公共トイレの歴史的および人間工学的研究 トイレブース内のアクセサリーを中心として

多目的空間から構成される現代の公共トイレは、様々な人々のニーズに対応しなければならない。利便性の追求が、私たちの生活スタイルを変化させ、トイレの質を向上してきた。それと同時に、多種多様なアクセサリーとそれを操作するための操作盤によって、トイレブースでは混乱をきたしている。
本研究では多様化が進む現代の公共トイレ空間の特に、トイレブース内のアクセサリー操作盤の配置について考察する。現代にみられるトイレが形成された転換期は第二次世界大戦を挟んだ時期にある。1)衛生思想の普及2)上下水道の普及3)排泄スタイルの統一4)排泄空間の変化、以上にみられる欧米化の影響を受け、清潔症候群、洋式腰掛便器の普及による空間のコンパクト化と製品の画一化、水質汚染、多様多機能のアクセサリーの増加などの問題が起きた。
本研究では特に、多種多機能アクセサリーについて実態調査とアンケート調査を行い、次に展開する。実験調査概要は東日本を中心とした102箇所の公共トイレのアクセサリーを中心に写真をとった。結果として後付で設置されるアクセサリーが多く配置がばらついている。また、公共トイレによるアクセサリー機能の格差による誤使用されている問題がある。公共トイレ利用に関する調査概要は、東北工業大学生80人を対象に、ブースにおいて使用するアクセサリーに関する質問、5項目を設定した。
結果と考察は、利用する目的として最も多かった回答は、排泄行為であった。トイレにおいて多目的化・多様化が進んでいるとはいえ排泄という根本的な目的がある。特にブース禅の思想におけるアクセサリーの位置のばらつきは問題である。予備実験としてブース内の基本動作である紙巻器をとる動作における、条件設定と測定筋の絞り込みを行う。
以上の予備実験により、紙巻器位置の左右、便器から紙巻器までの幅が拡がるほど筋負担は大きくなった。筋負担が少なかった総指伸筋、上腕三頭筋は測定部位条件からはずすこととした。トイレブースにおけるアクセサリー操作盤位置の提案を行い、男女ともに使用されている筋は腰腸肋筋であった。幅よりも高さに筋負担の小さい範囲が広く、動作にゆとりがある。筋に負担のかからない、体をひねらない動作を考慮する’と、操作の配置は便座に座った状態で、全方向で、かつ壁面縦方向に配置することが望ましい。また、アームレストを用いた場合において、立ち上がる時、手に体重をかけて体を起こしやすいようだ。

東北工業大学新棟く環境情報工学科>のデザイン展開の記録とその創造過程についての若干の考察

平成13年度から本学6番目の学科条件を理論的に分析しながら手間「環境情報工学科」が開設された。この新学科開設にあたり、香澄町キャンバス内に新学科のための研究棟及び教室群の建設が計画された。この新棟計画に向け、新棟建設委員会が学長のもとに設置され、平成12年7月に発足した。二瓶教授は、この建設委員会の委員の-人として専門的立場から建築計画に関わることとなった。
この研究の目的は「本学及び新学科を象徴するような、そして学内の人々に本学のシンボルとしてイメージされるような建築を提案する」ことを課題とした二瓶研究室の研究プロジェクトに参画し、設計のプロセス・手法・技術・ディテール・表現方法を学ぶ。同時に課題に沿って研究・提案を行うことである。
新棟計画の基本方針として新学科設立の主旨を踏まえながら、理念に基づいた計画とする。理念の実現へ向けて従来の箱型建築の観念にとらわれず、新しい発想で取り組む。1.研究環境と教育環境、各々の機能と独自性を重視する。2.研究棟に2層吹抜けの多目的スペースを提案する。3.周囲との関係に留意し、調和のとれた環境をつくる。4.環境へ配慮した計画。以上を基本方針とする。基本方針に基づくデザイン展開の進め方は与えられた条件を理論的に分析しながら手間をいとわないで何案もつくる。それらを比較検討しながら最適解を見つける。答えは一つではなく、総合的に見てバランスのとれた案を発見することが重要である。案を図面化し、更に模型化して検討する。図面及び模型は徐々にスケールアップし、デイテール・仕上げ材・工法など総合的に検討を行う。問題がある度にフイードバックする。

