分かる写真など)。
4) あいさつ文、挿入写真については、あらじめデフォルトで見本となる文章を入れておくこと。

[報告用回覧記事ひな形(詳細版)の主な仕様]

1) イベントを体験していない地域住民にも、イベントで行われた全体像が伝わるように、また、イベン卜参加者に質問ができるように、イベントで行われたことを写真を時系列に表現すること。
2) 次回のイべン卜を企画する町内会役員ヘの参考となるよう、準備ー開催ー反省までを時系列に並べた実施内容の一覧と、開催後の反省欄を設けること。
※報告には、簡易版として、上記のお知らせ用回覧記事ひな形とほぼ同体裁のものを用意した。

また、ひな形のシステムイメージとしては、ウェブアプリケーション上で記事を作成し、記事の閲覧は、従来どおりの紙による回覧と、回覧情報をアーカイブできるコミュニティサイ卜による閲覧というハイプリッド型を想定した。なお、紙による回覧の下端に、同情報をアーカイブできるよう旨を記載している。

6. 検証

検証は、①回覧記事の作成している町内会役員と、②回覧記事の閲覧者である地域住民の2つの対象に分け、実際に、それぞれ提案したひな形を使っての記事作成、およぴ閲覧をしていただいた(分析は、グループインタビューに発言内容と、記事作成時の発話内客をもとに行った)。

【記事作成のひな形としての有効性】

1) 若い地域住民に向けて、災害時の要支援者を搬送する担架、リヤカーへの写真を入れてお知らせをしたいという思いと、ひな形で表現できることが合致していた。
2) あらかじめ、ひな形を用意することによって、より参加の呼ぴかけの中身を吟味する作業や、記事を作成しながら前年度の実施した内容を振り返ることに時間を割けるという効果があった。

【情報共有の媒体としての有効性】

1) 地域住民よリ文章だけの細かい記事より、写真、絵が入っていた方が興味を喚起するのに有効だという反応があった。
2) イベントを企画、運當している町内会役員より、地域住民に実施内容を伝える媒体として、また、町内会役員班長会議にてロ頭で内容を伝えるベースとして、ともに有妨であるという評価をいただいた。また。年に2度発行している町内会会報のアーカイブする原稿としても活用していという意見が出た

なお、今回の検証では、純粋にイベントに参加できなかった地域住民に対する情報共有ツールとしては検証が行えなかった、また、課題として、記事に掲載する写真のプライバシーの保護が上げられた。以上については、今後システムを実装していく上での課題である。

7. 結論

検証結果より、以下にデザイン手法としての有効性と、可能性をまとめた。
活動に適合した道具をデザインするための手法として、デサインプロセス(①現状活動の把握と、②人々が従来から持っていた欲求や期待の本質を読み取る)という2つのステップにおいて、人々の活動におけるそもそもの目的(=上位の目標)にまで範團を広げて活動を捉えることと、活動に関わっているメンバーの属性(役割と経験)から導き出した価値を把握することが、その後のデザイン展開において、従来から提案していた道具と比較して、より対象とする活動に即したものとなることが確認できた。
また、活動に即したより質の高いデザイン開発を効率的に行うという、もう一つのAPBD Methodの特徴についても、従来のAPBD Methodで発見されていた、2.As Is Modelsにおいて、上位の目標がことなる活動でも、その活動を構成する活動において多くのパターンが存在することを発見していたが、今回の取リ入れた手法をべースに、3.To Be Modelsにおいて、人々の活動における本質的な欲求や期待を、それぞれ、①活動のパターン(人間的側面)、②デザインパターン(デザイン仕様的側面)として分けて抽出・蓄積することに、よリ活動に即した道具をデザインする可能性を見いだすことができた。

8. 今後に向けた課題

今回の研究では、現状の活動から人々が持っている欲求や期待の本質を読み取リ、それをデザインに変換するデザイン手法に注力して研究を進めたため、APBD Methodの特徴であるパ夕一ンの導き方として可能性は発見できたものの、実際にパ夕ーンを利用した他の活動へ展開するフェーズにおいて課題が残された。

注および参考文献

1) Johnson-Laird,P.N. : Mental Models, Cambrige University Press, 1983
2) Christopher Alexander : A Pattern Language, Oxford University Press, 1979
3) 湊貴恵: 地域の人々の活動を抽出・記述し、デザインへ変換する試みーWebサイ卜「たきみち生き活き広場」お知らせぺージを対象としてー東北工業大学 2005年度卒業論文
4) 敦賀雄大: 活動のパターン解析からデザインパターンを生み出す方法の研究ー町内会、家族というコミュニティを対象としてー東北工業大学 2006年度修士論文
5) 加藤康朝: デザイン工学科Webデ一タベースのデザイン開発・東北工業大学 2002年度卒業論文
6) 斉藤雅史: 入力する人と閲覧する人の双方に魅力のあるデータベースの開発ー東北工業大学 2006年度卒業論文
7) 田中淳子: 活動の抽出から適切なデザインへ展開する試みーデザイン工学科作品データベースを対象としてー東北工業大学 2007年度卒業論文
8) 後藤芽利香: 登録者の魅力となる作品評価方法の研究ーデザイン工学科作品データベースを対象としてー東北工業大学 2007年度卒業論文

