多目的空間から構成される現代の公共トイレは、様々な人々のニーズに対応しなければならない。利便性の追求が、私たちの生活スタイルを変化させ、トイレの質を向上してきた。それと同時に、多種多様なアクセサリーとそれを操作するための操作盤によって、トイレブースでは混乱をきたしている。
本研究では多様化が進む現代の公共トイレ空間の特に、トイレブース内のアクセサリー操作盤の配置について考察する。現代にみられるトイレが形成された転換期は第二次世界大戦を挟んだ時期にある。1)衛生思想の普及2)上下水道の普及3)排泄スタイルの統一4)排泄空間の変化、以上にみられる欧米化の影響を受け、清潔症候群、洋式腰掛便器の普及による空間のコンパクト化と製品の画一化、水質汚染、多様多機能のアクセサリーの増加などの問題が起きた。
本研究では特に、多種多機能アクセサリーについて実態調査とアンケート調査を行い、次に展開する。実験調査概要は東日本を中心とした102箇所の公共トイレのアクセサリーを中心に写真をとった。結果として後付で設置されるアクセサリーが多く配置がばらついている。また、公共トイレによるアクセサリー機能の格差による誤使用されている問題がある。公共トイレ利用に関する調査概要は、東北工業大学生80人を対象に、ブースにおいて使用するアクセサリーに関する質問、5項目を設定した。
結果と考察は、利用する目的として最も多かった回答は、排泄行為であった。トイレにおいて多目的化・多様化が進んでいるとはいえ排泄という根本的な目的がある。特にブース禅の思想におけるアクセサリーの位置のばらつきは問題である。予備実験としてブース内の基本動作である紙巻器をとる動作における、条件設定と測定筋の絞り込みを行う。
以上の予備実験により、紙巻器位置の左右、便器から紙巻器までの幅が拡がるほど筋負担は大きくなった。筋負担が少なかった総指伸筋、上腕三頭筋は測定部位条件からはずすこととした。トイレブースにおけるアクセサリー操作盤位置の提案を行い、男女ともに使用されている筋は腰腸肋筋であった。幅よりも高さに筋負担の小さい範囲が広く、動作にゆとりがある。筋に負担のかからない、体をひねらない動作を考慮する’と、操作の配置は便座に座った状態で、全方向で、かつ壁面縦方向に配置することが望ましい。また、アームレストを用いた場合において、立ち上がる時、手に体重をかけて体を起こしやすいようだ。
1.研究の背景と目的
靴は歩行の快適さと、足元の美を演出する代償に人間本来のからだの機能を減退させている。更に健康被害に成り得る場合もある。
本研究では,人間本来の歩行機能を取り戻すために新しいタイブの履物を提案することを目的とする。これが結果的に脚に、人にやさしい履物になると考えている。靴の概念の中では問題を解決不可能と考え、広義の履物の中で展開する。
2.問題の発生
靴は職人の経験からヒールに高さを持たせること(ヒール高差)で歩きやすくなった。更に足底を支えるために靴底の強いしなり(シヤンク)が生まれ、この2つの相乗効果で歩行時の足の筋負担が軽減できる。
しかし、第二の心臓機能と言われるミルキングアクションを低下させることになる。
ヒール高差と筋負担との関係を調べたところ、ヒール高差0皿と15mでは脚の筋負担にあまり差は見られなかった(図1)。
3.コンセプト
素足感覚で歩ける履物
・歩行に使用する本来のパランスの良い筋の構成に戻す
予想される効果
・足の変形を伴う障害の予防
・足の変形を伴う障害の進行を止める又はその治癒
・後退する人間の重心位置があるべき位置に戻る
実現の為に必要な条件
・ヒール高差を無くす→足首の曲げ
・シャンクを無くす→足首の曲げ
・爪先の形が可変できる→足指への加重
・踵の形が可変できる→ホールド性の向上
・サイズ許容量を広げる→足への余分な負荷減
4.試作準備
品質表を中心に細部にわたる設計仕様を決定すると共に改良時にもこれを活用する。
同時に履物の製法やデザイン、歴史を調べ参考となる要素を抽出する。また、材料・道具を決めるためにメーカー、資材店、靴店を調査する。販売員の評価を受けられる様に連絡ルートを作る。
5.試作
靴型はメーカーより借り受けたアルミ製・作業靴製造用・ギリシャ型の26cm・EEサイズと24cm・EEサイズをベースとして試作を行った。
1~5次試作では市販靴25.5~27.0cmの靴ユーザーを対象に、履き心地評価を行いながら26cm靴型で作り込んだ。
6次試作で実験用に8足製作した。更に継続して7,8次試作で改良を加えた。
6.試作の評価と改良
評価項目は品質表から抜粋した表2と評価者の意見に基づき対策案を出し、改良を繰り返した。
1次試作(図2,3)
足長調整の平織りゴムが強く、爪先が曲がる不都合が出た。甲皮の織物も耐久強度に難があり変更が必要となった。
踵のホールド性と幅の調整に関しては評価が良かったが、作成が難しく仕上がりにバラツキが出る可能性があった。
2次試作(図4)
紐の締め付けが強く開放もしづらい。この事によって爪先や幅の適度な調整以前に、モデルの形状が保てず再検討を要した。
クラリーノの質感が適度で安定供給される目処がついたので3次試作より、これを多用することとした。
3次試作(図6)
