仮設住宅の個と群のデザイン

1、背景と目的 

東日本大震災を通じて、私たちの生活がどのように成立し、営まれ、それらの基盤の問題点が現れた。地震・津波にたいして私たちができること、地震・津波によって被害を受けた道路、鉄道、電話、電気、食糧、水道といった生活基盤の被害にたいして、私たちが出来ることとは、何であろうか。「住まい」に着目し、考える仮設住宅、個と群の住みやすい環境を提案をしていく。

本研修では、「復興まちづくりに向けた創造力を育む仮設住居支援プロジェクト」というプロジェクトの中で、仮設住居者が安心して暮らせるような都市マネジメントをしていく。本学から近い「長町仮設住宅」において、仮設入居者の暮らしを支援している地元NPOと連携して住居支援プログラムを実践し、復興まちづくりへの意欲と創造力の向上を図っていくことを目的とする。その中で、群の配置設定や個の住空間の見直しを実践の中で問題点と課題を抽出し、提案を重ねていく。最終的には、二年間の研究の中でハウスメーカーや自治体に伝え、今あるものを改善できるような、新たなモデルを提案する。

2、方法

3、研修内容

4、個のデザイン計画

仮設住宅は、新しい家を建て替えるまでの間の家ではない。生活を快復し今後良好な住環境へのステップアップをするための重要な場所である。住みやすいよう仮設住宅に工夫をしていきながら、個と群のデザイン計画をたてていく方向である。

支え合いながら自分の手で、仮設住宅の生活をより良いものにしていき、人の行為・行為に必要な道具(モノ)・行為とモノを含めた場の提案に繋げる。「ソフトを重視してハードを整える」ところまで計画していく。

4-a.現状

仮設住宅の居住者に問題点を聞くと収納が少なくデッドスペースが多いという声を聞く。軒先には、季節もの(ヒーターや扇風機)をしまうスペースもない。

また、床下に雨が入ってしまい、湿気がひどく結露が多い。室内環境についての意見も多くふれあいサロンでは、聞くことができた。

4-b.計画

・住み手の問題点、課題を抽出
・春夏秋冬の場とコトの提案を出していく
・住環境の改善案
・共にやる事によって支え合う →支え合う事が欠落くている
・緑を増やす、畑をやりたい人がいるため、個としての畑の提案

5、群のデザイン計画

5-a.現状

長町仮設住宅は、地域ごとの入居はごく一部で、入居者の地域はばらばらなため、顔見知りがいないという現状。子供が少なく高齢者が多い。広場は、砂利がひかれて高齢者には歩くのが困難で、休憩をできるような場所もない。散歩の休憩場所が欲しいという意見も聞く。
また、バリアフリーエリアは、スロープが付いているが内外の段差があり、バリアフリー住居とは言えない。

5-b.計画

・最小の敷地に最大の収容。
・自治会、町会といった従前のコミュニティ単位で対応できるよう、住戸の区画形成を見直す。
・長期にわたる集団生活に対応できるよう、共用空間を充実させた建物配置に努める。

5-c.最終提案までの課題

①被害の広がりと大きさから本格復旧まで時間がかかり、入居期間が長期化する恐れがある。
②被災者の多くが高齢者であり、入居後も共同で助けあうことが不可欠。
③世帯単位の入居ではなく、集落やコミュニティ単位での入居が望ましいが、公平性の観点から難しくなり、入居後のコミュニティ形成が重要になると思われる。→仮設住宅があっても住居後のコミュニティ形成がしやすい住宅の配置計画への配慮が重要となる。

参考文献

仮設のトリセツ 新潟大学工学部建設学科岩佐研究室
東日本大震災・応急仮設住宅によるコミュニティづくりのための配置計画 日建設計総合研究所

モバイルアプリのデザインのためのコミュニケーション研究 ―対面コミュニケーションと非対面コミュニケーションの比較研究―

1.はじめに

コミュニケーションは生活において必要なことである。そのため、人は数々のコミュニティを作ってきた。それらのコミュニティでは、日々継続的な活動が行われている。これらのコミュニケーションに「興味・関心によるコミュニケーション」がある。この「興味・関心によるコミュニケーション」を図ることは、実社会において難しい環境にある。
そこで、人はインターネットで「興味・関心によるコミュニケーション」を始めた。インターネットでのコミュニケーションは、実社会でのコミュニケーションより敷居が低い。それは、プロフィール・過去ログによる情報量の多さや時間の制約がないことなどが挙げられる。インターネットでの興味・関心の交流が発展するとインターネットから実社会での交流イベントへ進展させることが多くなっている。そのような活動をオフ会と呼ぶ。
現在の社会は、インターネット社会となっている。それにより、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の利用者も多くなっている。そのSNSを利用し、オフ会を開催されることが多くなっている。それにより、オフ会への参加を希望している人が多くなっている。しかし、希望する人々の中には、敬遠してしまう人が多く存在する。それは、初対面の人々が対面コミュニケーションを図ることの敷居の高さやインターネットでの情報開示が適切ではないこと、さらにインターネット上から実社会で対面することのリスクについての問題もある。これらの問題は今後のコミュニケーションツールにとって重要な課題である。