コミュニティの継統的な活性化を支援するWebアプリケーションの開発

1. 背景と目的

1.1. 背景-コミュニティの支援における課題

デザインの視点からコミュニティの活性化を支援する活動はさまざま行われている。
しかし、そのような活動によってー時的に活性化はされるものの、長期的に見た場合、コミュニティの活力は時間経過とともに徐々に低下してしまい、いずれは支援する以前こ戻ってしまうケースがよくある。
このことから、コミュニティをメンバーにとって価値のあるものにしていくためにはコミュニティを「継続的な活性化」という観点から支援することが必要である。

1.2. 実践コミュニティの育成の可能性

実践コミュニティとは、あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団のことであると、エティエンヌ・ウェンガーらが著書「コミュニティ・オブ・プラクティス」の中で述べている。
実践コミュニティをコミュニティ内で育成することによって、各メンバーの潜在的な興味・関心から活力を引き出し、コミュニティに参加するための原動力にすることができる。また、メンバー同士の持続的な交流を促進することができ、コミュニティの活動を引き起こすことができる。以上のことから、コミュニティの内部で実践コミュニティを育成することによって、コミュニティの継続的な活性化を見込めると考えられる。

1.3. Webアプリケーションによる支援

コミュニティにおいて、メンバー間の交流は活性化の面で重要な意味を持っている。その点でWebアプリケーションのようなツールは、さまざまな情報を柔軟に表現できたり、情報を容易に受信・発進できることからメンバー間の交流に優れた点を数多く持ち合わせているといえ、コミュニティの継続的な活性化を支援する上で適切な手段であると考えた。

1.4. 目的

本研究では、特に実践コミュニティの育成と活用の支援を重要視したWebアプリケーションの開発・検証を通して、Webアプリケーションではコミュニティの継続的な活性化のためにどのような支援が必要か探った。

2. 研究方法

本研究では、以下の手順でコミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件を探った。

①コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件の抽出
②Webアプリケーションのデザインと開発、検証実験
③Webアプリケーションの追加補助機能のデザインと開発、検証実験

3. コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件

3.1. コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件の抽出のために行ったこと

本研究では、まず一般的なコミュニティの構造のモデル化を行った。そこからコミュニティのあるべき姿を抽出し、コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件を抽出した。

3.2. 一般的なコミュニティ構造

「コミュニティ・オブ・プラクティス」の中では、コミュニティへの参加には通常、3つのレべルがあり、参加の度合い(図1)によって4つのグループに分けられると述べられている。以下に、それぞれのグループの特性について「コミュニティ・オブ・プラクティス」で述べられている内容を一部変更しまとめた。

・コア・グループ: コミュニティの活動に積極的に参加する。
・アクティブ・グループ: コミュニティの活動に時折参加する。コア・グループほど規則正しく熱心に参加はしない。
・周辺グループ: コミュニティの活動にめったに参加しない。傍観者に徹し、コア・グルーブやアクティブ・グループに属するメンバーたちの交流を見守っている。
・アウトサイダー(外部): コミュニティのメンバーではないが、コミュニティに関心を持っている。

3.3. コミュニティのあるべき姿

3.3.1. 活発に行われるメンバ一間の交流

優れたコミュニティは、コミュニティの活動において、参加しているメンバーの多くがその活動に熱意を持ち、積極的に参加している。また、活動の中で問題が発生すると、その問題を解決するためにメンバー同士で協力し合いながら目標の達成を目指している。

3.3.2. コ一ディネ一タ一の存在

優れたコミュニティには、コミュニティの運営や管理を担うメンバ一が存在し、メンバー同士を結びつけたり、コミュニティ活動を適切に支援している。

3.3.3. 参加形態の選択に自由度がある

優れたコミュニティでは、各メンバーが参加形態をコミュニティ活動が進むにつれて流動的に選択できるように、参加レべルの変化を許容している。参加レべルを上げてコア・メンバーに加わることを歓迎し、またコミュニティの中心部から外れるときのベンチを用意して、メンバーそれぞれの参加形態に対する要望に柔軟に対応する(図2)。

3.4.コミュニティをあるべき姿に導く上での障害

3.4.1. 参加形態を流動的に選沢する上での障害-参加レべルを向上させる機会の欠如

コミュニティのメンバーにとって理想的なコミュニティとは、コミュニティへの参加形態を流動的に選択できるように設計されたコミュニティである。そのためには、現在のコミュニティへの参加レベルが低い状態のメンバーが、コア・メンバーのようにコミュニティ活動に積極的に参加するという行為には、さまざまなことが障害として考えられ、コミュニティの活動ヘの参加レべルを高めたいと思うメンバーが、コミュニティの活動ヘより積極的に参加するための機会を得ることは極めて困難になっている。

3.4.2. 暗黙的に行われる非公式なメンバー間の交流

コミュニティ内のメンバー間の交流は、暗黙的に行われている場合が多い。そして、非公式なメンバー間の交流を通じて得られる成果は、コミュニティへの正式なフィードバックはされていない場合がほとんどである。そのような場合、他のメンバ-が非公式なメンバー間の交流を認知することは困難であり、新たに交流に参加することの障害として考え

