我が国の農山漁村では、地域に散在する資源・環境を活かして、価値を生み出す技能をもとにした美しく地域らしい「生業景」が育まれてきた。中でも、乾物を生産するための「干す」行為がかたちを持って現れている「干し場」は、生業景の代表例の一つであり、地域の伝統的な食文化継承、地球温暖化が深刻な問題となっている現代において、自然エネルギーを利用する生産方法は、これからの環境問題を解決する策にもなりうる。本研究では、地味と気候風土を活かした干し場の中でも特に、東北地方における凍み大根の干し場の空間および設えの構成と特徴を、生活と生産、地理的条件から複合的に考察し、明らかにする。
各地域の地理的条件などと干し場の関係性を、実地調査などを踏まえて比較考察した。ここから、短い日照時間を有効に活用するため、屋根を西に向けて高いく設置し西日も取り入れている点や、雪を自然の足場として利用している点、商品化に伴い生産量を増やすため干し場に変化が生まれている点などが分かった。中でも、丸森町筆甫のS宅で行った「へそ大根」の干し場周囲の微気候調査においては、干し場は敷地内の中でも、一日の寒暖差が大きく相対湿度が低い、日照時間を十分に得ることのできる場所に設けられていることが分かった。またS家のへそ大根の生産は、住居に近傍した場所で必要最低限のエネルギーで行われ、干し場は日光の当たり方や寒暖差を考慮して形成されていると考えられる。
以上より、干し場には、地域の地理的条件、その生業の背景なども深く関わり合い形成され、生産に最も適した形に作られており、地域の微小な気候が深く関わっていると考えられる。
丸森町筆甫へそ大根農家敷地図
オモヤ軒下の干し場
単管とワクの干し場
風速
外気温と相対湿度
宮城県大和町龍華院庭園の石組みと配置構成にみる思想世界の表現について
ー仙台地方における近現代の日本庭園に関する事例的研究ー
日本庭園の歴史と景観の秀逸さは世界に類をみない。最高峰とされる事例の多くは京都をはじめとした西日本に多く、その形式も池泉の有無、回遊式、枯山水、露地庭、借景など多彩なものがあるが、東北地方の庭園研究は必ずしも進んでいない。「杜の都」と呼ばれた仙台にも多くの庭園が存在していたと考えられるが、史跡や寺院の一部に古いものが残るほかは近現代のものが多く、現存する庭園の特徴を解明することは重要である。
一方、近現代の寺院庭園で有名な存在として、重森三玲がいる。その弟子にあたる小山雅久は宮城県出身で、県内に実作が多く残っている。本研究では、小山が手がけた龍華院庭園を事例として、その石組みと配置構成にみる思想世界の表現について考察する。
龍華院は、宮城県黒川郡大和町東部に位置する臨済宗寺院である。A西南庭、B南庭、C参道庭、D主庭、E西庭、F北庭、G中庭と、計7ケ所の庭を有する。重森流技法に連なる枯山水を核とした作庭がなされている。まず素材面を整理すると、枯山水庭園では、役石を用いた石組が景観のポイントとなるが、(1)施主支給による台湾石、(2)福島産石材、(3)鳥海石などがよく使われていた。すなわち、寺院の側でも庭園の構想があったと考えられ、昭和後期から平成期にかけては建材、木材の輸入が進んだ時期でもあり、構想に合致する石材が集まっていた。こうして、現場の地形や植生を下地としながら、効果的に石材が配された。
また配置構成面では、自らを牛に例え悟りの物語をモチーフとした「十牛図」、試練を乗りこえる「龍門瀑」、浄土に渡る「二河百道」、犠牲を払って教えを請う「達磨絵」など、仏教系の物語をモチーフとした思想世界とその具現化が図られていたことが分かった。
地方都市における街路空間の有効活用方法に関する研究-仙台市の中心市街地に着目して-近年、人口減少や少子高齢化を背景に、持続可能性の観点から、都市のコンパクト化やストック型社会に向けた提案が行われている。我が国においても今まで使われてこなかった公園や道路といった公共空間のみならず、公開空地といった民地の利活用も推進されている。なかでも街路空間は、著名な祭りをはじめ、多様な市民活動を支えるオープンスペースの一翼を担う重要な空間であり、地方都市の景観を代表するものである。