甲の締め付けを弱くする仕様変更だったが失敗した。紐の編み上げ角度が大きく影響しており、2次試作で確認した。紐の滑りを良くする為に金属D冠を採用することとした。サイズ調整は方策が出ず保留とした。
4次試作(図7,8)
サイズ調整を楽にする為に底を分割し、結合部に伸縮素材と粘着テープを配置した。設計段階で検討内容が薄く、底が突起した状態になり、試用が困難であった。
踵部分も切り離し縫製しやすく、フィット卜する形に変更したが、実用性が低く被験者の評価も悪かった。
5次試作(図9,10)
評価試験に耐えうる試作品が完成した。
踵のクッション材の耐久時間、爪先の一部が変形して水や汚れが浸入する問題が生じた。
6次試作(図11)
1足試作後に前試作の問題確認を行った結果、問題は解決された。
早急に被験者分の靴を追加作成し、評価実験を行なった。
7次試作(図12,13)
防寒、防水面の強化と足長調整をより簡便にする予定であったが、3次試作のサイズ調整を採用としたためにかえって調整しづらくなった。
8次試作(図14)
甲皮主資材の透湿性で蒸れの問題は残ったが、目的とする最終の形まで到達した。
7.履物が血流に与える影響
履物の違いが脚部の血流に与える影響を見るためにサーモカメラで体表温を計測した。
被験者の脚部を昼と夕方に測定した。
通常靴を履いた被験者cと比較して、試作モデルを履いた被験者A,Bは足部末端部の体表温低下が抑えられている(図15)。
8.履物が循環系に与える影響
図16は心拍数、図17は最高血圧、図18は最低血圧を示す。被験者A~Eは自前の靴(ヒール高差10~16mm)と試作モデルを履き、歩行中の心拍数、血圧を測定した。
試作モデルを履いた時の方が循環系の負担は減少する傾向が見られた。これは脚部の筋が協調的に働き(ミルキングアクション)、第二の心臓としての役割が活かされていると考えられる。
9.結論
ヒール高差のある靴、シヤンクのある靴は血行障害を引き起こす要因と成り得る。試作モデルにより、ヒール高差を無くし、サイズ許容を大幅に広げるだけでなく、足の形状に合わせられるようにした。これによってしっかり足にフィットすると共に、足首関節と足の指を自由に動かせられるようになった。このことにより、人間本来の歩行時の脚機能を取り戻す事ができると考えられる。
参考文献
越智淳三(訳):解剖学アトラス第3版,文光堂,1990
小野三洞:あし〔いま、身体について考える〕,風涛社,1975
小原二郎他:建築.室内.人間工学,鹿島出版会,1969
石塚忠雄;靴の科学,講談社,1991
生命工学工業技術研究所:
http://www.dh’aist.go.jp/NIBH/NIBH/ourpages/fcot/j-fOotmorph.html
あるある大辞典:http//www.ktv・co.jp/ARUARU/index・html
◆研究の背景と目的
現代生活において我々は、様々な精神的負担を受けている。精神的負担を測定し評価する方法として、心電図測定、脳波測定などがあるが、最近、前頭部脳血流変化の測定が快適性やストレスの評価に応用されている。この測定方法は比較的容易で被験者への測定による負担が少ない。
本研究では個人の特性に注目し、メンタルワークロード(精神的負担)と脳血流変化との関係を分析し、前頭部脳血流によるメンタルワークロード評価への応用の可能性について検討する。
◆研究の流れ
1.安静時実験
2.精神的負荷実験
3.様々な状況での実験
4.考察
◆近赤外線分光法による脳血流測定方法
近赤外光(700〜1500nm)は生体組織に光透過性を有し、血液中に含まれるヘモグロビンは酸素化、脱酸素化に対し近赤外光領域に吸収体を持つ。
従って、この吸収体における吸光度変化を測定することにより、脳内組織の酸素飽和度や血液速度を外部から連続的に測定できる(図1)。通常、脳活動が上昇すると脳血流が増加する。一般に左右脳の働きは異なり利き腕によっても異なるが、この結果についても近赤外光を用いた測定結果から明らかにされている。
図2に示した測定装置を用いて、前額部に照射検出プローブを左右1つずつ装着し測定を行う。
◆測定結果例
タスク中と示した部分でHbO2とtHbが上昇し、Hbが減少する変化が観察される。これは脳活動と脳血流が増大していることを示している(図3)。
◆測定結果のパターン例(図4)
◆実験1
目的:精神的負荷による脳血流変化を測定する。
場所:東北工業大学5号館2階原田研究室
方法:アメフリ抹消タスク、計算タスクを行う。
図5と図6は被験者E(22歳男子大学生)の結果を示しているが、HbO2、Hb、tHbの変化において、パターン1~3と異なるパターンが観察された(図5)。
被験者EおよびH(22歳男子大学生)で観察された変化をパターン4とする(図6)。HbO2、Hb、tHbは全て上昇している。
さらに、計算タスク中においてHbO2、Hb、t恥の全てが上昇するという変化が観察された(図7)。これをパターン5とする(図8)。
パターン4は臨床的には静脈性鯵血で観察されているが、精神的負担を与えた時にも同様の現象が起こることが、観察された。この場合、脳血液量は増大すると解釈されている。
実験1ではパターン4はパターン1~3よりも多く観察された。