デザインの展開の経過と内容

平成12年度はエスキススケッチに基づいたCADによる基本計画図の作成。平成13年度は図面の内容を検討・吟味するための模型制作を主に行う。


平成12年度はエスキススケッチに基づいたCADによる基本計画図の作成。平成13年度は図面の内容を検討・吟味するための模型制作を主に行う。

1.計画図面の制作

・平成12年10月6日案(第4回新棟建設委員会資料)
・平成12年10月26日案(第5回新棟建設委員会資料)
・平成12年11月10日案く第一次案>(第6回新棟建設委員会資料)
・平成13年2月2日案く第二次案〉
・平成13年2月22日案く第三次案〉(第8回新棟建設委員会資料)

2.演出空間も模型制作

・コロネード空間(S=1/50)
・研究棟屋上牢間(S=1/50)
・垂直動線空間
研究棟外部階段(S=1/50)
教育棟外部階段(S=1/50)

創造過程についての若干の考察について

この新棟計画では質の高い建築二く建築>を目指し、そこに至る過程で膨大な量のエスキス図をつくり、更には模型によるスタディを重ね吟味をおこなってきた。このことはく建物>からく建築>へ至るプロセス=創造過程を含んでいることを意味する。これらの流れのなかでは、手間・労力を惜しんではならない。これは、必要条件である。ただ時間をかければ良いということでもない。「建築家」の「建築に対する熱意」も当然必要となるが、この熱意を何故持てるのか、持ち得るのか。より高い「建築の質」を求めているからではないか。ということをこの研究を通して掴みまた多くのものを学んだ。

「六華倶楽部」移転改築計画―皇室専用スキーロッジから都市住宅への転用の記録―

「風景が美しくなければこれらの世界を相手にした市場では勝ち残れない」この言葉は2009年9月のイタリア視察旅行においてシルク産業を訪れた際の経営者の言葉である。視察に参加した私は、コモの美しい風景を背景にシルク産業が成り立っていることを確認した。ところで、近年、歴史ある建物や町並みを評価し、現代の生活の中で積極的に活用しようという動きが日本においてもできている。私の知る範囲でも、名取市の国字重要文化財指定の民家での農家レストラン、富山県五箇山の伝統的建造物群であり世界遺産にも指定されている合掌造りの農家群は、生活の場として積極的に受け継がれている。上記の2事例は、時間の蓄積のある空間が風景をつくり、産業を支えているといえる。
本論文で取り上げるのは、老朽化を理由に解体される予定だった皇室専用スキーロッジ「六華倶楽部」を移動改築し都市住宅として転用するというものである。この計画は、六華倶楽部の存在を認め、価値を評価した1人の医師の想いから始まっている。本研究は、この計画で実測調査、解体調査を行い、建物を評価し、それをもとに実施設計など一連の作業を通して関わることで進めてきた。本論文では、この過程で歴史のある空間を体験し、計画過程の記録を通して、歴史的建造物の保全、環境への配慮、高齢者社会という視点からまちの風景をよくする-つの方向性を示したい。そして、六華倶楽部を仙台に移転することが、まちの情報の質を上げ、産業の背景をつくる可能性がある試みとして位置付けたい。

六華倶楽部建築概要

建築年代:1924年12月
建築主:宗川旅館初代宗川孝五郎
設計者:福島市の大工
建築地:山形県米沢市大字板谷字五色498
規模:1階 141.118m2
2階 108.248m2
計 249.361m2(1間1818mm)
用途:皇室専用のスキーロッジ
構造:木造2階建1部石造
基礎 凝灰岩/小屋組和小屋
柱 間柱筋違の軸組構造