本研究では街路空間の有効活用方法に着目し、近年すすめられている新たな活用事例、社会実験などについて参与的・実践的に関わり、その実情を明らかにすることを目的とする。これからの地方都市における豊かな街路空間の創出・育成方法についての知見を得ることをめざしたい。
「街路空間」の定義を、①空間的特徴の観点、②活動の観点から行なった。「街路空間」は都市における通りのうち「①空間的特徴として、歩行者優先の「みち空間」と、公開空地や公開空地等の「沿道空間」が一体的に歩行者の利用に開かれている、②活動として、交通・移動に加えて、来街者や地域組織が主体的に導入する多様な活動を受け入れる」とした(図1)。
広域の空間的形態として都市の市街地構成を捉えるマクロな視点から、市民活動の実例からの考察や仙台市内で行われた社会実験(図2)からの考察といったミクロな視点へ研究を進めた結果、来街者が交通・移動のみならず、主体的に多様な活動が行われるためには、街路空間周辺の地域組織や事業者、行政といった関係者各位の連携が街路空間の有効活用方法に大きく関わってくるとまとめる。
メガソーラー発電設備が中山間地域の生活景に及ぼす影響近年、生活景や里山景観と呼ばれるものへの関心が高まってきている。持続可能な開発目標(SDGs)を待たずとも、我が国は自然と人間の営みの歩調をあわせる循環型社会が構築されてきた。
本研究では、宮城県丸森町において起こっているメガソーラー発電設備の開発にかかる地域の実情を明らかにし、同様な状況にあると思われる多くの中山間地域の変容状況を推察しつつ、その生活景に及ぼす影響について考察する事を目的とする。
全国各地の市町村は、景観行政団体として景観計画を定めた。しかし景観保全の実効性には課題が多い状況にある。宮城県丸森町でこの問題を考える好例として2地区を視察し、特に開発後の設置影響について注目が集まっている耕野地区において、地区内11行政区の区長にアンケートをとる事で、どのような影響が起こっているかを明らかにした。問題点を感じている声は少なくなく、特に井戸水の枯渇のような具体的な被害に至っている家もあるなど、看過できないエリアも存在する。一方、山の管理ができているかで一定の評価をする声にも配慮せざるを得ないなど、その苦悩と人々の分断が指摘された。
再生可能エネルギーという技術の進歩が環境の悪化を促進してしまうのは本末転倒である。未来を思う再生可能エネルギーと過去からの生活景を継承する人々の意思を良い状況に着地させる、総合的に地域環境を活かす方法を、引き続き考えなければならないだろう。
天然スレート民家の成立過程に関する研究―南三陸町入谷の屋根替えに注目して―本邦の地方建築には、大谷石や鉄平石など天然石材を活かしたものがみられる。共通することは、石質の特徴を巧みに利用し明治期以降、建材利用を目当てに積極的に採掘・加工され、都市の需要を満たしつつ、産地周辺の民家等建築にも利用され、地域の特徴的な建築として現在に至っていることである。
本研究は陸前地方 の天然スレート民家を本研究の対象とし、屋根の葺き替えに注目し、現地調査と資料調査からその成立過程を明らかにすることを目的とする。一方、宮城県南三陸町入谷地区は、以下の2点において本題を研究するのに適している。
① 中山間集落にあって、自然災害等による滅失が少なく、よって天然スレート民家が集中的に現存し、地域的特徴がよく遺っている。
② かつて石材採掘を行っていた遺構が残存し、そのことを示す古史料を地区内の民家が所蔵している。
この地区の農家の屋根が天然スレートに葺き変わっていく過程を明らかにすることは、集落空間への影響の一端を捉え、以後の天然スレート民家研究に対して、幾許かの視座を与える可能性がある。
そこで石材採掘に関する史料解読分析(第2章)、入谷地区の天然スレート民家の分布状況(第3章)、葺替え工法と家屋改造および生業との関係(第4章)および具体事例の家作考証(第5章)について検討を進めた。単様にみえるスレート屋根群は、集落の多様な機微を表出していることを調査から得た。さらに屋根替えにおいては、恒久素材に葺き替えただけの家作行為ではなく、生活様式と社会事情の変化、さらに生業との密接な関係の中で変容した民家の様相を呈していることを明らかにした。その様相は、茅刈り場の利用形態にも影響をおよぼし、屋根以外の村落景観にも波及していたことが露わになった。
