肢体不自由のための手の作業訓練具のデザインに関する研究

障害のある子どもの全人間的な社会参加を目指す療育(子どものリハビリ)において、遊び要素を訓練に導入するための手法の構築が求められている。また、子どもの成長に伴う症状や身体機能の変化により、リハビリテーションで使用される訓練用具に求められる寸法や形態も変化することから、その改良の際に生じる様々な問題を解決するための生産手法の検討も求められている。
そこで本研究は、上肢機能障害を持つ子どもの手作業の訓練に着目し、それらの訓練用具に求められる機能・形態・素材の探求を通して、楽しみながら積極的に訓練に向かうことのできる作業訓練具のデザイン開発と、そのための生産手法を考察することを目的としている。

研究の方法

子どもと訓練遊具の関係を中心に図1に示すような各条件に沿って、療育において使用される訓練用具に関して、遊びの要素のある多様な訓練用具の制作・試用評価を通して、子どものヨIl練用具に必要とされるデザイン要素を検討する。

訓練用具の素材の触覚のイメージ調査

訓練用具に用いられる各素材の触覚イメージを中学生33名を対象に調査し、それらの利用方法などについて考察した。
木材は、身体に触れるところへの配置が望ましいが、雑菌の処理に関する配慮が必要なことを示した。低反発樹脂は、湿気を嫌う子どもの訓練用具の表面処理などに有効であるが、耐久性の低さに留意すべきである事を示した。ゴムは、身体に直接触れる部位への使用時のコーティング処理などの配慮と、緩衝材としての使用が望ましいことを示した。

描画・食事作業のための訓練用具の探求―肢体不自由児のためのペンツール

脳性麻痒児にとっては、木材の手触りが好まれる傾向にあること、使用目的が一定にならないことが推測された。

食事動作と筆記動作における形態

この試作評価においては、大きな動作と細かな動作にそれぞれ適した形が存在することが推測された。三角形を基本とした適度な引っ掛かりのある形態が粗大運動に向くこと、落花生を基本とした形態は微細運動に適していることが推測できた。

個別対応の訓練用具のデザインと観察

脳性麻痒の単一症例(SY君)を対象に種々の試用評価を行った。

粗大運動のための形態の展開

数種類の断面形状と上面形状の組み合わせにより形態モデルを展開し、SY君をはじめとする脳性麻痒児の円滑な粗大運動の獲得に寄与する形態を持った訓練用具のデザインの方向性を示した。また、この手法に医学的かつ心理的な検討を加えることで、対応できる症状が広がる可能性を示した。

訓練遊具のデザイン展開

SY君の投げる、描くなどといった各種の粗大運動を基礎とした動作に向けた訓練遊具の試用状況から、手の作業訓練遊具のデザインにおいては、対象とする子どもの身体機能に加えて心理的な側面を十分に考慮した上で、状況に即応した訓練用具のデザインを行う機会を増やす必要性が示された。作業療法士による悪意的な作業には興味がないことと、訓練による子どものストレスの軽減を図るために、複数の訓練用具を用いることの重要性を明らかにした。

今後の訓練用具の生産手法の在り方

訓練用具などを生産するための独立した部門のセンター内への設置や、訓練用具の構成とブログラムヘの応用などを提案し、子どもの成長段階に適した迅速な道具の提供を行うことができることなどを示した。

今後の課題

人件費を主とする個別対応開発に係る費用を如故に低く抑え、幅広い生産手法に対応できるようなにするかが今後の課題であろう。

仙台市を事例とした公共交通システムのデザインの方向性に関する研究―中心市街地を対象として―

1.研究の背景

近年「無駄な公共投資の見直し」というテーマが、マスメディアをはじめ世論一般で多く取り上げられている。しかし、地域内の交通機関は、生活の現状維持にかかわる公共性の高いものであり、今後の超高齢化社会における福祉への対策や、環境問題への対策などを考える上でも、健全な整備が望まれる。そこで、こうした時代の流れに対応した、新しい交通システムのデザイン手法が必要とされている。

2.研究の目的

日本の地方都市での地域交通において、現在のような自動車を中心とした交通システムよりも合理的な、公共交通を中心としたシステムを整備するにあたり、いかに利用者である住民に対して有益な交通を提供できるかに焦点を当て、どのような手順や方法でデザインを行えばよいのかを研究した。
住民への調査から、現状における「地域に対してのイメージ」を割り出し、情報が弱い部分を探ることで、「交通システムが必要とされている場所はどこなのか」を割り出すこととした。これにより、利用者の目線に立った調査から、身の丈に合った有益なシステムが構築され、インフラとして有効性を高めることへの可能性を探ることを目的とした。

3.交通システムのデザインの方向性

日本では、自動車中心社会が着々と進行し多くの問題を抱えている。一方で、新しく開業した公共交通の利用者数は予測に反して伸び悩んでいる。そこで、利用者が減少し続け存続の危機に脅かされたにもかかわらず、システムの改善により、利用者を呼び戻した松浦鉄道(佐賀県・長崎県)の例から、有効性を高めるためには、利便性の向上によって、心理的な効果を高めることが重要であると考えた。

4. 仙台市民の交通に関する調査と分析

モデルとした仙台市における交通の現状について調査を行った。文献や統計資料による基礎調査の結果、公共交通の有効性に関わる数々の問題点が見られた。分析の結果、仙台市の都市的な特徴だけでなく、交通整備の不備による要因が多く挙げられ、「仙台市の公共交通の有効性は低い」との仮説を導き出した。この仮説を検証するため、市民に対してアンケート調査を行った。

1)自家用車の利用に関する調査
日常生活における自家用車の利用頻度を知るため、通勤通学の交通手段を調査した。学生ならびにその家族49名を対象に、毎日の通勤通学の交通手段を尋ねたところ、20%が自家用車を利用し、24%がバイクを利用していた。公共交通より大きな値を示し、多くの市民が日常生活に自動車を利用していることが解った。

2)自家用車を利用抑制に関する調査
自家用車を利用しないで日常生活を送る場合、どこに問題点が生じるのかを調査した。自家用車を利用しないで日常生活を送れるかを尋ねたところ、68%が差し障りがあると回答し、理由の多くに公共交通の整備に対しての問題が挙げられ、多くの不満を抱いていることが解った。

3)システム関の連携に関する調査
交通網の発展には欠かせない乗換え行為に対して、負担を生じているかを調査した。対象は、MIDECの展示会に来場者のうち157名に仙台における地下鉄やJRとバスの乗り継ぎへの感想を尋ねたところ、62%ができれば避けたいと回答し、理由には、料金システム、案内の不足、待ち時間など、複数のシステムにおける連携に不備があり負担となっていることが解った。

4)公共交通の問題改善策に関する調査
多くの問題点の解消や中心市街地の活性化のために、2003年10月より仙台市は100円均一区間を設けた。この認知度および利用回数を調査した。学生ならびにその家族49名を対象に、100円パッ区について尋ねたところ、82%が知っているが利用したことがないと回答した。新しく計画された改善策が、市民には生かされていないことが解った。
このように、いずれの調査においても、現状における仙台市の公共交通システムは有効に働いていないことが伺える結果となった。

