1.背景と目的
近年の様々な電気製品の多くは、インタフェースを介して操作しなければならなくなってきた。しかし、大半の製品ではわかりやすさ・使いやすさは必ずしもよくない。それはグラフィカルユーザインタフェース(GUI)の良し悪しだけの問題でなく、シークエンスそのものに要因があるとも考えられる。
本研究では、カーナビゲーションシステムにおけるユーザビリティについて師Iデザインとシークエンス、情報処理の性差から調べ、男性と女性の操作における相違も検討して、性差に影響されないインタフェースの提案を行うことを目的とした。
2.研究の流れ
第1章 序論
第2章 文献調査
第3章 実験・分析と考察・制作一性差について
3-1 市販機器の調査
3-2 モデルA(市販品)調査・実験・分析
3-3 モデルB(市販品を反映した従来型の多機能)制作・実験・分析『群(多数)』から『個(一つ)」を探す
3-4 モデルC(改善型の単純機能化)制作・実験・分析『少数』から『個(一つ)』を探す
第4章
4-1 操作においての性差
4-2 モデルD(提案モデル)制作・実験・分析
第5章 結論
3.実験・分析と考察・制作一性差について
実験・分析を行い、考察をまとめた上で、次に制作するモデルの特徴として示して、それに沿ったモデルを制作した。また、制作したモデルについても実験・分析・考察を繰り返し行った。考察については性差に関する分析なども含めている。
3.1.実験A:市販システム
市場調査・分析などを行ない、市販ナビシステムを対象として市販機器の動向をつかむため実験を行った(図1)。
また分析はプロトコル分析法を用い、実験の過程をビデオカメラで録画して、被験者の発話・行動、その際のシステムの状態から問題点を抽出した。
1)実験
・実験方法:タスクを使用したカーナビの操作
・被験者:男性2名,女性2名(20~22歳)
・使用機器:A社製カーナビゲーションシステム(車載実装品)
・操作手順(タスク)
1.カーナビの起動
2.『住所』から探して行き先へ設定
3.『電話番号』から探して行き先へ設定
4.『ジャンル』から探して行き先へ設定
5.『名称』から探して登録場所へ設定
6.カーナビの終了
各タスクの最後に、入力した内容の取消も行なってもらっている。各タスクの狙いとしては、タスク2は初めて触れる機器の操作、タスク3,4はタスク2に類似した操作で機器に慣れてもらった上で、タスク5ではそれまでと違った内容の操作となる。
2)分析
分析はプロトコル分析にて行い、一画面の情報量、フィードバックなどの問題点を抽出した。
3)考察
分析から、次に何を操作したらいいかがわからない(一画面の情報量)、何を操作したのかがわからない(フィードバック)といったことを抽出した。これらは操作における迷いの原因となるため、感覚的・直感的な操作を妨げない方法が必要になると考えられる。
3.2.実験B:従来型の多機能モデル
実験Aからの考察や、GUIデザインなどを基にして、市販機器を反映したシミュレーションモデルである、モデルB(図2,図3)を制作して実験を行った(図4)。市販機器を反映するということから、シークエンスは実験Aでの使用機器と大きな相違がないように制作を行った。
分析は、実験Aと同様となるプロトコル分析と共に、被験者数を20名に増やした上で、タスクやさらに細分化した経過時間の統計解析も行った。
1)実験
・実験方法:タスクを使用したカーナビの操作
・被験者:男性10名,女性10名(19~22歳)
・ナビ使用歴:なし17名,少数回3名
・使用機器:タッチパネル入力方式のパソコン(TouchPanelSystems社製)
・これら以外は実験Aとほぼ同様
2)分析
プロトコル分析の結果からは、男性は一連の操作やシークエンスの『全体構造』を把握しながら操作していること、女性はその都度に現状を把握しながら操作していると考えられる。そして女性は、操作に迷っていることが少ない。つまり、現状の中から目的の対象を探し出すことが早い傾向にあると言える。
女性の操作時間の短さを明確にするため、各タスクの男女別経過時間(平均値±sD)を示した(図5)。タスク2,5では、その他のタスクと比較をすると操作時間が長い。そして男女間では有意差が見られ、男性よりも女性の操作時間が短かった(p<0.05)。
タスク3,4の経過時間がタスク2と比べて短い理由としては、タスク2,3,4は類似した内容の操作であり、タスク2で操作や画面を覚えることにより、その後の操作における基本的な振る舞いを覚えたと考えられる。
また、具体的に操作時間に差が存在したタスク2のメニューの選択時間(平均値±SD)を比較した(図6)。結果として男女間で有意差が見られ(p<0.05)、男性よりも女性の操作時間が短いことが明らかとなった。
このような差の原因としては、男性は画面を一通り見渡して構造を確認・把握しつつ操作を進める傾向が見られ(図7)、女性は現画面上の目的とする対象を探すのが早く、かつすぐ行動に移している(図8)と推測できる。
3)考察
実験Bの結果、操作について男女間に差が見られたことから、女性は『群』から『個』を探し出すこと、男性は操作しながら『全体構造』を把握していくことが得意であると考えられる。
モデルBは『群』から『個』を探すタイプであるが、モデルcでは『少数』から『個』を探すタイプとして制作を行ない『全体構造』を把握しやすくしたことで、それらが男性もしくは女性にどのような影響を及ぼすのかを調べた。
モデルBとCの地図画面は同様だが、ナビメニューではそれぞれモデルBは多機能の『群』、モデルCは単純化の『少数』という特徴を持たせた。
3.3.実験C:改善型の機能単純化モデル
前述の考察から機能を単純化させたモデルc(図9,図10)を制作して実験を行なうことで、性差によって影響されるであろう操作の相違を調べた。
また、分析はタスクやさらに細分化した経過時間の統計解析のみとしている。
1)実験
・被験者:男性10名,女性10名(20~23歳)
・ナビ使用歴:なし17名,少数回3名
・これら以外は実験Bとほぼ同様
2)分析
各タスクでの男女別経過時間(平均値±SD)では、全てのタスクで男女間では有意差が見られず、性差における相違は見られなかった(図11)。
また、各タスクの経過時間について、実験BとCでの比較を男女別に表した(平均値±SD)。
タスク2では、男女問わず経過時間に差が見られなかった(図12,図13)。これはメニューの改善によりメニュー操作の時間は短くなったが、行き先の設定に時間を要したためと考えられる。しかし男性はタスク3において有意差が見られ、タスク4にも差がある傾向が見られた。これは、タスク2において操作に慣れた、つまり、少ない操作経験でモデルcの『全体構造』を把握することができたのではないだろうか。
なお、女性はタスク3において有意差が見られたが、これは前述のタスク2と3の関係性と思われる。
タスク2では男女間の経過時間に差がない。これは丁目・番地・号の入力後に押す「決定」(図14)が、住所入力の完了をユーザに連想させ、さらに次画面で地図が表示されることで、目的地へのガイドがすでに開始していると感じさせたのではないかと考えられた。
また、実験cの約二週間後に同一の被験者の中から男性、女性各々2人ずつを無作為に選んで行った追加実験(実験cS)ついて分析を行った。なお、実験CSの被験者4人と、実験Cの被験者20人について経過時間の平均値を算出し、両者の経過時間について比較した(図15)。
タスク2,5では、実験Cと比較して実験CSの経過時間平均値が短くなっていることがわかる。
タスク3,4では、実験C,実験CS共に所定の操作以外に要していた時間はほとんどなかったため、それ程の変化が見られなかったものと思われる。