2.研究の目的・意義

本研究の目的は、興味・関心をもとに交流する上で、重要な要素は何かを発見することである。研究対象は、興味・関心をもとに非対面コミュニケーションから対面コミュニケーションを促すモバイルアプリとする。この要素を発見することは、今後のコミュニケーションツールの開発に役立つことであり、その要素を反映させたツールを人々に提供することは「興味・関心によるコミュニケーション」を支援することにつながる。このことから人々に有意義な経験を提供することができると考える。

3.非対面及び対面コミュニケーション

コミュニケーション形態は2つある。非対面コミュニケーションと対面コミュニケーションである(図1)。
非対面コミュニケーションは場を共有していないコミュニケーションである。非対面コミュニケーションはツールを使いコミュニケーションを図る°SNS、電子メール、テレビ会議、電話、Fax、電報、ハガキ、手紙がある。本研究では、SNSを対象に研究を進めていく。
対面コミュニケーションは場を共有するコミュニケーション形態である。人と人が面識を持ち、コミュニケーションを図る。

4.ヒアリング調査

現在のコミュニケーションの実態を知るために2011年7月11日、9月4日にヒアリング調査を行った。対象者はTwitter、mixi、Facebookに加え、非公式のファンサイトなどの「インターネットコミュニティ」を利用したことがある学生4名と社会人2名である。

4.1.目的

このヒアリングでは、「非対面コミュニケーションから対面コミュニケーションへ発展した経験を持つ」学生1名、社会人2名と「非対面コミュニケーションから対面コミュニケーションへ移行することを敬遠している」学生3名に「初めて非対面コミュニケーションツールを利用し、コミュニケーションを行った時から現在までの非対面コミュニケーションツールでのコミュニケーションの経験」を話してもらった。
このヒアリングから非対面コミュニケーションと対面コミュニケーションのメリットとデメリットを分類した。分類方法は「面識のある関係」、「面識がない関係」、面識がある・ないに関わらず「両方に関わる」ことに分類し、メリット、デメリットを表にした(図2)。

4.2.結果

(a)非対面コミュニケーションのメリット
 (1)近況報告が行いやすい
 (2)写真や動画を共有しやすい
 (3)共通する興味・関心の人を見つけやすい
 (4)趣味に特化した交流がしやすい
 (5)時間の融通がきく
 (6)複数人への発信がしやすい
(b)非対面コミュニケーションのデメリット
 (7)友人登録制によって発信しにくくなる
 (8)相手の情報の信頼性が低い
 (9)情報の公開範囲設定が手間である
(c)対面コミュニケーションのメリット
 (10)非言語コミュニケーションによる安心感がある
 (11)容姿や話し方などその人を判断できる
(d)対面コミュニケーションのデメリット
 (12)初対面の人に声をかけることが難しい
 (13)インターネット上でのキャラクター性と会った時のキャラクター性のギャップによる違和感
 (14)気疲れしてしまう

4.3.仮説

ヒアリング調査の結果から以下の仮説を立てた。(1)非対面コミュニケーションは写真・動画を活用した近況報告が利用方法として多い。また、自分の興味・関心に特化したツールは交流が発展する。この上記の二点は、2010年度から堀江研究室で開発してされているモバイルアプリ「マプコミ」に要素として含まれていると考える。「マプコミ」では、アプリの地図上に写真を投稿し、他ユーザーに写真を公開できる機能がある。また、写真を複数枚撮影した場合、同じテーマで撮影した写真はグルーピングできる機能を持っている。このように一つのテーマをもとに撮影した写真をグルーピングし、他ユーザーに公開することで、そのテーマに興味・関心を持っているユーザー間のコミュニケーションを促進できる。
このことから、「マプコミ」は写真を活用し、共通の興味・関心によるコミュニケーションを支援している。

(2)非対面コミュニケーションのデメリットから「友人登録制があること」は、ユーザーは近況や写真などを投稿するという敷居を高くしていることがわかった。また、ユーザー情報の信頼性が低いことを問題としていることがわかった。これらのことから「マプコミ」では、友人登録制を廃止した。また、信頼性の向上するために、「マプコミ」はSNSの中でも信頼性のあるFacebookとの連携を行う仕様にした。なお、Facebookとの連携は市場へリリースする時に実装する予定であるため、試作として制作した「マプコミ」プロトタイプでは、未実装である。

