くらしのデザイン実習Ⅰ 雄勝・女川フィールドワーク

10月19日(日)に「くらしのデザイン実習Ⅰ」の学外研修として、宮城県石巻市雄勝町、女川町でフィールドワークを行いました。

最初に訪れたのは石巻市の震災遺構「大川小学校」と「大川震災伝承館」です。

東日本大震災当時、学校管理下において児童74名、教職員10名が犠牲となった大川小学校。地震発生から津波が大川小学校を襲うまでの51分間、避難する時間は十分あったにもかかわらず多くの犠牲を出してしまったことから、被害者遺族は学校側が校庭で児童を待機させ続けた避難誘導の遅れを問題視し、石巻市と宮城県を訴えました。震災遺構の校舎と隣接する伝承館では、裁判の様子や当時の街並みについて紹介されたパネルなどが展示されています。ほかにも震災前の地域の思い出を見ることができるあたたかな空間となっています。

続いて訪れたのは「雄勝ローズファクトリーガーデン」です。震災で犠牲になった母の自宅跡に1株のホオズキの苗を植えたことから始まったこのガーデンは、現在「雄勝ガーデンパーク構想」という災害危険区域となった雄勝町の低平地を花と緑あふれる癒しの空間に変える活動を、官民連携で進めています。人がいない地域でどのようにコミュニティを再生していくか、その価値を見つめながら活動は行われています。今回語り部としてお話してくださった徳水さんは、地元のお母さん達と一緒にガーデンの手入れをしながら、ボランティアや企業研修で訪れる人々に震災の記憶と教訓を伝えています。

次に訪れたのは「道の駅 硯上の里おがつ」です。この道の駅は豊かな海を見渡せる雄勝地区中心部の高台に、観光・商業の拠点として2021年4月にオープンした施設です。敷地内には雄勝の伝統産業である雄勝硯の展示施設や、買い物や食事が楽しめる観光物産交流館があります。太平洋からの海風を感じながら、ゆったりとした時間を過ごせる道の駅です。

続いて「ナミイタ・ラボ」を訪れました。こちらでは雄勝石加工職人の及川さんから、実際に作り手として伝統的工芸品に関わる立場から感じる課題や今後の取り組みについて語っていただきました。及川さんは硯ではなく主にクラフト品を制作しており、雄勝石の可能性を引き出す作品作りに励まれていました。

最後に、女川町竹浦地区と女川駅周辺を訪れました。竹浦地区は地域全体が防災集団移転をした港町です。地区住民たちが主体的に復旧復興計画を進めたのも特徴の一つとして挙げられます。震災当時、実際に地区住民たちが避難してきた神社に案内していただき、当時の状況についての説明をいただきました。その後、女川駅の近くにある震災遺構「旧女川交番」を訪れました。交番を囲う壁には、震災前の町の様子や被災状況、まちづくりの過程などを記したパネルを展示しています。震災の記憶と教訓、また復興の歩みを後世へと引き継ぐとともに、未来に生きる人々が同じ悲しみを味わうことの無いようにという願いから震災遺構として制定されたこの場所で、学生たちは震災前後の女川町の記憶を見つめました。

東日本大震災から14年の月日が経ち、被災地と呼ばれた地域では整備が進み、新たな街並みが形成されています。その中で、震災前の地域の記憶や震災時の教訓を後世に語り継ごうと伝承活動を続けている人々がいます。それは、「悲しい出来事があった地域」としてではなく「変わらぬ日常があった場所」として、かつてこの地域に確実にあった暮らしの風景を地域の記憶として残す役割を果たしているのではないでしょうか。震災の影響で住むことができなくなった場所も多く、人のにぎわいを失ってしまった地域が増加しているのも現状です。元の姿に戻ることはできなくても、新しいまちの姿で今後の地域の在り方を考えていくことが、震災で被害を受けた当事者の立場と共感者の立場双方にとって重要と思われます。

院生

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