またパターン5が観察された被験者は計算が得意であったことから、パターン2に近い脳の働きをしていることが推察される。一方、パターン4はパターン1に近い状態を表していることも考えられる。
◆実験2
目的:異なるタスクによる精神的負荷時の脳血流の変化を計測する。
場所:東北工業大学5号館B1階院生小講義室
方法:算数、理科、社会、国語のタスクを用いて精神的負荷を与える。実験前に得意、苦手に関して5段階で評価した。
さらに、実験後に難易度について、5段階評価を行った。1:苦手(難しい)~5:得意(簡単)
被験者H(22歳男子学生)は計算タスクでパターン5を示した。得意である算数ではほとんど変化がみられなかった。実験後の評価では国語は算数同様、容易ということであったが、国語では血流の上昇が観察された(図9)。
実験前の評価算数:5理科:5社会:1国語:3
実験後の評価算数:5理科:2社会:2国語:5
被験者I(21歳女子大学生)では、国語のタスク中に左脳においてパターン5と類似の変化を示した。左脳の血流は上昇していると考えられる(図10)。
実験前の評価算数:5理科:5社会:1国語;3
実験後の評価算数:5理科:2社会:2国語:5
◆実験2の考察
パターン4は実験2のタスク中に観察され、パターン1と同様、脳活動は上昇し、脳血流が増大するとも解釈できるが、静脈性診血により脳血液量の増大が考えられる(図11)。
パターン5はパターン4と逆の変化であり、脳血液量は減少していると解釈できる。
一側の脳でパターン5が観察された時、対側の脳の血流は上昇する傾向にあった。これは計算タスクの実験で、最初にパターン5が観察されたときと同様であった。
通常、左脳と右脳で別の変化が起こることは少ない。つまり、左脳の血流が上昇すると右脳の血流も上昇し、左脳で減少すると右脳でも減少する。
パターン5がパターン2と同様であるならば、パターン2とパターン1は脳活動が異なる変化なので、左脳と右脳が異なった脳活動変化をしていることになる。
実験3ではパターン2が観察されると予測出来る状況にて、パターン5が観察されるのかを検証する。
◆実験3
目的;快適な状況で脳血流変化を計測する。
場所:東北工業大学5号館B1階院生小講義室
方法:好きな音楽を聴かせる。
被験者H:男子大学生(22歳)
好きな音楽を聴かせた場合、脳血流が減少する傾向がみられ、左右脳で同時に脳血流が減少することが観察された。HbO2、Hb,tHbの変化はパターン2であった。
HbO2、Hb,tHbの部分的な変化を調べてもパターン4,5のような変化は観察されなかった。
◆実験3の考察
通常は、左右の脳で脳血流はほぼ同様の変化を示すが、本研究では一側の脳でパターン5が観察されるのと同時に対側の脳でパターン1が観察された。タスクの内容によっては、左右の脳で異なった、脳活動、脳血流の変化を起こすことが推察される(図13)。
◆全体の考察
実験結果のパターンについて表1にまとめた。実験1,2-1,2-2,2-3,3は精神的負荷を与えた実験で(脳血流が上昇すると予測される)、実験4は精神的負荷を与えないで、リラックスさせる実験である(脳血流が減少すると予測される)。
脳血流の測定結果の解釈を行うために、パターン4とパターン5のように、臨床的にはやや異常な状態の脳の状態である2つのパターンを中心に表1に示した。これを基に、実験結果の全体について考察を行った。
パターン4については、精神的負荷を与えたときに、パターン1が観察されるような状態において観察されることや、パターン1が観察された被験者でパターン1が観察される同様のタスク実験でも観察されたことより、脳血液が上昇しているとの解釈も可能であるが、脳血液量が増大している。
パターン4は脳活動、脳血流ともに上昇している状態を表しており、本研究においてパターン4が観察される割合は高かった。
パターン1が観察される被験者では、その後もパターン1が観察される傾向があり、パターン4が観察された被験者では、その後もパターン4の変化が観察されやすい傾向がある。この違いにより被験者の適性などの分類ができる可能性が考えられる。
パターン5については、パターン4と同様にパターン2が観察されるような状況において観察されたことより、パターン5はパターン2にみられる脳活動、脳血流の変化と同様の解釈をし得ると考えた。
しかし、研究を進めるうちにパターン5が観察される状況では、一側脳でパターン5が観察され、対側脳においてパターン1が観察された。通常、脳血流に関しては左脳と右脳で別の変化が起こることは少ない。つまり左脳の血流が上昇すると右脳でも上昇し、左脳で減少すると右脳でも減少する。
パターン5が観察された状況でも、左右同じ変化をしていたとするなら、パターン5の変化とパターン1の変化は同じ脳活動の変化を示している可能性がある。
パターン1の脳活動、脳血流の変化はパターン2の変化どはまったく異なる。つまりパターン5がパターン2の脳活動、脳血流の変化と同様ではないと考えられる。
そして、パターン5が観察された被験者で、パターン2が観察されると思われる実験を行ったが、パターン5が観察されることはなかった。
これらのことより、パターン5がパターン2よりも、パターン1に近い状態であると考えられる。