られる。

3.5. コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件

3.5.1. 情報交流を行うためのツ一ル

メンバーがコミュニティヘの参加レベルを高める上での障害は、メンバー間の交流が暗黙的に行われ、コミュニティを理解する機会を得られないことである。情報交流を行うツ一ルによってメンバー間の交流を認知できるようにすることで、コミュニティへの参加レべルを高める機会を作ることができると考えた。

3.5.2.非対面時の交流を支援するツ一ル

対面で行われる交流は時間的な制約があり、その中でメンバー間の交流を十分に行うことは困難である。一方、非対面で行われる交流は、対面で行われる交流より時間的制約がなく、また自分の好きなタイミングで、非同期的に交流することができる。このことから非対面時の交流の支援は有効的な手段であると考えた。

4. コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションの開発と検証

4.1. はじめに

本研究では以下のような手順でWebアプリケーションのデザインと開発を進めた。

①開発1ーWebアプリケーションの基礎機能のデザイン・開発
②検証1ーWebアプリケーションの有用性の検証
③開発2ー補助機能のデザイン・開発
④検証2ー補助機能の有効性の検証

4.2. 開発1ー非対面的議論支援アプリケーション「Diverge」の開発

4.2.1. 開発の背景と目的

議論を活発に行うことは、そのコミュニティの活動の質を高める上で重要なコミュニティ活動である。しかしそのような議論を対面で行う場合、時間的制約により十分に議論が発展できない問題や、コア・メンバー以外のメンバーが発言しづらい問題など、さまざまな問題を抱えていることが多い。そのような問題がある場合、メールや電話などの非対面的なツールを使って解決しようとするケースがよくあるが、多くの場合、議論の場としては適していないと考えられる。

以上のことから、コミュニティの継続的な活性化を支援するWebアプリケーションとして非対面的な議論を支援するアプリケーション「Diverge(ディバージュ)」を開発した。

4.2.2. Divergeの基本機能

Divergeは情報の表現に付箋紙を、また情報を貼り付ける場所にホワイトボードをメタファとした。文字や画像などの情報を自由にドラッグアンドドロップできるようにすることで、空間的に配置できるようにすることができ、情報同士の関係性を柔軟に表現することができる(図3)。

4.3. 検証1ーWebアプリケーションの有用性の検証

4.3.1. 検証の目的

Divergeがコミュニティの継続的な活性化の支援に役立つか、Webアプリケーションの有用性を目的とした検証を行った。検証項目は以下の3点である。

・Divergeを利用して非対面的議論を展開できるか
・非対面時の交流で得られた成果をコミュニティ活動に活かすことができるか
・Divergeの仕様と概念は分かりやすく、使いやすいか

4.3.2. 検証の対象

InfoDWebApplication開発プロジェクトメンバー8名と、Divergeに興味のある学生2名の計10名(うち2名は途中参加)を被験者とし、Divergeを利用してもらった。

4.3.3. 実施内容

ビデオ鑑賞会をというイべントを企画し、鑑賞する作品や開催する会場の選定、その他イべントに関わる事項の決定について、Divergeを利用して議論・意見交換を8日間かけて行った。

4.3.4. 検証方法

・検証終了後のフォーカス・グル一プの実施
・検証終了後のアンケートの実施
・被験者が情報を発信した際の操作記録のデータの集計
・議論の経過の記録

4.3.5. 検証結果

・議論を展開することができた
・議論の内容を実際の活動に活かすことができた
・Divergeの仕様と概念は分かりやすかった
・議論の流れを追うことが困難だった
・一部で他の情報交流の手段が利用された
・メンバーによって情報発信の頻度は異なった

4.4. 考察1ーWebアプリケーションの有用性の検証結果の考察

4.4.1. Divergeを利用した非対面的議論の有効性

Divergeの利用を通して、議論を展開していく中でメンバー間の新たな交流を生み出し、また発展させることができることがわかった。このことから、コミュニティ内で実践コミュニティを育成するために、非対面的な交流の支援を行うことは有効的であると言える。

4.4.2. 非対面的な交流の成果の有効性

Divergeを利用することで、コミュニティ内の多くのメンバーが実践コミュニティを認知できるようになり、その実践コミュニティで行われた活動の成果を実際のコミュニティ活動の中で活用できることがわかった。このことから、コミュニティ活動の中で実践コミュニティを活用するために、実践コミュニティを認知できるようにすることは有効であるといえる。

4.4.3. DivergeのWebアプリケーションとしての使いやすさ

Divergeの使いやすさに関しては、多くの被験者から障害を感じずに使用することができたという意見を聞くことができた。また、空間的な情報の配置によって情報同士の開係性を理解しつつ、さまざまな意見を広げながら議論を進めていくことができていることがわかった。