六華倶楽部の建築の充足条件

移転改築において、建物として残すべき条件を以下に示す。
1)スキッブフロアの空間構成。フロアごとの区切りがなく建物の空間は六華倶楽部の最大の特徴である。
2)暖炉の復元。皇室の建物だったという証として、ラウンジの暖炉に刻まれていた皇紀と西暦の数字も復元する。
3)和洋折衷の建築様式。1階は洋風、2階は和風という和風という空間。特にホール、ラウンジに関して、靴を脱ぐという形式は和式であるのに対し、インテリアは洋風であるところ。

都市住宅としての六華倶楽部

建築主:川島孝一郎
用途:店舗付き住宅→専用住宅
構造:木造2階建

都市住宅への転用事項(2002.2月現在)

1)1RC造壁式→2RC造ラーメン式→3SC造→4木構造
建築主の地下、屋根裏利用の夢から1で試案をつくったが、3階の案では竪穴区間として階段に防火シャッターを設置する規制があり、スキツブフロァが生かせないということから、2,3の段階を検討し、木造2階建という案に決まった。
2)インテリア
1暖房のみ→2+洋風のインテリア→3+和風のインテリア→4忠実に復元
報道により注目されたことに対する建築主の振れ動く気持ちの反映である。
3)エクステリア
外壁下見板は準防火区画の規制により、形状的な復元となる。
4)生活基盤として
2階部分に浴室、トイレを配置。介護部屋として、プランを変更した。また、長く住み続けることを考えエレベーターを設置することに決まった。

総括

以下に示す内容はこの計画により確認できた、魅力あるまちの風景をつくるために必要と思われる視点である。
1)建物の価値を十分評価した上で、それがまちにとって良い存在になりうるかどうかということから解体や保存を判断する視点
2)あらゆる方向から建築物の魅力を引き出す案を出し、可能性を検討する視点

たたき土技術の工業化に関する基礎的研究―製品の意匠展開を含めて―

現代の産業・経済社会において、急激な工業化や都市化の進展などにより引き起こされた環境破壊がわれわれの生活に深刻な影響を与え始めている。改めて、われわれは人間と地球環境との関係を問い直さればならない時点にあるといえるだろう。ところで、日本の伝統的左官技法の1つに”たたき”あるいは”三和土”と呼ばれていた技法がある。コンクリート技術が明治時代の末に導入されるまでの土木技術であり、特に明治時代には中部地方を中心に防波堤護岸・堰提などの土木構造物で大きな役割を果たしていた。種土と石灰を主な原材料として配合・固化したもので現在でも生きている遺構があるほど強固な構造物であった。この”たたき”は自然土そのものであるので、その特性は人間と環境に調和したものであり、1 現在の技術の視点から見直してみること、2 暮らしに機能できる製品化の可能性を確かめてみることを、この研究の目的としている。研究の方法は、たたき有用・有効性を確認するため、歴史的遺構の調査を行い、工業化にあたっての方向性を検討する。次に、宮城県内の土の分布調査し、たたきに用いる種土を入手する。その種土を用いて、歴史的事例における配合例を参考に固化材と配合し、ミニブロックを試作する。さまざまな配合で展開・確認されたミニブロックのなかから、たたきの工業化に適当な配合を抽出し、実機で量産試作および機能評価する。ブロック製品への工業化を背景に、その他製品展開の可能性を探る。
研究内容:
1)歴史的遺構の調査
2)宮城県内の種土の分布
3)種土と固化材の配合
4)ブロック製品の工業化プロセス
5)ブロック製品の評価
6)工業化による製品化の可能性