しかし、脳血流は低下する傾向にあるので、血流は減少しているが、脳活動は上昇している状態であると考えられる。
パターン5ではHbO2が減少していることや他の研究結果を考慮すると、パターン2に近い変化であると考えられる。しかし、パターン5は一側の脳で観察される傾向があり、対側の脳ではパターン1の変化を示している。左右の脳は同じ活動の変化をする傾向が多いことや、パターン2が観察される状況でパターン5が観察されないことから、脳全体の活動は上昇していることが考えられる。
すなわち、パターン5に見られるHbO2、Hb、tHbの変化は脳活動が上昇していることを表しているが脳血液量が減少していると考えられる。
同じタスクの実験においてパターン1,パターン4,あるいはパターン5が観察される被験者では、適性などの分類ができるかも知れない。
◆まとめ
本研究では近赤外線分光法による脳血流測定装置を用いて、前頭部脳血流の測定を行い、メンタルワークロードの評価へ応用することを試みた。
HbO2、Hb、tHbの計測結果の解釈には困難な箇所があったが、個人の特性を含めたメンタルワークロードの違いを評価し得る可能性が示唆された。
◆参考文献
○日本脳代謝モニタリング研究会(編):臨床医のための近赤外分光法,新興医学出版,2002
○鈴木雄一,畠山英子,松崎泰賢,森川岳,末吉修三,宮崎良文:,聴覚刺激が脳血液量,血圧,主観評価に及ぼす影響、日本生理人類学会誌6,特2,36-37,1999
○恒次祐子,森川岳,宮崎良文,上脇達也:パーソナリティと生理応答(1)-嗅覚刺激を例として,日本生理人類学会誌7,特1,56-57,2002
1.背景と目的
近年の様々な電気製品の多くは、インタフェースを介して操作しなければならなくなってきた。しかし、大半の製品ではわかりやすさ・使いやすさは必ずしもよくない。それはグラフィカルユーザインタフェース(GUI)の良し悪しだけの問題でなく、シークエンスそのものに要因があるとも考えられる。
本研究では、カーナビゲーションシステムにおけるユーザビリティについて師Iデザインとシークエンス、情報処理の性差から調べ、男性と女性の操作における相違も検討して、性差に影響されないインタフェースの提案を行うことを目的とした。
2.研究の流れ
第1章 序論
第2章 文献調査
第3章 実験・分析と考察・制作一性差について
3-1 市販機器の調査
3-2 モデルA(市販品)調査・実験・分析
3-3 モデルB(市販品を反映した従来型の多機能)制作・実験・分析『群(多数)』から『個(一つ)」を探す
3-4 モデルC(改善型の単純機能化)制作・実験・分析『少数』から『個(一つ)』を探す
第4章
4-1 操作においての性差
4-2 モデルD(提案モデル)制作・実験・分析
第5章 結論
3.実験・分析と考察・制作一性差について
実験・分析を行い、考察をまとめた上で、次に制作するモデルの特徴として示して、それに沿ったモデルを制作した。また、制作したモデルについても実験・分析・考察を繰り返し行った。考察については性差に関する分析なども含めている。
3.1.実験A:市販システム
市場調査・分析などを行ない、市販ナビシステムを対象として市販機器の動向をつかむため実験を行った(図1)。
また分析はプロトコル分析法を用い、実験の過程をビデオカメラで録画して、被験者の発話・行動、その際のシステムの状態から問題点を抽出した。
1)実験
・実験方法:タスクを使用したカーナビの操作
・被験者:男性2名,女性2名(20~22歳)
・使用機器:A社製カーナビゲーションシステム(車載実装品)
・操作手順(タスク)
1.カーナビの起動
2.『住所』から探して行き先へ設定
3.『電話番号』から探して行き先へ設定
4.『ジャンル』から探して行き先へ設定
5.『名称』から探して登録場所へ設定
6.カーナビの終了
各タスクの最後に、入力した内容の取消も行なってもらっている。各タスクの狙いとしては、タスク2は初めて触れる機器の操作、タスク3,4はタスク2に類似した操作で機器に慣れてもらった上で、タスク5ではそれまでと違った内容の操作となる。
2)分析
分析はプロトコル分析にて行い、一画面の情報量、フィードバックなどの問題点を抽出した。
3)考察
分析から、次に何を操作したらいいかがわからない(一画面の情報量)、何を操作したのかがわからない(フィードバック)といったことを抽出した。これらは操作における迷いの原因となるため、感覚的・直感的な操作を妨げない方法が必要になると考えられる。
3.2.実験B:従来型の多機能モデル
実験Aからの考察や、GUIデザインなどを基にして、市販機器を反映したシミュレーションモデルである、モデルB(図2,図3)を制作して実験を行った(図4)。市販機器を反映するということから、シークエンスは実験Aでの使用機器と大きな相違がないように制作を行った。
分析は、実験Aと同様となるプロトコル分析と共に、被験者数を20名に増やした上で、タスクやさらに細分化した経過時間の統計解析も行った。
1)実験
・実験方法:タスクを使用したカーナビの操作
・被験者:男性10名,女性10名(19~22歳)
・ナビ使用歴:なし17名,少数回3名
・使用機器:タッチパネル入力方式のパソコン(TouchPanelSystems社製)