4.4.4. 新たな課題ー情報交流への参加のしきいの高さ

議論が進んでいくにつれ、議論の流れを把握することが困難になってしまっている点は重大な障害であると考えられる。また、このような問題が、途中参加することとなったメンバーにとっての障害になっていると言える。またこのことが、途中参加を妨げている要因として考えられるのである。
このことから、メンバー同士の情報交流が進んでいくにつれ、他のメンバーが途中から参加する「しきい」が高くなってしまっていると考えられる。
現状のDivergeの主機能であるフセンやテーマフセンを使って途中参加するためには、そのコミュニティ活動の経緯(議論の流れ)を知らなければならない。そのため、参加(発言)に対するエネルギー(コス卜)が高くなってしまっている点が「しきいの高さ」となっていると考えられる。
メンバーがコミュニティヘの参加レべルを高めるためには、メンバー間の交流を行うためのさまざなな手段を用意することで参加に対するしきいの高さを段階化し、コミュニティ活動に徐々に参与できるように支援することが必要であると考えられる(図4)。
以上のことから、コミュニティ活動ヘ参加する支援として、発言などに対するしきいを低減化することができるしくみが必要であり、そのような支援をWebアプリケーションで行える見込みがあると考えられる。

4.5. 開発2ー情報交流への参加のしきいを低減化する補助機能の開発

4.4節で述べた点をもとに、Divergeに追加する機能のデザイン・開発、また4.3節で行われた検証で得られた要求を元に一部デザイン・仕様の変更を行った。以下に、新たに追加した補助機能3点の目的と機能について、それぞれ述べる。

4.5.1. 意思表明の簡易化

(a)目的
議論上で発言を行うことは、適切な意見を考え出さなけれぱならないことから、発言することに対するエネルギー(コスト)がかかる行為であると考えられる。メンバーが議論に気軽に参加できるようにするためには、他者の発言に対する賛同の意思表明などのような、考え出すエネルギーを比較的必要としない情報を、より簡易的に発信できるしくみが必要である。

(b)機能ー「同意機能」
賛同できる発言に対して賛同の意思表明(同意)を行うための機能(図5)。賛同できる意見に対してワンクリックで同意マークを付けることができる。また、別なメンバーが既に同意してあるものには追加で同意することができ、同意した人数は同意のマーク上に表示される。

4.5.2. 活動の経緯の理解の支援

(a)目的
コミュニティの理解度(コミュニティの通例やメンバー間の関係性などの理解度)が未熟なメンバーにとって、コミュニティ活動が進んでいる中で質問をすることはしきいが非常に高い行為であると考えられる。このことから、他のメンバーへの意見や質問などのような情報発信を気軽に行えるようなしくみが必要である。

(b)機能ー「質問機能」
議論の途中から参加したメンバーが、活動内容に対する疑問や不明点などの情報を発進することができる機能(図6)。質問を受け答えする情報は全体の空間にはアイコンとして表示されるため、会話の流れを崩さずに質問することができる。

4.5.3. 情報の差別化

(a)目的
議論が進むにつれ情報量が多くなり、議論の流れを追うことが困難になっている。そのため、議論の流れを追いやすくするための支援が必要である。

(b)機能ー「新着情報表示機能」
新しいフセンやテーマフセンがあった場合、その情報に新着のマークが表示される機能(図7)。

4.6. 検証2一追加した補助機能の有用性の検証

4.6.1. 検証の目的

・新たに追加した各機能が、情報交流のしきいを低減化できているか知る
・情報交流のしきいを下げることによって、メンバーのコミュニティの参伽ヘの活力が向上したか明らかにする

4.6.2. 検証の対象

本検証では、東北工業大学クリエイティプデザイン学科エクスペリエンスデザインコ一スの両角研究室の3年生の8名のグル一プを対象とした。対象のメンバーは、八木山動物公園と地域コミュニティをつなぐWebコミュニティサイトのデザイン開発を進めている。

4.6.3. 実施内容

DivergeをWebサイトのデザインや仕様を検討する場として、約ーヶ月間利用してもらった。

4.6.4. 検証方法

・検証終了後のフォーカス・グループの実施
・被験者が情報を発信した際の操作記録のデータの集計
・議論の経過の記録

4.6.5. 検証結果

・一部では情報発信のしきいを下げることができた
・新着情報磯能によって情報を差別化することができた
・結論に至った話題を整理する必要性が生じた
・一部のメンバーがWebアプリケ一ション上でリーダーシップを取ることができた
・特定のメンバーに質問することに気後れがあった

4.7. 考察2ー追加した補助機能の有用性の検証結果の考察

4.7.1. 意思表明の簡易化

同意機能によって、一部ではメンバーが意思表明を気軽に行えるようになった。またこのようにして賛同意見を表明することにより、賛同された側のメンバ一はモチべーションが高まり、コミュニティ活動への活力も高まると予測される。このことから、賛同の意思表明のようなエネルギーを要しない情報発信を機能によって簡易的にすることで、メンバーにとって参加するとへの支援が二つの面(発信、受信)から行えることが分かった。

4.7.2. 活動の経緯の理解の支援

今回追加した質問機能にような一対一の対話型は、質問を行うメンバーにとって、回答してくれるメンバーに対して「エネルギーを使わせてしまっている」という感覚が強いため、コミュニティ活動の理解への適切な支援方法ではないといえる。また、コミュニティ活動への理解を深めるためには、気軽に質問が行えるよう複数人と対話できるような仕様と表現が必要であると考えられる。