3)考察
実験cの結果、男性に対して『少数』から『個』を探すというアプローチは有効であること、特定の箇所のみの操作性を考えても、その他の箇所とバランスが崩れてしまい、操作に影響をきたすと考えられた。
モデルCは、モデルBよりも男性の経過時間は短く、女性の経過時間には影響を及ぼさなかったことから、モデルCを提案モデル(モデルD)の基本とした。
4.提案・検証とまとめ
これまでの実験・分析から抽出した考察なども考慮しつつ、行き先設定などに関してモデルc(図16)を改善したモデルD(図17)を制作して、検証を行った。
4.1.実験D:提案モデル
制作したモデルD(図17)により、性差に影響されないインタフェースが提案できたかを検証した。
なお、実験CSと同様に被験者数が少ないため、統計解析による分析を行わず、傾向の抽出のみとしている。
1)実験
・被験者:男性2名,女性2名,(21~30歳)
・ナビ使用歴:なし2名,少数回2名。これら以外は実験Bとほぼ同様
2)検証
実験Cに比べ、実験、では操作が円滑に行われていた。また、平均値を比較すると(図18)、タスク2,3,4は実験Dの経過時間の方が短かいようである。
4.2.全体の考察
本研究ではGUIデザインの基本コンセプトと、その実践方法を学び、性差による操作の相違を考えながら、性差に影響されないシステムを提案した。
調査・実験Aから「一画面の情報量」や「フィードバック」などの問題点を抽出して、それらを考慮しながら市販機器を反映したモデルBを制作した。
実験B(モデルB)からは、機器の操作に対して男女の差が明らかとなり、女性は『群』から「個』を探し出すこと、男性は操作をしながら『全体構造』を把握していくことが得意であると考えられた。
実験C(モデルc)からは、男性に対し『少数』から『個』を探すというアプローチが有効なこと、特定の箇所のみの操作性を考えても、他の箇所とのバランスが崩れてしまい、操作自体に影響をきたしてしまうと考えられた。
実験D(モデルD)からは、実験Cと比べ操作時間が短縮されたことと、モデルC同様に性差からの影響による操作時間の差が少ないことがわかった。
以上をまとめたものが、図19となる。
5.結論
性差としては男性が『全体構造』を把握すること、女性は『群(多数)』から探すことが得意といえる。
性差に影響されないインタフェースを構築する方法については以下のことが考えられる。
・よく使う機能を絞り込み前面(上階層)に表示
・全体構造を把握しやすくする表示
・操作の方法や応答を変化なく表示
これらは、性差に関する問題だけではなく、操作にインタフェースを用いる製品の多くに適用することが可能であると考えられる。
参考文献
・B.シュナイーダーマン:ユーザーインタフェースの設計 やさしい対話型システムへの指針,日経BP社,1993
・海保博之・原田悦子:プロトコル分析入門 発話データから何を読むか,新曜社,1993
・A.クーバー:コンピューターは、むずかしすぎて使えない! 翔泳社,2000
・佐々木正人:知覚はおわらない アフォーダンスへの招待,青土社,2000
1.研究の背景と目的
現在日本で使われている車いすの大部分は、50年以上前にアメリカで開発されたモデルをそのままの形で踏襲しており、車いす使用者のほとんどが欧米サイズの身体に合わない車いすに乗っている(乗せられている)のが現状である。しかし、急速な高齢化の進展や身体障害者数の増加によって、今までのような「他人ごと」の時代から障害を持つ人や高齢者と「共生」する時代になりつつある。
したがって、今後は機能・性能面の向上に加え、暮らしの中に溶け込み、心理・生理面に配慮した「車いすと人の適合」という新しい価値観を持つ車いすが求められている。
本研究では狭い日本家屋内でもアクティブに動ける6輪タイプの屋内用車いすを、実際に車いすユーザーである佐賀大学医学部の松尾清美助教授、車いす製造メーカーの日進医療器株式会社と共同開発を行っている(図1)。この共同開発は商品化を前提としており、新しい価値観をユーザーに提供する車いすになり得る開発プロジェクトである。
今後、この車いすが生活空間の中でどのような機能的・心理的効果をもたらすのか、双方の視点から車いすと人との適合性を探ることを本研究の目的とする。
2.車いすの適合について
車いすの「適合(fitting)」とは、車いすをユーザーに合わせていく「過程」を指し示す言葉である。
車いすをユーザーに合わせるために必要な要素は、
・ユーザーの身体状況に合わせる恢病、身体寸法など)
・使用する生活環境に合わせる(屋内/屋外など)
・使用目的に合わせる(日常生活用/スポーツ用など)
・ユーザーの「変化」に合わせる
である。これらは互いに密接に関係し合い、時には相反する機能を車いすに求める。しかし最も重要なことは「ユーザーをよく知る」ということであり、その潜在能力をいかに引き出すかが適合への鍵となる。
3.研究の成果
1)現在、第4次試作モデルまで完成した。
2)ハンドリムやアームサボートなど、主に身体に直接触れる操作接点部のデザインを行った。
3)佐賀大学医学部、日進医療器株式会社に研修に行き評価実験や試作モデルの検証、改善提案を行った。
4)座圧分布測定や脳血流測定を用い、生理評価の基礎的データ収集とその可能性を探った。
4.新型車いすの開発
4.1.開発指針
足で歩行することのできない脊髄損傷者や高齢者などは、狭い屋内でもアクティブに動ける車いすを使用することによって自立移動を行うことができる。そこで「移動・移乗・姿勢保持」という3つの基本動作を中心として、小回りのきく6輪車と日本家屋に馴染んだデザインと安楽性のある木製車いすに注目し、それらの特性を併せ持つ車いすの開発に着手した(図2)。
試作改良を重ねた結果、機能モデルとしてはほぼ実用化段階まで到達しており、近日中に商品化される予定である。現在は第4次試作モデルまで完成している(図3)。
4.2. 6輪車の特徴
1)駆動輪位置が標準型車いすより前方にあるので、腕の力を入れやすく操作しやすい機構になっている。
2)回転軸を体の中心に持ってくることにより、歩行と同じ感覚で走行できるので、方向転換や曲がり角でもスムーズに小さく回ることができる(図4)。
3)後方に加重することで前輪キャスターがウイリーし、段差を楽に越えられる。その際、後輪キャスターが接地しているため転倒する心配はない。
4.3.設計仕様
<移動関連>
・6輪車を採用する(図5)
<姿勢保持関連>
・背シートは背骨の形状に沿った自然なS字フレーム(生理的湾曲)による張り調整式とする
・ティルト機構(姿勢変換)を取り入れる(図6)
・褥瘡(床ずれ)予防の座クッションを組み合わせる
<移乗関連>
・脱着式アームサポート、フットレッグサポート
・座面が前方へ100mスライドする新機購を採用(図7)
<その他>
・屋内での生活環境を考慮し、身体に直接触れるハンドリムなど操作接点部は基本的に木製とする
・身体寸法に合わせた各種調節機構を持たせる
5.構成パーツの形状設計
5.1.ハンドリムの設計
従来のハンドリムは車輪との距離が離れており、その隙間に手を挟んでしまう、細すぎるためにうまく力を伝達させて操作することができない等の問題点があった。また、車いす使用者である松尾先生から、車いす使用者はハンドリムを握って操作するのではなく、指を添えて親指の腹で押し出すように操作しているということを学んだ。
以上のことから「幅を狭く、車輪との隙間が無い、指を添えて操作しやすい」という設計条件が導き出された。これらを基に試作モデル(図8)を制作し、佐賀大学内の被験者を対象に主観評価実験を行った(表1,図9)。
