[概要]
2002 年度から両角研究室により開発された「デザイン工学科作品データベース」は、学生の制作活動を支援することを主な目的として開発された Webサイトである。また、2008 年度の学科名称変更に伴い、2009 年度から「クリエイティブデザイン学科作品データベース(以下作品 DB と記載)」に名称変更をし、リニューアルをした。
しかし、現状の作品 DB は強制されることで少しずつ登録作品が増加しているが、自主的な登録作品はあまり見られない。また同様に、作品 DB の自主的なサイト訪問および閲覧も見られないという問題を抱えている。
本研究の目的は、作品 DB の管理者が利用者に対して作品 DB に関する情報を能動的に伝えることにより、作品 DB の訪問者と作品登録者を増加させること、および作品を参考にするためのより良い環境を作ることである。そのために他コミュニティサイトを参考に以下 3 つの実装、実行を行った。
a)作品 DBリニューアル
b)通知型メール
c)編集型メール
[作品 DBリニューアル:制作]
リニューアルを行う前の作品 DB の主な問題点は以下の通りである。
・メインコンテンツである作品の詳細ページまでの道のりが遠い。(階層構造が深い)
・作品一覧ページで表示される件数が少ない。
・作品を動画形式で登録できない。
・作品の登録を行うフォームの情報が乱雑に配置されている。
・作品の評価を行うには評価専用のページからでしか行えず、通常に作品を閲覧するページからは行えない。
以上の主な問題点を、作品 DB リニューアルにより改善した。
[作品 DBリニューアル:検証]
●検証目的
リニューアルを行った作品 DB は利用者である学生に対して有効的であるか。
●検証方法
作品 DB のリニューアル後、リニューアル完了のお知らせメールを学生の 111 名に送信。その後アクセス解析ツールにより訪問数を測定。
●検証結果
メール送信日の訪問数は増加することはなかったが、訪問数を全体的に見てみると、作品 DBリニューアル後付近から訪問数が増えていることが分かった。このことから、有効的であるとは言えないが、訪問数が増えた一端を担っていると考える。
[通知型メール:制作]
通知型メールとは、学生が作品 DB に登録した作品が、他の学生に評価機能により評価された際に送信されるメールのことである。以前まで作品 DBには評価機能が単体で実装されていたが、通知機能がなかったため、評価に気付き辛いという問題が見られた。通知型メールはその問題を改善することを主な目的として制作を行った。
また、通知型メールは PC およびスマートフォンデバイスで正常に HTML メールを表示できる「レスポンシブ E メールデザイン」で制作した。[図 6]しかし、メールクライアント別に把握し、表示のズレをなくすのは難しいため、メール送信対象は「yahoo メール」と「Gmail」に絞り制作した。
[通知型メール:検証]
●検証目的
通知型メールにより、学生は自身の作品の評価付与に気が付くのか。また、作品登録を行うのか。
●検証方法
通知型メールの開封数から、どれだけの学生が自身の作品の評価に気付いているのか、また、その後の作品登録の状況から有効性を検証。
●検証結果
作品の評価日に、正常に学生にメールが送信され、開封されていることが分かった。これにより、自身の作品の評価付与に関しては即時的に問題なく確認できていると考えられる。また、このメールを受け取ったことによる作品登録は見られなかった。
[編集型メール:制作]
編集型メールとは、作品 DB に登録されている作品をその都度テーマに合わせてピックアップし、紹介文と共に学生に対して送信するメールのことである。基本的に他サービスにおけるメールマガジンと同様なものであり、作品 DB の管理者が作品情報を編集し、手動で学生にメールの送信を行う。編集型メールの目的は、作品 DB をほとんど利用しない学生に対して、利用する機会を提供することである。
また、編集型メールは通知型メールと同様に、PC およびスマートフォンデバイスで HTML メールを正常に表示することができる「レスポンシブ Eメールデザイン」により制作した。[図 7]
[編集型メール:検証]
●検証目的
編集型メールを受け取ることにより、学生は作品DB を利用する機会を得ることができるのか。
●検証方法