5.マプコミワークショップを対象に仮説の検証

「4.3.仮説」の検証を行った。検証を行う際に分析した内容は「オリジナルマップによる交流の分析」と「同じグループでの交流とアプリを利用してのグループ間での交流の比較」の2点である。検証は2012年1月18日に行われたマプコミワークショップを対象として行った(図3)。ワークショップは4グループに分かれ、行った。各グループは参加者、ファシリテーター、記録者を各一名ずつ配置したグループを作成した。ワークショップの参加者は6名、ファシリテーターは4名、記録者は4名であり、「マプコミ」プロトタイプαの使用者4名である。

5.1.「マプコミ」について

2010年度堀江研究室で位置情報を利用したソーシャルアプリ「マプコミ」の提案を行った(図4)。「マプコミ」とは、「興味・関心のある場所」や「出来事のあった場所」を登録し、自分だけのオリジナルマップを作成できるモバイルアプリである。ユーザーは、自分のオリジナルマップを他ユーザーに公開することができる。この公開したマップによって「共通の興味・関心を持つ他ユーザーとの交流」や「モノ・コトとの出会い」を体験することができる。

5.2.結果

(1)「オリジナルマップによる交流」は円滑に行われなかった。「マプコミ」では、一つのマップに対して同じテーマの写真を複数枚登録することができる。それぞれのマップはユーザーの興味・関心をもとに制作する。ここで、ユーザーによって興味・関心の定義付けの問題が生じた。具体例として、「映画と言うテーマでマップを作るユーザー」と「一つの映画を指定し、その映画をテーマとしてマップを作るユーザー」がいることがわかった。コミュニケーションを図る上で、テーマの設定の尺度は重要である。興味・関心による交流は複数の興味・関心で交流を行うことは難しい。興味・関心によるコミュニケーションには単一の興味・関心が提示されていることが重要だということがわかった。

(2)「同じグループでの交流とアプリを利用してのグループ間での交流の比較」では、体験の重要性が明らかになった。同じグループでは「一つのマップを作る」という目的からその目的に対するコミュニケーションが積極的に行われ、共通の意識を持って活動を行われた。また、「目的の達成で感情の共有を行えたため、有意義な活動だった」と言う参加者もいた。対し、「マプコミ」でのコミュニケーションは写真に対する感情を共有できない。また、それぞれのユーザーの作品を投稿するという使い方から「作品の評価を行い合うコミュニケーション」となり、「作品を共同作業で作る上でのコミュニケーション」を図るわけではない。これらのことから信頼関係を築くには仲間意識が重要であり、その仲間意識を持つためには共通の体験を行うことが重要であるとわかった。

6.「マプコミ」の分析の一般化

「5.マプコミワークショップを対象に仮説の検証」では、「マプコミ」の分析結果が明らかになった。ここで得た結果を「興味・関心によるコミュニケーションを支援するモバイルアプリ」に対して適応するために、この要素の一般化を行った。

(1)オリジナルマップでのコミュニケーションは、複数の興味・関心を投稿できる仕様によって発展しなかった。興味・関心によるコミュニケーションを促すには、複数の興味・関心ではなく、単一の興味・関心を提示することが重要である。しかし、単一の興味関心を提示するだけでは共通する興味・関心を見つけることができない。よって、「複数の興味・関心の提示」を行い、その複数の興味・関心の中から「どの興味・関心についてコミュニケーションを行いたいかの提示jが必要である。単一の興味・関心の提示の尺度については、固有名詞までの細分化が必要であると考える。

(2)同じ目的を持った活動は感情の共有ができ、有意義な活動であるということがわかった。このことから、共通の体験は人々のコミュニケーションにとって非常に有効的な活動である。この要素により、オフ会の開催も日々多くなっていると考える。よって興味・関心による交流を支援するツールには、共通の体験を行える仕様であるとコミュニケーションはより円滑になると考えられる。さらに共通の体験には継続性が生まれることも考えられる。

(3)面識のない人々と興味・関心によるコミュニケーションを行う際には、友人登録制がないことが有効だと考えられる。それは、友人登録があることで、ユーザーは「友人同士」の内輪のコミュニティが形成されていると感じ、共通の興味・関心のユーザーを見つけたとしても、メッセージの発信を行えなくなる。この敷居の上昇が興味・関心によるコミュニケーションの発展を妨げていると考える。友人登録がないことは、それぞれのユーザーの関係性に差がなくなる。実社会においての友人、インターネット上の友人でも同等の関係性であるようにユーザーは受け取ることができる。このことから、興味・関心で人々を結びつけるには、実社会での交友関係ではなく、そのユーザーが何に興味・関心を持っているかのみを提示する必要があると考える。

(4)非対面コミュニケーションでの交流には、リスクが生じる。このリスクを軽減するには、信頼性のある情報を登録している他コミュニケーションサービスとの連携を行うことが重要である。