・これら以外は実験Aとほぼ同様
2)分析
プロトコル分析の結果からは、男性は一連の操作やシークエンスの『全体構造』を把握しながら操作していること、女性はその都度に現状を把握しながら操作していると考えられる。そして女性は、操作に迷っていることが少ない。つまり、現状の中から目的の対象を探し出すことが早い傾向にあると言える。
女性の操作時間の短さを明確にするため、各タスクの男女別経過時間(平均値±sD)を示した(図5)。タスク2,5では、その他のタスクと比較をすると操作時間が長い。そして男女間では有意差が見られ、男性よりも女性の操作時間が短かった(p<0.05)。
タスク3,4の経過時間がタスク2と比べて短い理由としては、タスク2,3,4は類似した内容の操作であり、タスク2で操作や画面を覚えることにより、その後の操作における基本的な振る舞いを覚えたと考えられる。
また、具体的に操作時間に差が存在したタスク2のメニューの選択時間(平均値±SD)を比較した(図6)。結果として男女間で有意差が見られ(p<0.05)、男性よりも女性の操作時間が短いことが明らかとなった。
このような差の原因としては、男性は画面を一通り見渡して構造を確認・把握しつつ操作を進める傾向が見られ(図7)、女性は現画面上の目的とする対象を探すのが早く、かつすぐ行動に移している(図8)と推測できる。
3)考察
実験Bの結果、操作について男女間に差が見られたことから、女性は『群』から『個』を探し出すこと、男性は操作しながら『全体構造』を把握していくことが得意であると考えられる。
モデルBは『群』から『個』を探すタイプであるが、モデルcでは『少数』から『個』を探すタイプとして制作を行ない『全体構造』を把握しやすくしたことで、それらが男性もしくは女性にどのような影響を及ぼすのかを調べた。
モデルBとCの地図画面は同様だが、ナビメニューではそれぞれモデルBは多機能の『群』、モデルCは単純化の『少数』という特徴を持たせた。
3.3.実験C:改善型の機能単純化モデル
前述の考察から機能を単純化させたモデルc(図9,図10)を制作して実験を行なうことで、性差によって影響されるであろう操作の相違を調べた。
また、分析はタスクやさらに細分化した経過時間の統計解析のみとしている。
1)実験
・被験者:男性10名,女性10名(20~23歳)
・ナビ使用歴:なし17名,少数回3名
・これら以外は実験Bとほぼ同様
2)分析
各タスクでの男女別経過時間(平均値±SD)では、全てのタスクで男女間では有意差が見られず、性差における相違は見られなかった(図11)。
また、各タスクの経過時間について、実験BとCでの比較を男女別に表した(平均値±SD)。
タスク2では、男女問わず経過時間に差が見られなかった(図12,図13)。これはメニューの改善によりメニュー操作の時間は短くなったが、行き先の設定に時間を要したためと考えられる。しかし男性はタスク3において有意差が見られ、タスク4にも差がある傾向が見られた。これは、タスク2において操作に慣れた、つまり、少ない操作経験でモデルcの『全体構造』を把握することができたのではないだろうか。
なお、女性はタスク3において有意差が見られたが、これは前述のタスク2と3の関係性と思われる。
タスク2では男女間の経過時間に差がない。これは丁目・番地・号の入力後に押す「決定」(図14)が、住所入力の完了をユーザに連想させ、さらに次画面で地図が表示されることで、目的地へのガイドがすでに開始していると感じさせたのではないかと考えられた。
また、実験cの約二週間後に同一の被験者の中から男性、女性各々2人ずつを無作為に選んで行った追加実験(実験cS)ついて分析を行った。なお、実験CSの被験者4人と、実験Cの被験者20人について経過時間の平均値を算出し、両者の経過時間について比較した(図15)。
タスク2,5では、実験Cと比較して実験CSの経過時間平均値が短くなっていることがわかる。
タスク3,4では、実験C,実験CS共に所定の操作以外に要していた時間はほとんどなかったため、それ程の変化が見られなかったものと思われる。
3)考察
実験cの結果、男性に対して『少数』から『個』を探すというアプローチは有効であること、特定の箇所のみの操作性を考えても、その他の箇所とバランスが崩れてしまい、操作に影響をきたすと考えられた。
モデルCは、モデルBよりも男性の経過時間は短く、女性の経過時間には影響を及ぼさなかったことから、モデルCを提案モデル(モデルD)の基本とした。
4.提案・検証とまとめ
これまでの実験・分析から抽出した考察なども考慮しつつ、行き先設定などに関してモデルc(図16)を改善したモデルD(図17)を制作して、検証を行った。
4.1.実験D:提案モデル
制作したモデルD(図17)により、性差に影響されないインタフェースが提案できたかを検証した。
なお、実験CSと同様に被験者数が少ないため、統計解析による分析を行わず、傾向の抽出のみとしている。
1)実験
・被験者:男性2名,女性2名,(21~30歳)
・ナビ使用歴:なし2名,少数回2名。これら以外は実験Bとほぼ同様
2)検証