編集型メールの送信後、メールの開封数およびサイトの訪問数をアクセス解析ツールにより計測。また、この検証は 4 回に渡って実施した。
●検証結果
1 回目の検証のみ、サイトの訪問数の増加が確認できたが、他 3 回では確認できなかった。このことから、編集型メールは学生に対して作品 DB を利用する機会を提供できるが、継続して行うことでは効果を得られないことが分かった。
[結論]
各検証の結果から、本研究における作品 DB への効果は薄かったように見えるが、訪問数が昨年度の 2 倍以上増加していることが分かった。[図 8]
本研究における各検証の結果を通して得られた成果は以下の 3 点である。
a) 作品 DB における利用者に対する能動的な行動は、作品 DB の訪問数を増加させる上では有効的であると考えられる。
b) 作品 DB の訪問数の増加が、そのまま作品登録件数の増加に繋がる訳ではない。
c) 学習コミュニティの支援サイトにおいて、他コミュニティサイトの取り組みを適用することができ、効果を得ることができる。[図 9]
第 1 章 序論
1.1 はじめに
伝統的な日本の住まいは、一般的に開放性や連続性にその特徴があるとされる。ゆえに、内外や空間同士をつなぎ、あるいは仕切ることができる建具の存在は重要であり、建築そのものの特性がもっとも良く反映される部位の一つといえる。一方、建具と深く関わるものに家具があり、これはともに「指物技術」を応用して造られるという共通点を持っている。これまで伝統的な建具については、西日本の事例を中心に様々な著書・論文があり、また家具については、小泉和子らが通史的内容を明らかにしてきているが、それらの中核は近世建築史であった。一方、建具そのものは近現代に大きな変革を遂げ、特にいわゆるアルミサッシが普及して以降は、伝統的な建具を「木製建具」と呼称するようになる。しかし、伝統的な木製建具と、アルミサッシに類する現代高性能建具・枠材との間にはやや断絶があり、「木製サッシ」といわれる中間的な存在があるものの、その技術は北欧由来で、地方の木製建具生産者とは結びついていない。
仙台地方では、例えば仙台箪笥が有名であり、小泉氏(前述)は近代前期(明治−昭和初期)を中心に、その歴史を解明してきているが、当地方における同時代の建具はというと、判然としない。
他方、近年は高断熱、高気密化といった開口部に求められる性能が厳しくなることもあって、遺構そのものの実地調査が急務となっており、ましてや新規外部建具に伝統的意匠を期待することはほぼ困難となりつつある。今後は、伝統的な建具の生産は内部建具に限定されいくことが予測される。こうした過渡期にあって日本建築・空間意匠の中核をなしてきた木製建具と言う存在をどのように継承していけるのか、これを支える地域技術者の現場に近接して考える最後の好機を捉える事もできる。
そこで本研究は、仙台地方における住まいの木製建具の近代史を明らかにし、その継承を考察するための基盤的知見を得ることを目的とする。
具体的には、文献調査のほか、当地方の遺産住宅の実地調査、これらの修復に関わる伝統職人・業者へのヒヤリング、そして修復現場の取材を通して、当地方の木製建具技術の近代史と現状を明らかにしていく。また、これらをもとに、木製建具に関わる伝統技術の継承について考察を深め持論を述べる。
1.2 研究方法と論文の構成
本研究は、以下のとおり進めた(図 101)。
[ 第 2 章 ] 住宅と木製建具の通史概略
既往研究をもとに建具・建具職人の歴史に関する著書・論文・資料を通読し、本研究で検討する建具の位置づけを明らかにして、仙台地方の木製建具の近代史における仮説を提示する。
[ 第 3 章 ] 仙台地方の遺産住宅と外部建具の近代変容
第 2 章を踏まえ、仙台地方の近代遺産住宅の聞き取り調査および建具の観察を行い、前章の仮説に関する実証を行う。
[ 第 4 章 ] 木製建具の製作に関わる職人・業界の現状
第 2 章を踏まえ、木製建具の製作を生業としている建具業者に生産環境・生産内容等を聞き取り、建具生産の状況と建具職人の傾向を明らかにする。
[ 第 5 章 ] 遺産住宅の再生修復事例における建具工事の実態
第 3 章・第 4 章を踏まえながら、修復される遺産住宅の現場において、どのように伝統技術が用いられ、あるいは代替されるのかを観察分析し、木製建具及び技術の継承について考察を行う。
図 101 論文の構成と研究方法