活動に適合する道具のデザインプロセス 地域コミュニティの情報共有活動を対象として
松本 匠充
ICTを利用した道具のデザインの課題
近年、Facebookやmixi、twitterなどICT(Information & CommunicationTechnology)を利用した道具が生活の中に多く取り入れられるようになってきた。これまでの多くの道具は、家具や食器などに代表される身体的な支援を行う道具が多く、その道具がどのような機能でどのような支援するものなのか一見すればわかるものであった。
しかし、ICTを利用した道具はコンピューター端末内部に存在するため、外見からその道具の機能を見極める事ができない。これらの道具は、自然の力学的な法則に制約されず、デザイナーやプログラマーによって自由に創造されるため、使い手・ユーザーにとってその道具の使い方や機能を理解することが難しくなっている。さらに、道具を開発する姿勢として、製品やサービスの開発は従来製品との違いに重点が置かれる事が多く、また、サポートする活動対象を一部分に絞る傾向がある。そのような開発がなされた場合、新しい技術によって生活を変化させることに主眼をおき、また、活動の全体を考慮していない新製品が生み出される可能性が高いと考えられる。サポートする対象を絞り込み、変化を重視したデザインでは次のような問題が懸念される。
1)それまでにユーザーが培ってきた知識が活かせない
2)ユーザーにとって道具を導入するコスト(新しく学ばなければならないこと)が高まる
3)活動に適合しない道具になってしまう
このような問題を発生させないように、人々の活動に適合し、新しい技術や既存の技術を適切に組み込んだ道具のデザインプロセスが必要であると考える。
このプロセスには、3つの要点があり、これらは道具をつくるときには当たり前の要点でもある。それは、ユーザーの真の要求を知ること、実際に動く道具として道具をつくること、つくった道具を使ってもらい道具を改善することである。
1.必要となる道具を知る[ユーザーの真の要求を知る]
ユーザー自身やユーザーを取り巻く活動の全体像を理解することで、ユーザーの真の要求を知り、ユーザーや活動に必要な道具を知る。
1.1.Codesignによるユーザーの理解[ユーザーの活動への参加]
Codesignとは、対象とするユーザーの活動に参加し、ユーザーに直接会うことで、第三者の視点からユーザーやその活動を分析する手段である。ここでは、第三者の視点からその活動で発生している問題の発見やそこで活動しているユーザーのできることや経験的な知識の状態を知ることを目的としている。
1.2.APBD手法による活動の全体像の理解[APBD手法による活動の分析]
APBD手法とは、5つの視点に分類して活動を書き出し、それらの視点を利用して活動をモデル化することで活動を記述的に分析する手法である。ここでは、活動の全体像を把握し、その活動で発生している本質的な課題の発見やその活動の理想の状態を構想し、活動のあるべき姿を導き出すことを目的としている。
2.つくるべき道具をつくる[実際に動く道具を最も必要な部分からつくる]
ユーザーの真の要求に応える道具の設計や計画を立て、つくるべき道具の全体像を把握し、最も必要な部分から開発する事で、効率的につくるべき道具をつくる。
2.1.道具に必要な機能や表現の設計と管理を計画[Plan]
道具の機能やUIの設計、必要なコンテンツ、開発に必要な技術や日程を計画し、つくるべき道具の全体像を構築する。
2.2.つくるべき道具の全体を把握し、つくるべき機能からつくる[Do]
道具に最も必要な機能から、なるべく本当に動くものとして開発する。そのため、CMS(コンテンツマネジメントシステム)など半分できあがったものを利用する。
3.つくった道具を使ってもらう[実際に動く道具を使ってもらいリデザイン]
実際に道具をユーザーに使ってもらい得た意見を元に道具のリデザインを提案。
3.1.つくった道具を使ってもらい、意見を抽出する[Check]
ユーザーに道具の使い方を講習する講習会などを開催し、実際に道具を利用してもらい、道具の機能や表現の良し悪し、コンテンツの適切性などを確認する。
3.2.抽出した意見を元に、道具をリデザインする[Action]
3.1で得られたユーザーの意見を元に、道具の機能や表現、コンテンツのリデザインを提案する。
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本デザインプロセスを実施することで、地域コミュニティの情報共有活動において道具で支援すべき重要な要素を見出すことができた。それは、地域コミュニティの運営者の運営に対するモチベーションを低迷させないことである。
そのために、地域コミュニティ運営者の活動が地域住民に広く認知されるように、活動を可視化することを提案した。それを実現するために、いつでもどこからでも地域の活動に関する情報(図3〜6)が閲覧できる滝町内会ホームページを開発した。
また、情報リテラシーの高いわけではない地域コミュニティの運営者自身がこのウェブサイトの活用や管理を行うためのサポート、ウェブサイトなどを運営するモチベーション向上をサポートするために3つの支援を行なっている。
1.ウェブサイトの活用方法
ウェブサイトへ情報を配信するための投稿フォーム(図7)や操作方法に関するマニュアル(図8)、それらを使って情報を配信してみる講習会(図9)を開催することで、ウェブサイトへ地域情報を配信して、ウェブサイトを活用していくための方法を支援している。
2.情報の配信者や配信した情報の管理
ウェブサイトへ情報を配信できるメンバーを限定するためのログインCD(図10)やウェブサイトへ掲載した情報の編集や削除を行なうためのページ(図11)を作成した。
3.モチベーションの向上
ウェブサイトを管理するメンバーのモチベーション向上を狙い、ウェブサイトの訪問者を数字化するアクセスカウンター(図2右上部分)を設置した。