写真上 南三陸町入谷の天然スレート民家とその景観
写真下 入谷地区に残るスレート開発にかかる古文書
*ノーマルデザインアソシエイツ(建築設計事務所)主宰,社会人修士/おもな参考文献|1) 石田潤一郎:INAX ALBUM5 スレートと金属屋根 1992 2)谷口大造:宮城県における国産天然スレートの利用過程と意匠について, 日本建築学会大会梗概集 1988 3)立川日出子:三陸地方における天然スレート屋根の普及と施工, 神奈川大学院歴史民俗資料研究 第 3号 1998 ほか
仙台地方における木製建具の近代史と継承に関する研究第 1 章 序論
1.1 はじめに
伝統的な日本の住まいは、一般的に開放性や連続性にその特徴があるとされる。ゆえに、内外や空間同士をつなぎ、あるいは仕切ることができる建具の存在は重要であり、建築そのものの特性がもっとも良く反映される部位の一つといえる。一方、建具と深く関わるものに家具があり、これはともに「指物技術」を応用して造られるという共通点を持っている。これまで伝統的な建具については、西日本の事例を中心に様々な著書・論文があり、また家具については、小泉和子らが通史的内容を明らかにしてきているが、それらの中核は近世建築史であった。一方、建具そのものは近現代に大きな変革を遂げ、特にいわゆるアルミサッシが普及して以降は、伝統的な建具を「木製建具」と呼称するようになる。しかし、伝統的な木製建具と、アルミサッシに類する現代高性能建具・枠材との間にはやや断絶があり、「木製サッシ」といわれる中間的な存在があるものの、その技術は北欧由来で、地方の木製建具生産者とは結びついていない。
仙台地方では、例えば仙台箪笥が有名であり、小泉氏(前述)は近代前期(明治−昭和初期)を中心に、その歴史を解明してきているが、当地方における同時代の建具はというと、判然としない。
他方、近年は高断熱、高気密化といった開口部に求められる性能が厳しくなることもあって、遺構そのものの実地調査が急務となっており、ましてや新規外部建具に伝統的意匠を期待することはほぼ困難となりつつある。今後は、伝統的な建具の生産は内部建具に限定されいくことが予測される。こうした過渡期にあって日本建築・空間意匠の中核をなしてきた木製建具と言う存在をどのように継承していけるのか、これを支える地域技術者の現場に近接して考える最後の好機を捉える事もできる。
そこで本研究は、仙台地方における住まいの木製建具の近代史を明らかにし、その継承を考察するための基盤的知見を得ることを目的とする。
具体的には、文献調査のほか、当地方の遺産住宅の実地調査、これらの修復に関わる伝統職人・業者へのヒヤリング、そして修復現場の取材を通して、当地方の木製建具技術の近代史と現状を明らかにしていく。また、これらをもとに、木製建具に関わる伝統技術の継承について考察を深め持論を述べる。
1.2 研究方法と論文の構成
本研究は、以下のとおり進めた(図 101)。
[ 第 2 章 ] 住宅と木製建具の通史概略
既往研究をもとに建具・建具職人の歴史に関する著書・論文・資料を通読し、本研究で検討する建具の位置づけを明らかにして、仙台地方の木製建具の近代史における仮説を提示する。
[ 第 3 章 ] 仙台地方の遺産住宅と外部建具の近代変容
第 2 章を踏まえ、仙台地方の近代遺産住宅の聞き取り調査および建具の観察を行い、前章の仮説に関する実証を行う。
[ 第 4 章 ] 木製建具の製作に関わる職人・業界の現状
第 2 章を踏まえ、木製建具の製作を生業としている建具業者に生産環境・生産内容等を聞き取り、建具生産の状況と建具職人の傾向を明らかにする。
[ 第 5 章 ] 遺産住宅の再生修復事例における建具工事の実態
第 3 章・第 4 章を踏まえながら、修復される遺産住宅の現場において、どのように伝統技術が用いられ、あるいは代替されるのかを観察分析し、木製建具及び技術の継承について考察を行う。