実験の結果、1が最も良い評価を得られた。それを基に木材の加工性、車輪との接合条件をクリアするためにリファインを行い、決定モデル(図10)とした。
5.2.アームサポート(肘掛け)の設計
一般的な椅子の肘掛けはリラックスの為や立ち上がる際の補助となる意味合いが強い。一方、車いす使用者にとっての肘掛けは、それらの機能に加えて身体を支える機能、ハンドリムを操作する際に邪魔にならない形状が要求される。したがって、椅子と車いすの一番の相違点である「ハンドリム操作時に邪魔にならない形状」を中心に考え、φ25mmアルミパイプに被せるアームサポートの試作モデル(図11)を制作し主観評価実験を行った(図12,13)。
実験i (ハンドリムを操作する):①②③を○△×で評価<外側>
実験II (身体を揺らす、ねじる)、実験通(腕を乗せる):外側形状を固定して内側形状を3パターンに展開し、総合的に評価<内側・上側>
実験iv (立ち上がる、握る):実験ii,iiiの評価結果が最も良かったモデルの高さを40mと45皿の2パターンで評価<周囲>
6.座面スライド機構の検証
6輪車は「移動」という側面だけを捉えれば、小回りがきき、駆動も容易で大変有効である。しかし「移乗」を考えてみると重心位置にある車輪が邪魔になってしまい、車輪が後方にある車いすよりも移乗動作が難しい。したがって、その欠点を補うために座面スライド機構を開発し採用した。座面下部のレバーを操作すると座面が前方に100mスライドする(図14)。
実際に車いすユーザーによる検証を行った結果、座面スライドと共にフットレッグサポートを外すことにより、臂部から足もとにかけてスペースができ、ベッドや車いすへの移乗が簡単に行えた(図15,16)。
6.適合性を計るための生理評価実験
6.1.座圧分布測定によるシーティングの生理評価
新型6輪車に初めて採用されたS字型背フレームを中心としたシーティングと、従来型の車いすを比較することで、そのシーティングの有効性を検証した。また座.背のみ、座十クッションなどの実験条件を変化させた基礎的な特性データ、通常時とティルト時との比較等も行い体圧分散効果を検証した。
一般的に使われている標準型車いす(クッションなし)と新型6輪車(クッションあり)を比較した。一目見ただけでは気づきにくいが、実際は標準型のフットレストが数Cm高く、クッションを敷いていないだけで、体圧分散性が全く異なることが明らかになった(図17,18)。
6.2.脳血流測定による乗り心地に関する生理評価
脳血流測定では、新型6輪車の持つS字型背フレームやティルト機能を中心とした「安静時の快適さ」や、軽い操作性を中心とした「駆動時の快適さ」を従来型の車いすとともに比較することで、新型6輪車の有効性や脳血流測定手法の可能性を探究することを目的とした。
ティルト機能は血流を回復させてリフレッシュできると一般的に言われているが、実験の結果(図19,20)標準型車いすの安静時と比べて、ティルトと同時に血流が急激に下がることを確認することができた。しかし、長時間テイルト状態を保つと血流が増大し、逆にストレスとなることも明らかになった。
7.屋内環境との適合性に関する評価
実際に狭い日本家屋内での使用評価を行った。75歳の男性を被験者としたが、幅85cmの狭い通路も簡単に通り抜けることができ(図21)、ゆっくりではあるが、その通路内で回転することもできた。また、個人差があると思われるが、室内入り口の段差の乗り越え時などに、ウイリー、テイルトの技術を容易に獲得していた(図22)。
屋内走行の評価を行って明らかになったことは、床材の問題である。硬めで毛足の殆ど無いカーペット、フローリング、畳という3つの路面を走行したが、畳上での走行時の摩擦は大きく、駆動しにくいということが明らかになった。畳の部屋が日本家屋には多いため、今後は屋内環境面、摩擦を軽減する車輪の素材、カバー等の検討が必要であると考える。
主観評価においては、6輪車は駆動性が良く、ハンドリム等の木製パーツも心地良いといった評価を得られた。屋内イメージや生話環境との適合に関しては、金属を使っていても操作する部分が基本的に木製であるので、違和感は無いといった評価を得た(図23)。
8.結論
車いすと人との適合性を考えた際、車いすユーザーは暮らしの中から各々に合った使用のコツを獲得し、それを活かして生活していることが明らかになった。今回の研究において、従来では殆ど注目されてこなかった構成パーツへの細かい配慮が、適合への新たな可能性を持つことが示唆された。また、適合に関する生理評価実験の有効性も見出すことができた。
人間の身体機能に車いすをより近づけるためには、今後も車いすの多機能化は避けられない。しかし、それと共に生活環境の中から生まれるアイディアを形にすることも重要であると考える。駆動時「あと2cm幅が狭かったら…」移乗時「あと10cm前へ出れれば…」など、私たちが普段見過ごしがちな「小さな気づき」を具現化すること、つまり、ユーザーの能力をひき出す「気づきのデザイン」が適合への第一歩ではないだろうか。
参考文献
第19回日本リハビリテーションエ学協会車いすSIG講習会テキスト『車いす!「アクティブ」への挑戦』ベーシック・アドバンストコース,2004
財団法人テクノエイド協会:車いすの選び方解説書,2004
B.エングストローム:からだにやさしい車椅子のすすめ,三輪書店,1994
田中理,大鍋寿一監訳:車いすのヒューマンデザイン,医学害院,2000
車いす姿勢保持協会編元気のでる車いすの話,はる書房,2003
梨原宏,木材を主素材とした車いすの開発に関する研究,1994
日本建築学会編コンパクト建築設計資料集成バリアフリー,丸善,2002
川内美彦:ユニバーサル・デザイン~バリアフリーヘの問いかけ~,学芸出版社,2001
佐々木正人,アフォーダンス~新しい認知の理論~,岩波書店,1994
後藤武,佐々木正人,深澤直人:デザインの生態学~新しいデザインの教科書~,東京書籍,2004
1.研究の背景と目的
近年、空調用エネルギー消費量を低減する方法の一つとして、ヒートポジプに地中土壌熱源の熱交換システムを利用する研究が各地で行われるようになってきた。このシステムは、冬には外気温が氷点下となる寒冷地でもヒートポンプの利用ができ、夏には地中への放熱によりヒートアイランド現象の緩和効果が期待できるという利点を持つが、一般に地中熱交換器部分のイニシャルコストが高くなるため、未だ実用化の域に達していないのが現状である。一方、現代の建築物は、その基礎に多数の摩擦杭や支持杭などのコンクリート杭を持つものが多い。しかも、それらは中空部分を有している。したがって、この基礎杭の中に熱容量の大きい水を充填して、それを熱交換器として利用することができれば大変都合が良いと思われる。そこで、本研究では、実際の基礎杭と市販の地中熱源ヒートポンプを組み合わせた実験システムを構築し、このシステムの暖房性能に関する実験を行い、その熱的性能をさまざまな角度から検討するとともに、仙台という気象条件においてヒートポンプの熱源としての基礎杭の適用可能性を明らかにすることを目的とする。
2.実験概要
2.1.実験システムの概要