5.システム導入のための調査と分析

仙台市の中心市街地をモデルとした、公共交通システムをデザインするための調査と分析を行った。市民の必要性と意向に合致した心理的な効果の高いシステムを目指し、交通システムとしての有効性を高めることを狙った。そのために、市民の内面的なイメージを定量化し、その形状や共通性から、市民の抱いている都市のイメージ構造を分析した。調査対象は、調査1)東北工業大学ならびに東北工業大学大学院の学生17名、調査2)および調査3)東北工業大学の学生ならびにその家族を中心とした、仙台市もしくはその近郊都市に在住する49名(内訳:12~24歳29名・25~59歳17名・60~70歳3名)である。

1)中心市街地におけるイメージの構成要素の特定に関する調査
住民は、都市の構成要素から、何らしらの手がかりを得て、都市の構造を把握し、日常生活を送っていると考えられる。そこで、中心市街地において、市民がどのような構成要素を用いて、街の構造をイメージしているのかを探るための調査を行った。調査方法は、「街」「一番丁」「駅前」という3つのキーワードを与え、190×155mの枠内に地図を描かせた(図3)。

地図から読み取った情報をリンチ『都市のイメージ』の5つの要素を指標として分類を行ったところ、表1のようになった。

この結果、都市の構成要素には多くの共通性が見られた。そこで、この共通性をもとに視覚化し構成的イメージマップ(図4)を作成した。

このように、市民は中心市街地の構造を把握するにあたり、共通した構成要素を利用している。なかでもランドマークが、人々の地理的理解に重要な役割を果たしていることが解った。

2)ランドマークの有効性とその連想構造に関する調査
ランドマークを手がかりに街の構造を把握している点から、これらの構成要素には、何らかのイメージを抱いていると考えられる。

そこで、中心市街地におけるランドマークを中心とする各要素は、市民に広く知れ渡っているのか、そして、要素同士につながりがあるのかを調べるために、構成要素ごとのイメージを尋ねる調査を行った。調査方法は、中心部の代表的な、建物や商業施設(ランドマーク)・道路や商店街(パス)・公共交通拠点、計27個所の名称に対して、イメージをフリーワードで回答させたところ、表2のようになった。

この結果、内部的なイメージの強さや回答率から、ランドマークとされている建物や商業施設は、広く認知されていると言える。また、各構成要素間には連想性があり、この構造を視覚化し、地理的イメージマップ(図6)を作成した。

このように、市民は中心市街地の各構成要素に対して、様々なイメージを持っている。そして、ランドマークをはじめとする各要素は連想性があり、この繋がりには強弱や方向性があることが解った。

3)ランドマーク間の距離感覚に関する調査
ランドマークを手がかりに街の構造を把握している点から、各ランドマーク間には、距離に対する感覚を抱いていると考えられる。

そこで、中心市街地における、市民の距離に対するイメージ尋ねる調査を行い、物理的な距離と比較を行った。調査方法は、SD法を用いて、5つの各ランドマーク間の距離のイメージを「歩いても苦にならない(とても近く感じている)」から「交通機関を利用したい(とても遠く感じている)」までの5段階で評価させたところ、表3のようになった。

この結果、「仙台駅~ダイエー」「ダイエー~フォーラス」「藤崎~三越・141」のように、同じ距離にもかかわらず、イメージに大きな差がみられる区間があった。また、「藤崎~フォーラス」「フォーラス~三越.141」のように、実際の距離の長短と距離のイメージが反している区間があった。このように、市民は中心市街地において、「近く感じる」「遠く感じる」というイメージの構造を保有している。この、距離に対するイメージは、物理的な距離と差がみうけられ、区間によっても異なることが解った。

6.考察

調査結果から、仙台市中心部の公共交通システムのデザインを行う上で、市民がどの区間や場所への移動に対して、交通システムを必要としているのか、必要としていないのかという、開通後の有効性につながる手がかりを得られた。地理的イメージマップにおける連想構造が強く働いている区間や、心理的な距離が物理的な距離に比べて短く感じられている区間には、公共交通を提供しても効果が少ないといえる。一方、このつながりが希薄な区間や、遠く感じている区間では、この部分をポイントにおいたシステムデザインが必要とされている。また、ランドマークや通りの名称など、市民が情報として正確に捉えるきっかけを作り、イメージが共有化されれば、市民の街に対するイメージをより明確にすることができ、交通機関から歩道に至るまでのすべての交通システムにおいて利便性が向上すると思われる。

7.結論

現在まで、こういった調査では、パーソントリップ調査や定点の交通量調査など、物理的な移動量からのみ定量化されていた。しかし、この研究の調査手法によって、市民のイメージから内部構造を定量化することが出来る点が、明らかになった。今回の研究によって、こうした主観部分の客観化こそが、人の目線の高さに合ったまちづくり、身の丈に合った交通システムデザインには大切な要素なのではないかと思われる。

8.主な参考文献

1)ケヴイン・リンチ箸、丹下健三・富田玲子訳『都市のイメージ』岩波書店、1968
2)西村幸格・服部重敬卿市と路面公共交通一欧米にみる交通政策と施設』学芸出版社2000
3)山中英生・小谷通泰・新田保次『まちづくりのための交通戦略一パッケージ・アプローチのすすめ一』学芸出版社、2000
4)北村隆一『ポスト・モータリゼーションー21世紀の都市と交通戦略』学芸出版社、2001
5)家田仁・岡並木『都市再生一交通学からの解答』学芸出版社、2002
6)市川嘉一『交通まちづくりの時代一魅力的な公共交通創造と都市再生戦略』ぎようせい

車いすと人との適合性に関する研究 〜新型6輪車いすの共同開発とその評価を通して〜

1.研究の背景と目的

現在日本で使われている車いすの大部分は、50年以上前にアメリカで開発されたモデルをそのままの形で踏襲しており、車いす使用者のほとんどが欧米サイズの身体に合わない車いすに乗っている(乗せられている)のが現状である。しかし、急速な高齢化の進展や身体障害者数の増加によって、今までのような「他人ごと」の時代から障害を持つ人や高齢者と「共生」する時代になりつつある。
したがって、今後は機能・性能面の向上に加え、暮らしの中に溶け込み、心理・生理面に配慮した「車いすと人の適合」という新しい価値観を持つ車いすが求められている。
本研究では狭い日本家屋内でもアクティブに動ける6輪タイプの屋内用車いすを、実際に車いすユーザーである佐賀大学医学部の松尾清美助教授、車いす製造メーカーの日進医療器株式会社と共同開発を行っている(図1)。この共同開発は商品化を前提としており、新しい価値観をユーザーに提供する車いすになり得る開発プロジェクトである。
今後、この車いすが生活空間の中でどのような機能的・心理的効果をもたらすのか、双方の視点から車いすと人との適合性を探ることを本研究の目的とする。

2.車いすの適合について

車いすの「適合(fitting)」とは、車いすをユーザーに合わせていく「過程」を指し示す言葉である。
車いすをユーザーに合わせるために必要な要素は、
・ユーザーの身体状況に合わせる恢病、身体寸法など)
・使用する生活環境に合わせる(屋内/屋外など)
・使用目的に合わせる(日常生活用/スポーツ用など)
・ユーザーの「変化」に合わせる
である。これらは互いに密接に関係し合い、時には相反する機能を車いすに求める。しかし最も重要なことは「ユーザーをよく知る」ということであり、その潜在能力をいかに引き出すかが適合への鍵となる。