7.コミュニティ形成支援ツール「さあ!くる?」の提案

「6.「マプコミjの分析の一般化」により4点の仮説を立案した。その仮説の要素を反映させたモバイルアプリをデザイン提案した(図5)。

7.1.「さあ!くる?」の概要

「さあ!くる?」とは、自分の興味・関心についてのイベントを企画し、共通の興味・関心を待つ仲間を見つけることのできるモバイルアプリである。ユーザーは自分の興味、関心に対するイベントをもとに関心による新たなコミュニティを作ることができる。

7.2.「さあ!くる?」の使い方

「さあ!くる?」の使い方は以下の通りである。
(1)Facebookのアカウントでログインする。ログインすることで、ユーザーの名前とお気に入りを取得される。なお、「さあ!くる?」には友人登録がない。
(2)ログイン後は、メインの地図画面に移行する。地図画面では、自分がFacebookでお気に入りに登録しているものがタグとなり、同じタグを持つ他ユーザーの立ち上げたイベント「ここきて!」が表示される。また、自分のタグに関するイベントを立ち上げられる。
(3)「ここきて!」に参加するとコミュニケーション画面に遷移し、交流できる。交流後、実際に企画された、もしくは企画したイベントを参加することができる。

7.3.「さあ!くる?」の仮説

(a)「さあ!くる?」では、興味・関心を一つを選択し、「ここきて!」を立ち上げることができる。このことにより、「さあ!くる?」ユーザーは何についてコミュニケーションを行いたいかが明確化される。
(b)地図画面上に「ここきて!」を立ち上げ、現在地が近いユーザーがイベントに参加できる仕様にした。このことにより、共通の体験を行いやすい環境を提供した。
(c)友人登録制を削除し、既に出来上がっているコミュニティがあった場合でも視覚的にはわからない仕様にした。また、イベントは常に新規のコミュニティとなるため、参加者間の立場に上下関係が生まれない。
(d)「さあ!くる?」はFacebookアカウントでログインしなければ、使うことができない。現在のSNSでは、最も信頼性のあるFacebookのアカウントでログインすることで、ユーザー情報の信頼性を向上させた。

8.コミュニティ活動アンケート調査

「さあ!くる?」の仮説の検証のために、2012年12月4日と2013年1月15日にアンケート調査を行った(図5)。調査対象昔は18,19歳の大学生の男性55名、女性83名、合計138名である。

8.1.内容

アンケートは好きな歌手(バンド・ミュージシャンなど)のインターネットコミュニティに参加しているかを記述してもらい、参加していれば、回答者に「そのコミュニティでの活動内容」、「コミュニティ活動のきっかけ」、「コミュニティメンバーとのコメント・メッセージなどの交流」、「コミュニティに参加するなら古くから参加しているメンバーのいるコミュニティと新規のメンバーが集うコミュニティのどちらが良いか」、「オフ会についての印象」を記述してもらった。

8.2.結果

アンケート結果から、インターネットコミュニティを利用する上で、問題としていることが5点わかった。

(1)コミュニティ人数が多すぎるため、交流しにくい
(2)出来上がっている交友関係の中に入りにくい
(3)イベント開催地までの距離の遠さ
(4)時間を合わせることができなくイベントに参加できない
(5)インターネットコミュニティのみのユーザー情報では、信頼ができない。

上記の課題は、「さあ!くる?」では解決できている。このことから、18歳、19歳大学生に対しては、この仮説の正しさを立証できた。

9.プロトタイプを利用した仮説の検証

「さあ!くる?」のメインユーザー層である18歳から24歳の人々、6名に「さあ!くる?」プロトタイプを実際の使用してもらい、交流してもらった。検証日時は2012年12月7日である。

9.1.内容

被験者は同じ興味・関心を持つ人々であり、その興味・関心に対する「ここきて!」に参加してもらった。アプリ上のコミュニケーションからイベント終了後までの行動観察を行った。

9.2.結果

検証結果として、被験者全員が「ここきて!」のイベントに参加した。それは、それぞれの被験者の現在地が近かったことに加え、会話の題材が明確であったからであると考えられる。また、「さあ!くる?」上で交流したことで、他被験者との相性の良し悪しを判断することができ、イベントに参加しやすくなったと考えられる。さらに、「ここきて!」のイベント後もアプリ上でのやり取りが生まれ、継続的な交流になる可能性を示唆した。被験者の交流は同じタイミングでコミュニティに参加したため、参加メンバーにヒエラルキー格差が生まれにくく、積極的な交流になった。
問題点として、6人が同時にアプリ上で交流を行ったことで、会話が混雑してしまったことが挙げられる。適切な人数制限を行う必要性がある。また、集合地点が視覚化されることは良いが個人の位置情報を視覚化されることを敬遠する被験者が多数いた。