4.7.3. 情報の差別化

検証結果から、新着情報表示離能によって、通常の情報と比較的新しい情報との差別化をすることができたことから、現在話し合われている内容へアクセスすることが容易になったと言える。
しかし、最新の情報を閲覧するだけではなく、結論に至った話題と現在進行している話題との差別化をする必要性があることがわかった。

4.7.4. リーダーシップをとるための支援を行える可能性

検証から、実際のコミュニティ活動では発言の頻度が低いメンバーが、Webアプリケーションの利用を通して、リーダーシップをとることができていることを示すことができた。このことから、Webアプリケーションには、リーダーシップのような運営や管理に非常に近い役割に関与する支援を行うことができる可能性があると言える。

5. 結論

5.1. 本研究の成果

本研究の成果をコミュニティの継統的な活性化を支援するWebアプリケーションに求められる要件としてまとめると以下の通りである。

1) 暗黙的に行われていたメンバー間の交流を可視化し、コミュニティ内のメンバー間の関係性やコミュニティの実態を理解するためのしくみをつくること
2) 情報発信のしきいを低減化できるようなしくみをつくること
以上の2点を注視して支援することよって、各メンバーがコミュニティヘの参加レべルを徐々に高めていくことができるようになり、継続的な活性化の鍵となる運営・管理という役割をコミュニティ全体で協力し合いながら実現することの支援が行えるようになると言える。

5.2. 今後の課題

今後は、コミュニティのメンバーが運営・管理へ参加できるようにWebアプリケーションではどのような支援が行えるかを導き出すこと、また運営・管理の質を維持・向上するためにはどのような点が必要とされ、またそのためにWebアプリケーションではどのような支援が行えるか明らかにすることが課題として拳げられる。

引用・参考文献

1) エティエンヌ・ウェンガーら,『コミュニティ・オブ・プラクティス』)翔泳杜,2002

学習コミュニティにおける支援ツールの利用者に対する能動的行動の有効性の研究−クリエイティブデザイン学科作品データベースを対象として−

[概要]
2002 年度から両角研究室により開発された「デザイン工学科作品データベース」は、学生の制作活動を支援することを主な目的として開発された Webサイトである。また、2008 年度の学科名称変更に伴い、2009 年度から「クリエイティブデザイン学科作品データベース(以下作品 DB と記載)」に名称変更をし、リニューアルをした。
しかし、現状の作品 DB は強制されることで少しずつ登録作品が増加しているが、自主的な登録作品はあまり見られない。また同様に、作品 DB の自主的なサイト訪問および閲覧も見られないという問題を抱えている。

本研究の目的は、作品 DB の管理者が利用者に対して作品 DB に関する情報を能動的に伝えることにより、作品 DB の訪問者と作品登録者を増加させること、および作品を参考にするためのより良い環境を作ることである。そのために他コミュニティサイトを参考に以下 3 つの実装、実行を行った。

a)作品 DBリニューアル
b)通知型メール
c)編集型メール

[作品 DBリニューアル:制作]
リニューアルを行う前の作品 DB の主な問題点は以下の通りである。
・メインコンテンツである作品の詳細ページまでの道のりが遠い。(階層構造が深い)
・作品一覧ページで表示される件数が少ない。
・作品を動画形式で登録できない。
・作品の登録を行うフォームの情報が乱雑に配置されている。
・作品の評価を行うには評価専用のページからでしか行えず、通常に作品を閲覧するページからは行えない。
以上の主な問題点を、作品 DB リニューアルにより改善した。

[作品 DBリニューアル:検証]
●検証目的
リニューアルを行った作品 DB は利用者である学生に対して有効的であるか。
●検証方法
作品 DB のリニューアル後、リニューアル完了のお知らせメールを学生の 111 名に送信。その後アクセス解析ツールにより訪問数を測定。
●検証結果
メール送信日の訪問数は増加することはなかったが、訪問数を全体的に見てみると、作品 DBリニューアル後付近から訪問数が増えていることが分かった。このことから、有効的であるとは言えないが、訪問数が増えた一端を担っていると考える。

[通知型メール:制作]
通知型メールとは、学生が作品 DB に登録した作品が、他の学生に評価機能により評価された際に送信されるメールのことである。以前まで作品 DBには評価機能が単体で実装されていたが、通知機能がなかったため、評価に気付き辛いという問題が見られた。通知型メールはその問題を改善することを主な目的として制作を行った。
また、通知型メールは PC およびスマートフォンデバイスで正常に HTML メールを表示できる「レスポンシブ E メールデザイン」で制作した。[図 6]しかし、メールクライアント別に把握し、表示のズレをなくすのは難しいため、メール送信対象は「yahoo メール」と「Gmail」に絞り制作した。