本実験は、東北工業大学ハイテクリサーチセンター内の基礎杭および人工気象室を用いて行う。図1に、実験システムを示す。このシステムは、地中熱源ヒートポンプ(以下、GSHP)をはさんで、熱源側(一次側)である基礎杭と負荷側(二次側)である人工気象室、そしてこれらを結ぶ熱源水と温水の循環系から構成される。基礎杭は、外径400m、内径250nn、長さ10mのPCコンクリート製の支持杭4本である。基礎杭にはすべて不凍液(エチレングリコール40%水溶液)を充填し、その中にそれぞれ同じ不凍液を充填したU字管を施してGSHPに循環するようにした。一方、人工気象室にはファンコイルユニットを設置し、GSHPからの温水が循環するようにした。表1に、本実験で用いたGSHPの仕様を示す。このGSHPは、冷媒に代替フロンであるR32とR125を50%ずつ混ぜ合わせた混合冷媒R410Aを用いており、出力が5.8kW、成績係数が4.3となっている。但し、この能力は一次側と二次側がある決められた状態の時の値であるから、実際のシステムの中で地中熱源ヒートポンプの有用性を言うためには、まず、さまざまな条件が変わったときGSHPの性能がどのように変化するかを把握しなければならない。これを明らかにすることが本実験の目的である。なお、基礎杭が埋設されている地盤は、機械ボーリングにより、地盤表面から砂質粘土(深度0~1.8m)、凝灰岩(1.8~5.5m)、砂岩(5.5~6.7m)、凝灰岩(6.7~7.8m)、シルト岩(7.8~10m)の順に構成されていることを別途確認している。
2.2.実験の種類と条件
実験は、GSHPが100%運転となるように、GSHPの送水温度を46°Cに設定するとともに、擬似負荷となる人工気象室の温度を10~20°Cの範囲で一定温度に設定した。実験の種類と条件を表2に示す。実験のパラメーターは、人工気象室の温度、熱源水流量、基礎杭の数などである。GSHPの運転は10時間の間欠運転とし、それを5日間続けるものとした。測定項目は各部の温度、流量、電力消費量である。これを表3に示す。温度の測定箇所は、基礎杭周囲の地中土壌、杭内部の不凍液、一次側U字管内熱源水の往き還り、二次側温水の往き還り、人工気象室内部などで、合計120点以上に及んでいる。地中土壌温度と杭内水温の測定には0.6m径、その他の温度の測定には0.3m径のCC熱電対を用いた。流量は、4本それぞれの杭のU字管内部を流れる一次側ブライン流量と、それがヘッダーを介して合流し、GSHPに入っていく流量、およびGSHPから人工気象室に向かう二次側温水の流量を、磁気回転式の流量計で測定した。
3.実験結果
3.1.実験の種類と条件
人工気象室の温度を10°Cとした実験1の結果として、図2,3,4に、それぞれ一次側の熱源水温度と二次側の温水温度、基礎杭内水(不凍液)温度と杭周囲土壌温度、杭4本の平均水温、GSHP暖房出力と地中採熱量および電力消費量の時間変動を示す。運転が開始されると、熱源水の温度は16°Cから一気に-5°Cまで降下して杭内に入り、地中で熱交換して-2.1°Cで還ってくる。これらの温度は時間を追って下がり続け、採熱量も減少している。初日の積算採熱量は34.1Whであった。これは杭1本あたり約8.5kWhの採熱に相当する。運転が停止されると熱源水温度は上昇し、14時間後の次の日の運転開始時には概ね元に回復している。杭内水温と土壌温度については、運転が開始されると両者とも熱源水の温度変化に追随し、それぞれ11.1°Cから7°C前後、11.4°Cから8°C前後と深さごとに層状に降下するが、やはり運転が停止すると徐々に上昇し、運転開始前までとはいかないまでも温度はほぼ元に戻っている。この状態は4本の杭とも同様であった。2日目以降になると、下降と上昇を繰り返す各部の温度は日を追って下がり続け、5日目の運転停止直前には、熱源水温度は往きが-8.9°C、還りが-6.5°Cにまで低下している。ただし、往き還りの温度差は初日と比べてそれほど変わらないので、5日目の一日あたりの採熱量は31.7kWhと、能力低下は7%ほどであった。
一方、二次側の温水の方は、運転が開始されると16.3°Cから34.0°Cまで一気に上昇し、人工気象室に排熱して29.3°Cで還ってくる。これらの温度は時間とともに少しずつ下がって、GHSPの暖房出力も減少傾向にある。初日の積算出力は49.8kWhであった。運転が停止されると温水温度は徐々に下降し、翌日の運転開始時には17.6°Cまでに戻っている。2日目以降になると、各部の温度は全体として僅かに下がり続けるが、その程度は小さく、5日目の暖房出力も47.2kVIIIと、初日に比べて5%の低下に留まる結果となった。また、GSHPの電力消費量は、一日あたり16.5kWhとなり、この電力消費量とGSHPの暖房出力および基礎杭の採熱量、三者のエネルギー保存の法則に基づく熱収支関係(暖房出力=電力消費量十地中採熱量)は、ほぼ満足のいく結果となった。このGSHP出力を電力消費量で割った値、すなわち成績係数(coP)は、この場合、約3.0となった。
3.2.すべての実験結果のまとめ
図5は、今回行ったすべての実験の結果を、熱源水温度と杭内水温、温水温度、およびGSIPの電力消費量、地中採熱量、GSHP暖房出力のそれぞれの日積算値の変動としてまとめたものである。温度変動においては、いずれも、実験1の結果と同様の傾向を示していることが判るが、長期間連続して行った実験7にみられるように、5日間の運転に2日程度の休止期間を設ければ、熱源側の方に、運転再開に必要な熱的回復を見込ませることが可能であると推察された。また、人工気象室の温度を10°Cから20°Cに変化させることにより、熱源水の方にはその影響が見られないのに対して、実験1~3にかけて、温水の往き温度は35°Cから45°C前後に高くなっており、明らかに影響が見られた。これは、温水の方はファンコイルユニットの熱交換温度と人工気象室の温度が直接的に関係するのに対して、熱源水の方はGSHPを介して間接的な影響しか与えられないからではないかと思われる。しかし、積算熱量の変化で見てみると、GSHPの暖房出力は、擬似負荷となる人工気象室の温度が変化しても、影響はないのに対して、電力消費量や地中採熱量は、人工気象室の温度が高くなると、電力消費量は大きくなり、地中採熱量は小さくなる傾向が見られる。この傾向は地中採熱量に顕著であった。なお、杭の数を減らした実験8~10において熱源水温度が他に比べて下がっているが、これは、冬の外気温の影響である。
3.3.温度と熱量および電力消費量の関係
すべての実験結果から各部温度の日ごとの運転時間平均値、日積算熱量などを取り出して相互の関係を調べた。図6に、熱源水往き温度と地中採熱量の関係を示す。両者は、人工気象室の温度ごとに大きなグループを形成し、その中で、それぞれ熱源水の流量杭の数実験開始日からの日数をパラメーターとする正の相関を示している。採熱量でみればその低下の程度は、実験の違いにかかわらず5日間で約2kWhであった。また、人工気象室の温度が高い方が採熱量は小さくなっていた。一方、温水往き温度とGSHP暖房出力との関係を示したのが、図7である。図6と同様に、両者ともそれぞれの実験開始日から日を追うごとに小さくなる傾向が見られるが、この場合は、人工気象室の温度が高くなると温水温度は高くなるのに対して暖房出力は変わらない結果となった。
図8は、GS融の暖房出力と電力消費量およびCOPの関係を併せて示したものである。暖房出力の方は、熱源水の流量と杭の本数に、一方、電力消費量の方は、人工気象室の温度に大きく影響を受けていることが見てとれる。両者の値から得られるCOPは、全体で2.4~3.4に分布し、熱源水の流量が大きいほど、また、杭の本数が多いほど大きくなり、人工気象室の温度が高くなるほど小さくなる。
3.4.成績係数(COP)に関する回帰分析