10.結論

アンケート、プロトタイプを利用した仮説の検証から「興味・関心をもとに非対面コミュニケーションから対面コミュニケーションを促すモバイルアプリ」に重要な要素を述べる。

(a)興味・関心の細分化
興味・関心を公開するのみではなく、コミュニケーションを行いたい興味・関心を提示することが重要である。また、コミュニケーションを行う場では興味・関心のみの提示ではなく、その興味・関心についてどんな活動をしたいかを明確にすることが重要である。

(b)共通の体験
位置情報を公開し、位置関係が近い人々の交流は共通の体験が行いやすく、継続的な交流へ発展する可能性がある。

(c)友人登録制の削除
興味・関心について交流するならば、友人登録をしないことが有効であると考える。アプリ上では、常に継続するコミュニティを作るのでなく、常に新規のコミュニティを作ることが重要である。このようにすることで、参加の敷居の軽減や関心による交流を広げることが可能になる。

(d)ユーザー情報の信頼性
現段階では、絶対的な信頼性を持つコミュニケーションツールは存在しない。そのコミュニケーションツールの信頼性を向上させる方法は信頼性のある他SNSなどのと連携を行うことである。また、モバイルアプリは携帯電話番号などの端末自身が持つ固有の情報を入力する方法しかない。
現代社会では、多くのコミュニケーションツールが存在し、ユーザー数の多くなっている。それに比例し、ユーザーの情報リテラシーも向上しており、今後の社会では、より情報リテラシーが向上すると考えられる。

11.おわりに

本研究では、非対面コミュニケーションから対面コミュニケーションへ移行することを支援するツールに必要な要素を述べた。それらのツールにとって必要な要素を備えたツールの提案を行った。それらの成果から興味・関心による交流支援と参加の敷居の軽減の可能性を示した。非対面コミュニケーションのリスクが今後の課題である。

参考文献

1)鈴木綾,モバイルアブリのデザインのためのコミュニケーション研究,デザイン学研究,第59回研究発表大会概要集,日本デザイン学会,2012
2)財団法人インターネット協会,インターネット白書2012’株式会社インプレスジャパン,2012
3)株式会社トライバルメディアバウス,ソーシャルメディア白書2012,株式会社翔泳社‘2012
4)堀江政広,コミュニティ活動に着目した「対話の場」のデザインオンラインとオフラインの総合的検討多摩美術大学大学院美術部研究科修士論文,2006

新ゆりあげアクロボリス構想 生産と暮らしの再生を目指した拠点施設計画 〜名取市閑上地区を事例として〜

1. 研究の背景と目的

東日本の広域で甚大な被善をもたらした平成23年東北地方太平洋沖地震(以後、東日本大震災)。

宮城県名取市東部の閑上地区も深刻な被害を受けた。閑上地区は太平洋に面し、仙台平野に属している。海岸から起伏のない大地が広がっているため、 今後発生の恐れのある余震、 関東・東海圏の大地震において、近い将来に同様な被害が発生しかねない。そのため平野海岸部の復興は後の先進事例と成りうるものであると推測される。住民と行政の問で積極的な話し合いの場が持たれたが意見の食い違いと時聞を追うごとに要望の変化が見れれたため相互の合致されているか不明な部分を残したまま現在に至っている。

そこで、今後の閑上地区周辺や名取市のまちづくりにおいて、どのような対策が考えられるのか。名取市の各主要会議と住民意見交換会で出された住民意見や名取市行政の意見内容とその変遷を分析しこれまでの課題、震災後の課題、将来の課題を抽出し、現段階で考えられる可能性を独自の提案とし、並びに名取市の震災直後の動きの一部を記録を目的とする。

2. 研究方法

震災発生から1年2か月の間は、住民、行政、有識者等から様々なアイデアと要望等が両者の中で積極的に意見交換をされていた。だが、その後、名取市復興まちづくりに関する話し合いの場の機会が極端に減少し、現在では進行状況の不透明さが否めないのが見受けられる。

そこで、積極的な意見交換が行われてきた期間の意見・要望を中心に調査・分析を行った。 住民、行政の両者から共通課題と主要となる課題抽出を図った。

その後に両者から提出された復興計画案と被災地の再建状況を照らし合わせを行い、 現在必要なもの、 将来に必要なものを構想として創出し、復興モデルとして提案を図る。

3. 名取市閑上の問題

3.1. 津波への認識

東日本大震災以前、津波が発生した時の具体的な避難対策は万全に施されていなかった可能性が指摘されている。同時に津波発生時の情報の錯誤により、迅速な判断と行動が乱れていたとの意見も多く闔かれた。この度の津波では、その認識の違いにより大勢の住民等が逃げ遅れてしまったと分析できた。