[通知型メール:検証]
●検証目的
通知型メールにより、学生は自身の作品の評価付与に気が付くのか。また、作品登録を行うのか。
●検証方法
通知型メールの開封数から、どれだけの学生が自身の作品の評価に気付いているのか、また、その後の作品登録の状況から有効性を検証。
●検証結果
作品の評価日に、正常に学生にメールが送信され、開封されていることが分かった。これにより、自身の作品の評価付与に関しては即時的に問題なく確認できていると考えられる。また、このメールを受け取ったことによる作品登録は見られなかった。

[編集型メール:制作]
編集型メールとは、作品 DB に登録されている作品をその都度テーマに合わせてピックアップし、紹介文と共に学生に対して送信するメールのことである。基本的に他サービスにおけるメールマガジンと同様なものであり、作品 DB の管理者が作品情報を編集し、手動で学生にメールの送信を行う。編集型メールの目的は、作品 DB をほとんど利用しない学生に対して、利用する機会を提供することである。
また、編集型メールは通知型メールと同様に、PC およびスマートフォンデバイスで HTML メールを正常に表示することができる「レスポンシブ Eメールデザイン」により制作した。[図 7]

[編集型メール:検証]
●検証目的
編集型メールを受け取ることにより、学生は作品DB を利用する機会を得ることができるのか。
●検証方法
編集型メールの送信後、メールの開封数およびサイトの訪問数をアクセス解析ツールにより計測。また、この検証は 4 回に渡って実施した。
●検証結果
1 回目の検証のみ、サイトの訪問数の増加が確認できたが、他 3 回では確認できなかった。このことから、編集型メールは学生に対して作品 DB を利用する機会を提供できるが、継続して行うことでは効果を得られないことが分かった。

[結論]
各検証の結果から、本研究における作品 DB への効果は薄かったように見えるが、訪問数が昨年度の 2 倍以上増加していることが分かった。[図 8]
本研究における各検証の結果を通して得られた成果は以下の 3 点である。
a) 作品 DB における利用者に対する能動的な行動は、作品 DB の訪問数を増加させる上では有効的であると考えられる。
b) 作品 DB の訪問数の増加が、そのまま作品登録件数の増加に繋がる訳ではない。
c) 学習コミュニティの支援サイトにおいて、他コミュニティサイトの取り組みを適用することができ、効果を得ることができる。[図 9]

活動に適合する道具のデザインプロセス 地域コミュニティの情報共有活動を対象として

ICTを利用した道具のデザインの課題

近年、Facebookやmixi、twitterなどICT(Information & CommunicationTechnology)を利用した道具が生活の中に多く取り入れられるようになってきた。これまでの多くの道具は、家具や食器などに代表される身体的な支援を行う道具が多く、その道具がどのような機能でどのような支援するものなのか一見すればわかるものであった。

しかし、ICTを利用した道具はコンピューター端末内部に存在するため、外見からその道具の機能を見極める事ができない。これらの道具は、自然の力学的な法則に制約されず、デザイナーやプログラマーによって自由に創造されるため、使い手・ユーザーにとってその道具の使い方や機能を理解することが難しくなっている。さらに、道具を開発する姿勢として、製品やサービスの開発は従来製品との違いに重点が置かれる事が多く、また、サポートする活動対象を一部分に絞る傾向がある。そのような開発がなされた場合、新しい技術によって生活を変化させることに主眼をおき、また、活動の全体を考慮していない新製品が生み出される可能性が高いと考えられる。サポートする対象を絞り込み、変化を重視したデザインでは次のような問題が懸念される。

1)それまでにユーザーが培ってきた知識が活かせない
2)ユーザーにとって道具を導入するコスト(新しく学ばなければならないこと)が高まる
3)活動に適合しない道具になってしまう

このような問題を発生させないように、人々の活動に適合し、新しい技術や既存の技術を適切に組み込んだ道具のデザインプロセスが必要であると考える。

このプロセスには、3つの要点があり、これらは道具をつくるときには当たり前の要点でもある。それは、ユーザーの真の要求を知ること、実際に動く道具として道具をつくること、つくった道具を使ってもらい道具を改善することである。

1.必要となる道具を知る[ユーザーの真の要求を知る]

ユーザー自身やユーザーを取り巻く活動の全体像を理解することで、ユーザーの真の要求を知り、ユーザーや活動に必要な道具を知る。

1.1.Codesignによるユーザーの理解[ユーザーの活動への参加]

Codesignとは、対象とするユーザーの活動に参加し、ユーザーに直接会うことで、第三者の視点からユーザーやその活動を分析する手段である。ここでは、第三者の視点からその活動で発生している問題の発見やそこで活動しているユーザーのできることや経験的な知識の状態を知ることを目的としている。

1.2.APBD手法による活動の全体像の理解[APBD手法による活動の分析]

APBD手法とは、5つの視点に分類して活動を書き出し、それらの視点を利用して活動をモデル化することで活動を記述的に分析する手法である。ここでは、活動の全体像を把握し、その活動で発生している本質的な課題の発見やその活動の理想の状態を構想し、活動のあるべき姿を導き出すことを目的としている。

2.つくるべき道具をつくる[実際に動く道具を最も必要な部分からつくる]

ユーザーの真の要求に応える道具の設計や計画を立て、つくるべき道具の全体像を把握し、最も必要な部分から開発する事で、効率的につくるべき道具をつくる。

2.1.道具に必要な機能や表現の設計と管理を計画[Plan]