3.研究の成果

1)現在、第4次試作モデルまで完成した。
2)ハンドリムやアームサボートなど、主に身体に直接触れる操作接点部のデザインを行った。
3)佐賀大学医学部、日進医療器株式会社に研修に行き評価実験や試作モデルの検証、改善提案を行った。
4)座圧分布測定や脳血流測定を用い、生理評価の基礎的データ収集とその可能性を探った。

4.新型車いすの開発

4.1.開発指針

足で歩行することのできない脊髄損傷者や高齢者などは、狭い屋内でもアクティブに動ける車いすを使用することによって自立移動を行うことができる。そこで「移動・移乗・姿勢保持」という3つの基本動作を中心として、小回りのきく6輪車と日本家屋に馴染んだデザインと安楽性のある木製車いすに注目し、それらの特性を併せ持つ車いすの開発に着手した(図2)。

試作改良を重ねた結果、機能モデルとしてはほぼ実用化段階まで到達しており、近日中に商品化される予定である。現在は第4次試作モデルまで完成している(図3)。

4.2. 6輪車の特徴

1)駆動輪位置が標準型車いすより前方にあるので、腕の力を入れやすく操作しやすい機構になっている。
2)回転軸を体の中心に持ってくることにより、歩行と同じ感覚で走行できるので、方向転換や曲がり角でもスムーズに小さく回ることができる(図4)。
3)後方に加重することで前輪キャスターがウイリーし、段差を楽に越えられる。その際、後輪キャスターが接地しているため転倒する心配はない。

4.3.設計仕様

<移動関連>
・6輪車を採用する(図5)
<姿勢保持関連>
・背シートは背骨の形状に沿った自然なS字フレーム(生理的湾曲)による張り調整式とする
・ティルト機構(姿勢変換)を取り入れる(図6)
・褥瘡(床ずれ)予防の座クッションを組み合わせる
<移乗関連>
・脱着式アームサポート、フットレッグサポート
・座面が前方へ100mスライドする新機購を採用(図7)
<その他>
・屋内での生活環境を考慮し、身体に直接触れるハンドリムなど操作接点部は基本的に木製とする
・身体寸法に合わせた各種調節機構を持たせる

5.構成パーツの形状設計

5.1.ハンドリムの設計

従来のハンドリムは車輪との距離が離れており、その隙間に手を挟んでしまう、細すぎるためにうまく力を伝達させて操作することができない等の問題点があった。また、車いす使用者である松尾先生から、車いす使用者はハンドリムを握って操作するのではなく、指を添えて親指の腹で押し出すように操作しているということを学んだ。
以上のことから「幅を狭く、車輪との隙間が無い、指を添えて操作しやすい」という設計条件が導き出された。これらを基に試作モデル(図8)を制作し、佐賀大学内の被験者を対象に主観評価実験を行った(表1,図9)。

実験の結果、1が最も良い評価を得られた。それを基に木材の加工性、車輪との接合条件をクリアするためにリファインを行い、決定モデル(図10)とした。

5.2.アームサポート(肘掛け)の設計

一般的な椅子の肘掛けはリラックスの為や立ち上がる際の補助となる意味合いが強い。一方、車いす使用者にとっての肘掛けは、それらの機能に加えて身体を支える機能、ハンドリムを操作する際に邪魔にならない形状が要求される。したがって、椅子と車いすの一番の相違点である「ハンドリム操作時に邪魔にならない形状」を中心に考え、φ25mmアルミパイプに被せるアームサポートの試作モデル(図11)を制作し主観評価実験を行った(図12,13)。

実験i (ハンドリムを操作する):①②③を○△×で評価<外側>
実験II (身体を揺らす、ねじる)、実験通(腕を乗せる):外側形状を固定して内側形状を3パターンに展開し、総合的に評価<内側・上側>
実験iv (立ち上がる、握る):実験ii,iiiの評価結果が最も良かったモデルの高さを40mと45皿の2パターンで評価<周囲>

6.座面スライド機構の検証

6輪車は「移動」という側面だけを捉えれば、小回りがきき、駆動も容易で大変有効である。しかし「移乗」を考えてみると重心位置にある車輪が邪魔になってしまい、車輪が後方にある車いすよりも移乗動作が難しい。したがって、その欠点を補うために座面スライド機構を開発し採用した。座面下部のレバーを操作すると座面が前方に100mスライドする(図14)。
実際に車いすユーザーによる検証を行った結果、座面スライドと共にフットレッグサポートを外すことにより、臂部から足もとにかけてスペースができ、ベッドや車いすへの移乗が簡単に行えた(図15,16)。

6.適合性を計るための生理評価実験

6.1.座圧分布測定によるシーティングの生理評価

新型6輪車に初めて採用されたS字型背フレームを中心としたシーティングと、従来型の車いすを比較することで、そのシーティングの有効性を検証した。また座.背のみ、座十クッションなどの実験条件を変化させた基礎的な特性データ、通常時とティルト時との比較等も行い体圧分散効果を検証した。
一般的に使われている標準型車いす(クッションなし)と新型6輪車(クッションあり)を比較した。一目見ただけでは気づきにくいが、実際は標準型のフットレストが数Cm高く、クッションを敷いていないだけで、体圧分散性が全く異なることが明らかになった(図17,18)。

6.2.脳血流測定による乗り心地に関する生理評価

脳血流測定では、新型6輪車の持つS字型背フレームやティルト機能を中心とした「安静時の快適さ」や、軽い操作性を中心とした「駆動時の快適さ」を従来型の車いすとともに比較することで、新型6輪車の有効性や脳血流測定手法の可能性を探究することを目的とした。
ティルト機能は血流を回復させてリフレッシュできると一般的に言われているが、実験の結果(図19,20)標準型車いすの安静時と比べて、ティルトと同時に血流が急激に下がることを確認することができた。しかし、長時間テイルト状態を保つと血流が増大し、逆にストレスとなることも明らかになった。

7.屋内環境との適合性に関する評価

実際に狭い日本家屋内での使用評価を行った。75歳の男性を被験者としたが、幅85cmの狭い通路も簡単に通り抜けることができ(図21)、ゆっくりではあるが、その通路内で回転することもできた。また、個人差があると思われるが、室内入り口の段差の乗り越え時などに、ウイリー、テイルトの技術を容易に獲得していた(図22)。
屋内走行の評価を行って明らかになったことは、床材の問題である。硬めで毛足の殆ど無いカーペット、フローリング、畳という3つの路面を走行したが、畳上での走行時の摩擦は大きく、駆動しにくいということが明らかになった。畳の部屋が日本家屋には多いため、今後は屋内環境面、摩擦を軽減する車輪の素材、カバー等の検討が必要であると考える。
主観評価においては、6輪車は駆動性が良く、ハンドリム等の木製パーツも心地良いといった評価を得られた。屋内イメージや生話環境との適合に関しては、金属を使っていても操作する部分が基本的に木製であるので、違和感は無いといった評価を得た(図23)。