3.2. 避難所 (高台) と呼べたもの

閖上地区は、太平洋に面した仙台平野に属している。起伏のない大地が続くため、自然の高台は存在しない。
この地区周辺で高台となる避難所は閖上小・中学校、仙台東部道路、鉄筋構造物、歩道橋のみであった。そのため、避難誘導の混乱、渋滞を発生させる原因の1つとなった。

3.3.逃げ方

東日本大震災発生以前の防災中央審議会において、津波避難の際に車を使用するのは禁止という方針だった。だが、閑上地区周辺の幹線道路(五差路付近)では、津波から避難する多数の車によって渋滞が引き起こされ、その多くは津波に巻き込まれてしまった。
しかし、6割の生存者が車で避難をしたという事実がある。この東日本大震災において、車による津波避難を「禁止」から「原則禁止」の方針に変更した。高齢者、歩行困難者等が車で避難するしか方法がない場合は使ってもよいとされた。
中央防災会議専門調査会においては、津波からの避難方法を、現行の「原則自動車禁止」から「原則徒歩」に変更する方針を固めた。

4. 閑上地区の状況

現在の閑上では、流出を免れたものの住宅の損害が激しいもの、リフォームで居住可能なものに別れ、大半の住民が閑上を去っていった。

名取市によると、閑上の人口、6082人(平成23年3月末)から3025人(平成24年12月末)、約2年間で50.3%の住民が閑上を離れていったことがわかる。

現在、 住宅の現地再建が行われている残存建物エリアには津波等の対策は施されていない。

5. 名取市の動き

これまで、名取市行政が主体となり名取市新たな未来会議、震災復興100人会議、市民向説明会、「名取市震災復興計画」策定のための地域懇談会、閑上地区の復興まちづくりに関する都市計画(案)説明会、閑上地区土地区画整理事業の地域別説明会、閑上まちづくり推進委員会が行われた。10月13日に名取市震災復興計画を公表した前後において、主要となる会議(名取市新たな未来会議{名取市全体}、閑上まちづくり推進委員会{閑上地区を中心})がまちづくりの方針が一部異なることを見受けられたため、そのため、名取市震災復興計画を公表前後で、前者を期間を第1会期、後者を第2会期と名付けた。

6. 行政と住民との議論の観察と分析

第1会期、第2会期で提出された意見、要望、報告をもとに行政会議、市民会議での議論の内容を課題抽出方法(KJ法)を適応させ、主要課題の図解化し、更に各会議と議題を時聞軸で追い、分析を行った。
各主要会議の議題グループパターンを統計した結果、課題を名取市新たな未来会議、閑上復興まちづくり推進協議会で各8項且に細分化することにより、会議全体の流れと変遷を把握することができた。

だが、この2つの主要会議では生産的な会議運営がされておらず、会議が紛糾し、議題が複数回繰り返されては振り出しに戻る現象が起きている(ex,現地再建案、集団移転案等)。そのため各会議を時間軸の変遷で見た場合、とても歪な関係性を示している。

会議の結果として、未来会議では1つの提言書にまとめられたが、全会一致の意見ではないこと判断できた。引き継がれた閑上復興まちづくり推進協議会においても同様な繰り返しの現象が見られた。

7. 住民の意見

行政で行われている会議とは独立した住民主導の復興まちづくり団体が各地で発足された。各団体から独自の復興計画が合計4つの提案があった。
住宅基盤嵩上げ型、産業展開型の2つに分類できた。特に、津波に対しては高さで対処する方針が目立っている。産業については、既存産業に加え、新規事業の誘致(再生エネルギー、先端技術、バイオマス、観光業)
共通して、震災の記憶を伝承する場の整備の提案があった。

●住宅基盤嵩上げ型の特徴
・住宅基盤高: 5m〜7m
・産業: 既存(農業、水産{加工}業) 新規(観光業、レジャー事業を中心)など

●産業展開型の特徴
・産業: 農業の大規模化(ブランド化、複合型農園)、水産業の再興、先端技術産業の誘致など
・貞山運河を利用した観光事業の展開など
*産業、生活の拠点を数箇所に集中
*鎮魂の場の整備

8. 復興計画の方針

閑上地区の復興に向けた名取市の基本方針として、「現地再建」が採択された。だが、復興計画の対象エリアとされる場所は主に県道塩釜亘理線より東部(図8)に置かれている。この一帯は甚大な被害を受けた場所であり、早期に再建事業を施さない限り、まちの衰退が加速される。

それでは現在、住民が独自で再建を進めていた県道塩釜亘理線より西部にはどのような対策が取られるのだろうか。
津波の抑制に陸の堤防として津波の浸水を弱めた仙台東部道路の防災的、産業的な高度利用はこれまでの会議で多く問われた。そして、この西部には平均で浸水深が約1.2mとされ、流出した住宅もあるが再建中の住宅も多い。復興計画内には西部の土地利用に関する方針(圃場整備)が打ち出されているが、具体的な事業構想(東部は閑上まちづくり推進協議会が検討中、住宅基盤窩上げ事業が進行中{海抜5mの嵩上})は東部に比べて西部は進んでいないのが現状であり、具体的な構想展開までにはいたっていない。