前項の考察により、熱源水の流量や杭の本数は地中土壌からの採熱量に大きく関係し、人工気象室の温度は、GSHPの温水温度に大きく影響することが判った。そこで、COPと採熱量の関係、およびCOPと温水温度の関係を調べるため、回帰分析を行った。それぞれ、図9と図10に、その結果を示す。COPと採熱量には、強い正の相関があり、採熱量はCOPの増加に大きく影響する因子だと判る。回帰式によれば、採熱量が10kWh増加すればCOPは1上昇する。一方、COPと温水温度には、強い負の相関があり、温水温度が高くなるとCOPは低下する。そこで、COPを目的変数、採熱量と温水温度を説明変数とする重回帰分析を行った。図11は、重回帰分析より求められた重回帰式を基に実測値と推定値の関係を示したものである。両者は概ね一致しており、GSHPのCOPは、地中採熱量と温水温度の値によって高い確度で推定可能であることが判った。
4.結論
基礎杭を利用したGSHPシステムについて、その熱的性能を系統的に実験した。その結果、地中採熱量を大きくするとともに温水温度を抑えることにより、そのCOPを空気熱源ヒートポンプよりも大きくする可能性があることが判った。基礎杭による地中採熱についても、仙台の気象条件では、適切な運転パターンにより、地中土壌の熱的回復力を図ることが可能だと思われた。
あとがき
本研究は、東北工業大学第1期ハイテクリサーチセンター第2プロジェクト研究の一部である。お世話になった方々に心から深甚なる謝意を表する次第です。
参考文献
加賀久宣ほか:基礎杭利用地熱空調システムの研究開発、その1、実大実験システムによる性能検証、空気調和・衛生工学会学術講演論文集、2001
濱田靖弘ほか:空調用エネルギーパイルシステムに関する研究、実規模建築物への適用と暖房運転実績の評価、建築学会計画系論文集、No.562,2002
小島原嘉也ほか:人工気象室を用いた基礎杭利用地中熱源ヒートポンプの性能評価に関する研究、空気調和・衛生工学会学術講演論文集、2004
1.背景と目的
産業革命以降、技術進歩による大量生産大量消費社会が到来した。そあ結果、安全性・利便性を兼ね備えた豊かな暮しになったが、一方で自然環境は悪化し、各国で環境保護の政策が求められるようになった。ビオトープ(Biotop)は生物多様性の保護のためにドイツから始まった理念である。「bio:生物 topos:場所」を語源とする造語であり”生物の生息生育する場所”,という意味である。現在のドイツでは”自然環境保護の観点から保護しなければいけない地域”,と位置付けられ、環境保護対策の手段とされている。日本でも最近になり注目され、すでにいくつかの事例もある。しかし、日本のビオトープはドイツのビオトープと比較すると箱庭的で規模の小さなものであるという印象を受ける。従って本研究の目的を以下にする。1:ドイツと日本のビオトープの違い 2:ドイツ並みのピオトープが日本にあるかないかを明らかにしつつさらに 3:今後の日本のビオトープのあり方について提言したい。
2.方法と内容
2.1.文献調査によりドイツと日本のビオトープの違いと問題点を以下の点から明らかにする
・違いの生じたきっかけ、ドイツのピオトープの指標
・ドイツと日本の事例収集
・収集した事例におけるピオトープの指標の比較によるドイツ並みの日本のビオトープについての検討
2.2.ドイツでは農村整備事業に自然環境保護を取り入れることが法的に求められる。そこで実地調査による農山村地域における一農家の環境の実態を以下の点から明らかにする
・自然環境の現況調査、歴史的経緯とその背景
・維持管理について(実測、資料文献、聞き取り調査を含む)
2.3.以上の点から日本の今後のビオトープのあり方に
ついて提言する
3.ビオトープの発展経緯(図1)
ビオトープの始まりは1976年のドイツ「連邦自然保護法」である。その後、日本に伝わったのは1980年代中頃で河川工学者が中心となって研究していた近自然河川工法と一緒にピオトープが広まっていったと思われる。1980年代はドイツでもビオトープは研究段階であった。1992年の「地球環境サミット」により、生物多様性の問題が行政が取り組むべき問題として世界的に取り上げられるようになり、急速にその必要性が問われるようになった。日本でもビオトープなるものが近自然河川工法を用いた効果の見やすい形で各地につくられるようになった。他方、ドイツをはじめヨーロッパでは1992年「ヨーロッパエコロジカルネットワーク」が計画され、ドイツでは農村整備事業に自然環境保護を取り入れることが法的にも求められるようになった。日本では近自然工法を中心に、ドイツではネットワークの計画を中心にして広まっていったことが日本とドイツのビオトープの違いを生んだ要因と思われる。
4.ビオトープの指標
ドイツと日本のピオトープを具体的に比較するため、ドイツを基本としたピオトープの指標表(表1)を作った。事例においてピオトープの形態、ネットワークの形成、ピオトープの目標・目的を調査し、まとめるが特にビオトープの目標・目的が比較対象となる。ビオトープの目標については表1の青線囲い、横軸のビオトープの保護・保全・復元…、ビオトープの目的は縦軸の種の多様性、地下水と表面水の保護等の項目が入る。横軸に多く印がつけば広範囲のビオトープを対象にしていることがわかる。縦軸に多く印がつけば目的が充実したピオトープと評価できる。日本ではまだ、整備体制が整っていないこともあるのでドイツのような規模の大きなものを計画することは難しい。よって、ここでは、縦軸の充実度がドイツ並みのビオトープの目安とする。次にこの表をもとに事例について検討してみたい。
5.事例調査
日本でピオトープとして捉えられている屋上ビオトープ・企業地内ピオトープ・学校ビオトープ・公園ビオトープ・河川ビオトープ・里山ピオトープ・自然再生事業、それぞれ1~2例の事例調査を行い、ピオトープ指標表で評価した。(例:表2,3,4)
屋上ビオトープ・企業地内ピオトープ・学校ビオトープ等は規模が小さく、ネットワーク化はほとんど考えられていない。環境学習や自然に親しむ場としての意識のほうが強いようである。河川ビオトープ・里山ビオトープについてはネットワーク化も考慮されている。里山ピオトープについては指標表のピオトープの目的が充実していた。釧路湿原自然再生事業については国が関わっている事業であるということから、一番規模が大きく目的も充実していた。ドイツ並みのビオトープに一番近いものであるといえる。事例のビオトープの指標を比較した結果、日本のピオトープの問題点はビオトープは創るものであるという意識が強く、自然保護・保全、ネットワーク化の意識が薄いことではないかと思われる。日本の事例の特徴として以下のものが挙げられる。表1の下から二つの表を参照願いたい。
・ピオトープネットワークの形成は地点地域範囲が多い(▲)
・自然環境の代償、復元の目標が多い(■)
・地下水と表面水の保護は意識されているが土壌肥沃性の維持に関しては少ない(●)
・伝統的技術で利活用するという項目が少ない(○)
・ピオトープの目的が自然に親しむ場、環境学習の場としての意識が強い(◎)
6.農山村地域における一農家についての実地調査結果
実地調査を行い、目的の「2:ドイツ並みの日本のピオトープについて」「3:日本のビオトープの今後のあり方」について考察する。
6.1.調査地紹介
調査地は宮城県山元町坂元地区の農家「佐藤家」である。山元町は宮城県南部に位置する平地農村で、1998年の山元町総合計画との絡みで平成11年度から農林水産省の田園空間博物館事業(以下:田空)に取り組んでいる。山元町の田空は『地域住民が主体的に地域資源を発掘し、活用する活動を展開する』(引用:集落づくり博覧会要旨集)というもので自然環境もこの地域資源に入っていることから自然環境保護の新たな展開とも言える。佐藤家は田空の一つ「田んぽの楽校」の会場ともなっていたことから調査地に決定した。
6.2.佐藤家の環境の現況
佐藤家の環境は代々受け継がれてきた田んぽと畑、字日向の全域を占める里山が含まれている。