8.結論

車いすと人との適合性を考えた際、車いすユーザーは暮らしの中から各々に合った使用のコツを獲得し、それを活かして生活していることが明らかになった。今回の研究において、従来では殆ど注目されてこなかった構成パーツへの細かい配慮が、適合への新たな可能性を持つことが示唆された。また、適合に関する生理評価実験の有効性も見出すことができた。
人間の身体機能に車いすをより近づけるためには、今後も車いすの多機能化は避けられない。しかし、それと共に生活環境の中から生まれるアイディアを形にすることも重要であると考える。駆動時「あと2cm幅が狭かったら…」移乗時「あと10cm前へ出れれば…」など、私たちが普段見過ごしがちな「小さな気づき」を具現化すること、つまり、ユーザーの能力をひき出す「気づきのデザイン」が適合への第一歩ではないだろうか。

参考文献

第19回日本リハビリテーションエ学協会車いすSIG講習会テキスト『車いす!「アクティブ」への挑戦』ベーシック・アドバンストコース,2004
財団法人テクノエイド協会:車いすの選び方解説書,2004
B.エングストローム:からだにやさしい車椅子のすすめ,三輪書店,1994
田中理,大鍋寿一監訳:車いすのヒューマンデザイン,医学害院,2000
車いす姿勢保持協会編元気のでる車いすの話,はる書房,2003
梨原宏,木材を主素材とした車いすの開発に関する研究,1994
日本建築学会編コンパクト建築設計資料集成バリアフリー,丸善,2002
川内美彦:ユニバーサル・デザイン~バリアフリーヘの問いかけ~,学芸出版社,2001
佐々木正人,アフォーダンス~新しい認知の理論~,岩波書店,1994
後藤武,佐々木正人,深澤直人:デザインの生態学~新しいデザインの教科書~,東京書籍,2004

弱視児のための絵本の制作に関する研究

1.背景と目的

絵本は小さい頃、誰もが出会うものである。そして、思い出に残る絵本は私たちに想像力や夢を与えてくれる。絵本は子どもの成長を育むために必要不可欠なものである。
現在、書店でも図書館でも健常児のための絵本はたくさん用意されている。それに対し、視覚障害児のための絵本は極めて少ない状況にある。障害者のための絵本として、バリアフリー絵本が存在し、その中に指で読む触る絵本、市販の絵本に点字をつけた絵本、音声をつけた絵本など、目の不自由な人のために工夫された絵本がある。しかし、それらの多くは全盲者を配慮したもので、少しは見ることのできる弱視者を配慮した絵本はほとんどない。
このことから、本研究では、弱視児が見て楽しむことのできる絵本の在り方を探ることとした。
そのために本研究では、弱視児が見やすい絵本の制作のための制作条件を探ると共に、それを生かした絵本の制作を行ない、弱視児に適した絵本を提案することを目的としている。

2.視覚障害について

視覚障害児とは、大きく分けて以下の2つに分けられる。
盲児…点字を常用し、主として聴覚や触覚を活用した学習を行う必要のある者。
弱視児…視力が0.3未満の者のうち、普通の文字を活用するなど、主として視覚による学習が可能な者。
弱視の見え方は、一人ひとり異なる。多くの場合、図1の見え方など複数抱えている。

3.デザインコンセプト

絵本は文字、色彩、レイアウト、図、ストーリーの設計要素から制作した。弱視児でも見やすい絵本の制作を行った。
(1)弱視の子どもでも見やすい文字
(2)弱視の子どもでも見やすい絵
(3)思い出に残る絵本

4.制作プロセス

オリジナル絵本を制作し、実際に弱視児に見てもらう検証を行った。また、IllustratorとPhotoshopのソフトウェアを使用した。制作プロセスを図2に示す。

5.文字の制作

5.1.オリジナルフォントの制作
【オリジナル書体】
実験・検証の結果、文字の濁音、大きさを改善し、以下の形となった。

1)一般に最も多く使用されている書体は、ゴシック体と明朝体である。そこで、文献を参考にしながら、ゴシック体と明朝体を基に、見易さに配慮したオリジナル書体「ひらがな、カタカナ、数字」の制作を行なった(図3,4,5)。また、弱視者にとって、見易いとされているゴシック体を基に、明朝体の特徴である「はね・はらい.とめ」を取り入れた。ゴシック体のぼかして黒くつぶれる部分、明朝体のぼかして消える部分を解消し、弱視の見え方(ぼけた状態)でも見易いようにした(図6)。

2)サイズは23ptで使用するように制作したが、検証した結果、24ptが最善ということだったため、絵本での使用サイズは24ptとした。また、行送りは48ptとした。

5.2.文字検証と結果

Adobe Illustrator 10のぼかし機能を用い、弱視者の見え方に近づけ、ゴシック体、明朝体、オリジナル書体を比較する実験を行なった。また、実際に弱視者に見てもらう検証を行なった。

<パソコンによる実験の結果>
・ゴシック体で黒くつぶれる部分、明朝体で消えてしまう部分を解消することができた。
・数字の[ぼかし(ガウス) 半径:2.5pixel]をみると、「9」の形が崩れてしまうため、図7に示す改善を行なった。

<弱視者に見てもらった使用評価の結果>
・実際に弱視の人に見てもらった結果、濁音が読みづらいという結果が出たので図8に示す改善を行なった

・ひらがなの「で」を「で」というような、手書きの時に書く位置に「゛」があった方が、文字を習ったばかりの小学校低学年には迷わないですむという指摘があった。そこで、図9に示す改善を行なった。

6.制作-1

オリジナル書体を使用し、試験的に2冊のオリジナル絵本を制作した。

6.1 オリジナル絵本制作

絵本1:「おくびょうなとり」(W218,D219,H7:P32)

絵本2:「ふしぎなふうせん」(W200,D275,H6:P20)

6.2.パソコンによる実験と結果

1)2冊の絵本で、パソコンで視覚障害者の見え方に近づける実験を行なった(図10)。この結果、「おくびょうなとり」は、ぼかしても白い部分が浮かんで見え、図の形が読み取れた。「ふしぎなふうせん」は顯純な図は問題なく読み取ることができたが、線が集まった図は黒く潰れてしまうことがわかった。

2)グレースケール表示と濃度を濃くして、暗部のつぶれやすい高齢者の見え方に近付ける実験を行なった。結果、「おくびょうなとり」の下図のページは、オレンジと水色の背景だが、色の区別がつかないことが分かった。

3)この他、色覚障害のシミュレーションができる「Vischeck」を使用しての実験、実際に弱視児に見てもらう検証を行なった。

6.3.考察

絵本1「おくびょうなとり」の図を白くして地とのコントラストをつける制作条件と、文字の部分にクリーム色の枠をつける制作条件は、弱視児に有効ということが分かった。また、絵本2「ふしぎなふうせん」は、図の線が黒いかたまりに見えてしまうということが分かった。

7.制作-2
制作-1までの結果を基に、新たな調査、見やすい絵本の制作条件を追究し、制作に結びつけた。
見やすさの制作条件を得るためのサンプルを作成し、実験を行なった。その結果を基に、最終絵本の制作条件を見出した。

7.1.見やすさの制作条件を見出すための実験

1)配色の見やすさに関する実験
地と図の配色のサンプルを制作(図12)し、盲学校に約2週間預けて、弱視児とその先生に、アンケートを行なった。実験の結果より博られた、見やすい配色、見づらい配色を図13,14に示す。

2)レイアウト、地と図に関する実験
最終絵本の絵コンテから、いくつかの設計要素を持つ絵本サンプルを制作した。それを盲学校の先生、弱視児・者に見てもらいレイアウト、地と図に関する検討を行なった。その結果、図はページをまたぐと見づらい。また、見開きで見た場合の図と文字の配置は、どちらかに図、どちらかに文字というレイアウトが見やすいようだと分かった。