1)歴史的遺構の調査
調査は、特に遺構が多く見られる東海地方で、たたきの応用である”人造石工法”を発明した服部長七による構造物を中心に行った。
2)宮城県内の種土の分布
たたきの種土として、珪酸分に三む”まさ土”と呼ばれる花崗岩風化土、火山灰土壌の表土(腐植土)である黒土、石炭灰火力発電所から産業廃棄物として排出されるフライアッシュ(平均粒径8~55μの石炭灰)を使用した。まさ土は特に伊具郡を中心に仙南地域に広く分布し、黒土は奥羽山麓全体に分布している。本研究では、まさ土を柴田群川崎町、黒土を刈田群蔵王町から採取し、フライアッシュは原町火力発電所から入手した。
3)種土と同化材の配合
たたき土ブロックの配合を検討するためにあたり、ミニブロック板(100x10O×10~20mm)にて試作を行った。固化材は消石灰(工業用特号)ボルトランドセメント・マグネシアセメント(M90+M9C|2)を使用し、ソイルセメント用ポリマー塩化マグネシウム(にがり)、硫酸カリウムアルミニウム(焼き明箸)などを消石灰に対し10~20%添加した。水は配合土が湿潤状態」になる程度。試作方法は 1 計量した種土と固化材と水を配合 2 配合土を木型に入れ2tのブレスを加える 3 即脱型し1日~2日の気乾養生 4 さらに1~2日炉乾燥させる。ミニブロック板での試作を数十点展開したうえで、実機による量産試作の配合を決定した。
4)ブロック製品の工業化プロセス
量産試作では、タッビングブレス成形機を用いてたたき土平板ブロックを試作する。1 ホッパーに種土を入れる。2 計量した種土と消石灰を混合する。3 配合土を型に入れる。4 配合土をタッピングブレスする。5 収納庫へ運び、養生する。材料を型に入れてブレス、搬送するまでには10秒程度で、-時間あたり300~400枚のたたき土平板を成形することが可能である。
5)ブロック製品の評価
多面的な機能を持ったたき土平板ブロックの評価指標も1つとして弾力性試験を行った。試験は、ゴルフボールまたはスチールボール(1インチ)を1mの高さから自然落下させたときの反発高さより、GB反発係数(衝動吸収性)及びSB反発係数(弾性反発性)を求める方法をとった。これは両係数ともに値が小さいほど歩行者の足への負担が少ないことを示す。成形後14日目の評価において、GB値は黒土平板、フライアッシュ平板、まさ土平板と順に高くなることが確認できた。しかし、SB係数にはほとんど差がなかった。さらに、コンクリート平板やインターロッキングブロック、レンガなどの一般的な舗装材と比較しても両係数はたたき土平板ブロックが最も低く、歩行者にやさしい舗装材であることが確認できた。
6)工業化による製品化の可能性
たたき土は、材料配合と圧縮方法により、多様な機能展開による製品群の可能性が期待できる。フィジカルスペックとして、保水吸収性・調湿性.環境性・無白華性・耐候性・すべり抵抗性・緑化促進性・吸音性、1機能として評価した衝撃吸収性・弾性反発性などの機能があり、メンタルスペックとして、素朴な表情柔らかい感触・経年変化などが挙げられる。製品展開例として、床暖ブロック、屋上緑化ブロック、壁面ブロック、たたき土中央分離帯、たたき土の鉢、たたき土つち止め、煉瓦風たたき土ブロックなどの多様な展開が考えられる。
一般的な舗装材に比べて硬化速度が遅く、養生機関を十分に必要とすることが問題として残されている。製造工程に炭酸ガスを吸着させる工程を組み込むなどによる硬化促進の工夫が求められる。また今後、多くの機能のデータ化と使用環境や用途ごとに配合を設定し、さまざまな用途に応じた開発研究を展開していきたい。