図 101 論文の構成と研究方法
単身者の職住スタイルとシェア居住に関する研究 ─ 仙台におけるコ・アトリエ付きシェアハウスの創出実践を通して─本研究では、人との繋がりを創出しうるシェア居住の現状と将来像を探る事を目指して、特に職住の一致や近接、連携に着目したシェア居住の在り方・運営方法について文献や実地調査及びデザイン実践を通してまとまった知見を得る事を目的とする。
まず文献調査として、既往研究もとにシェアハウスやその運営方法に関する著書・論文・資料を通読し、本研究におけるシェア居住の定義を明らかにし、「シェアオフィス」「コワーキングスペース」といったワーキングシェアについても既往研究、事例を整理した(第2章)。
仙台地方の実地調査では、仙台市内で展開されているシェア居住運営者にヒアリングを行い、空間や運営の傾向と懸念される課題を抽出した。仙台の事例の多くは、留学生や短期居住者を対象にしたゲストハウスタイプのシェア居住であったが、運営開始時期が近年になるにつれ、空間的な部分だけでなくライフスタイルまでも付加価値として着目してい
る事例がみられる。この要因のひとつとして、運営者がシェア運営において特に運営面に今後の課題と可能性を見出していることが明ら
かになった(第3章)。
実地調査で得た結果をより多面的な視野で捉えるとともに、仙台においてのシェア居住のニーズや職住一致の可能性を抽出するべく、文献・既往研究を再度整理した。仙台において、ライフスタイルに着目したシェア居住は、何れも起業や人材育成等、ワーキングをコンセプトとして運営を行っている事例が多い。特に、共用空間でのイベントや使用法はワーキングシェアのように地域を包括した展開がなされていると同時に、外部の人物や起業が介在して専門知識や技術を教授する場としても活用されている事が明らかになった(第4章)。これら職住一致の可能性を更に検証するべく、女性クリエイターを対象としたコ・アトリエ付きシェア居住創出プロジェクト“JAM:Johzenji Atelier Meets”に著者が参画して計画及び実行にあたった(第5章)。
以上をまとめ、結論を述べるとともに(第6章)、デザイン実践で製作した活動資料等を資料編に添えた。
第1章 はじめに
1-1.研究の背景
現在の住まいと住まい方はコミュニティの希薄化が問題になってきている。シェア居住に代表される、人との繋がりに価値を見出す住まい方は、とくに単身者にとって、今後多様化する住まい方に対応した一つのモデルになりうると考えられる。既に首都圏では実践事例が多様に展開されており、これらに着目した研究は、ハウジング(住宅供給)や不動産的視点について検討したものから居住者像に着目したものまで、様々報告されている。
一方、ノマドワーカーのような新しい働き方についても報じられているが、両者を統合的に扱った研究や実践例は管見されない。単身者の働き方を含めたライフスタイルを統合的に捉える研究が必要である。
他方、所属研究室では地方都市仙台の中心部の一角に職住一致型のシェアハウスを創出する中古ビルのリノベーションプロジェクトに参画しており、筆者はこれら中心的に関わっている事から、本題目を実物を通して検証、考察する実在環境を有している。
1-2.本研究の目的
本研究は、人との繋がりを創出しうるシェア居住と職住スタイルの現状と将来像を探ることを目指す。そこで、シェア居住やコワーキングスペースの在り方、運営方法について、文献・実地調査及びデザイン実践を通してまとまった知見を得ることを第一の目的とする。また、職住一致型の工房付シェアハウスの創出プロジェクトを通して、その可能性と課題を抽出することを、副次的な目的とする。
1-3.論文の構成