3)考察
・弱視者の見え方は、十人十色である。そのため、結果にはっきりとした共通点は見られなかった。
・文字の背景の色はクリーム色とし、面積をなるべく広くとることで、見やすさの向上を計れるのではないかと思われた。

7.2.最終絵本の制作

1)最終絵本の制作条件
これまでの検討結果より、更に追究するために、文字、色彩、レイアウト、図、ストーリーの5つの要素から制作条件を以下のように設定した。

〈文字〉
・フォントサイズ…24pt
・行送り…48pt
・オリジナル書体を使用。
・配色は、黒K100・クリームY25
・囲みの大きさは、文字とページ全体のバランスを配慮した大きさ。

〈色彩〉
・図は黒フチを使用し、背景との配色により、白フチを使用。
・1ページの中で使用する色は多くて5色とした。また、その使用する色は明度差をつけた。
・原色のように、健常者でも見てチカチカする色は疲れてしまうため避けた。

〈レイアウト〉
・弱視者には絵本に眼を近づける人や、視野が狭い人がいるので、ページをまたいだ図は避けるようにした。

〈図〉
・黒フチを使用するため、線が集合する部分が黒くつぶれてしまう恐れがあるので、なるべく単純な絵とした。
・主役の図のフチ…15mmの太さ
・その他のフチ…1.0mmの太さ
・配色は、地と図に明度差をつけた。

〈ストーリー〉
絵本の基となるストーリーのあり方は、この研究ではとりあげて分析していないが、重要な要素である。そこで、本制作ではなるべく子どもの心を豊かに開くことのできるストーリーを制作した。

2)最終絵本の制作
以上の制作条件より、2冊の絵本を制作した。

最終絵本1:「いぬのきもち」(W182,D182,H8:P28)

<ストーリー>
人間に飼われる犬の気持ちを、綴ったもの。

最終絵本2:「いろいろいろ」(W182,D182,H8:P26)

<ストーリー>
いろいろな色があるということを伝えるストーリー。

7.3.パソコンによる実験と結果

・制作-1と同様にパソコンを使用し、視覚障害者の見え方に近づける実験を行なった(図16)。その結果、文字の背景の色をクリーム色にしたことにより、文字の場所を探すことなく、目を向けることができることが分かった。また、地と図の関係では、主役の図と地の色に、コントラストがあるため、ぼやけた状態でも図を把握することができることが分かった。

・色覚障害者と白内障に近づける実験では「いろいろいろ」は色を提示しているが、シミュレーションをみると、色覚障害者は色の感覚がつかめないことが分かった。

7.4.最終評価

これまでの成果を2冊の絵本に仕上げた。これらを盲学校の弱視の生徒と、弱視者に関わる先生の計8名に実際に見てもらう最後の試用評価を行なった。その結果を図17,18に示す。

7.5.結果と考察

「いぬのきもち」の試用評価より、見やすいという意見があったが、「わるい」というイメージを持った被験者がいた。その理由は、検証の感想から、図を見やすくするために背景にコントラストの強い色を使用したが、それが眩しく感じるということだと分かった。
「いろいろいろ」の試用評価からも、見やすいという意見があったが、「わるい」という意見もあった。感想を見ると、モノに対して色の定義はしない方がよいという感想があった。このことから、この結果は、見やすさに対するマイナスイメージではなく、絵本の内容に対してのマイナスイメージではないかと考えられた。
「わるい」というイメージを持った被験者は、もう一方の絵本は見やすいと感想で答えている。

8.結論

これまでの、実験・検証より、明らかになった弱視児のための絵本の制作条件を以下に示す。

弱視児のための絵本の制作条件(平成18年3月現在)

(1)文字
・フォントサイズ…24pt
・行送り…48pt
・オリジナル書体を使用。
・配色は、黒K100・クリームY25
・囲みの大きさは、文字とページ全体のバランスを配慮した大きさとし、文字の集合より、上下左右それぞれ、20mm大きいものとした。

(2)色彩
・図のフチは配色の図のバランスを考え、黒色か白色にする。
・1ページの中で使用する色は4~5色以内がよい。また、その色は明度差をつけるとよい。
・催常者でも見てチカチカすする色は疲れてしまうため避ける。特に緑系と、赤系は避ける。

(3)レイアウト
・図はページをまたがないようにする。

(4)図
・黒フチを使用するため、線が集合する部分が黒くつぶれてしまう恐れがあるので、なるべく単純な絵とする。
・主役の図のフチは1.5mmとする。
・その他のフチは1.0mmとする。
・配色は、地と図に明度差をつける(コントラストをつける)。

(5)ストーリー
ストーリーは自由に制作してよい。しかし、色彩に関する絵本は色を定義してしまうと、個人個人見え方の違う視覚障害者にとっては、嫌な気持ちを与えてしまう恐れがある。読み手が色を決めるようなストーリーにすると、色の訓練にもなり絵本として有効なようだ。

弱視児のための絵本の制作条件を見出すことができた。
そして、弱視の見え方は様々なため、以上の条件が全ての弱視者に有効とは断言できないが、ほぼ妥当な制作条件が得られたと思われる。
今後、文字に、漢字、アルファベットが加わることで、さらなる、展開が期待できるのではないかと思われる。

参考文献

香川邦生 三訂版「視覚障害教育に携わる方のために」慶応義塾大学出版会2005
飯野貴敏「色覚バリアフリーの手引き」東京都印刷工業組合墨田支部 2003
バリアフリーデザイン株式会社 山本百合子「DEVELOPMENT OF BARRIER FREE: MORE ACCESSIBLE FONT FOR NORMAL AND LOW VISION PEOPLE」国際ユニバーサル・デザイン会議 2004
大井義雄 川崎秀昭「カラーコーディデーター入門 色彩」日本色研 2001

蛇口の使いやすさに関する研究―ハンドルタイプを対象として―

1. 背景と目的

私たちの生活の中で、毎日使用しているのが水道蛇口である。蛇口は、ハンドルタイブからレバ一タイプ、そしてセンサ一タイプヘとその技術は進化してきているが、我々の生活空間には、それらのタイプ全てが、設置筒所の目的に応じて、日常的に使用されている。また日々変わるキッチン・洗面周りのインテリアデザインに合わせた、新たな蛇口の形態が日々生まれ、その使い方が一瞬には飲み込めないなどの問題も出ている。このように、日常的に誰もが使う蛇口には、それぞれのタイプ毎に、使いやすさに関する様々な問題が内在している。

本研究は、この蛇口の形態(形状、寸法)に着目して、蛇口を使用可能な、若者から高齢者まで、誰もが使いやすいと感じる蛇口の形態を、形態の展開と手の操作による複数の被験者の使用実験を通して、心理的、生埋的に探究することを目的としている。対象は、手から指操作に移行するデザインの傾向の中で、いまだ一般的に使われている手操作によるハンドルタイプとし、その形態の特徴は何なのか、使いやすさを支配する形態要素、心理的要素、生理的要素は何かを求める。その上で、老化による身体機能の低下や、性の違いによる手寸法の違いにどう対応するかの問題など、一律には求められない形態の特質を明らかにする。