9. 構想展開

9.1. コンセプト

閑上は壊滅的な被害を受けた、周辺地域は生産と暮らしの場を失いかけている。津波に対して高台となる避難所の少なさと周知されていない事実。そして、これまで津波の同様な被害は過去2000年の聞に8回存在したこと。これは文献上に記録されているものだが、目に見える対策は取られていなかったこと。伝承されるべき歴史と知恵が活かされていなかった。
そこで、着目したのが古代ギリシア時代のアクロポリスと日本に各地に残る古墳の存在である。
アクロポリスは、紀元前600年ほど前に誕生し、小高い丘の上にまちの中枢を担う機能を配し同時に外敵からの防御の役割を果たした。古墳は、古の墓として豪族や天皇の偉業や権力などを後世に伝えている。
この両者に通じるものは、約2000年の時が過ぎてもそのまちの象徴として存在し、この閑上地区一帯に必要とされる機能が盛り込まれていることである。
この3つの要素をメインコンセプトとして構想の展開する。

9.2. 対象地

これまでの調査から3つを基本条件とした。
①現在確認されている居住区域を対象とすること。
②仙台東部道路の高度利用が見込めること。
③高齢者が歩行でも避難できる距離や仕組みであること。

そして、現居住区域の基点から避難時に1.5km移動可能であれば大半の住民が仙台東部道路陸に移動ができる点において各基点から1.5km圏内であることを最終選定基本条件とした。

結果、この地点は、閑上近辺の居住区域から高齢者が約30分以内で移動可能であることから、対象地図上の「☆」印地点が対象地として導き出された(図10)。
この対象地を新ゆりあげアクロポリス構想の拠点対象地とする。

9.2. デザイン条件

9.2.1 施設構成の概要

①サービスエリア
仙台東部道路初のサービスエリアを整備。従来の利用法に加え、一般道からの利用の手法を落とし込み、開放的な利用を促す。地元企業や農園との連動による食品開発企画。また、NEXCO東日本の全国ネットワークを利用した流通、復興産業開発の促進拠点として運営を目指す。 ・お食事処、物産販売ブース、休憩室など。

②交流会館 (避難所+公民館+資料館+祭事)
「休憩機能」、「情報発信機能」、地域の町同士が連携する「地域の連携機能」3つの機能を併せ持ち、共同利用スペースを複数設けることにより、利用者同士の価値観の共有と創造、文化と産業ヘの貢献を目指す。
・交流教室(工芸、料理、生花、農機具講習、防災知識講習、生涯学習、スロースポーツなど多岐の利用)、共同菜園、新生ゆりあげ朝市など。

③復興会館(閑上区役所、震災の歴史と軌跡の資料館)

長期にわたる閑上の現地再建(復興支援やまちづくりの開発)が行われるため、閑上を1つの行政区として確立させ、閑上地域特有の事業と事務手続き等が行われる行政出張所の整備し、名取市災害対策室を設置し、学術機関と連動調査を主導し、津波への対策や避難時の行動分析、被災後の対策マニュアルの作成といったこれまでになかった非常時対策の構成に務める。

9.2.2. 敷地構成の概要

①6.0mの高台
造成するための土量にがれきを代替度量として運用する。
②三方向から登れる斜面
高台への勾配は1/12勾配以下の斜面で構成し、なだらかな斜面とする。
③斜面の活用(共同菜園など)
斜面を斜路のみとしてではなく、1部を生産の場として野菜等の生産などを繰り込む。
④居久根の活用
風雪対策や温度調節などの効果から高樹高針葉樹(杉など)を北西方面に植栽を施す。
⑤生産の回廊の整備
高台の休憩スペースとして回廊を整備する。 朝一の会場などとしての利用を見込む。
⑤鎮魂の場(中央広場)の整備
犠牲者への弔いを込めた場の整備。また、イベントや仮設施設の整備を可能とする。

10. 新ゆりあげアクロボリス(提案)

10.1. 三日月の杜(交流と流通)

サービスエリア、交流会館、復興会館を主要素とし、加えて展望会館、ヘリポートを整備。商業施設と公共施設を兼ね合わせた構成としている。

10.2. 生命の台地(生産と高さ)