まず、既往研究をもとに本研究におけるシェアハウス、コワーキングスペースの概念整理を行う (第2章)。つづいて仙台市内のシェア、コワーキングに関する事例調査を行い、特に居住運営者にヒアリング調査等を行って、その特徴を明らかにする (第3章)。そのうえで、第2章の文献と第3章の事例・調査結果を整理し、職住一致型シェア居住の在り方を複合的に考察する(第4章)。他方、第4章で整理した結果・情報をふまえながら実際にシェアハウスの空間計画から運営、企画まで実践を行い(第5章)、以上、文献調査およびデザイン実践で得られた結果を整理し、結論を述べる(第6章)。
第2章 既往研究にみるシェア居住とコワーキングスペース
2-1.シェア居住普及と単身者のライフスタイル
シェア居住は、賃貸受託史上の終着点ともいえる単身生活者への住宅供給が民間ベースで進み、リノベーションと言われる安価な手法でシェアハウスが広まった。その普及率は2005年意向を目途に急激な普及率をみせている1) 2)。この要因の一つに単身者の増加や生活の多様化が挙げられている。単身者のライフスタイルは、個人の自由度を重要視する一方、世代や性別職住の在り方、趣味等をとおしてコミュニケーションの可能性を含んでおり、これがコモン性を生む因子となりうると考えられる。
2-2.シェアハウスの増加傾向
三菱UFCリサーチ&コンサルティングのデータ1)によるとシェア居住は日本全国で2005年までは21件以下であった。しかし翌年以降、急激に増加を続け2013年3月末時点では累計給付物件数は1,400物件、約19,000戸まで増加している。また同年以降、シェア居住事業に参入する事業者も急増しており、2013年では394社にまで及んでいる。
その背景には①単身者の増加・ライフスタイルの多様化、②住宅ストック対策③インターネット普及による希望者のインフラ解消等が影響している事が示唆されている3)。
2-3. 単身者の住生活の現状と住要求
首都圏を対象にした鈴木らの研究4)では、単身世帯の年齢層は30歳以上の中高年が半数を占めている一方で、24歳以下の若年層も多いという。また、収入層の多くは100~300万円に集中していることから一般世帯と比較すると低収入層に位置する。単身世帯と複数世帯で大きく異なる点として、単身では「教養・趣味」「娯楽」、複数では「将来の蓄え」「子供の教育」が多い。
加えて、「コミュニティ意識」、「社会参加の意識」が複数の場合は高いのに対して単身はかなり低いとされているが、男女別で見てみると男性よりも女性の方が「コミュニティの意識」「住宅の安全性」が高い。
2-4.シェア居住の2つの運営管理方法
シェア居住とは一つの家屋または居室を複数人で共用する賃貸住宅で、居間、台所、風呂場、トイレといった空間を共用する。他にも「ルームシェア」「ホームシェア」等、呼び名は様々あるが、これらはその管理・運営法によって2つに分類されている2)(図1)。
2-5.コワーキングスペースについて
コワーキングスペースの空間構成は大きく分けてオープン・ブース・個室の3つからなっている(表1)。個人が占有する空間になるにつれ、コミュ二ケーション不足の問題が挙げられている5)。利用者はその利用頻度によってライトユーザーとヘビーユーザーの2つに分類されている5)後者は、「職」に高い意識・関心を持ち、コワーキングスペース運営者、使用者共に密接な関係を築いている事が明らかになっている。
第3章 シェア居住等の実態調査
3-1.仙台のシェアハウス運営実態
仙台市内には首都圏と比較すると事例数は少なく、運営稼働が比較的新しい物件が多いが、居住者と運営者がシェア居住に対して相互に生活の付加価値に着目している事が示唆された。また、居住者の中には運営を積極的に担う人物がおり、運営者と協力しながら運営を行い、管理人を介在させる運営よりも円滑に運営ができるという報告もなされた。
調査は既往研究を参考にヒアリングシートを作成し、運営者と居住者に平成28年7月から11月の期間までヒアリングを行った。調査結果は調査シートにまとめた(表2参照)。
(2)選定対象・ヒアリング項目
ヒアリング項目は大きくわけて6 項目である。事例調査より著者が知る限りでは宮城県には平成28年度時点)。実地調査ではそのうちの仙台市内で運営されている6社のシェア居住の7件にヒアリングを行った。
3-2.仙台のシェア居住事例調査結果