道具の機能やUIの設計、必要なコンテンツ、開発に必要な技術や日程を計画し、つくるべき道具の全体像を構築する。

2.2.つくるべき道具の全体を把握し、つくるべき機能からつくる[Do]

道具に最も必要な機能から、なるべく本当に動くものとして開発する。そのため、CMS(コンテンツマネジメントシステム)など半分できあがったものを利用する。

3.つくった道具を使ってもらう[実際に動く道具を使ってもらいリデザイン]

実際に道具をユーザーに使ってもらい得た意見を元に道具のリデザインを提案。

3.1.つくった道具を使ってもらい、意見を抽出する[Check]

ユーザーに道具の使い方を講習する講習会などを開催し、実際に道具を利用してもらい、道具の機能や表現の良し悪し、コンテンツの適切性などを確認する。

3.2.抽出した意見を元に、道具をリデザインする[Action]

3.1で得られたユーザーの意見を元に、道具の機能や表現、コンテンツのリデザインを提案する。

TOP

本デザインプロセスを実施することで、地域コミュニティの情報共有活動において道具で支援すべき重要な要素を見出すことができた。それは、地域コミュニティの運営者の運営に対するモチベーションを低迷させないことである。

そのために、地域コミュニティ運営者の活動が地域住民に広く認知されるように、活動を可視化することを提案した。それを実現するために、いつでもどこからでも地域の活動に関する情報(図3〜6)が閲覧できる滝町内会ホームページを開発した。

また、情報リテラシーの高いわけではない地域コミュニティの運営者自身がこのウェブサイトの活用や管理を行うためのサポート、ウェブサイトなどを運営するモチベーション向上をサポートするために3つの支援を行なっている。

1.ウェブサイトの活用方法

ウェブサイトへ情報を配信するための投稿フォーム(図7)や操作方法に関するマニュアル(図8)、それらを使って情報を配信してみる講習会(図9)を開催することで、ウェブサイトへ地域情報を配信して、ウェブサイトを活用していくための方法を支援している。

2.情報の配信者や配信した情報の管理

ウェブサイトへ情報を配信できるメンバーを限定するためのログインCD(図10)やウェブサイトへ掲載した情報の編集や削除を行なうためのページ(図11)を作成した。

3.モチベーションの向上

ウェブサイトを管理するメンバーのモチベーション向上を狙い、ウェブサイトの訪問者を数字化するアクセスカウンター(図2右上部分)を設置した。

分散型コミュニティにおける議論の支援方法の研究-非同期非対面コミュニケーションにおける通知機能の有効性の研究-

背景 – 先行研究で開発されたツール“Diverge”

先行研究では、時間も場所も共有しない、インターネット上の文字を使ったコミュニケーションの問題点を解決するために、「非同期非対面議論ツール“Diverge”」が開発された。Divergeは、「付箋紙」をメタファーにしたWebアプリケーションである。「テーマフセン」に話したい話題を書き、意見を「フセン」に書く。また、複数の意見に投票してもらいたい場合は、「アンケート」を使用する。他の参加者の意見を支持したい場合は、「アノテーション(GOOD!)」を付けることができる。

Divergeの課題

Divergeの開発によって意見同士の関係性の明示化と意思表明のための支援を行う事ができたが、新たな問題も発生した。それが、「フィードバックの問題」である。これは、他の議論への参加者の発言(新たな投稿)が通知されないために、情報の更新に気付きにくいと言う問題である。このため、以下の問題があった。a)継続的な情報の発信や議論がほぼ見られない。b)Diverge上で発言しても、他のメンバーへの周知ができていない。c)もしくは、直接メンバーに伝えなければ、ユーザーが情報に気付きにくい。

通知機能“DivergeNotification”の開発

この「フィードバックの問題」を解決するために、本研究で開発したのが、「通知機能“DivergeNotification”」(図2)である。主な機能は以下の2つである。

【通知:ポップアップウィンドウ(図3)】

これまでで、最も問題だった「他のユーザーの発言に気付かない」を解決するための工夫点である。アプリケーションを立ち上げている間は、5分ごとにDivergeに追加された情報を確認し、最新情報がある場合は、ポップアップウィンドウで更新情報が表示される。

【時系列表示】

Diverge上で投稿された内容を各ボード(Diverge上の議論を行う場)ごとに、最新の投稿が一番上に表示されるようになっている。これによって、ログイン後の経過時間によっては通知が受け取れない場合でも、以前の状態から更新された内容がすぐに分かるようになっている。

検証実験

実際に開発したツールを使い、Diverge上で議論を行った。被験者は本学XDコース3年生6名である。本研究では比較実験を行うために、Divergenotificationがある状態と無い状態で2週間ずつ議論を行って貰った。

検証方法

各2週間の使用後に行ったインタビューと、期間中の議論の経過、Divergeの使用状況から分析を行った。

検証結果

検証実験の結果、DivergeNotificationがない状態(図4)と、ある状態(図5)では、ある状態の方が投稿、ログイン、GOOD!の総数が増加する傾向が見られた。また、DivergeNotificationを使用した方に、継続的な情報発信、コミュニケーションが見られた。さらに、DivergeNotificationを使用した方が、各発言に対する他の議論の参加者からの反応が速くなっているという結果も得られた。