現在の環境について、植物や水系についてそのありかと配置を調査し、自然資源配置図。断面図としてまとめたものが図3である。植物種は山菜や.果樹を中心に確認できたもので約27種ある。宅地裏の井戸水は元禄時代からある、貴重な水源である(写真1)。また、動物調査は山元町田空事業の「溜池の楽校」に参加し、田の虫調査を夏と秋の2度行った。図2に示すように田んぽの中での益虫・害虫・ただの虫のバランスのとれた関係を見ることができる。聞き取り調査でもタガメやホトケドウジョウなどの絶滅危倶種(環境省分類)も生息していることが確認できた。
6.3.歴史的経緯とその背景
佐藤家の環境は時代とともにそのつど変化してきた。佐藤家のここでの定住は元禄時代といわれている。明治以前から昭和初めまでは桑畑と田んぽが中心であった(図4)。大正に入り、潅概用水を確保するために溜池を築造。昭和30年代は繭価の低下により、桑畑から里芋畑に転作する。昭和34年には労働時間軽減のために畑の一部は梅。ミョウガにし、残りは広葉樹・果樹を植える(図5)。この時、この場所は将来的には庭にしようと考えていた。昭和43年には生産性向上のために田んぽと用水路の区画整備として土地改良区事業が行われる。昭和初めまでに見られた等高線に沿った様々な形態の田んぽは直線を主体とした形状になった。それに伴い佐藤家では野菜栽培を止め、稲作専門になる(図6)。その後、世代交代などにより山菜畑を広げ、現在の状態にいたっている(図3)。減反政策のために大正時代に築造された溜め池のほとんどは使用されなくなる。この他に井戸水は古くから現在まで生活用水・田んぽの用水として使用されている。
このように佐藤家の環境は暮しを豊かにする生産向上の努力とともに国の農業政策が大きく関わってきたとみることができよう。
6.4.維持管理について
現在、佐藤家の環境は自然の力を暮しの資源として利用しつつある。そのほとんどは利用状況が変わっただけで昔からある環境を生かしたものにほかならない。普段の維持管理によって現在の状態が保たれているのである。
佐藤家では高齢化・担い手不足により、安定した環境の維持管理が難しくなっている。維持管理がなくなればその環境は崩壊する。その打開策は昨年の山元町田空事業「山の楽校」による山の管理について学び、伝承するという形での地域の人たちの参加にもありそうだ(写真2)。こうした試みと佐藤家の関わりは今後の課題となろう。
6.5.ビオトープ指標表による佐藤家の環境評価
他のビオトープの事例と同様にピオトープ指標表で佐藤家の環境を評価した結果、表5に見るように縦軸のビオトープの目的を充分に満たしているものとなった。ただし、あくまで暮しや生産活動の結果として構成されている環境であるため、横軸のビオトープの目標の欄にはあてはまるものがなかった。日本ではドイツのように人間が手を加えていない自然は少なく、ほとんどが人間が手を加えた二次的自然である。しかし、農山村のような二次的自然では多様な生物種が生息する豊かな生態系が育まれてきた。それがピオトープの指標表では縦軸の項目の充実度で読みとれる。
7.まとめと提案
ピオトープ指標表(表1)でピオトープの目的(青線囲いの縦軸)の充実度を中心に評価した結果、文献による事例調査では里山、農村ピオトープの事例で目的項目を多く満たした。また、ビオトープ指標表による佐藤家の自然環境評価でも目的項目が多く満たされていたことがわかった。この点から“農村の自然環境”がドイツ並みのピオトープのキーワードになると思われる。農村の自然環境は古くから日本の風景としても親しまれている。実地調査でも古くからの自然環境を生かし、保全していくことで豊かな自然環境を形成している事がわかり、ビオトープとしての価値をもっていると思われる。しかし、暮しの中の結果として保全されてきた環境であることからピオトープとして改めると人の手による維持管理作業が大変で維持していくことが難しくなっている。
現在、日本にはエコミュージアムや田空、里地里山保全活動等の地域活動がある。地域振興を目的に地域の持続可能な姿を目指しているものである。ここでは、地域資源として文化や暮し、自然環境の保存活動を行っている。このような活動の中で、地域のビオトープの発掘、そしてそれをピオトープネットワークとして形成していくような展開が今後の日本のピオトープのあり方に加わってくるのではないだろうか。
参考文献
日本生態系協会:ピオトープネットワーク,ぎようせい,1994
日本生態系協会:ピオトープネットワークII,ぎようせい,1995
松山恵一・重松敏則:ピオトープの管理・活用,朝倉書店,2002
山脇正俊:近自然エ学,信山社サイテツク,2000
BioCity nol3,1998
山元町総合計画,山元町企画調整課,1998
平成15年度山元亘理田園空間博物館集落(むら)づくり博覧会要旨集,山元町産業経済課土地改良区係,2004
1.序論
1.1.背景と目的
昭和3年に仙台に設立された商工省工藝指導所は、幾多の改組を重ねながら、国立では初の工芸指導機関として、数々の研究活動、試作品の開発を行い、我が国の輸出振興および産業発展に寄与してきた。よって仙台は「近代工芸・デザイン研究発祥の地」と言われてきたが、そういった情報に触れる機会が少ないためにその事実を知る市民は少ない。しかし一方では、一部の民間で歴史を顧みる動きや仙台のデザインをアピールする活動も起こり始めている※1。
そこで、本研究では仙台のデザイン史を再確認し、アピールしていく一つの手段として、仙台に残るモノやそのデザイン史を紹介し、市民との間でコミュニケーションを図ることができるようなツールとしてのWebサイトの制作を目的とする。
1.2.本研究の流れ
本研究では、仙台デザイン史やそれにまつわる作品の調査・分析を行うことで仙台デザイン史の意義を確認し、Web博物館の調査から現在のWebサイトの現状や構造、それがもつ意味などを分析する。そして、それらの調査をもとにWeb博物館の提案および制作を行う。
2.Webサイト『仙台デザイン史博物館』の位置付け
仙台を「近代工芸・デザイン研究発祥の地」と位置付けることができるのは工藝指導所の功績によるものである。よって『仙台デザイン史博物館』では工藝指導所に関するものを核とし、さらに伊達藩以来の風土に根付いてきた伝統工芸品、工藝指導所以降の近代デザインを取り上げることとする。
3.仙台のデザイン史に関する調査
工藝指導所に関する事柄を中心に、仙台にまつわる工芸品や近代デザインについて調査を行った。
3.1.工藝指導所関連作品の調査※2
3.1.1.目的
昭和52年以降、当研究室では工藝指導所に関する研究を継続し、工藝指導所の後身である産業技術総合研究所東北センター(産総研東北センター)に残る工藝指導所関連作品の調査やデータベース化を行ってきた。
その倉庫内に工藝指導所関連作品が保管されていることが近年新たに分かった。現在工藝指導所に関する作品は仙台には僅かしか残っておらず※3、産総研東北センターの工藝指導所関連作品は「仙台に残る工藝指導所関連作品」として、そして「工藝指導所の当時の様子を知るための歴史的価値を持つ作品」として大変貴重な品々である。
本調査ではそれらの価値の再確認を行うとともに、実際の作品に当たりながら新たに分類を試みることでその傾向を探り、記録保存のために写真撮影・実測を行い、そしてそれらをWebサイト掲載に生かすこととする。
3.1.2.分析
倉庫内の調査の結果、まずそれらの作品が「試作品」と「コレクション」に大別でき、作品に貼られたラベルから昭和22年から41年の作品であることが分かった。そしてそれらが形態上で200種、総数497点あることが分かった。さらに試作品を材質・技法別に分類した結果、漆工品、木工品、金工品、陶磁器、樹脂、ガラス、照明具のような工業製品に分けられ、その中には木工と金工、陶磁器と木工、木工と樹脂といった材質が組み合わされているものもあった。