運営者と居住者は何よりも「運営」に着目している。運営者の場合、事例の中には設備や共用空間を充実させるだけでなく、運営の方法等を重要視している。また、地域性を考慮したシェア居住の運営や在り方に懸念を抱く運営者が多い事が明らかとなった。一方、居住者の場合、とくに事例で共通して見られたのが居住者による運営介在である。事例H1、H3、H6では家賃の値引き等を条件にシェア居住の管理、運営、清掃等を一括して請け負うケースもみられた。
このことは、居住者のシェア居住に対する意識が生活の質を含めた住要求であること事が示唆され、事実、昨今では「家守」と言われる家屋と運営を管理する事業体が出現してきたことからもうかがえる6)。
3-3.仙台市のコワーキングスペースの事例調査
仙台市内には平成28年度現在で稼働しているコワーキングスペースは8件確認されており、基本的に空間構成・特徴は事例と酷似している。
仙台の事例では基本的に新築は少なく、リノベーションを行ったものがほとんどである。オープンのみ等やワーキングスペースが小規模なものは本棚を建具代わりに使用してバックヤードスペースを設けたる等の空間的工夫がなされていた。またオープン、ブース、個室以外に休憩スペースが設けられており、サロン空間として使用されている他、外部とワーキングスペースの中間領域として設けられている傾向があった。
第4章 単身者職住空間の共通点と課題
4-1.単身者職住空間・運営要素の共通点
実地調査より、シェア居住とコワーキングスペースそれぞれを3つのタイプに分類し、比較した結果、空間の要素、使用方、運営等にいくつかの類似点がみられた(表3)。シェア居住の場合、共用空間にて、ワーキングに即した使用法がなされている事例がみられる。例えば事例H1では、共用空間を地域住民を対象とした勉強会やセミナー等が開催されている。また、H2ではシェア居住のコンセプトに職をテーマとしている等、事例Eでは居住者がワーキングスペースとして空間を使用していたケースも報告されている。一方、コワーキングスペースの場合、前述した事例W6,W8でみられたシェア居住のように、居住空間に加え、共同キッチン等の生活環境に留意された設備がみられた。
4-2.運営・空間の多様性からみる職住の可能性
シェア居住とコーキングスペースは各々が多様な運営要素を含んでおり、特に働くことに着目した価値観の捉え方や空間の工夫は、ワーク環境に留意したコワーキングスペースのみならず、シェア居住にも影響を及ぼしていることが伺われる。
しかし、空間的な共通点や運営要素が多々みられる両者を統合的に扱った、ビジネススタイルや事業体は仙台では管見されていないことから、職住空間の課題と同時にその可能性が示唆される。
実践
5-1.目的と概要
本プロジェクト(JAM:Johzenji Atelier Meets)は、東北各地で将来の産業創出の礎となるものづくりを志す人物が、自身の創作力を伸ばし、コミュニティ・ネットワークを形成して企業することを支援するため、東北の結節点として情報が集まる仙台市街の立地性を活かし、創作と居住が共存する場を安価に提供する事を目的とするものである。このJAMは職住一致型のシェア居住であり、前述した企業を目指す若者を対象としたクリエイター専用のシェアハウスを現在企画した(図3)。
5-2.体制・プロセス
本プロジェクトの発端はS設計事務所のリノベーション物件であるが、その後、所属研究室に相談があり、平成27年9月から平成29年度3月まで、著者と設計事務所社員1名が主体的に参画して運営、広報活動、空間計画、イベントの開催等を行った。対象となる物件は5階建のビルでリノベーションした範囲は2階部分にあたる(約50坪)。
5-3.企画コンセプトとリノベーション実態
当社の予定では、居住だけに着目して計画を行っていたが、居住者のライフスタイル・職業
が暮らしの中に活かせるように共用空間使用の多様性を重視した。個室空間では扉開閉により、生活空間を大きくする事やプライベート空間に切り替えられるように工夫をした。
5-4.活用