住宅における室内熱湿気環境とエネルギー消費に関する研究

室内熱湿気環境問題には、空間を構成する材料の選択など、デザインに深く関わるものがある。また、近年、省エネルギーという社会的要求により、住宅の断熱気密化が進められるが、その為に室内に熱がこもる他、換気不足を起こしシックハウスになるなど、健康へ影響を与える問題が起きている。そこで本研究では、省エネルギーかつ快適な住宅の室内熱湿気環境について検討していきたい。
研究の方法は住宅における室内熱湿気環境の問題点を抽出するため、実測調査、エネルギー消費量に関するアンケート調査を行い、住宅の断熱構成による室内熱環境と、エネルギー消費の違いを明らかにする。その上で、数値シミュレーションを行い、実測により明らかになった問題点の対策とその効果について検討する。各種住宅を対象とした温熱環境についての調査は、宮城県内に建つ断熱気密住宅10戸、集合住宅8戸を対象として行った。対象住宅の概要を、それぞれ表1、表2に示す。実測は、小型の温湿度ロガーを用いて居間と寝室を対象に行い、実測時期は、断熱気密住宅2001年度、一般住宅は2000年度である。一般住宅とは、特に断熱気密性能にこだわって建設されていない住宅である。1)夏期実測調査、2)冬期実測調査、3)エネルギー消費調査を行う。

数値シミュレーションによる検肘

日本建築学会の標準モデルの1室を対象として、仙台の冬の気象データを用いた数値シミュレーションを行った。エネルギー消費量調査で確認してように、断熱材の厚さの違いや、窓の夜間断熱など、断熱性に関わる寒さ対策が暖房負荷の低減に効果的である。各対策を組み合わせると、より暖房負荷を低減させ、断熱Ocmの半分以下となった。
実測調査から、断熱気密住宅は冬期において室温の変動や、エネルギー消費量も少なく、熱的にすごしやすい環境であることが確認できた。しかし、冬期における極度の乾燥、夏期は夜間室内に熱がこもることが問題である。通風によって夜間冷気を導入することなどの工夫が求められる。また、数値シミュレーションより、断熱性の向上が暖房負荷の低減に役立ち、各種対策を組み合わせることにより、省エネ効果が大きくなることが判った。

肢体不自由のための手の作業訓練具のデザインに関する研究

障害のある子どもの全人間的な社会参加を目指す療育(子どものリハビリ)において、遊び要素を訓練に導入するための手法の構築が求められている。また、子どもの成長に伴う症状や身体機能の変化により、リハビリテーションで使用される訓練用具に求められる寸法や形態も変化することから、その改良の際に生じる様々な問題を解決するための生産手法の検討も求められている。
そこで本研究は、上肢機能障害を持つ子どもの手作業の訓練に着目し、それらの訓練用具に求められる機能・形態・素材の探求を通して、楽しみながら積極的に訓練に向かうことのできる作業訓練具のデザイン開発と、そのための生産手法を考察することを目的としている。

研究の方法

子どもと訓練遊具の関係を中心に図1に示すような各条件に沿って、療育において使用される訓練用具に関して、遊びの要素のある多様な訓練用具の制作・試用評価を通して、子どものヨIl練用具に必要とされるデザイン要素を検討する。

訓練用具の素材の触覚のイメージ調査

訓練用具に用いられる各素材の触覚イメージを中学生33名を対象に調査し、それらの利用方法などについて考察した。
木材は、身体に触れるところへの配置が望ましいが、雑菌の処理に関する配慮が必要なことを示した。低反発樹脂は、湿気を嫌う子どもの訓練用具の表面処理などに有効であるが、耐久性の低さに留意すべきである事を示した。ゴムは、身体に直接触れる部位への使用時のコーティング処理などの配慮と、緩衝材としての使用が望ましいことを示した。

描画・食事作業のための訓練用具の探求―肢体不自由児のためのペンツール

脳性麻痒児にとっては、木材の手触りが好まれる傾向にあること、使用目的が一定にならないことが推測された。

食事動作と筆記動作における形態

この試作評価においては、大きな動作と細かな動作にそれぞれ適した形が存在することが推測された。三角形を基本とした適度な引っ掛かりのある形態が粗大運動に向くこと、落花生を基本とした形態は微細運動に適していることが推測できた。