2. 研究の方向性

道具の使いやすさを図る尺度として、負担(重い、軽い、痛い・・)がある、戸惑う、違和感がある、ちぐはぐ、使い勝手が悪い、わかりにくい[認知]などの言葉がある。本研究では、この言葉の全てを使いやすさを計る言葉として考慮する。ユニバーサルデザイン手法では、これまで日常的に使用ができていた道具が、老化、身体機能低下によって、使いづらくなり、違和感を覚えるようになったといい表現がー般的に使われる。そして「違和感を探る」という言葉が、ユニバ一サルデザイン商品戦略の(誘導)言語として用いられ、現商品のUD化を図っている場合が多い。この違和感という言葉には、前述の負担、戸惑い、違和感、ちぐはぐ、使い勝手、わかりやすさといった言葉のもつニュアンスが全て含みいれられて理解されているものと解釈する。本研究ではそれを「使いやすさ」として総称し、探究することにした。

3. 研究プロセス

研究プロセスは図1の通りである。

4. 蛇口の使用状況調査

蛇口の使用状況を若者と高齢者を対象に調査した。若者についての調査は、学生にアンケートを取った。高齢者については、高齢化による身体機能の低下などの問題を調べた上で、高齢者施投に行き調査した。

4.1. 学生の蛇口使用状態に閏するアンケート調査

学生は、レバータイプや自動水栓が使いやすいと感じている。高齢者と違い、新しいものに適応するのが早い若者は、スマートに操作できるものを好むようである。自宅通学と自宅外通学者では、よく使用する蛇口が異なった。自宅通学者はレバータイブ、自宅外通学者ば2ハンドルタイプをよく使用していることがわかった。自宅外通学者は、使い憤れてきたものから新しいものに蛇口使用が変わり、蛇口の使いにくさを感じるようである。また、節水に閏する意見が多く聞かれた。
今回、調査した学生は、「下げる(上げる)とジャー」のレバーや「手を出すとジャー」のセンサーで育った年代と言ってもいいかもしれない。使用用途によっては、「ひねるとジャー」というハンドルタイプより使い慣れている場合があり、使いやすいと思っているのではないかと考えられる。

4.2. 高齢者施設での使用状況諷査

高齢者施設では、トイレなど衛生面で配盧しなけれぱならない箇所は、白動水栓が主流になってきている。しかし、高齢者にば理解が難しいという問題や調節が容易にできないという問題もあった。顔を洗う、歯を磨くなどの流しでは、ハンドルタイプとレバータイプが共存していた。ハンドルタイプば高齢者には馴染んでいるが、手に力が入らない方は苦労している。また、痴呆者にはレバー方式は難解であるということがわかった。
高齢者が蛇口を使用した場合、それぞれのタイプ毎に、使いやすさに関する様々な問題が内在していることがわかった。「ひねるとジャー」のハンドルタイプのものが、高齢者には浸透している。長年、使い慣れてきたハンドルタイプの蛇口の使用が減り、弱い力でも使用できるレバータイプや自動水栓など新たな蛇口を使い分けなければならない状況下、新しいものに対応することが難しい高齢者は困惑を示している。本調査から、高齢者対応といって、自動操作のものや新しい機能をつけたものが高齢者にとってやさしいということにはならないということがわかった。また、現在もっている身体能力を低下させることなく、上手に引き出すようにすることが重要であることがわかった。

5. 蛇口設計項目の抽出と分析

KJ法による分析結果、蛇口に求める設計要求項目としてに示す大項用と中項目が抽出された。中項目で色をつけたものが、蛇口の形状。寸法に強く関わる項目である。図2には大項目のグラフを示す。これからわかるように、本研究でおこなっている、指・手への負祖にならない形状の追及は、分かりやすさ、指・手ヘの負担、イメージ性に主に関わり、総合的な使いやすさを図るための核となる探索であることがわかった。

6. タイプ別蛇口の使いやすさに関する課題の抽出
薄型ハンドルタイプ
操作力(操作にある程度、力がいる)、衛生面、水・お湯のどちらかの吐水

厚型ハンドルタイプ
操作力(操作にある程度、力がいる)、衛生面、水・お湯の2ハンドルの認識操作

レバータイプ
水量關節の微妙さ、温度調節の微妙さ、高齢者の微小発揮力の調整困難、上げ吐水・下げ吐水の混在、衝生面

オートストップ
コントロールの困難(水量ー定、吐水時間、温度)、衛生面

自動水栓
コントロールの困難(水量一定、吐水時聞、温度)、センサーの位置、センサーの感知能力

7. 本研究対象のタイプ選定とその意義

以上のことから、本研究対象のタイプ選定を行った。そこで、形状の違いで使いやすさが大きく変化すると思われる薄型ハンドルタイプと厚型ハンドルタイプを取り上げ研究対象とした。ものの使いやすさを機能的側面のみではなく、形態的側面から探究することとする。そして、使いやすいハンドルの形状の傾向を見い出す。
ハンドルタイプは長い聞、使用されており、馴染み深いものである。左に回すと吐水、右に回すと止水という操作は、多<の人が熟知している。しかし、形状については様々なものが混在し、使いやすいハンドルの形状については、特にきまったものがないのが現状である。4.5.6では、本研究にあたっての背景や問題を把握できたと共に、本研究の必要性を蛇口使用状況から見つけることができた。

8. 蛇口の形態展開

平面形態を展開し、薄型タイプ16個、厚型タイプ19個の異なる形態をもつ実寸モデルを試作した。その上で、それを10名程の被験者によって擬似的に操作してもらい、心理分析を行い、その結果を因子分析した。

9. 代表的形態の選定
囚子分析から、薄型、厚型ハンドルタイプそれぞれ代表的形態モデル3点を抽出した。

薄型タイプ
・男女ともに使いやすいと思われるモデルA
・男女ともに使いにくいと思われるモデルB
・男性が使いやすいと思われるモデルC

厚型タイプ
・男女ともに使いやすいと思われるモデルD
・男女ともに使いにくいと忠われるモデルE

10. 代表的形態モデルによる評価結果と分析

モデル使用による心理評価(主観評価、因子分析、主成分分析)、生理評価(開眼時と閉眼時の脳血流)、ビデオ映像観察、高齢者による評価を行った。評価・分析の結果は以下の表にまとめた。

11. 薄型タイプ(A,B,C)考察

11.1 因子分析
モデルAが機能、見た目、握り感が良く使いやすいモ
デルとして判断できる。

11.2 主成分分析

男性は、自然な握り感ー回し易さが全体の評価に大きく関わっている。女性は、回し易さー見た目が全体の評価に大きく関わっている。特に、見た日が意識されている。

11.3 主観評価
モデルAが使いやすいモデルとして判断できる。

11.4 脳血流
開眼時・閉眼時のモデルCの脳活動が異なる。モデルCは形状の見た目と形状の感触に影響を受ける。A、Bは形状の見た目と形状の感触にずれが少ない。

11.5 高齢者の評価
意見のばらつきがある。モデルAは平均的には良いようである。女性は、モデルBが小さくて良いようである。

11.6 ビデオ観察

操作する指は親指、人指し指、中指の3指が操作に関わる薬指は添える程度に関わっている。握り方は、蛇口をつまんで握るタイプと蛇口を覆うような感じの2つが主にみられる。特に、それに男女差があるわけではない。モデルAは他のモデルと比べ指の位置のパターンが少ない。モデルAは指が無意識に添えられる形状になっていると考えられる。これが使いやすさにつながっていると思われる。