試作品の中で最も多かったのは漆工品で86種239点、続いて木工品50種101点、金工品19種72点であった。さらに漆工品・木工品を品目別で見ると、菓子盛やサラダボール等の盛器が圧倒的に多いことが分かった。さらにそれらの大半は産業工芸試験所時代の技術である非円形ろくろを使用した作品であった。そして金工品は灰皿や燭台が多かった。
また、調査の際に倉庫内の作品35点の実測を行った。
3.1.3.考察
ラベルの年代からそれらの作品は産業工芸試験所東北支所時代のものだと特定される。そして戦後という時代背景もあり、輸出振興のために試行錯誤をしていたと思しき様々な形状をしたデザインの作品が多く存在していた。これらは現在では奇抜と思われるようなデザインも多く、新しいデザインに挑戦しようとする当時の姿勢は大変興味深いものである。さらに漆工品や木工品の作品が多く、器のような作品がほとんどであったため、当時木材を扱った器ものの生産が主な研究であったことが確認できる。また、コレクションからは国内外のデザイン調査を活発に行っていたことが分かる。
以上より産総研東北センター倉庫内の作品は工藝指導所の歴史の位置付けをする上で大切な資料であり、仙台に残る数少ない工藝指導所関連作品としてこの地に残し、伝えていくべきものであると言える。
4.Web博物館に関する調査
4.1.博物館とWebサイトの関係性に関する調査
4.1.1.目的
博物館におけるWebサイトの役割を知るために、現在ある博物館とWebサイトの関係性について調査し、その状況を把握することによって、Webサイトの意味、構造・仕組み等を抽出し、それを制作に反映させる。今回対象とするのは、東北6県の資料館・展示館を含む博物館633件と東京都の資料館・展示館を含む博物館142件とした。ただし、これらの博物館は各都県の公式観光サイトにおいて紹介されているものとする。
4.1.2.分析(調査実施:平成15年10月)
調査として博物館数とWebサイト数の割合やF1ash・フレームなどの使用状況、テキストやイメージの情報量などについて調査を行った(表1)。
東北6県の博物館633件中Webサイトを持っていたのは129件で約20%、東京都の博物館142件中Webサイトを持っていたのは71軒で約50%であり、東北における博物館のWeb利用はまだまだ少ない。
F1ashの使用率は各都県でおおむね10%弱と少ない。F1ashの使用用途は主にスプラッシュページや展示品の解説などに用いられている。
フレームの使用は各都県でおおむね45%前後と半数近い。主にナビゲーション用にフレームが切られており、常にナビゲーションを表示することができるため、ページ間の移動に便利であるが、ナビゲーション内の整理がされていないページが多く見られた。
サイトの情報量については情報過多・装飾過多のものや画像とテキストだけの簡素なページが多く、デザイン処理が施されていると思われるものは30%程であった。コンテンツとしてはおおむね展示品の紹介がメインである。その他にもムービーやゲーム、クイズなどを使用して演出を行っているサイトもあった。
4.1.3.考察
東北の博物館数とそのWebサイト数および東京の博物館数とそのWebサイト数を比較すると、Web上では東北各地方の歴史に触れる機会がまだまだ少ないことが分かる。よってこのことからも本研究のテーマである「仙台デザイン史の発信・伝達」ということの意義を認めることができるのではないだろうか。
Flashによる演出はユーザーの理解を助けるのに効果的であるが、スプラッシュページの多くはWebサイトの訪問者にとって、必要な情報に到達するために余計なステップを踏まなければならず、単なる自己満足の邪魔なページとなっている場合が多いため、スプラッシュページの使用は極力避けた方がよいと思われる。
フレームはナビゲーションを設置する際に効果的である。しかしナビゲーション内の情報量が多いと複雑になり、その機能がうまく働かなくなってしまうため、ナビゲーション内は簡潔な表現にすべきである。
情報量に関しては各サイトのルールが定まっておらず、適切なデザイン処理がなされているサイトは少ない。よってサイトにはフォーマットのようなしっかりとしたデザインルールを設けるべきである。
総じて今回の調査対象では、博物館におけるWebサイト事情はまだまだ発展途上にあるということが言えるだろう。Webサイトを公開するにあたり、操作性だけでなく博物館としてのアイデンティティを考えることも重要である。あるいは多くの博物館に「友の会」という交流の場があるように、Webならではの掲示板などを用いた交流の場を提供することも必要であろう。
4.2.博物館とWeb博物館との比較※4
4.2.1.目的
Web博物館の意義を確認するために、現実の博物館とWeb博物館を比較することによって、それぞれの特徴を分析し、その理解を深め、Web博物館制作に反映させる。
4.2.2.分析
博物館の魅力は、第一に標本を実際に見ることができるということである。自らの足で自由に行き来できるために、標本を見る自由度が高く、その大きさや材質、立体感、雰囲気を簡単に捉えることができる。
また、多くの博物館では歴史を体験学習を通して学ぶことができるような何らかの仕掛けがあり、楽しんで学ぶことができる工夫が施されている。
さらに、博物館の展示には常設展示のようにその博物館独自のメインとなる研究テーマを展示するもののほかに、一定期間ごとに様々なテーマで企画展・巡回展などを行っている。
一方、Web博物館は自宅や学校など、どこにいてもいつでもその情報を手に入れることができるという「手軽さ」が最大の魅力として挙げられる。
また、BBS、E-mail、blogなど様々な形式で情報のやりとりが手軽にできるため、Web博物館側と閲覧者、あるいは閲覧者同士のコミュニケーションを活発に行うことができる。
さらに、制作者側のメリットとしては実際の土地を必要としないために、土地に関する問題や、設立時やメインテナンス時などにかかるに様々な負担を軽くすることができるということ、そしてリアルタイムに情報を更新することができるということが挙げられる。
4.2.3.考察
博物館のメリットは標本を実際に見たり触れたりすることができるように、過去のものを実体験として学ぶことができるということである。さらに企画展などは観覧者の様々な興味を引きつけることによって、リピーターを増やし、それが博物館と観覧者両者の活気を盛り上げる手段ともなっている。その博物館のメリットにWeb博物館のメリットを加えることでより良いWeb博物館を考えることができるのではないだろうか。
Web博物館では標本は写真やテキストのみでしか見ることができないために、そのスケール感を図り知ることは難しい。それを現実の体験に近づけるためには、つまり標本の閲覧の自由度を高めるためには、標本を様々な角度から見ることができるようにする必要がある。その方法としては多角的な写真や動画を使った方法などが考えられるが、その一つとしてQuickTimeVR(以下QTVR)という方法がある。これはオブジェクトの360度分の画像を用意しQWR上でそれらの画像を繋ぐことによって、QuickTimeビュワー上で左右360度任意に回転可能なオブジェクトを作ることができるものである。それによって標本を自由な角度から閲覧することができ、立体的に標本を理解することができる。
また、Web博物館は閲覧が手軽なだけに、更新頻度を多くしたり、企画展のようなコンテンツの企画を行うなど、訪問者を飽きさせない工夫を施すべきである。そのためには後々のコンテンツ増加を念頭に入れた更新のしやすいサイト設計を考えなければならない。