個別対応の訓練用具のデザインと観察

脳性麻痒の単一症例(SY君)を対象に種々の試用評価を行った。

粗大運動のための形態の展開

数種類の断面形状と上面形状の組み合わせにより形態モデルを展開し、SY君をはじめとする脳性麻痒児の円滑な粗大運動の獲得に寄与する形態を持った訓練用具のデザインの方向性を示した。また、この手法に医学的かつ心理的な検討を加えることで、対応できる症状が広がる可能性を示した。

訓練遊具のデザイン展開

SY君の投げる、描くなどといった各種の粗大運動を基礎とした動作に向けた訓練遊具の試用状況から、手の作業訓練遊具のデザインにおいては、対象とする子どもの身体機能に加えて心理的な側面を十分に考慮した上で、状況に即応した訓練用具のデザインを行う機会を増やす必要性が示された。作業療法士による悪意的な作業には興味がないことと、訓練による子どものストレスの軽減を図るために、複数の訓練用具を用いることの重要性を明らかにした。

今後の訓練用具の生産手法の在り方

訓練用具などを生産するための独立した部門のセンター内への設置や、訓練用具の構成とブログラムヘの応用などを提案し、子どもの成長段階に適した迅速な道具の提供を行うことができることなどを示した。

今後の課題

人件費を主とする個別対応開発に係る費用を如故に低く抑え、幅広い生産手法に対応できるようなにするかが今後の課題であろう。

宮城県における明治・大正期小学校建築の意匠と変遷に関する考察

日本において小学校は、明治5年の学生発布により、富国強兵の政策に基づいて初等教育の重要性を認識した政府からの要請で作られたものである。それまでの伝統的な制度と異なる近代教育を行うため、教える場である校舎もそれに合わせ変化を遂げていった。近代の小学校建築の研究であり、意匠に関するものはほとんどない。また、宮城県内の小学校についての研究も同様である。そこで本研究では、対象を明治・大正期の宮城県内の小学校建築に絞り、その立場意匠の変遷について辿る。研究の方法としては、「宮城県庁文書」の中の「学書」を使用する。
その中の学校の新増改築申請用の図面を基礎資料に、そこから立面図が存在する小学校を選出し、表を作成し、考察を行う。
資料とした宮城県庁文書には、明治期の小学校として439例、大正期49例の記録がある。その中で意匠の読み取れる立面図が存在するものは明治期68例、大正期25例である。それらを年代に並べ、主に校舎正面の立面デザインについて考察した。年代順に並べた結果、明治16年までのものには校舎の角にコーナーストーンという装飾が見られるので、明治5年から16年までを第一期とした。次いで明治32年からは明らかに洋風の意匠を持つものでは見られず、明治32年からは明らかに洋風の意匠を持つものは見られず、明治31年までを第二期とした。その後大正末期まで特に大きな変化は見られないので第三期とした。よって、宮城県内の小学校を外観意匠について時代区分した結果を示す。

第一期(M5~16)

近代の学校建築の様式は、二つに大分される。一つは擬洋風様式と呼ばれる、民間の大工棟梁たちにより日本家屋の技術の上に極端に洋風を模倣した意匠を用いたものである。特徴としては、主棟中央付近な上下窓、中廊下式でほほ左右対称型であることがあがられる。もう一つは江戸時代の教育現場である藩校や郷学校、寺子屋から発展した和風なものである。和風様式のものは、廊下を縁側式に外周させ、建具には襖や障子、板戸等を用い、教場は畳敷きであった。この時代の小学校はほとんどが寺院や民家を借用しており、擬洋風は全体の2割に満たない。読み取りが可能な立面図では13例中11例が擬洋風で好んで建てられていることがわかる。校舎形式は一棟の単純なものが多く、外壁は漆喰を塗り、窓は田字型の小さな上下窓や回転窓、軒下には軒蛇腹をつけている。建物の角にはコーナーストーンを配しているものは11例中5例あり、校舎の屋根は寄棟がほとんどである。これらの特徴は、この時代の官公署や兵舎に良く似ている。また、この頃の和風様式のものは、従来の藩校・郷学校・寺子屋の様式を受け継いだデザインを保っている。

第二期(M17~31)