実験Cに比べ、実験、では操作が円滑に行われていた。また、平均値を比較すると(図18)、タスク2,3,4は実験Dの経過時間の方が短かいようである。
4.2.全体の考察
本研究ではGUIデザインの基本コンセプトと、その実践方法を学び、性差による操作の相違を考えながら、性差に影響されないシステムを提案した。
調査・実験Aから「一画面の情報量」や「フィードバック」などの問題点を抽出して、それらを考慮しながら市販機器を反映したモデルBを制作した。
実験B(モデルB)からは、機器の操作に対して男女の差が明らかとなり、女性は『群』から「個』を探し出すこと、男性は操作をしながら『全体構造』を把握していくことが得意であると考えられた。
実験C(モデルc)からは、男性に対し『少数』から『個』を探すというアプローチが有効なこと、特定の箇所のみの操作性を考えても、他の箇所とのバランスが崩れてしまい、操作自体に影響をきたしてしまうと考えられた。
実験D(モデルD)からは、実験Cと比べ操作時間が短縮されたことと、モデルC同様に性差からの影響による操作時間の差が少ないことがわかった。
以上をまとめたものが、図19となる。
5.結論
性差としては男性が『全体構造』を把握すること、女性は『群(多数)』から探すことが得意といえる。
性差に影響されないインタフェースを構築する方法については以下のことが考えられる。
・よく使う機能を絞り込み前面(上階層)に表示
・全体構造を把握しやすくする表示
・操作の方法や応答を変化なく表示
これらは、性差に関する問題だけではなく、操作にインタフェースを用いる製品の多くに適用することが可能であると考えられる。
参考文献
・B.シュナイーダーマン:ユーザーインタフェースの設計 やさしい対話型システムへの指針,日経BP社,1993
・海保博之・原田悦子:プロトコル分析入門 発話データから何を読むか,新曜社,1993
・A.クーバー:コンピューターは、むずかしすぎて使えない! 翔泳社,2000
・佐々木正人:知覚はおわらない アフォーダンスへの招待,青土社,2000
カーナビの従来の道路案内のみならず、交通渋滞情報の表示、インターネットヘの接続、TV・DVD・CD・MDなどのAVコントロールなど、多様化の一途をたどっており、そこで扱う情報の複数化は避けられない。その複雑化さ故に多くの機能が生かされない、ユーザーが使い切れないのが現状である。それを最小限に抑えるためには画面構成のみならず、ボタンの認知性、操作性などの人間工学的要素の検討が欠かせないといえる。本研究ではカーナビのメニュー画面について、実験や調査を通して問題点を抽出する。更に人間工学的視点より、使いやすさと操作性に重点をおいたメニュー画面設計を行う。
研究の方法は、タスク実験・アンケート調査・比較実験を行い、様々な角度からメニュー画面における問題を抽出する。抽出した問題点の改善案を考察する。抽出した問題点より、シミュレーションモデルを作成。作成したモデルの評価分析実験を行う。問題点を分析し、改良を繰り返す。
メニュー画面における問題点の抽出
一画面あたりの情報量が多い。画面構成、階層構造が複雑である。ボタン、文字が小さい、コントラストが弱い。使われている用語の意味がわかりにくい。ジャンル分類がイメージと一致しにくい。以上の問題が抽出された。
シミュレーションモデルの作成
コンセプトをシンプルな画像デザイン、見やすい大きな文字とし、操作フィールのよいタッチバネルでの入力を採用して、人間工学的視点より押しやすいボタンを考察する。
メニュー画面
カーナビの多機能化が進み、車内におけるマルチコントロールシステムの役割を持ちつつあることを踏まえ、現状の「カーナビで色々なコントロールができる」という概念ではなく、「コントロールシステムの中のカーナビ機能」という概念でシステムのメニュー画面のデザインを行った。
提案したモデルではボタンの大きさを大きくすることで操作性を向上させることができた。また、画面の簡素化によりタスク達成時間を短縮することができた。
Concept
日々技術が進歩する現代において、鉄道車両も共に進化している。ごく稀に車いす等を利用する乗客を見かける。その人には駅員が付き添い、補助を受け、電車を利用している。その光景を見て、自分が車いすの立場で、電車を利用する度に駅員を呼ぶ場面を想像すると、少々利用しづらく、また申し訳ない気持ちになる。先行研究では主に乗降ドアの構造を改良し、スロープを設ける形でバリアフリー化を図ったが、既存車両の改良で、鉄道車両の作りを大胆に変えるものではなかった。そこで、本研究では、多くの人が利用する鉄道車両について車いすを中心に、特に障害を持つ人々の利用も考えた車両の乗降の視点から考え、もっと気軽利用する事ができるようになることを目的とする。
Works ① 車いすによる移乗体験
国内の鉄道において、最もバリアフリー化が進んでいると考えられる万葉線および富山ライトレールで、現在どの程度バリアフリー化が進んでいるのかを、間近に見知る必要があることと、自分自身が車いす利用者の立場になり被験者として実体験する必要があると考え、移乗体験を行った。
体験結果
●万葉線は新型車両を積極的に導入しているが、駅等の施設整備が整っていない。
●新型車両内部に関してはバリアフリーがほぼできている。