平成28年9月16日より、女性を対象としたワークショップをJAMブース内で開催した。運営参加者は2名の女性の個人事業者で、それぞれがフラワーショップ・雑貨喫茶点を経営している。このワークワークショップでは著者と設計事務所職員1名とでワークショップ実行員会を設け、空間計画、企画、広報活動、実行にあたった。ワークショップでは9名の女性参加者を獲得することができた(図5)。 また10月からワーキングテナントとして貸し出しを行った結果、首都圏を中心とした企業や団体の使用者も獲得することができた。
6章 結論
既往研究整理(第2章)では、シェア居住は運営側から見て2分類されることが明らかとなり、賃貸住宅史上の終着点ともいえる単身者のへの住宅供給が民間ベースですすみ、リノベーションと言われる安価な手法と様々な社会背景により急激な普及をみせた。また、コワーキングスペースではゾーニングとユーザーの関係から空間特質を整理できると考えらえた。
実地調査(第3章)では、仙台の事例を調査した結果、事例数はすくないが11件の報告例があり(平成28年度時点)、既往研究で前述した現象は地方にも及んでいる。特に、実地調査では運営体に介在する人物や、運営者が今後の課題として、地域にあった運営法の懸念をしていることが明らかとなり、運営法や地方のシェア居住の在り方を、今後はとくに捜索する重要性が伺われた。既往研究や事例調査をさらに整理すると、仙台のシェア居住とコワーキングスペースは運営法や経営方針に様々なタイプに分類されることが明らかとなった。また、両者には各空間の住むことや働くことに留意された空間要素が含まれており、要因として、各空間の働きをより効率化させる一つの手法として、ユーティリティースペース(有用空間)の重要性が考えられた(第4章)。
JAMプロジェクトの実践(第5章)では、とくにこれに留意した職と住空間を内包した共用空間、居室の計画や運営展開の実践にあたった。その結果、ワークショップやイベントを通じて利用者からは共用空間と居室の関係性を明確にする点やプライバシー問題に懸念する報告がみられた。加えて、ワーキングテンナントとして貸し出しを行った結果、利用者の多くが県外の企業に集中していたことから、情報伝達や発信法に課題がある可能性が考えられた。これに関係してシェア居住には情報を発信する人物や運営計画に介在する人物の必要性も明らかとなり、職住一致型のシェア居住においてはその人物の人脈やキャラクターが大きく影響を及ぼすと言える(第6章)。
本研究は東北地方に存在する手づくり市場の空間的特徴とそれらを構成する三主体の実態について考察を行った。
まず、手づくり市場の発生プロセスや近年の都市部における先行研究を参照・概括し、マルシェと呼ばれる催事との混用にも留意しながら、本研究の示す「手づくり市場」の位置づけを明らかにした(第2章)。
次に東北地方における手づくり市場の事例を68件抽出、類型化した。公共施設を活用した季節やベント的なものから、定期的なものまで様々であるが、後者は人口集中地区に存しており、中心市街地における手づくり市の役割が浮かびあがった。 (第3章)。
さらに、うち13件の市場運営者にヒアリングを行った結果、多くが写真選考を行っていること、主催者のコンセプトが反映されやすいことが伺えるとともに、主対象2例においては、出店者・利用者の双方へのアンケートを行うことで、集客や売上よりはコミュニケーションを重視する傾向があることもわかり、販売の場としてだけではなく、商品に対する評価や人々の交流の場としての役割を担っていると考えられた(第4章)。
加えて、手づくり市場を実践することで、企画から開催プロセスを通して、出店者調整、場の調整、広報という3つの重要項目があることを示した(第5章)。
以上より、東北地方において、近年活気をみせている手づくり市場は、豊かな資源をもとにした様々な産品を商うとともに、それらの展示や体験、そして何よりもコミュニケーションの場として機能している事例が多いことが分かった。やや交通の不便な地域では中心施設を活用した季節イベントとして、人口集中地区ではより定期的な市として、地域の多様化に応じて企画・運営もまた多様化に展開している。