明治10年代後半からは擬洋風校舎であってもその目立った特徴が見られなくなってゆく。これは上記の大工棟梁たちの子弟が正規の建築教育を受け始めたためと、宮城県の「小学校建築心得」(M16)に「校舎ノ屋根ハ瓦葺ヲ最良トシ其周辺ハ壁ニテ造り又ハ板ニテ囲ミ其窓ハ成ルヘク玻璃ヲ用ユヘシ」と記載され外壁は下見板張が見られるようになった。校舎も形式は.字型、L字型配置などの変化が見られる。和洋折衷式が見られるようになる。

第三期(M32~T15)

明治30年代以降は折衷様式が発展し、質素になっていく。外壁は下見板張で、屋根も木羽やストレート葺きが目立つ。細かな規定を設けたため、学校建築は画一化してくる。また、大正期に鉄筋コンクリート造の校舎が出現するが、意匠的に置いてこれ以降の変化は特に見られない。第一期は学制発布直後でまだ学校建築を経験上理解している人がおらず、模索している。建築の様式は擬洋風と和風に大分され、後者の方が数は多く、地域のシンボルとしても意匠を凝らしている。第二期に入ると次第に擬洋風・和風を折衷したものが建てられはじめる。擬洋風の校舎は、不況により材料等で経費がかさみ、日本の気候風土には適していなかったため減少する。和風の校舎も次第に姿を見なくなる。折衷では廊下を中に組み入れ片廊下式にし、意匠は全体的に簡素な仕上がりとなる。第三期、明治28年の「学校建築図設計大要」に学校建築フォーマットが図示されると、画一的な建築が多くなる。学校建築の衛生問題が重要視され教育内の通風や換気、採光等を考慮した結果、衛生面が重視され、細かな規定が設けられた。結果、開口部の形は一定化し、廊下は北側片廊下が主流となる。以降、特に意匠においての変化は見られなくなる。よって、小学校建築の画一化が進み、昭和の小学校建築に至る基礎となった。

カーナビゲーションシステムにおけるユーザビリティに関する研究

カーナビの従来の道路案内のみならず、交通渋滞情報の表示、インターネットヘの接続、TV・DVD・CD・MDなどのAVコントロールなど、多様化の一途をたどっており、そこで扱う情報の複数化は避けられない。その複雑化さ故に多くの機能が生かされない、ユーザーが使い切れないのが現状である。それを最小限に抑えるためには画面構成のみならず、ボタンの認知性、操作性などの人間工学的要素の検討が欠かせないといえる。本研究ではカーナビのメニュー画面について、実験や調査を通して問題点を抽出する。更に人間工学的視点より、使いやすさと操作性に重点をおいたメニュー画面設計を行う。
研究の方法は、タスク実験・アンケート調査・比較実験を行い、様々な角度からメニュー画面における問題を抽出する。抽出した問題点の改善案を考察する。抽出した問題点より、シミュレーションモデルを作成。作成したモデルの評価分析実験を行う。問題点を分析し、改良を繰り返す。

メニュー画面における問題点の抽出

一画面あたりの情報量が多い。画面構成、階層構造が複雑である。ボタン、文字が小さい、コントラストが弱い。使われている用語の意味がわかりにくい。ジャンル分類がイメージと一致しにくい。以上の問題が抽出された。

シミュレーションモデルの作成

コンセプトをシンプルな画像デザイン、見やすい大きな文字とし、操作フィールのよいタッチバネルでの入力を採用して、人間工学的視点より押しやすいボタンを考察する。

メニュー画面

カーナビの多機能化が進み、車内におけるマルチコントロールシステムの役割を持ちつつあることを踏まえ、現状の「カーナビで色々なコントロールができる」という概念ではなく、「コントロールシステムの中のカーナビ機能」という概念でシステムのメニュー画面のデザインを行った。
提案したモデルではボタンの大きさを大きくすることで操作性を向上させることができた。また、画面の簡素化によりタスク達成時間を短縮することができた。