12. 厚型タイプ(D,E,F)考察

12.1 因子分析
モデルDが使いやすいモデルとして判断できる。

12.2 主成分分析

男女ともに、指のかかり具合―見た目が全体の評価に大きく関わっている。特に、見た目が意識されている。

12.3 主観評価
モデルDが使いやすいモデルとして判断できる。また、モデルFは女性にとって使いやすいモデルとして判断できる。

12.4 脳血流

男女ともに、モデルEに対して脳活動が高くなりス卜レスを感じている。男女ともに開眼時・閉眼時のモデルの印象が変わらず、形状の見た目の影響と形状の感触にずれが少ない。

12.5 高齢者

モデルD、Fが良いようである。モデルFは角が大きいので回し易いようである。

12.6 ビデオ観察
操作する指は親指、人指し指、中指の3指が操作に閲わる。薬指は添える程度に関わっている。握り方は、蛇口をつまんで握るタイプと蛇口を覆うような感じの2つが主にみられる。特に、それに男女差があるわけではない。モデルDは指が自然に窪みに添えられることができる形状になっており、それが使いやすさにつながっていると思われる。モデルFは、3つの鍵となる指の置き場が曖昧になっているので、使いやすさにはつながっていない。

13. 結論
(1)これまでの、実験・検証で使いやすい蛇口の形態を見い出すことができた。
(2)形態を探求することは、使いやすさをはかる中心的課題である。
(3)操作する指は、親指、人差し指、中指の3指が操作に主に関わっている。そして、凸凹部のどこに指を添えて良いかは、窪みの量が大きく、3以上の凹部があるものが使いやすさにつながっている。
(4)薄型タイプは、一般的に使われている三角形状より四角形状が使いやすい。
(5)厚型タイプは、厚型タイプは指が窪みにはいりやすい窪み数が多い六角形状が窪み数が少ない三角形状より使いやすい。
(6)握った感じのまろやかさをもつことで、心理面において男女差が出ている。女性は男性に比べ、様々な指の添え方を示していることから、その差が推測できる。すなわち、機能より、気持ちのよい形態を重視している。男性はその点、限られた添え方で働かせようとする傾向が見られ、機能的に操作できるものを好む。
(7)今回行った、開眼時・閉眼時の心理評価と脳血流計測による生理評価、それにビデオによる動作観察評価とを組み合わせた検証方法は、形態の在り方を探る上で有効である。
(8)本研究は、蛇口以外の生活用具の使い易さを図る上でのその基本となるデザイン研究手法の手がかりとなったと思われる。


参考文献

A・ユニバーサルデザイン関連 (A01)中川聡 ユニバ一サルデザインの教科書、日経BP杜、2002 (A02)蓮見孝 ボスト「熱い杜会」をめざずユニバーサルデザインーモノ・コト・まちづくり、工業調査会、2004 (A03)田中直人・保志場国夫 五感を刺激する環境デザイン-デンマ一クのユニバ一サルデザイン事例に学ぶ、彰国社、2002

B・高齢者関連 (B01)JISハンドブック38 高齢者・障害者等(アクセシブルデザイン)、日本規格協会、2007 (B02)荒木兵ー郎・藤本尚久・田中直人 図解バリアフリーの建築設計、彰国社、1981

C・人間工学関連 (C01)人間生活工学研究センタ一 設計のための人体寸法デ一タ集、日本出版サービス、1996 (C02)アレキサンダー・キラ THE BATHROOM バス・トイレ空間の人間工学、TOTO出版、1989

D・解析関連 (D01)内田治・菅民郎・高橋信 文系にもよくわかる多変量解析、東京図書、2003 (D02)菅民郎 多変量統計分析、現代数学社、1996 (D03)中森義輝 感性データ解析、森北出版、2000

E・その他 (E01)ヴィニー・リー ヴィニー・リーのバスルーム・デザイン、エクスナレッジ、2004 (E02)ヴィクター・パパネック 生きのぴるためのデザイン、晶文社、1974 (E03)山ロ昌伴 地球・道具・考、住まいの図書館出版局、1997 (E04)インテリア産業協会 生活文化とインテリア1.2.3、産業能率大学出版部、2001 (E05)山ロ昌伴 水の道具史、岩波新書、2006 (E06)マコーレイ 道具と機械の本、岩波書店、1990 (E07)稲見辰夫 機械のしくみ、日本実業出版、1993 (E08)A・ノ一マン 誰のためのデザイン?、新曜社、1990

F・学会関連 (F01)梨原宏(1995)「木製車いすの設計要素の抽出と概念設計の構築―木材を主素材とした車いすの設計に関する研究 第2報」デザイン学研究 BULLETIN OF JSSD Vol.42 (F02)竹田里美(2006)「洗面所の蛇口の提案ー日常生活道具の違和感に関する形態的研究ー『デザイン学研究第53回研究発表大会概要集2006』日本デザイン学会 pp388-389

車いすの開発・生産・供給・使用と介護支援システムに関するデザイン学的研究

1. はじめに

本研究は、障害者、特に高齢障害者が使用する車いすの開発・生産・供給・使用と介護支援システムについてデザイン学的視点から行う。
車いすの開発・生産・供給・使用と介護支援システムに関するデザイン学的研究の必要性は、従来の車いす研究が「車いす本体」、「車いすとユーザ」の関係」、「車いすと社会全体の関係」といった部分ごとに研究がなされ、それらが統合されてこなかったことから導き出されている。歴史的事実として日本の車いすメーカー各社は秘密主義を採用し、過去に得られた学問的・経験的知見を虫食い的に採用し、独自の車いす思想を作り出してきた。そしてその独自の思想を背景に独自の技術を築き上げてきた。しかし、その成果が顕著に現れているのは競技用車いすや脊髄損傷者用車いすなどアクティビティの高い利用者向け車いすであり、アクティビティのやや低下している高齢者向けの車いすではその成果はほとんど生かされていない。また単なる技術面だけではなく、移動・移乗・姿勢保持に関し簡易な機能しか持たない、二次的な障害を誘発しやすい「誰にでも使えるが、誰にも適さない」3万円前後で購入できる車いすが高齢者用としてあてがわれている。このことは車いす産業を取り巻く制度的特殊性や、一貫性のない高齢者医療・保健・福祉施策にもその原困を求めることができる。
そこで本研究では、いかにして外観性・機能・性能・社会的条件に優れた車いすを高齢者に適切な形で開発・生産・供給し、実際に使用できるようにしていくのか、をデザイナーの立場、開発者の立場、生産者の立場、流通者の立場、そして最終ユーザー・中間ユーザーの立場を踏まえて探求することを目的としている。そのための研究の過程として福祉政策の検証、デザイン手法の構築と検証、生産論的検証の3段階から研究を進めている。
上記の問題背景を踏まえ、本研究の最終目標として、日本の生活・文化に相応しい車いすの開発・生産・供給・使用を可能とする介護支援システムの構築をデザイン学的見地から図ることとした。