結論

インターネットを利用した文字ベースのコミュニケーションにおいては、以下の要素が重要であることが分かった。

a)非同期非対面議論、コミュニケーションにおいて、適切なフィードバックと高いレスポンス性を持った通知機能。

b)即時的(十数分〜1時間以内)なフィードバックとレスポンスをユーザーに与えること。→これによって、非同期非対面の環境で のコミュニケーションは、連続性、継 続性、関連性を持った交流になること ができる。

c)コミュニティ内で誰がどの様な活動を行ったか、全体で確認できる工夫。 ex.)情報の1次元化、時系列表示

学習コミュニティの情報共有支援ツールの開発

[概要]

新しいことを学び始めるには、多くの労力と時間が掛かる。東北工業大学両角研究室に所属する学生にも同じことが言える。デザインを専門的に学んできた学生がWebサイトやWebアプリケーションを開発する必要があり、一年間の研究の中で、ソフトウェア開発技術を習得することに多くの労力や時間を掛けているのが現状である。
本研究の目的は、新しくソフトウェア開発技術を学ぶ学生にとって学びやすい環境を作ることである。そのために以下の2つの機能開発を行った。
1)ユーザーオリエンテッドな投稿フォーム
2)スキルメーター

[両角研究室Webサイト「morozon」とは]

「morozon」とは、ソフトウェア開発技術の学習を支援するWebサイトである。学生が学んだ知識や情報を「morozon」上に投稿し、共有することで学習支援を行おうと開発が進められている。

[両角研究室の研究プロセス]

両角研究室に所属する学生の一年間の研究プロセスを説明する。
a.調査
対象となるユーザーの調査を行う、実際にユーザーの活動に参加し、問題点や改善点を抽出する。
b.提案
調査から得られた問題点・改善点に対してどの様にサポートを行っていくか提案する。
c.開発
提案物の多くがWebサイトやWebアプリケーションであり、ソフトウェア開発技術を学びながら制作を行っていく。ここで、本研究で制作した「morozon」を利用することで学びの支援を行う。
d.検証
実際に制作した提案物をユーザーに使用してもらい、更に改善をする。検証から新たな要求を抽出し、開発と検証を繰り返し行っていく。

[制作]

1)ユーザーオリエンテッドな投稿フォーム
学生が学んだ知識や情報を投稿する際に、ある程度入力する項目が決まっている。投稿フォームのユーザビリティの向上を目的とした開発を行い、入力フォームの項目を絞り、項目ごとに入力できるフォームを制作することで投稿しやすいフォームになると考えた。
2)スキルメーター
学生同士が学び合いを行う際に、お互いの能力を把握することが必要であると考えた。お互いのスキルの可視化をすることで、学び合いや勉強会に利用できると考えスキルメーターの開発を行った。

[検証]

開発した2つの機能を実際にユーザーとなる人に使用してもらい、提案物の効果の検証を行った。

1)投稿フォームのユーザビリティの評価

○検証方法
両角研究室に所属する学部4年生4名を対象に検証を行った。既存の投稿フォームと本研究で制作した投稿フォームの両方を使用してもらい、比較を行った。
○検証結果
4名中3名が今回制作したフォームの方が入力しやすいと答えた。既存のフォームの方が使いやすいと答えた、1名は既存の投稿フォームと同じものを普段から使用しており、レイアウトを考える労力が他の3名に比べて低いことがわかった。入力項目を絞ることで、入力の際に迷うことが少なくなった。

2)スキルメーターの有効性の検証

○検証方法
東北工業大学XDコース3年生7名を対象にスキルメーターを使用してもらい、フォーカスグループを行った。
○検証結果
コミュニティ内のメンバーのスキルを知ることができるのは良いという肯定の意見が得られた。しかし、スキルの更新タイミングがわからないことや更新しても通知がされないなど、使い方の面で新たな要求が得られた。

[結論]

本研究では、ソフトウェア開発技術を学ぶ必要のあるコミュニティの学習支援を目的として、2つの情報の可視化を行った。
1)学んだ情報の可視化学んだ知識の可視化を行うために、投稿フォームの改善を行った。
a.項目を分割して入力することで、投稿者の作業が分割され、投稿者にとっての労力が少なくすることができた。
b.入力フォームのレイアウトと記事のレイアウトを近づけることで、ユーザーにとって投稿される記事のレイアウトの想像がしやすく、レイアウトを考える必要がない。
2)能力の可視化コミュニティで学習を行っていく際にお互いの能力を確認できるように、スキルメーターの開発を行った。
a.自分の能力を確認できるので、足りない能力がわかる。
b.在学中の先輩に話を聞くのに利用できる。

[参考文献]

1)両角清隆 コミュニティ活動の支援のデザイン第5回デザイン学会第1支部大会 2013
2)COOKPAD[ h t t p : / / c o o k p a d . c o m / ](2013/12/18 アクセス)