4.3.まとめ
以上の調査より得られた考察からWeb博物館制作において考慮すべき事柄を次にまとめる。
1)無駄なF1ash使用を避ける
2)ナビゲーション内は簡潔な表現にする
3)全ページにおいてフォーマットを固定する
4)博物館としてのアイデンティティ計画を立てる
5)掲示板などを用いた交流の場を提供する
6)多角的な標本の閲覧を提供する
7)訪問者を飽きさせない更新計画を立てる
8)更新のしやすいサイト設計を考える
5.提案モデルの制作
調査から得られたデータや分析結果をもとに最終的な提案モデルの制作を行う。
5.1.対象
一般的に博物館の客層を見ると小学生から年配者までと幅が広く、県内外から集まってきていることが分かる。よって本Web博物館では仙台の一般市民を中心に、学生や研究者など、県内外の仙台デザイン史に興味のある老若男女を対象に制作を行う。(図1)
5.2.コンセプト
本研究のテーマである「仙台デザイン史を振り返るきっかけを作り、その価値の再認識を促す」ということを第一のコンセプトとし、一般市民に対して「Webサイトを一つのコミュニティとして、デザインに関する情報交換の場を提供する」、そして研究者に対して「仙台の工芸・デザイン史のデータベースとして、教育・研究へ活用させる」という3点を主なコンセプトとした。
グラフィック面では歴史を扱うという点からその伝統的なイメージを保つためにソフトトーン、ダルトーンの茶系を用いて落ち着いた配色を行う。また、仙台デザイン史博物館(SendaiDesignHistoryMuseum)のロゴを使用することで古さの中に新しさを込め、老若男女のためのサイトであることをアピールする。
5.3.コンテンツ(図2.図3)
1)トップ
2)ご案内:仙台デザイン史と本サイトについての説明を庄子晃子教授からお話しいただく。
3)展示室:工藝指導所やブルーノ・タウトについての解説、産総研東北センター倉庫内調査から得られた200種の標本の掲載、仙台の工芸品の掲載など。
4)年表:工芸指導所の歴史、日本のデザイン史と一般事項、世界のデザイン史と一般事項の3つの流れを年表を用いて表す。
5)掲示板:話題や感想のやり取りだけではなく、画像の投稿ができる掲示板を使用する。
6)リンク
7)サイトマツプ
8)お問い合わせ
9)スペシャルコンテンツ
5.4.伝えるための工夫点
1)ナビゲーションの整理と更新のしやすさの考慮(図4)
全ページ幅720ピクセルに統一し、メインナビゲーションを上部に固定するようフォーマットを設定した。
二階層目からは1ページを上下3つのフレームで分け、上部にメインナビゲーション、中部に内容、下部にコピーライト表記と東北工業大学へのリンクという配置にした。中部の内容部分はスクロールが可能で、上部と下部はスクロールを固定し、常にナビゲーションが表示されている状態にすることで操作の利便性を図った。
また内容部分の最上段には階層を追った戻りが可能なパンくず型ナビケーション、展示室では各カテゴリごとへのナビゲーション、ページ移動のためのステップナビゲーション、標本写真を使用したサムネイル型ナビゲーションなど、用途に応じた種々のナビゲーションを使用することで、操作の混乱を少なくするようにしている。
さらにステップ型やサムネイル型のナビゲーションを使用することで、今後コンテンツが増加した場合、複雑なデザイン処理をせずにページやサムネイルの追加・更新をできるようにしており、閲覧者にも制作者側にも負担を軽くするように設計している。
2)標本への様々なアプローチ
展示室において、標本のサムネイルをクリックすることで画面右半分に設けたインラインフレーム中にその標本の写真画像を表示させ、その下部にサイズや技法などの各データを表記するようにしている。また同階層に標本のQTVRを設置し、各角度からの標本の閲覧を可能にしている。そしてその近くには「さらに詳しく」のボタンを配置しており、それをクリックすると新しいウィンドウがポップアップし、さらに大きな画像や詳細画像、各データ、解説を閲覧できるようにしている。
さらに年表中の事項に、関係する標本や出来事がサイト内にある場合、それらを前述のポップアップウィンドウとリンクさせることで、時代背景も含めた関係性を捉えることができるようにしており、このように様々な角度から標本にアプローチすることで、閲覧者の理解を深めやすくしている。
3)一定数の訪問者を保持するためのコンテンツ
訪問者を飽きさせず、その一定数を保持するために通常のコンテンツとは別に、特別なコンテンツとして月刊あるいは季刊ペースで更新される特集ページを制作し、入口をトップページに設置する。これは長期で企画していかなければならないため、本論文では構想の段階ではあるが、現時点での企画としては元工藝指導所員や研究生などへのインタビュー記事や実際に見て歩きができるようなデザインマップなどの掲載を企画している。
またコミュニケーションツールとして画像投稿可能な掲示板を設置し、デザインなどに関する情報交換の場を提供することで、We牌物館内を活樹こさせながら、さらには固定客を獲得することを目的としている。
5.5.アンケートの実施と考察
制作した提案モデルについて19歳~24歳の男女30人と50代女性2人にアンケートを実施した。項目は理解度、見やすさ、操作性、雰囲気の適合性、興味の度合い、利用したいかを五段階評価で聞き、良い点.悪い点、意見・感想を自由記入方式で行った。
その結果、様々な感想が得られたが、各項目において総合的に好反応を得ることができ、指針や工夫点において一応の有効性があったと言えるだろう。しかし見やすさの点においてほとんどの被験者が「文字が小さい」「行間が狭い」ということを指摘した。サイズはCSSで指定しており本文が10pt、脚注が8pt,行間はデフォルトであった。本制作において文字サイズについては重点的ではなかったため、改めて検討し改善すべき課題である。
6.結論
産総研東北センター倉庫内の調査を中心とした工藝指導所をはじめとする仙台におけるデザイン史の調査から、仙台とデザインとの関係は古くから密接に関係しており、デザインをキーワードに仙台を盛り上げていくには十分に大きな基盤があることが分かった。そしてこれを伝え、残していくべきものであると判断した。さらにWeb博物館に関する調査から、一般的に博物館のWeb利用はまだまだ発展途上にあることが確認され、これらのことからWeb上において博物館を提供するためのニーズが存在すると推察される。
以上を踏まえて指針や工夫点を打ち立て、『仙台デザイン史博物館』の制作を行い、Webサイトとして一般に公開を行った。それについてアンケートを行った結果、一応の好反応を得ることができ、それらの指針や工夫点についての有効性が認められた。
謝辞
産業技術総合研究所東北センター所長加藤碩一氏、同産学官連携センターものづくり支援室の森克芳氏、およUWIDECデザインミュージアム研究会の皆様にお世話になりました。心より御礼申し上げますb
※1 H15以降の動きとして、デザインミュージアム研究会(MIDEC有志)の発足やせんだいデザインウオーク、せんだいデザインウイークなどのデザインイベントの実施などが見受けられる(H171現在)
※2 齋藤州一他「工藝指導所関連作品の調査.分析報告」日本基礎造形学会第15回熊本大会概要集2004pl9に掲載
※3 仙台市博物館にはタウト指導の作品(照明具他)と漆の手板、宮城県図書館にはS3の工蕊指導所開所式のパンフレットが残っている。
※4 齋藤州一他「Webサイト『仙台デザイン史博物館』構想の提案」日本デザイン学会第51回研究発表大会概要集2004p32に掲載