●富山ライトレールは車両・駅施設共に共通的な設計がなされ、ほぼバリアフリー化が成されている。
●日本で一番進んでいると考えられる富山ライトレールでも車いすによる自力での乗降はできなかった。
●『バリアフリー』とは車両だけでなく、駅やその周辺の整備も重要である。
Works② 段差と隙間に関する実験
実験計画
体験や調査を踏まえて、どの程度の段差であれば、乗り越えることが可能なのか?もしくは乗り越えることが全くできないのか?その具体的数値を確かめるため、実験による検証を行った。
実験セットの制作
2枚のベニヤ板にL字アングル材を用いて固定し、片方をホーム、もう片方を車両と仮定した。車両側は縦向きのL字アングルを四隅に取り付け、段差高の増減をmm単位で変更できるように制作した。
実験内容
実験内容はシンプルで、実験セットのホーム側に置いた車いすに乗り、適宜設 けた段差と隙間を乗り越えることができるかどうかを確かめる。
実験条件
段差高については、仙台近郊で使用されている在来線車両のホームから車両床面 までの段差が最大160mmであることか ら、10mm~160mmまで、隙間は車いすキャスターサイズの限界値を考慮して、10mm~120mmの範囲で10mm毎に変 化させた。
被験者
私自らが被験者となった。私自身が筋力障がい者であるため、他の健常者よりも握力等の筋力が低いことから、高齢者など、体力的弱者と同等の結果が得られる ものと判断したからである。
実験結果
実験の結果、自らの限界値は隙間は最大60mm、段差高は最大20mmという結果 であった。以上のこのことから、ホームと 車両の隙間は車輪の直径より小さいものであれば良いことが分かった。
Works③ 車体の揺れに関する調査
多くの鉄道車両は乗り心地を良くするため、空気バネ式の台車を装着して走行 ているが、反面、乗降場(駅)では、人の移動 による左右の揺れの発生は否めない。そこで実際の鉄道でどの程度の揺れが発生し、これが車いすなど交通弱者の移動へ どの程度の支障があるのかを検証した。
調査箇所は車体の揺れを観察でき、かつ、分かりやすい結果が得られる駅として仙台駅地下ホームを選定。
調査方法は、ホームで固定カメラを設置。列車の到着から乗降、発車までの一連の流れをビデオで収録し、映像で、どの程度の揺れが発生しているのかを分析した。
結果、画面上では、約2mmの車両の沈降が認められた。これを実数値に換算するため、車体のビート幅を実測。画面上で確認できた沈降を車両のビート幅(330mm)を元に実数値に換算したところ、約26.4mmの沈降幅が発生していることが算出できた。
Works④ 隙間を小さくするための車体形状
現在の在来線を走行している車両は、1両20mの長さで設計され、仙台近郊では4~6両連結して運行している。しかしこの長さでは、曲線部のホームに停車した際、大きな隙間が発生してしまう。普通鉄道構造規則によれば、ホームを設置できる最小曲線半径はR400で、仙台近郊ではJR仙石線の福田町駅が該当した。一方、富山ライトレールでは、2車体連節での車体長が18400mmで、通常よりも小ぶりの車体長と言える。また、富山ライトレール線は、ほぼ同一の規格で直線区間にのみ配置されているため、先の体験で、もう一歩という結果が出たが、このシステムを仙台近郊へ応用しようと考えるとデメリットが多い。例えば輸送力で富山ライトレールの1車両あたりの乗車定員は80名であるが、仙台近郊の車両は1車両辺り130名強。これが4~6両連結されて1列車が構成されるので520~780名が1列車の定員となる。これだけの需要を富山ライトレール式の車両でまかなうには限度があると考えられる。
では実際に、どの程度の隙間ができるのか、尺図を用いて算出したところ、R400のホームに20mの車両が停車した場合、車端部での開きは300mmという結果になった。単純に計算すれば、車両の長さを半分とすればそれに伴い隙間も半減されていく。しかし、仮にこの隙間を60mm以内に収めようと考えた場合の車両長は4m以下としなければならず車両としての機能は欠如し、現実味がないものになってしまう。
したがって車両面からのスムーズな乗降をサポートするためには先行研究で提案したような電動式のスロープや現状のポータブルスロープを使うか、富山の事例のようなまちと一体的な総合デザインが必要になると考える。
[概要]
現在、平野部における広域災害発生時、特に津波発生に関しては、避難経路ルールを明確に示し、実践している所は殆ど無い。この様な地区では、より円滑な避難誘導が必要とされ、内陸部でも、災害発生時に避難を円滑に行い、所定の場所まで誘導する環境が整っている地域は殆ど無い。 本研究は、これまでの避難誘導サインの考え方を見直し、誰しもが認知可能な避難誘導サイン装置を提案することを目的としている。
今研究では、避難誘導サイン制作に必要な、設計項目を抽出するため、実地調査、アンケート調査を行い、それらの結果を踏まえ、方向性を定めた。方向性は、歩行者用及び車用に、ハード、ソフト共に違いがあるため、両者に対しデザインを行う。また、より明確に行うため、関連樹木図、相互作用マトリクスを作成。得られた項目から、避難誘導サインの開発を、LED 技術を用い行っている。当初、対象地域を絞っていたが、今後、同環境下で今研究を活用出来るよう、他の地域に対し、調査と活用方法の検討、検証を行っている。