・東・南の丘、中央広場で構成される。丘では農耕などの生産、中央広場ではゆりあげ朝市など、周囲を木々が囲い自然と活気があふれる台地となる。

11. 考察と結言

①住民には柔軟な考えを、行政には柔軟な対応を、多彩な知恵を世界から求める。
住民団体が提出した計画案、名取市の計画案には共に復興ヘのアイデアや根拠から提案が述べられていたが、その後の発展が見られなかった。そこで、本研究では双方の計画案と要望を汲み取った形で構想を展開した。結果、1つの公共施設として構築した。これは両計画内にはまだ考えられていない避難所と公共施設、商業施設を融合したものである。この施設では、行政管理と商業管理の共存を図り、総合的な復興中枢拠点としての可能性を見い出すことができた。

②既存住民を中心に津波対策やまちづくりを。
本研究において、住民が独自再建が行われているエリアが今後の閑上地区のまちづくりの核となることが結論づけられた。これは内陸周辺の中心街と閑上地区との接続中継点として発展の可能性が含まれている。

12. 今後の課題

①周辺環境の変化への対応と住宅整備について。
長期的な復興計画の中で、住民の考えの変化、新たなアイデアや法整備から時聞を追うごとに柔軟な対応から復興計画に反映されることが今後求められる。

②施設運営の手法と災害時避難計画の構築。
具体的に施設運営のための事業計画の構築、災害時の施設運用の在り方の構築に周辺住民や企業、学校などを含め総合的な活用の展開が求められる。

参考文献

名取市震災復興計画、 名戴市新たな未来会議資料、閑上復興まちづくり推進協議会資料、内閣府中央防災会議防災対策推進検討会議津波避難対策検討ワーキンググル一プ資料

分散型コミュニティにおける議論の支援方法の研究-非同期非対面コミュニケーションにおける通知機能の有効性の研究-

背景 – 先行研究で開発されたツール“Diverge”

先行研究では、時間も場所も共有しない、インターネット上の文字を使ったコミュニケーションの問題点を解決するために、「非同期非対面議論ツール“Diverge”」が開発された。Divergeは、「付箋紙」をメタファーにしたWebアプリケーションである。「テーマフセン」に話したい話題を書き、意見を「フセン」に書く。また、複数の意見に投票してもらいたい場合は、「アンケート」を使用する。他の参加者の意見を支持したい場合は、「アノテーション(GOOD!)」を付けることができる。

Divergeの課題

Divergeの開発によって意見同士の関係性の明示化と意思表明のための支援を行う事ができたが、新たな問題も発生した。それが、「フィードバックの問題」である。これは、他の議論への参加者の発言(新たな投稿)が通知されないために、情報の更新に気付きにくいと言う問題である。このため、以下の問題があった。a)継続的な情報の発信や議論がほぼ見られない。b)Diverge上で発言しても、他のメンバーへの周知ができていない。c)もしくは、直接メンバーに伝えなければ、ユーザーが情報に気付きにくい。

通知機能“DivergeNotification”の開発

この「フィードバックの問題」を解決するために、本研究で開発したのが、「通知機能“DivergeNotification”」(図2)である。主な機能は以下の2つである。

【通知:ポップアップウィンドウ(図3)】

これまでで、最も問題だった「他のユーザーの発言に気付かない」を解決するための工夫点である。アプリケーションを立ち上げている間は、5分ごとにDivergeに追加された情報を確認し、最新情報がある場合は、ポップアップウィンドウで更新情報が表示される。

【時系列表示】

Diverge上で投稿された内容を各ボード(Diverge上の議論を行う場)ごとに、最新の投稿が一番上に表示されるようになっている。これによって、ログイン後の経過時間によっては通知が受け取れない場合でも、以前の状態から更新された内容がすぐに分かるようになっている。

検証実験

実際に開発したツールを使い、Diverge上で議論を行った。被験者は本学XDコース3年生6名である。本研究では比較実験を行うために、Divergenotificationがある状態と無い状態で2週間ずつ議論を行って貰った。

検証方法

各2週間の使用後に行ったインタビューと、期間中の議論の経過、Divergeの使用状況から分析を行った。

検証結果

検証実験の結果、DivergeNotificationがない状態(図4)と、ある状態(図5)では、ある状態の方が投稿、ログイン、GOOD!の総数が増加する傾向が見られた。また、DivergeNotificationを使用した方に、継続的な情報発信、コミュニケーションが見られた。さらに、DivergeNotificationを使用した方が、各発言に対する他の議論の参加者からの反応が速くなっているという結果も得られた。

結論

インターネットを利用した文字ベースのコミュニケーションにおいては、以下の要素が重要であることが分かった。

a)非同期非対面議論、コミュニケーションにおいて、適切なフィードバックと高いレスポンス性を持った通知機能。

b)即時的(十数分〜1時間以内)なフィードバックとレスポンスをユーザーに与えること。→これによって、非同期非対面の環境で のコミュニケーションは、連続性、継 続性、関連性を持った交流になること ができる。

c)コミュニティ内で誰がどの様な活動を行ったか、全体で確認できる工夫。 ex.)情報の1次元化、時系列表示