2. 論文の構成

本論は図1-1の全体構成図のとおり7章で構成される。
第1章の「第1章・序論」では本研究の目的、既往の研究、研究の特色と、研究の前提となる事項を述べた。
第2章では「介護保険制度導入後のわが国の車いす市場の変化の検証」では、わが国の高齢者用車いすの市場性について構造面と機能面から分祈した。
第3章の「中間ユーザーが車いすに求める要求項目の分析」では車いすの最終ユ一ザー(高齢者)の声を代弁できる立場にある中間ユ一ザーに対するアンケート結果を基に、車いすに求められる要求項目をモデリングした。
第4章の「車いすのデザイン総合評価項目の創出と検証」では中間ユーザーから得られた車いすに対する要求項目と先行研究を基盤に、車いすを様々な立場の人々が共通した評価項目に基づき評価するための評価基準のモデルを作成し、評価項目の妥当性を検証した。
第5章の「内外の車いすの生産手法の分析と評価」では内外の車いすメーカー・機関における生産現場の実態調査の結果を分析し、各メーカー・機関の生産上の特徴を描き出した。播き出された特徴的な生産手法で作られた車いすを、様々な立場の人々に車いすのデザイン総合評価項目を用いて実際に評価を行い、生産手法と総合的な評価の関係性を明らかにした。
第6章では第2章から第5章までに得られた知見を基に、わが国における車いすの開発。生産・供給・使用と介護支援システムに関するデザイン計画を立案し、今後の課題を述べた。
第7章では「結論」として本研究を総括した。

3. 用語の定義

本研究では、研究の過程で使用する用語を次の通りに定義する。
用語: デザイン
定義: 高齢者向け車いすの望ましい開発手法の創造・望ましい生産手法の創造・望ましい供給手法の創造・望ましい使用方法の創造、高齢者向け車いすを取り囲む介護支援システムの創造の総称

4. 介護保険制度導入後のわが国の車いす市場の変化の検証

介護保険制度の導入によって、わが国の車いす市場の構造がどのように変化し、それによって、現在何が問われているか、を福祉政策的に分析した。その結果、制度上の課題として、従来は補装具制度により医学的観点から処方がなされ、その結果を踏まえて車いすが供給されていたが、介護保険制度ではその観点もなくなり、従来からある店頭で自由に購入できる自由経済からの供給と相まって、より標準型車いすが供給されやすくなった現状が明らかになった(図4-1)。

また車いすの価格に関することとして経済的負担能力ではなく、価格のー割を負担する応益負担になり、負担能力が比較的低い人たちにとっては、必要であっても使用できないかもしれない、という新たな格差が生み出されていることが明らかになった。それらの課題を克服するためには中間ユーザーが車いすにかかる制度について全体に熟知する必票性がわかった。また、最終ユーザーも自ら確かな知識と技術を持つ必要性があることがわかった。さらに車いすメーカーから良質な車いすが供給されるためには国による福祉・介護・医療・産業の観点からの政策誘導が必票であり、海外への市場の拡張では、よりその任を果たさなければならないことが明らかになった。

5. 中間ユーザーが車いすに求める要求項目の分析

現在流通している高齢者向け車いすの使用の現状をとらえ、現在高齢者向け車いすにユーザーがどのような事を求めているかの声を、最終ユーザー(高齢者)から直接聞き取ることが技術的に難しいことから最終ユーザー(高齢者)の声を代弁できる立場にある中間ユーザーから求めた。施設福祉系中間ユーザーの車いすへの要求に関する意識と居宅福祉系中間ユーザーの車いすへの要求に関する意識の違いを比較すると施設福祉系中間ユーザーは車いす自体の機能・性能を保証させることヘ強い意識があるのに対し、居宅福祉系中間ユーザーは、外出を保障するための使い勝手や介護環境づくり、それを促す移動機能・性能に強い意識があることが明らかになった(表5-1,5-2)。

また、経済性に関して、施設福祉系・居宅福祉系共に「安さと性能のバランスを重視する」という考えを支持ずる人が主であるが、両者とも品質には妥協しない姿勢があることがわかった。今回得られた中間ユーザーの車いすへの要求結果を生かせば、ユーザーの立場、経験からのみならず、作り手、送り手が、それぞれの置かれた立場、経験上から、共に車いすのあるべき姿を検討できることが明らかになった。

6. 車いすのデザイン総合評価項目の創出と検証

中間ユーザーの車いすに対する要求内容と先行研究を基にデザイナー、開発者、製造者、提供者の各立場からの要求内容を加え、開発、製造、提供、使用、保守管埋、介護支援までを包含し、関係する誰もが理解し共有できる、総合的な車いすのデザイン総合評価項目の構築を行った。6つの評価項目構築プロセスを経て、構築されたデザイン総合評価項目は7つの大項目(適正動作機能、適正感性機能、適正入手・使用、適正シーティング、環境への適合、適正製造技術、安心・安全、生きがい)と、それに対応したA~Qまでの17の中項目、それに対応した総計120の小項目からなる(図6-1)。構築されたデザイン総合評価項目を使い、車いす知識をもつ2名の福祉専門職者によって市販されている「標準型車いす」、「多機能型車いす」、「モジュール型車いす」の3機種を対象に、評価シミュレーションを行った。その結果、3機種の違いが鮮明に浮かび上がり、本デザイン総合評価項目は使用可能であることが明らかになった。

7. 内外の車いすの生産手法の分析と評価

内外の車いす企業(6社、1セン夕ー)の生産手法を分祈したところ、「総合フロー型生産手法」、「自己完結型生産手法」、「ストック部品構成型生産手法」、「地域密着・独立型生産手法」、「他者製品改良型生産手法」、「地域密着・使用者協働型生産手法」に大別することが明らかになった。
その大別された生産手法を基本に高齢者対応の内外の車いすを5機種選定しデザイン総合評価項目を用いて、8名の車いすにかかわる職業人によって5段階評価を行った結果、北欧型を日本の高齢者の身体寸法に合わせて改良した車いすの評価が高い。北欧・米国製車いすの評価も高いが、日本の生活様式には合わない欠点があることが明らかになった(図7-1)標準型車いすは、合埋的な生産手法、人手サービスに高い評価があるが、他は極めて評価が低かった(図7-2)日本製でも海外の思想が混じって改良された製品は技術的に評価が高く今後の方向性が明らかになった。

8. 車いすの開発・生産・供給・使用と介護支援システムに関するデザイン計画(提案)

「最適な車いす」を開発・生産・供給・使用していくためには車いすメーカーと介護現場、医療現場、教育現場が分断化されている社会システムの状態から、車いすの開発・生産・供給・使用に関するすべての構成要素が介護支援システムとして双方向に関係性を持ち、統合化された介護支援システムの枠内で車いすの開発・生産・供給・使用という行為がなされる必要性があることが明らかになった。車いすのデザイン総合評価項目という共通言語を車いすの開発・生産・供給・使用という行為者すべてが使うことにより、統合された介護支援システムの構築の実現と、利用者にとって最適な車いすを世に送り出すことが出来ることが明らかになった。さらに分断化される要因として車いすに関する教育があることがわかった。開発・生産・供給に携わる人が専門分野ごとに細分化された教育内容で教育を受け、車いすを総合的に見ることができなくなっており、また最終ユーザーは車いすに関し、ほとんど何の消費者教育も受けていない現状も明らかになった。その現状を改善することも介護支援システムの構築の実現には必要不可欠であることが明らかになった。そのための総合化された介護支援システムを形成するための考え方を図8-1、図8-2に示す。