[サインユニット]
サインユニットの形状は、地中に埋め込む方法を採用し、固定のしやすさ・バッテリースペースの確保・衝撃吸収スペースの確保をしている。また、地中に埋め込むことで、現在一般的に使用されている道路鋲より、地上の凸部分を少なくする事が可能で、ユニット・車双方の衝撃緩和になっている。
給電は、ソーラーパネルによる蓄電。発光の指示は、避難警報と連動し避難誘導を開始する。
発光パターンは、点灯、点滅Ⅰ(0.8 秒間隔)、点滅Ⅱ(0.4 秒間隔 ) の 3 パターン用意している。点灯は、直線や緩やかなカーブ。点滅Ⅰは、車線変更や急なカーブ。点滅Ⅱは、T 字路や十字路などの合流部分と、交差点内における誘導に使用する。
[照射角度・光度・照射距離]
照射角度は、LED の種類と、レンズ部分によって固定し、10 度としている。光度は、緑 23,000〜30,400mcd、赤 30,000〜45,000mcd の物を使用する。
上記から、視認距離は、日中で 60m、夜間で 80m 以上確保している。
照射距離は、先に定めた照射角度から、全車両が視認できる距離が 12mとなる。
しかし、設置される間隔と連続性から、十分な誘導が行えるものとする。
[設置間隔・設置方法]
設置間隔は、高速道の場合 40m間隔、一般道の場合 30m 間隔で設置される。また、一般道の合流地点や交差点付近など、より誘導性を必要とする場所に関しては、10m間隔で連続して 4 箇所に設置する。
設置方法は、高速道の場合、センターライン付近と第一通行帯左側白線に設置。一般道の場合、センターライン付近とそれと対になる間隔で、第一通行帯左側白線または、路側帯に設置する。
左図の様な直線や緩やかなカーブの道では、点灯。交差点などでは、点滅を行うことで、注意を引き、適切な誘導が出来るものとする。
右図の様な本線への合流や、走行する道路が 2 車線以上の場合、十字路や交差点内に、走行の目安となるサイン装置が設置される。
本研究は、東日本大震災を経験した教訓と、各種調査から、広域災害用避難誘導サインのデザイン条件を導き、従来の避難誘導方法(文字やピクトグラム)に加え、既存のサインと併用し避難誘導時に連続的に発光する新たな誘導サインの提案を試み、広域災害時において、提案するサインが避難誘導および避難計画への応用に対し、有効性を示すことを目的としている。
まず調査分析では、東日本大震災被災地域の調査、東日本大震災被災者への避難に関するアンケート・シナリオ調査、宮城県を対象とした津波対応避難誘導サイン設置基準調査を行った。また、アンケート追加調査、南海トラフ地震対象地域の調査を行い、地震・津波に対する考え方と備えの状況から、避難誘導サインに求められる要素を考察した。さらに、アンケート調査結果の「低い」と言う項目に対し検証を行うため、特性抽出実験を行った。以上の調査および実験結果から避難誘導サインに求められる条件をより明確化した。(第2章)
得られた項目をもとに、広域災害用避難誘導サインのデザイン条件を定めた。(第3章)
得られたデザイン条件をもとに、路面上設置を行う避難誘導サインユニットモデルを設計、試作し、それを用いた実験を行うことで、有効性の検証を行い、より実用的なユニットとするための改良点の抽出を行った。改良に向けての条件は、「発光量増加による視認性の向上」「レンズ部分の拡大による視認性の向上」「本体形状の小型化」「設置方法の変更」「路面に設置する形状」「発光色の単色化」である。(第4章)
改良に関する条件をもとに、改良型避難誘導サインユニットの試作と実験を行った。
実験結果から、提案した避難誘導サインユニットは、LED光源を用いて避難誘導情報を発光で表すことにより視認性が高まることが認められた。点滅の視認性は、早い点滅の視認性が高い結果となった。さらに、分岐点手前10mから5mに設置するサインでは、進行方向先に交差点や分岐点の存在を示す情報として遅い点滅を用いることにより点滅速度の違いを利用し効果的な誘導が図られると考えられた。しかし、提案のサインユニット単体では、誘導経路において迷いを生じていることが判明し、避難誘導サインとして情報が不足していることが伺える。この問題に対して、従来の避難誘導サインと、本提案避難誘導サインを組み合わせることにより、避難誘導経路の明確化および避難情報の整理が図られると考えている。(第5章)
実用化に向けた提案では、生産モデルの仕様を定め、実用化に向けた要求スペックおよび構想図面を提案した。また、避難誘導サインユニットの敷設構想を静岡県浜松市沿岸の地域を例にとり提案した。さらに、実用化に向けた課題として、(1)性能への課題(水没、積雪など)、(2)併用への課題、(3)凸形状による課題(4)耐久性の課題(5)制作費用の課題(6)保守管理の課題についての挙げられる課題点と予測される対応策から、今後の検討課題を考察した。(第6章)
以上の結果より、広域災害発生時に有効な避難誘導を図る目的とした避難誘導サインユニットは、連続的な発光誘導サインを用いた避難誘導計画への応用に対し、有効性を示すことが出来たと思われる。